【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

お花見

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 京都は観光都市だからいつも観光客が多いけれど、桜の季節は何倍か増しになってる気がする!

「体感では秋のがヤバイで」

 アキラくんは笑った。

「道、いっこも動かへん」

 せやからバスは悪手やな、と手を繋いだままアキラくんは言う。

「そーなんだ」
「地下鉄で移動してあと歩いたほうがなんぼか早いわ」

 私たちは四条通を東に向かっていた。せっかくだから、お花見しようってことになったのだ。

「ばーちゃんちがもうちょい北やからか、この辺でお花見ってしたことないねんなぁ」

 人しかおらんし、とアキラくんが笑う通り、ほんとに人、ひと、ヒトの波。

「あ、これテレビで見かけるや」
「あれ、修学旅行で来とらんのここ」

 私は四条通の突き当たりにある八坂神社の階段から、赤い門を見上げた。

「清水は行ったよ」
「あー、あっち側にバス停めてか」
「確かそんな感じ」

 あっち、とアキラくんは南側を指さす。

「ほな行こか」

 手を繋いで階段を上がり、赤い門をくぐる。その先は折れ曲がった階段で、たくさんの小さなお社が並んでいた。

「色んな神様おんで」
「ほんとだー」

 感心して眺める私に、アキラくんは言う。

「これな」
「うん」
「ここの神様、逃さへんようになんやって」
「逃さない?」

 きょとんとアキラくんを見上げる。アキラくんは頷いた。

「ばあちゃんに聞いた話や。ここの神様は疫病の神様なんや。せやから、」

 言いながら登ってきた階段を振り向く。

「この道も折れ曲がってる」
「? なんで」
「神様は、折れ曲がった道は出て行けへんのやって」

 直進しかでけへんから、とアキラくんは言う。

「ここ、本殿の正面に門があんねんけど、そこも能舞台かなんかあって遮られてんねん」
「へー」
「ほんで、小さい社に神様たくさん祀って、見張らせてねん」
「え、」

 私はぐるりと見渡した。このたくさんのお社は、ここの神様を見張るためにここにいる、のか。

「まぁ諸説アリってやつな」
「おばあ様、こういうの詳しいの?」
「ずーっと京都の人やからな」

 その言葉と同時に、階段を登りきる。

「さてお参りや」
「ところで」

 私は首を傾げた。

「なんで八坂?」
「なにが?」
「ええと、なんで八つの坂なのかなって」
「あー、ええとなんやっけか」

 アキラくんは首を傾げた。

「せや、メデタイって意味の弥栄イヤサカから来てるらしいで」
「へぇ」
「そっちも諸説アリ、ってかんじやな」

 アキラくんはそう言いながら、ふ、と私に向けて笑った。

「ここの神様は、ガチやと思ってんねん、俺」
「へ」

 きょとんとアキラくんをみる。

「あのな、杉の木ってな、ここの神様のヒゲらしいんや」
「ヒゲ?」
「せやねん、ほんで、ここの神様、疫病の神様言うたやろ? 杉の木原因の病気、あるやん」
「あ」

 私は「花粉症」と小さく言った。

「せやねん。花粉症流行らせてんねんここの神様は」
「あは」

 思わず笑ってアキラくんをみると、アキラくんも笑っていた。

「な?」
「たしかに」
「せやから、」

 きゅ、と手を握られた。

「華、なんか悩んでるやろ」
「え」
「最近」

 じ、と目を見つめられた。

(バレてた)

 態度には、出してないつもりだったのにーー。
 ヒロイン……桜澤青花と、出会ってしまったということ。しかも、想定しうる中で、一番悪いケース……松影ルナや、石宮瑠璃と「同じ」パターンで!

「別に言いたくないなら言わんでもええねん。頼って欲しいとは思うけど」
「アキラくん」
「まぁ」

 軽く肩をすくめられた。

「言いたくなったら言うて」
「……うん」

 どんな風に? とは、思うけれど……。

「とりあえず今日は神頼みや。花粉症流行らせられるくらいやから、めっちゃ効くで!」
「あは、効くって」

 お薬じゃないんだから!

「いやいや効くねんー」

 にこっと笑われて、少し頷く。するり、と頬を撫でられた。

「けど、ほんまにアカンてなったら、絶対言うてや?」

 ニコニコしてるけど、その目はとても心配そうで……胸がぎゅっとなる。

「俺、華のこと守りたいんや」
「……うん」

 私はゆっくりと頷いた。

(これからどうなるか、分からないけれど)

 敵意に満ちた青花の瞳。

(それでも、)

 ぎゅっとアキラくんの手を握る。

(絶対にアキラくんは譲らないし、絶対に負けないんだから)
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