【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

再会

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 鴨川は鴨川で人が多かったけど、座るスペースは十分にあった。

「ほんまなんで等間隔なんやろ」
「だよね」

 並んで座って、春の景色を眺めながらそんな話をする。

「パーソナルスペース的な……?」
「あー、そんなんかもしれんな」

 アキラくんはふと私を見て「喉乾かへん?」と首を傾げた。

「あ、少し」
「ほな俺そこのコンビニで買うてくるわ」

 アキラくんは階段の上を視線で示した。

「あ、いいよ、一緒に」
「すぐ戻るし」

 アキラくんは笑って立ち上がる。私は頷いてお任せすることにした。あんまり遠慮しちゃうのもなぁ、って。

「なんがいい?」
「あとで払うからね」
「ええって、こんくらい奢らせてや」

 私は少し迷ってから「じゃあお茶で」とお願いした。アキラくんは頷いて歩いて行った。
  ひとり、ぽかんと流れる水面を眺めていると、橋の上から「設楽さん!?」と声をかけられた。
 私はびくり、と肩を揺らす。

(うわ、うそ、学校の人!?)

 どうしよう、アキラくんといるとこ見られたらーーと視線をあげると、そこには髪を明るい茶色に染めた派手目の男の子がひとり、橋の欄干から身を乗り出すようにして私を見ていた。

(……あれ?)

 首を傾げた。知らない人、だ……。

「ちょお待っててや、そっち行く!」

 そう叫んだ男の子は、橋の横のアスファルトの階段を転がるように降りてきた。
 私は少し迷って、立ち上がる。

(……学園の子、じゃない)

 アキラくん以外に、あんな派手な髪色の子はいないし、第一……関西弁、だった。

(ええと、どこで会った子、だろう)

 私は落ち着きなく視線を泳がせた。

「ひ、久しぶりやな!」

 私の前で肩で息をしてる男の子は、にこりと笑ってそう言った。

「えーと、小四以来やし何年振りや……?」

 私はハッと息を飲んだ。

(このひと、……記憶をなくす前の)

 同級生か誰か、だろうか?

「あの、……元気やった?」

 私はおそるおそる、頷いた。男の子は、少し安心したように笑う。

「あんなことあって、」

 少し言いづらそうにしながら、男の子は言う。あんなこと、っていうのは「華のお母さん」の事件のこと、だろう。

「その……見舞いも行ったらあかん言われて、会えへんまま転校して行って、ずっと気にかかってたんや」

 男の子は笑う。

「いつこっちに? 俺、中学んとき神戸からこっち来てーーってうわ!?」
「ちょおニイチャン、ナンパなら他当たってくれるかー」

 両手にペットボトルを持ったアキラくんが、男の子の膝に思い切り自分の膝を……いわゆる「膝カックン」をしかけていた。

「お気軽によおヒトの女に声かけられたなあ」

 中腰になってる男の子を、思い切り上から睨みつけるアキラくん。

「まわりカップルだらけやから、チョッカイもかけられんやろ油断したんが間違いやったわ、すまん華」

 私はアキラくんの腕の中に閉じ込められる。

「怖かったやろ?」
「あの、えっと、違くて、アキラくん」
「あー、ごめんデート中やった?」

 男の子は、私たちの左手の薬指ーーペアリングを見て確信的に言った。

「ええと彼氏さん、ちゃうくて、オレ、設楽さんの小学校の」

 アキラくんはビックリしたように目を大きくして、それから私を見た。

「覚えとる?」

 私は、ちらりと男の子に視線をやってから、軽く首を振った。

「あ、マジ? ごめん、ほんならほんま不審者やんな、オレ」
「や、さーせんした。勘違いしてもて」

 アキラくんはぺこりと頭を下げた。

「や、しゃあないって。こんなキレーな彼女やもんな」
「そうなんすわ」

 アキラくんは快活に笑った。

「せやけど、ちょお寂しいわ。結構遊んでたんやで、オレら」

 本当に寂しそうに言われて、私は「ごめんなさい」と俯いた。

「え、あ!? いやちゃうねん、責めてるわけやなくって」

 男の子は慌てたように言う。

「ほんまにほんまにちゃうくてやな、ほんまにほんまにちゃうねん」
「何回言うとんのですか」

 男の子の妙な言い回しに、アキラくんがそう突っ込んでーー頭が少し、ぴりりと痛む。

(……あれ?)

 私、知ってる。こういう言い回しする、男の子のことを。

「……柚木くん?」
「あ、」

 男の子はーー柚木くんは私を見て嬉しそうに笑う。

「思い出してくれたん?」
「思い出した、っていうか」

 ぱらりぱらり、と油絵の絵画の表面が剥がれるように、記憶を覆っていたなにかが剥がれていくような感覚ーー。

(……遠足で、柚木くん一瞬行方不明になって大変だった)

 どんぐり集めに夢中になりすぎてたんだ。

(……なにこれ、なにこの記憶!?)

 ほんとうなのか、私の妄想なのか、その区別すらつかない。
 私は震える手で、ぎゅっ、とアキラくんの手を握りしめた。戸惑いが大きくなる。

(なにこれ?)

 怖い。自分のことじゃ、ない、みたい……。

(そもそも自分のこと、なの?)

 地面を見つめながら、私は唇を噛む。ふと、繋いだ手の力が強くなった。
 アキラくんはそのあと、「華」と優しく私を呼ぶ。

「大丈夫やで」

 見上げると、アキラくんのいつも通りの微笑み。太陽みたいな。……一気に不安が吹き飛んだ。

(そうだ、大丈夫だ)

 アキラくんと一緒なんだもん。
 私は思い切って、柚木くんに尋ねた。

「ごめん、ちょっと時間ある?」

 私のこの記憶が、本物かどうか、それを確かめたかった。
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