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【高校編】分岐・山ノ内瑛
さくら
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「あ、なんかここ来たことあるわ」
ぽつりとアキラくんが言った。
「? こっちのほう、お花見あんまり来たことなかったって言ってなかった?」
私たちが立っているのは、人でごった返す桜が満開の公園。八坂神社を抜けたところにある。
見渡す限り、桜、桜、桜だ。
「しかし、桜いうか、ヒトやな」
「だよねー」
桜もすごいけれど、何よりすごいのは人の多さ! 桜をのんびり眺める、というよりは飲食メイン、若い女の子たちは写真を撮ったりもしているけれど、やっぱり「花より団子」ってことなんだろうなぁと思う。
「てきとーに歩いて鴨川戻ろか」
アキラくんは笑った。
「こないに人おったら、座る場所もあらへん」
「たしかに」
手を繋いで、なんとなく桜と人の間をふらふら歩く。
「しかし、やっぱなんか来たことあんねんなー」
「なんでだろね」
「ガキん頃かな。ゆーて今もガキンチョやけど」
「……随分大きくなったよねぇ」
私はアキラくんを見上げた。初めてあった時は、私より小さかった男の子が、今や見上げなきゃいけない。
(声も低くなったし、がっしりしたし)
細身だけれど、触れれば筋肉がちゃんとあるなぁと思う。男の子から、男の人になろうとしてる。
「もーすぐ180やしな!」
「えー」
私は目を瞬いた。そんなに大きくなってたんだ、アキラくん。
「びっくり」
「華どんくらい?」
「……平均くらい」
モリモリ背が伸びなくなって、どれくらい経つだろう?
(生理始まると伸びなくなる、とは言うけれど)
人によるのかなぁ。でも私はそれくらいだったかもしれない。
(でも、まぁ微増はしてるし!)
めざせ160センチかなぁ。アキラくんと並んでて、あんま身長差あるのも……アキラくんは気にしないだろうけれど。
そんなことを考えながらテクテク歩いていると、ふとしだれ桜が目に入った。
「おー、立派やな」
「だねぇ」
私は首を傾げた。
(あれ?)
この桜を、私も見たことがる。
(なんでだろ……)
前世でも、京都に来たことはある。けれど、こんなに桜が満開の季節ははじめてのはずだ。
「あのさ、アキラくん」
「なん?」
「私もなんか、この桜、見覚えあるんやけど」
「華」
アキラくんは笑った。
「俺の関西弁、うつってんで」
「え? あれ、あはは」
そんなこと、言ったかな。
「結構ナチュラルやったで」
「ほんと?」
私は微笑んでアキラくんを見上げた。
「それだけ話してるってことかな」
「せやろなぁ」
私たちは、近くにあった屋台のソフトクリームを食べながら、のんびりと手を繋いで、来た道を戻る。
「あ、思い出した」
「なにを?」
冷たいチョコソフトは、少し暑い今日にぴったり。
「えーとな、……それ一口もろうてええ?」
「いーよ」
ぺろり、と舐められるチョコソフト。
「俺のんも食う?」
「ん」
アキラくんのバニラソフトもいただく。うん、美味しい。
「京都らしく抹茶も迷ったんだけど」
「それはまた別のとこで食うたらええやん」
「そだね」
さすが京都というか、抹茶味のもので溢れているのです。
「あ、てか、なに思い出したの?」
「ん、ここやっぱ来たことあったわ」
「ほんと?」
見上げる先で、アキラくんは幸せそうに笑った。
「俺、産んでくれた人と」
「え」
「せやったせやった、ここや。"ママ"と来たのんて」
ママって気恥ずかしいななんか、とアキラくんは照れた。
「前言ってたね」
「ん、唯一覚えとる記憶の桜、ここや」
