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【高校編】分岐・山ノ内瑛
目が覚めて
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ぱちり、と目を開けた。
「白い」
辺りが白くて、思わずそういうと「華!」と声がした。敦子さんと、樹くんが並んで私が寝てるベッドの横に座っていた。消毒液のにおい、腕に繋がった点滴。ーー病院?
(あ、そっか)
私は何度か瞬きをする。階段から落ちたんだ、私。
「体調はどう?」
「先生を呼んできます」
樹くんが立ち上がる。私は首を動かそうとして、激痛で「いたたた!?」と叫んだ。
「首は捻挫ですって、折れてなくて良かったわ」
敦子さんの、ひんやりした手が私のおでこに当てられる。
「ええと、ここは?」
「病院よ」
「それは分かりますけど、えーと、今何時ですか?」
どれくらい夢を見ていたんだろう。
敦子さんは苦笑した。
「今は夜の8時過ぎ。あ、頭のほうは異常なしらしいんだけれど、念のため2週間は様子を見てくださいって」
「は、はーい」
私は首をさすろうと腕を動かそうとして、動かせなくて「?」と敦子さんを見た。何せ、首が動かせないのでどうなってるか分からない。
「あなた、左腕折れてるわよ」
「エエッ」
「ねぇ、本当に…….なにがあったの?」
私は口ごもる。なにがあった、って。
「目の前であの子が飛び降りようとして、それを庇って」
「らしいわね」
敦子さんは言う。
「目撃していた方もそう証言してくださってるわ」
思わずほっと息をつく。
「けれど、あなたが庇った女の子、あの子が」
「?」
目線を上げると、敦子さんはゆるゆると首を振った。
「……いえ、今言うことじゃないわね」
軽く肩をすくめる。
「あなた、しばらく入院らしいから」
「ひぇ!?」
そう言われて、身体を動かそうにも動かせない。……確かに入院もやむなし、なのかなぁ。
「細かいところは先生から聞いて頂戴」
「はーい」
「着替えなんかは八重子から届けさせるから」
「はーい、……ごめんなさい」
謝ると、敦子さんは不思議そうに私を見た。
「何がよ」
「忙しいのに、抜け出してきてくれたんじゃないの?」
「あなたが気にすることじゃないわよ」
「ううん、……ありがとう、おばあちゃん」
敦子さんの眉間のシワがこれでもか、というくらいに寄った。
「おばあちゃんー?」
「だって」
思わずくすくす笑ってしまう。笑うと、なんだか芯に響くように痛い。
「おかあさんが、写真を見せてくれて」
「……え?」
「いつも、おばあちゃんだよって」
「華?」
「いつか会わせてあげるって」
私はじっと、敦子さんを見つめた。
「そう言っていたから」
「……思い出したの?」
「うん。全部」
敦子さんはふらり、と傾ぐように私の顔を覗きこむ。じっと目が合う。
「……忘れてたほうが良かったのかも」
「ううん、思い出したほうが幸せ」
辛い思い出もたくさんある。でもそれ以上に「おかあさん」と過ごした日々は、とてもとても、幸せだったから。苦しくて、甘い。
「そ、う」
敦子さんは身体を起こした。
「無理はして欲しくないわ」
「してないよ」
私は微笑む。そもそも、私はずっと「華」だったんだろう。前世の記憶が濃すぎただけで。
ひどくスッキリした気分だった。
その時、扉の外が少し騒がしくなる。
「ですから、今はご家族以外は面会が」
「分かってます、せやからここにおるだけで入りません」
私は目を瞬いた。アキラくん!
「それもダメです」
「せやったら、意識があるかどうかだけでも」
「お答えできません」
なにやら押し問答が聞こえる。敦子さんはほんの少しだけ頬を上げて立ち上がった。がらり、とスライド式のドアを開けた。扉の向こうには、部活から駆けつけてくれたのか、学校の名前が入ってスウェット姿のアキラくんと、看護師さん2人。
「華!」
私の目があいてるのを見て、明らかにホッと肩を落とすアキラくん。どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。
「その子、この子の友達よ。入って貰って大丈夫」
「そ、そうですか?」
不思議そうに、看護師さんはアキラくんの前から退いた。飛び込むように、アキラくんは私のベッドの横にかけて来る。
「華、良かった、部活終わりに華が救急車で運ばれたて聞いて」
そんままここ来て、とアキラくんの目が揺れる。
「大丈夫だよー。腕は折れてるらしいけど」
痛ましそうに、まるで自分の腕が折れたかのような顔で、アキラくんはわたしを見た。
「大丈夫! 多分すぐに退院だし!」
様子見みたいなものじゃないかな、と言うと、やっとアキラくんは頬を緩めてくれた。
「なんだ山ノ内、来ていたのか」
がらり、と扉が再び開いて、樹くんがお医者さんと、何人かの看護師さんと現れた。
「こっちのセリフっすわ」
軽く返すアキラくん。……いつの間にこんなにフランクにお話する間柄に?
(ふたりともスポクラだから)
学年は違えと上下の繋がりはあるのかもしれない。
そのあと、病状説明ということで、アキラくんと樹くんは部屋を出た。私と敦子さんは、おおむね敦子さんが話してくれてたことの細かいバージョンを、先生から聞く。
そして私は目を見開いた。
「入院28日?」
「はぁ、上腕ですので、おおむねは」
お若いのでもう少し短くなるとは思いますがね、と先生は言う。
「あのう」
「なんでしょう」
「修学旅行は」
「いつですか?」
「2週間後です」
「諦めてください」
私は絶句して、そのあと「ど、どーしてもですか?」と先生を睨んだ。睨んでも仕方ないんだけど、ぶつけ先がないよー!
