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【高校編】分岐・山ノ内瑛
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鴨川は鴨川で人が多かったけど、座るスペースは十分にあった。
「ほんまなんで等間隔なんやろ」
「だよね」
並んで座って、春の景色を眺めながらそんな話をする。
「パーソナルスペース的な……?」
「あー、そんなんかもしれんな」
アキラくんはふと私を見て「喉乾かへん?」と首を傾げた。
「あ、少し」
「ほな俺そこのコンビニで買うてくるわ」
アキラくんは階段の上を視線で示した。
「あ、いいよ、一緒に」
「すぐ戻るし」
アキラくんは笑って立ち上がる。私は頷いてお任せすることにした。あんまり遠慮しちゃうのもなぁ、って。
「なんがいい?」
「あとで払うからね」
「ええって、こんくらい奢らせてや」
私は少し迷ってから「じゃあお茶で」とお願いした。アキラくんは頷いて歩いて行った。
ひとり、ぽかんと流れる水面を眺めていると、橋の上から「設楽さん!?」と声をかけられた。
私はびくり、と肩を揺らす。
(うわ、うそ、学校の人!?)
どうしよう、アキラくんといるとこ見られたらーーと視線をあげると、そこには髪を明るい茶色に染めた派手目の男の子がひとり、橋の欄干から身を乗り出すようにして私を見ていた。
(……あれ?)
首を傾げた。知らない人、だ……。
「ちょお待っててや、そっち行く!」
そう叫んだ男の子は、橋の横のアスファルトの階段を転がるように降りてきた。
私は少し迷って、立ち上がる。
(……学園の子、じゃない)
アキラくん以外に、あんな派手な髪色の子はいないし、第一……関西弁、だった。
(ええと、どこで会った子、だろう)
私は落ち着きなく視線を泳がせた。
「ひ、久しぶりやな!」
私の前で肩で息をしてる男の子は、にこりと笑ってそう言った。
「えーと、小四以来やし何年振りや……?」
私はハッと息を飲んだ。
(このひと、……記憶をなくす前の)
同級生か誰か、だろうか?
「あの、……元気やった?」
私はおそるおそる、頷いた。男の子は、少し安心したように笑う。
「あんなことあって、」
少し言いづらそうにしながら、男の子は言う。あんなこと、っていうのは「華のお母さん」の事件のこと、だろう。
「その……見舞いも行ったらあかん言われて、会えへんまま転校して行って、ずっと気にかかってたんや」
男の子は笑う。
「いつこっちに? 俺、中学んとき神戸からこっち来てーーってうわ!?」
「ちょおニイチャン、ナンパなら他当たってくれるかー」
両手にペットボトルを持ったアキラくんが、男の子の膝に思い切り自分の膝を……いわゆる「膝カックン」をしかけていた。
「お気軽によおヒトの女に声かけられたなあ」
中腰になってる男の子を、思い切り上から睨みつけるアキラくん。
「まわりカップルだらけやから、チョッカイもかけられんやろ油断したんが間違いやったわ、すまん華」
私はアキラくんの腕の中に閉じ込められる。
「怖かったやろ?」
「あの、えっと、違くて、アキラくん」
「あー、ごめんデート中やった?」
男の子は、私たちの左手の薬指ーーペアリングを見て確信的に言った。
「ええと彼氏さん、ちゃうくて、オレ、設楽さんの小学校の」
アキラくんはビックリしたように目を大きくして、それから私を見た。
「覚えとる?」
私は、ちらりと男の子に視線をやってから、軽く首を振った。
「あ、マジ? ごめん、ほんならほんま不審者やんな、オレ」
「や、さーせんした。勘違いしてもて」
アキラくんはぺこりと頭を下げた。
「や、しゃあないって。こんなキレーな彼女やもんな」
「そうなんすわ」
アキラくんは快活に笑った。
「せやけど、ちょお寂しいわ。結構遊んでたんやで、オレら」
本当に寂しそうに言われて、私は「ごめんなさい」と俯いた。
「え、あ!? いやちゃうねん、責めてるわけやなくって」
男の子は慌てたように言う。
「ほんまにほんまにちゃうくてやな、ほんまにほんまにちゃうねん」
「何回言うとんのですか」
男の子の妙な言い回しに、アキラくんがそう突っ込んでーー頭が少し、ぴりりと痛む。
(……あれ?)
私、知ってる。こういう言い回しする、男の子のことを。
「……柚木くん?」
「あ、」
男の子はーー柚木くんは私を見て嬉しそうに笑う。
「思い出してくれたん?」
「思い出した、っていうか」
ぱらりぱらり、と油絵の絵画の表面が剥がれるように、記憶を覆っていたなにかが剥がれていくような感覚ーー。
(……遠足で、柚木くん一瞬行方不明になって大変だった)
どんぐり集めに夢中になりすぎてたんだ。
(……なにこれ、なにこの記憶!?)
ほんとうなのか、私の妄想なのか、その区別すらつかない。
私は震える手で、ぎゅっ、とアキラくんの手を握りしめた。戸惑いが大きくなる。
(なにこれ?)
怖い。自分のことじゃ、ない、みたい……。
(そもそも自分のこと、なの?)
