【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

嫉妬心

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 黒田くんはきゅっ、と眉を寄せた後、私を抱き寄せた。それから、ぽつりと口を開く。

「こうなりゃハッキリ言うけど」
「うん」
「……嫉妬してる」
「嫉妬?」

 私は黒田くんを見上げた……嫉妬。

「ん。鹿王院に。設楽が鹿王院と過ごしてることに」
「……黒田くん」
「情けねーよなぁ」

 ずるずる、と黒田くんは力を抜いて、床に座って、ソファに座ってる私の太ももに頭をのせるみたいになる。
 甘える子供みたいに。
 私は、胸が痛い。

(私のせいで)

 嫌な思いを、させてしまった。

「……ねえ黒田くん」
「なんだ?」

 私の足に顔を埋めたまま、黒田くんは小さく返してきた。

「お父さんたち、何時くらいにご帰宅?」
「……オヤジ? さあ、このところ遅いけど。母親は今日は夜勤」
「そっか」

 私は頷く。そっか。

「あとで、家まで送ってくれる?」
「? それはもちろん」
「ねえ」

 私は微笑んだ。

「黒田くんの部屋、行きたい」

 不思議そうにしながら、黒田くんは部屋にいれてくれた。相変わらず小ざっぱりした部屋だ。

「お部屋に入るのは久しぶりかも」
「そうかもな」

 黒田くんは私に勉強机の椅子をすすめてくれた。黒田くん自身は、ベッドに腰掛ける。少しの距離。

「……さっきの話の、続きなんだけど」
「んー」

 黒田くんは頭をかいた。

「や、すまん。言われても困るよな」
「……困らない」

 黒田くんは無言で目線をそらした。
 私は立ち上がって、黒田くんの前に立つ。

「私、何かできる?」
「いや」

 きっぱり、と黒田くんは言った。

「俺の問題だ」
「けど」
「すまん、設楽」

 黒田くんは眉を下げて笑った。

「男らしくなくて、情けなくて」
「そんなこと、」
「でも」

 黒田くんは私の手を取る。

「見捨てねーでほしい」

 ちゃんと強くなるから、と言う黒田くんに、噛み付くようにキスをする。

「ん、設楽?」
「ばか」

 私は黒田くんをベッドに押し倒した。

「?」

 ぽかんとしてる黒田くんの上に乗って、私はブレザーのジャケットをぽいっと脱ぎ捨てる。リボンもしゅるりと外してしまう。ブラウスのボタンをいくつか外したところで、黒田くんが慌てたように上半身を起こす。

「何してんだ! アホか!」
「アホじゃないよ。ねえ」

 私はブラウスも脱ぎ捨てる。黒田くんは目線を逸らして、私に布団を掛けてくる。無視して私は続ける。

「ねえ、黒田くん。しよ?」
「……なぁ設楽、よく考えろ」
「考えないよ」

 私は即答した。

「考えてなんからんない」
「余計執着して、苦しくなるだけだ」
「わかんないよ? 案外すっきりするかもよ?」

 私は、私が黒田くんの悲しみとかの原因になってるのが、とっても嫌だった。

「……前も言っただろーが。俺は設楽を傷つけることになるかもしれねーことが、まだ怖い。根岸たちのこともある」
「根岸くんたち関係ない!」
「あるよ。なぁ設楽、落ち着け」
「落ち着いてる!」

 私は目の前がぐらぐらして、それからやっと気がつく。黒田くんのため、とか色々考えてたけれど。結局は、私は。

「……私が」
「設楽?」
「私が、いやだから。黒田くんが、分かってないのが、嫌だから」
「なにをだ」

 さらり、と黒田くんが私の髪を撫でた。

「私が、黒田くんのものだってことを」
「……知ってるよ」
「分かってない、全然」

 ぽろぽろ、と涙が出る。

「ごめんね、私、わがままだから」
「そんなことねーよ」

 ぶんぶんと首を振る。

「わがままだよ。わがままだから、ちゃんと刻み付けたいし刻み付けて欲しい」
「……ガキできたらどーすんだよ」
「産むよ」
「……死ぬかも」
「いいよ」
「……軽々しく言うな」

 低く、抑えた声だった。私は言葉がそれでも止まらない。

「軽々しく言ってない。それでもいい。死ぬのがどんなことか、私、知ってる」

 黒田くんはほんの一瞬、息を飲んだ。

「前世の記憶があるって言ってるでしょう? 私、殺されたの。大きなナイフで滅多刺しにされたの」
「設楽、」
「死ぬのは痛くて熱くて冷たくて怖いよ。それでも、私、黒田くんに」
「だあああっ」

 ばちん、と大きな音がして、何かと思ったら黒田くんが両手で自分の頬を叩いていた。思いっきり。

「く、黒田くん!?」

 両頬が赤くなっている。

「なっさけねーよなぁ俺」
「?」
「自分の彼女に、んなこと言わせて、こんなカッコさせて」

 少しの間だけ宙に浮いた視線は、やがて私のものときっちりと合う。

「やっと目ぇ覚めたわ」
「黒田くん」
「設楽、……愛してる」
「へっ」

 唐突過ぎて、赤くなって固まった。黒田くんはそれをみて笑っている。

(あ、)

 私は気がついて、固まってた心が少し解けた。

(目が)

 目が、いつもの黒田くんだった。まっすぐで、意思があって、少しギラついた、それ。
 私の好きな目。
 私が惚れた男の目。

「手間かけさせた」
「え、あ、ううん」

 ぶんぶんと首を振る。……私、結局ワガママしか言ってなくない?

「とりあえずな、設楽」
「なぁに」
「降りてくれ。服も着ろ」
「あ、うん」

 答えながら、私は気がついてしまう。足にあたる、主張してる、それ。

「……いやカッコつけといて情けねーんだけど、まぁ、ほっといてくれ」
「でも」
「いーから。服着ろ、服」
「このままやっちゃわない?」
「アホか」

 頭を軽くはたいてくる黒田くんは、本当にいつもの黒田くんで。
 ちぇ、なんて嘯きながら制服をちゃんと着ると後ろから抱きしめられた。

「ごめんな」
「……黒田くん」
「ほんとに。嫌なこと、話させた」
「ええと、うん、でも」
「今度は守るから。一生」
「……うん」

 振り向きながら、キスをする。いつも通りの優しいキスが、なんだかとても心地良かった。
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