昔、アキラくんが言ってた。おかあさんにーー当時のアキラくんは"ママ"と呼んでいたらしいけどーー抱きしめられて、見上げてた桜。
「あのしだれ桜も、なんや見覚えあるもん」
「そっかー」
「つうか、華も来たことあるんちゃう」
アキラくんは、少し不思議な表情をした。
「記憶ーー失くす前に」
「……あ」
私はぽかん、とアキラくんを見つめた。その後ろには、眩しいくらいの水色の空と、まだ白っぽい桜の花びらーー。
「ほんまや」
「あっは、また関西弁うつってるで」
「あはは、へんなの」
私たちはクスクスと笑い合った。
「気が抜けてるからかな」
こんな風に、外でずうっと一緒にいて、気負わずに過ごせるの、ほんとに久しぶりなんだもん。
「かもな」
「でもね、うん、あり得るね」
私はきゅっ、とアキラくんの手を握り返した。
「"私"、神戸に住んでたんだもんね」
京都まで足を伸ばしてお花見、だってあり得たと思う。
「せやろ?」
「うーん、でもなぁ」
ぐるり、と園内を見回す。相変わらずの、ひと、ひと、ひと。
「あのしだれ桜以外で、特に見覚えないんだよね」
似たような桜なら、他にもあるのかもしれない。
(だとすれば、勘違い、なのかなぁ)
絶対に見たことあると思ったんやけどなぁ。
「そか」
アキラくんはバニラソフトにかぶりつきながら言った。
「あ、華、ちょっと溶けかけてるで」
「うわ、あっぶな」
慌ててチョコソフトにぱくりとかぶりつく。アキラくんは声を上げて笑って、私も一緒に笑った。
「付いとる」
アキラくんは少し目を細めて、私の唇のすぐ横をぺろりと舐めた。
「……!」
「チョコ味」
至極当たり前の感想を漏らすアキラくんの後ろを、少し酔っ払った大学生くらいの人たちが通りかかって、私たちを囃しながら通りすぎる。
「ええなぁコーコーセー」
「らぶらぶやんけ!」
楽しげな彼らに、アキラくんは「いいでしょ」と笑って、私は1人赤くなってチョコソフトをちまちまと舐めたのだった。
ぽつりとアキラくんが言った。
「? こっちのほう、お花見あんまり来たことなかったって言ってなかった?」
私たちが立っているのは、人でごった返す桜が満開の公園。八坂神社を抜けたところにある。
見渡す限り、桜、桜、桜だ。
「しかし、桜いうか、ヒトやな」
「だよねー」
桜もすごいけれど、何よりすごいのは人の多さ! 桜をのんびり眺める、というよりは飲食メイン、若い女の子たちは写真を撮ったりもしているけれど、やっぱり「花より団子」ってことなんだろうなぁと思う。
「てきとーに歩いて鴨川戻ろか」
アキラくんは笑った。
「こないに人おったら、座る場所もあらへん」
「たしかに」
手を繋いで、なんとなく桜と人の間をふらふら歩く。
「しかし、やっぱなんか来たことあんねんなー」
「なんでだろね」
「ガキん頃かな。ゆーて今もガキンチョやけど」
「……随分大きくなったよねぇ」
私はアキラくんを見上げた。初めてあった時は、私より小さかった男の子が、今や見上げなきゃいけない。
(声も低くなったし、がっしりしたし)
細身だけれど、触れれば筋肉がちゃんとあるなぁと思う。男の子から、男の人になろうとしてる。
「もーすぐ180やしな!」
「えー」
私は目を瞬いた。そんなに大きくなってたんだ、アキラくん。
「びっくり」
「華どんくらい?」
「……平均くらい」
モリモリ背が伸びなくなって、どれくらい経つだろう?
(生理始まると伸びなくなる、とは言うけれど)
人によるのかなぁ。でも私はそれくらいだったかもしれない。
(でも、まぁ微増はしてるし!)
めざせ160センチかなぁ。アキラくんと並んでて、あんま身長差あるのも……アキラくんは気にしないだろうけれど。
そんなことを考えながらテクテク歩いていると、ふとしだれ桜が目に入った。
「おー、立派やな」
「だねぇ」
私は首を傾げた。
(あれ?)