「白い」
辺りが白くて、思わずそういうと「華!」と声がした。敦子さんと、樹くんが並んで私が寝てるベッドの横に座っていた。消毒液のにおい、腕に繋がった点滴。ーー病院?
(あ、そっか)
私は何度か瞬きをする。階段から落ちたんだ、私。
「体調はどう?」
「先生を呼んできます」
樹くんが立ち上がる。私は首を動かそうとして、激痛で「いたたた!?」と叫んだ。
「首は捻挫ですって、折れてなくて良かったわ」
敦子さんの、ひんやりした手が私のおでこに当てられる。
「ええと、ここは?」
「病院よ」
「それは分かりますけど、えーと、今何時ですか?」
どれくらい夢を見ていたんだろう。
敦子さんは苦笑した。
「今は夜の8時過ぎ。あ、頭のほうは異常なしらしいんだけれど、念のため2週間は様子を見てくださいって」
「は、はーい」
私は首をさすろうと腕を動かそうとして、動かせなくて「?」と敦子さんを見た。何せ、首が動かせないのでどうなってるか分からない。
「あなた、左腕折れてるわよ」
「エエッ」
「ねぇ、本当に…….なにがあったの?」
私は口ごもる。なにがあった、って。
「目の前であの子が飛び降りようとして、それを庇って」
「らしいわね」
敦子さんは言う。
「目撃していた方もそう証言してくださってるわ」
思わずほっと息をつく。
「けれど、あなたが庇った女の子、あの子が」
「?」
目線を上げると、敦子さんはゆるゆると首を振った。
「……いえ、今言うことじゃないわね」
軽く肩をすくめる。
「あなた、しばらく入院らしいから」
「ひぇ!?」
そう言われて、身体を動かそうにも動かせない。……確かに入院もやむなし、なのかなぁ。
「細かいところは先生から聞いて頂戴」
「はーい」
「着替えなんかは八重子から届けさせるから」
「はーい、……ごめんなさい」
謝ると、敦子さんは不思議そうに私を見た。
「何がよ」
「忙しいのに、抜け出してきてくれたんじゃないの?」
「あなたが気にすることじゃないわよ」
「ううん、……ありがとう、おばあちゃん」
敦子さんの眉間のシワがこれでもか、というくらいに寄った。
「おばあちゃんー?」
「だって」
思わずくすくす笑ってしまう。笑うと、なんだか芯に響くように痛い。
「おかあさんが、写真を見せてくれて」
「……え?」
「いつも、おばあちゃんだよって」
「華?」
「いつか会わせてあげるって」
私はじっと、敦子さんを見つめた。
「そう言っていたから」
「……思い出したの?」
「うん。全部」
敦子さんはふらり、と傾ぐように私の顔を覗きこむ。じっと目が合う。
「……忘れてたほうが良かったのかも」
「ううん、思い出したほうが幸せ」
辛い思い出もたくさんある。でもそれ以上に「おかあさん」と過ごした日々は、とてもとても、幸せだったから。苦しくて、甘い。
「そ、う」
敦子さんは身体を起こした。
「無理はして欲しくないわ」
「してないよ」
私は微笑む。そもそも、私はずっと「華」だったんだろう。前世の記憶が濃すぎただけで。
ひどくスッキリした気分だった。
その時、扉の外が少し騒がしくなる。
「ですから、今はご家族以外は面会が」
「分かってます、せやからここにおるだけで入りません」
私は目を瞬いた。アキラくん!
「それもダメです」
「せやったら、意識があるかどうかだけでも」
「お答えできません」
なにやら押し問答が聞こえる。敦子さんはほんの少しだけ頬を上げて立ち上がった。がらり、とスライド式のドアを開けた。扉の向こうには、部活から駆けつけてくれたのか、学校の名前が入ってスウェット姿のアキラくんと、看護師さん2人。
「華!」
私の目があいてるのを見て、明らかにホッと肩を落とすアキラくん。どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。
「その子、この子の友達よ。入って貰って大丈夫」
「そ、そうですか?」
不思議そうに、看護師さんはアキラくんの前から退いた。飛び込むように、アキラくんは私のベッドの横にかけて来る。
「華、良かった、部活終わりに華が救急車で運ばれたて聞いて」
そんままここ来て、とアキラくんの目が揺れる。
「大丈夫だよー。腕は折れてるらしいけど」
痛ましそうに、まるで自分の腕が折れたかのような顔で、アキラくんはわたしを見た。
「大丈夫! 多分すぐに退院だし!」
様子見みたいなものじゃないかな、と言うと、やっとアキラくんは頬を緩めてくれた。
「なんだ山ノ内、来ていたのか」
がらり、と扉が再び開いて、樹くんがお医者さんと、何人かの看護師さんと現れた。
「こっちのセリフっすわ」
軽く返すアキラくん。……いつの間にこんなにフランクにお話する間柄に?
(ふたりともスポクラだから)
学年は違えと上下の繋がりはあるのかもしれない。
そのあと、病状説明ということで、アキラくんと樹くんは部屋を出た。私と敦子さんは、おおむね敦子さんが話してくれてたことの細かいバージョンを、先生から聞く。
そして私は目を見開いた。
「入院28日?」
「はぁ、上腕ですので、おおむねは」
お若いのでもう少し短くなるとは思いますがね、と先生は言う。
「あのう」
「なんでしょう」
「修学旅行は」
「いつですか?」
「2週間後です」
「諦めてください」
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