【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

さくら

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「あ、なんかここ来たことあるわ」

 ぽつりとアキラくんが言った。

「? こっちのほう、お花見あんまり来たことなかったって言ってなかった?」

 私たちが立っているのは、人でごった返す桜が満開の公園。八坂神社を抜けたところにある。
 見渡す限り、桜、桜、桜だ。

「しかし、桜いうか、ヒトやな」
「だよねー」

 桜もすごいけれど、何よりすごいのは人の多さ! 桜をのんびり眺める、というよりは飲食メイン、若い女の子たちは写真を撮ったりもしているけれど、やっぱり「花より団子」ってことなんだろうなぁと思う。

「てきとーに歩いて鴨川戻ろか」

 アキラくんは笑った。

「こないに人おったら、座る場所もあらへん」
「たしかに」

 手を繋いで、なんとなく桜と人の間をふらふら歩く。

「しかし、やっぱなんか来たことあんねんなー」
「なんでだろね」
「ガキん頃かな。ゆーて今もガキンチョやけど」
「……随分大きくなったよねぇ」

 私はアキラくんを見上げた。初めてあった時は、私より小さかった男の子が、今や見上げなきゃいけない。

(声も低くなったし、がっしりしたし)

 細身だけれど、触れれば筋肉がちゃんとあるなぁと思う。男の子から、男の人になろうとしてる。

「もーすぐ180やしな!」
「えー」

 私は目を瞬いた。そんなに大きくなってたんだ、アキラくん。

「びっくり」
「華どんくらい?」
「……平均くらい」

 モリモリ背が伸びなくなって、どれくらい経つだろう?

(生理始まると伸びなくなる、とは言うけれど)

 人によるのかなぁ。でも私はそれくらいだったかもしれない。

(でも、まぁ微増はしてるし!)

 めざせ160センチかなぁ。アキラくんと並んでて、あんま身長差あるのも……アキラくんは気にしないだろうけれど。
 そんなことを考えながらテクテク歩いていると、ふとしだれ桜が目に入った。

「おー、立派やな」
「だねぇ」

 私は首を傾げた。

(あれ?)

 この桜を、私も見たことがる。

(なんでだろ……)

 前世でも、京都に来たことはある。けれど、こんなに桜が満開の季節ははじめてのはずだ。

「あのさ、アキラくん」
「なん?」
「私もなんか、この桜、見覚えあるんやけど」
「華」

 アキラくんは笑った。

「俺の関西弁、うつってんで」
「え? あれ、あはは」

 そんなこと、言ったかな。

「結構ナチュラルやったで」
「ほんと?」

 私は微笑んでアキラくんを見上げた。

「それだけ話してるってことかな」
「せやろなぁ」

 私たちは、近くにあった屋台のソフトクリームを食べながら、のんびりと手を繋いで、来た道を戻る。

「あ、思い出した」
「なにを?」

 冷たいチョコソフトは、少し暑い今日にぴったり。

「えーとな、……それ一口もろうてええ?」
「いーよ」

 ぺろり、と舐められるチョコソフト。

「俺のんも食う?」
「ん」

 アキラくんのバニラソフトもいただく。うん、美味しい。

「京都らしく抹茶も迷ったんだけど」
「それはまた別のとこで食うたらええやん」
「そだね」

 さすが京都というか、抹茶味のもので溢れているのです。

「あ、てか、なに思い出したの?」
「ん、ここやっぱ来たことあったわ」
「ほんと?」

 見上げる先で、アキラくんは幸せそうに笑った。

「俺、産んでくれた人と」
「え」
「せやったせやった、ここや。"ママ"と来たのんて」

 ママって気恥ずかしいななんか、とアキラくんは照れた。

「前言ってたね」
「ん、唯一覚えとる記憶の桜、ここや」

 昔、アキラくんが言ってた。おかあさんにーー当時のアキラくんは"ママ"と呼んでいたらしいけどーー抱きしめられて、見上げてた桜。

「あのしだれ桜も、なんや見覚えあるもん」
「そっかー」
「つうか、華も来たことあるんちゃう」

 アキラくんは、少し不思議な表情をした。

「記憶ーー失くす前に」
「……あ」

 私はぽかん、とアキラくんを見つめた。その後ろには、眩しいくらいの水色の空と、まだ白っぽい桜の花びらーー。

「ほんまや」
「あっは、また関西弁うつってるで」
「あはは、へんなの」

 私たちはクスクスと笑い合った。

「気が抜けてるからかな」

 こんな風に、外でずうっと一緒にいて、気負わずに過ごせるの、ほんとに久しぶりなんだもん。

「かもな」
「でもね、うん、あり得るね」

 私はきゅっ、とアキラくんの手を握り返した。

「"私"、神戸に住んでたんだもんね」

 京都まで足を伸ばしてお花見、だってあり得たと思う。

「せやろ?」
「うーん、でもなぁ」

 ぐるり、と園内を見回す。相変わらずの、ひと、ひと、ひと。

「あのしだれ桜以外で、特に見覚えないんだよね」

 似たような桜なら、他にもあるのかもしれない。

(だとすれば、勘違い、なのかなぁ)

 絶対に見たことあると思ったんやけどなぁ。

「そか」

 アキラくんはバニラソフトにかぶりつきながら言った。

「あ、華、ちょっと溶けかけてるで」
「うわ、あっぶな」

 慌ててチョコソフトにぱくりとかぶりつく。アキラくんは声を上げて笑って、私も一緒に笑った。

「付いとる」

 アキラくんは少し目を細めて、私の唇のすぐ横をぺろりと舐めた。

「……!」
「チョコ味」

 至極当たり前の感想を漏らすアキラくんの後ろを、少し酔っ払った大学生くらいの人たちが通りかかって、私たちを囃しながら通りすぎる。

「ええなぁコーコーセー」
「らぶらぶやんけ!」

 楽しげな彼らに、アキラくんは「いいでしょ」と笑って、私は1人赤くなってチョコソフトをちまちまと舐めたのだった。
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