この桜を、私も見たことがる。
(なんでだろ……)
前世でも、京都に来たことはある。けれど、こんなに桜が満開の季節ははじめてのはずだ。
「あのさ、アキラくん」
「なん?」
「私もなんか、この桜、見覚えあるんやけど」
「華」
アキラくんは笑った。
「俺の関西弁、うつってんで」
「え? あれ、あはは」
そんなこと、言ったかな。
「結構ナチュラルやったで」
「ほんと?」
私は微笑んでアキラくんを見上げた。
「それだけ話してるってことかな」
「せやろなぁ」
私たちは、近くにあった屋台のソフトクリームを食べながら、のんびりと手を繋いで、来た道を戻る。
「あ、思い出した」
「なにを?」
冷たいチョコソフトは、少し暑い今日にぴったり。
「えーとな、……それ一口もろうてええ?」
「いーよ」
ぺろり、と舐められるチョコソフト。
「俺のんも食う?」
「ん」
アキラくんのバニラソフトもいただく。うん、美味しい。
「京都らしく抹茶も迷ったんだけど」
「それはまた別のとこで食うたらええやん」
「そだね」
さすが京都というか、抹茶味のもので溢れているのです。
「あ、てか、なに思い出したの?」
「ん、ここやっぱ来たことあったわ」
「ほんと?」
見上げる先で、アキラくんは幸せそうに笑った。
「俺、産んでくれた人と」
「え」
「せやったせやった、ここや。"ママ"と来たのんて」
ママって気恥ずかしいななんか、とアキラくんは照れた。
「前言ってたね」
「ん、唯一覚えとる記憶の桜、ここや」
昔、アキラくんが言ってた。おかあさんにーー当時のアキラくんは"ママ"と呼んでいたらしいけどーー抱きしめられて、見上げてた桜。
「あのしだれ桜も、なんや見覚えあるもん」
「そっかー」
「つうか、華も来たことあるんちゃう」
アキラくんは、少し不思議な表情をした。
「記憶ーー失くす前に」
「……あ」
私はぽかん、とアキラくんを見つめた。その後ろには、眩しいくらいの水色の空と、まだ白っぽい桜の花びらーー。
「ほんまや」
「あっは、また関西弁うつってるで」
「あはは、へんなの」
私たちはクスクスと笑い合った。
「気が抜けてるからかな」
こんな風に、外でずうっと一緒にいて、気負わずに過ごせるの、ほんとに久しぶりなんだもん。
「かもな」
「でもね、うん、あり得るね」
私はきゅっ、とアキラくんの手を握り返した。
「"私"、神戸に住んでたんだもんね」
京都まで足を伸ばしてお花見、だってあり得たと思う。
「せやろ?」
「うーん、でもなぁ」
ぐるり、と園内を見回す。相変わらずの、ひと、ひと、ひと。
「あのしだれ桜以外で、特に見覚えないんだよね」
似たような桜なら、他にもあるのかもしれない。
(だとすれば、勘違い、なのかなぁ)
絶対に見たことあると思ったんやけどなぁ。
「そか」
アキラくんはバニラソフトにかぶりつきながら言った。
「あ、華、ちょっと溶けかけてるで」
「うわ、あっぶな」
慌ててチョコソフトにぱくりとかぶりつく。アキラくんは声を上げて笑って、私も一緒に笑った。
「付いとる」
アキラくんは少し目を細めて、私の唇のすぐ横をぺろりと舐めた。
「……!」
「チョコ味」
至極当たり前の感想を漏らすアキラくんの後ろを、少し酔っ払った大学生くらいの人たちが通りかかって、私たちを囃しながら通りすぎる。
「ええなぁコーコーセー」
「らぶらぶやんけ!」
楽しげな彼らに、アキラくんは「いいでしょ」と笑って、私は1人赤くなってチョコソフトをちまちまと舐めたのだった。
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