地面を見つめながら、私は唇を噛む。ふと、繋いだ手の力が強くなった。
アキラくんはそのあと、「華」と優しく私を呼ぶ。
「大丈夫やで」
見上げると、アキラくんのいつも通りの微笑み。太陽みたいな。……一気に不安が吹き飛んだ。
(そうだ、大丈夫だ)
アキラくんと一緒なんだもん。
私は思い切って、柚木くんに尋ねた。
「ごめん、ちょっと時間ある?」
私のこの記憶が、本物かどうか、それを確かめたかった。
「ほんまなんで等間隔なんやろ」
「だよね」
並んで座って、春の景色を眺めながらそんな話をする。
「パーソナルスペース的な……?」
「あー、そんなんかもしれんな」
アキラくんはふと私を見て「喉乾かへん?」と首を傾げた。
「あ、少し」
「ほな俺そこのコンビニで買うてくるわ」
アキラくんは階段の上を視線で示した。
「あ、いいよ、一緒に」
「すぐ戻るし」
アキラくんは笑って立ち上がる。私は頷いてお任せすることにした。あんまり遠慮しちゃうのもなぁ、って。
「なんがいい?」
「あとで払うからね」
「ええって、こんくらい奢らせてや」
私は少し迷ってから「じゃあお茶で」とお願いした。アキラくんは頷いて歩いて行った。
ひとり、ぽかんと流れる水面を眺めていると、橋の上から「設楽さん!?」と声をかけられた。
私はびくり、と肩を揺らす。
(うわ、うそ、学校の人!?)
どうしよう、アキラくんといるとこ見られたらーーと視線をあげると、そこには髪を明るい茶色に染めた派手目の男の子がひとり、橋の欄干から身を乗り出すようにして私を見ていた。
(……あれ?)
首を傾げた。知らない人、だ……。
「ちょお待っててや、そっち行く!」
そう叫んだ男の子は、橋の横のアスファルトの階段を転がるように降りてきた。
私は少し迷って、立ち上がる。
(……学園の子、じゃない)
アキラくん以外に、あんな派手な髪色の子はいないし、第一……関西弁、だった。
(ええと、どこで会った子、だろう)
私は落ち着きなく視線を泳がせた。
「ひ、久しぶりやな!」
私の前で肩で息をしてる男の子は、にこりと笑ってそう言った。
「えーと、小四以来やし何年振りや……?」
私はハッと息を飲んだ。
(このひと、……記憶をなくす前の)
同級生か誰か、だろうか?
「あの、……元気やった?」
私はおそるおそる、頷いた。男の子は、少し安心したように笑う。
「あんなことあって、」
少し言いづらそうにしながら、男の子は言う。あんなこと、っていうのは「華のお母さん」の事件のこと、だろう。
「その……見舞いも行ったらあかん言われて、会えへんまま転校して行って、ずっと気にかかってたんや」
男の子は笑う。
「いつこっちに? 俺、中学んとき神戸からこっち来てーーってうわ!?」
「ちょおニイチャン、ナンパなら他当たってくれるかー」
両手にペットボトルを持ったアキラくんが、男の子の膝に思い切り自分の膝を……いわゆる「膝カックン」をしかけていた。
「お気軽によおヒトの女に声かけられたなあ」
中腰になってる男の子を、思い切り上から睨みつけるアキラくん。
「まわりカップルだらけやから、チョッカイもかけられんやろ油断したんが間違いやったわ、すまん華」
私はアキラくんの腕の中に閉じ込められる。
「怖かったやろ?」
「あの、えっと、違くて、アキラくん」
「あー、ごめんデート中やった?」
男の子は、私たちの左手の薬指ーーペアリングを見て確信的に言った。
「ええと彼氏さん、ちゃうくて、オレ、設楽さんの小学校の」
アキラくんはビックリしたように目を大きくして、それから私を見た。
「覚えとる?」
私は、ちらりと男の子に視線をやってから、軽く首を振った。
「あ、マジ? ごめん、ほんならほんま不審者やんな、オレ」
「や、さーせんした。勘違いしてもて」
アキラくんはぺこりと頭を下げた。
「や、しゃあないって。こんなキレーな彼女やもんな」
「そうなんすわ」
アキラくんは快活に笑った。
「せやけど、ちょお寂しいわ。結構遊んでたんやで、オレら」
本当に寂しそうに言われて、私は「ごめんなさい」と俯いた。
「え、あ!? いやちゃうねん、責めてるわけやなくって」
男の子は慌てたように言う。
「ほんまにほんまにちゃうくてやな、ほんまにほんまにちゃうねん」
「何回言うとんのですか」
男の子の妙な言い回しに、アキラくんがそう突っ込んでーー頭が少し、ぴりりと痛む。
(……あれ?)
私、知ってる。こういう言い回しする、男の子のことを。
「……柚木くん?」
「あ、」
男の子はーー柚木くんは私を見て嬉しそうに笑う。
「思い出してくれたん?」
「思い出した、っていうか」
ぱらりぱらり、と油絵の絵画の表面が剥がれるように、記憶を覆っていたなにかが剥がれていくような感覚ーー。
(……遠足で、柚木くん一瞬行方不明になって大変だった)
どんぐり集めに夢中になりすぎてたんだ。
(……なにこれ、なにこの記憶!?)
ほんとうなのか、私の妄想なのか、その区別すらつかない。
私は震える手で、ぎゅっ、とアキラくんの手を握りしめた。戸惑いが大きくなる。
(なにこれ?)
怖い。自分のことじゃ、ない、みたい……。
(そもそも自分のこと、なの?)
地面を見つめながら、私は唇を噛む。ふと、繋いだ手の力が強くなった。
アキラくんはそのあと、「華」と優しく私を呼ぶ。
「大丈夫やで」
見上げると、アキラくんのいつも通りの微笑み。太陽みたいな。……一気に不安が吹き飛んだ。
(そうだ、大丈夫だ)
アキラくんと一緒なんだもん。
私は思い切って、柚木くんに尋ねた。
「ごめん、ちょっと時間ある?」
私のこの記憶が、本物かどうか、それを確かめたかった。
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