【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

病室

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 入院なんか久しぶりだ。……前世の記憶を取り戻した、小学生以来。

(暇だなあ)

 何やら豪華な個室の窓から、ぼけーっと外を見る。初夏の午前中の、きらきらした日が眩しい。日曜日、らしいけど入院3日目にして既に曜日感覚が無かった。

「……暇だなぁ」

 ムダに広い病室(もはやホテルみたいな部屋なんだけど)に、私の独り言が響く。
 暇なので、つい、戻ってきた「華」としての記憶について咀嚼してしまう。いろんな記憶が浮かんでは消えて。

(ひとつ分かるのは、私はとても幸せだったってこと)

 ちゃんと愛されて育ってた。その記憶が戻って、疑問なのは「華はなぜ悪役令嬢になったのか」ってこと。

(自分で言うのもなんだけど、とても苛めとかするようなキャラクターじゃなかった)

 じゃあ、なぜ……なんて思ったところで、コンコンと病室の扉がノックされる。

「はい」
「よう」

 入ってきたのは、仁だった。私はむっと口を曲げる。

「仁!」
「うお、なんだよ」
「あなた私の護衛ならもうちょっと早くきてよね~」

 軽い冗談のつもりだったのに、仁はものすごく情けない顔で私を見る。悲しげな、辛そうな。

「え、ごめん、そんなガチで」
「……すまん、こっちの手ぬかりだった。本当に」

 しっかりと頭を下げられてしまう。

「や、ほんとに」

 慌てて手を振ると、仁はやっと顔を上げた。

「校内であそこまで何かが起きるなんて、想定もしてなかった」
「あ、うん、だよね……」

 そりゃそう、だと思う。

「また、お前を失うのかと」

 仁は少し離れたところから、私を見てきゅうと目を細めた。

「また、って……ごめん」

 前世のことだ。先に死んでしまったから。

「なあ華、もしあの生徒について何か心当たりあるなら話してほしい」

 仁は淡々と言う。私は仁を見つめたあと、「信じてもらえないかもだけど」と口を開いた。

「うん」
「ここって乙女ゲームの世界なのよね」
「……は?」

 たっぷり間をとったあと、仁はものすごく変な声でそう言ったから、私は思わず笑ってしまった。
 そのあと、ざっと「ゲーム」について説明する。仁は不審そうな目を私に向けてくる。

「……頭を打ったから」
「ちょ、信じないの!?」
「うん」
「生まれ変わりって時点で不思議満載なのに!?」
「いやまぁ、それはなぁ」

 でもなぁ、と訝しがる仁に、私はスマホを掲げた。

「じゃあ証人、呼んであげる!」


 じきに千晶ちゃんが病室にきてくれた。

「ごめんね、修学旅行前の忙しいところに」
「ううん、全然いいの。どうせお昼からお邪魔しようかなって思ってたの」

 千晶ちゃんははい、と可愛らしい紙箱をベッドサイドの机に置いてくれた。

「……シュークリーム?」
「正解!」
「わーい!」
「紅茶淹れようね」

 2人でキャッキャとはしゃいでいると、仁が「あのう」と口を開いた。

「僕のことお忘れではありません?」
「あは」

 ちょっと、わざと。だって信じないなんて言うからさ!
 それから、千晶ちゃんが淹れてくれたお紅茶を飲みながら(メインはもちろんシュークリームなんだけれど)この世界について話す。おそらくは、ゲームを元にした世界じゃないかなぁって話を。

「……まぁ、信じる」
「どうしたの急に」
「というか、そういう前提で行く」

 仁は言う。

「前提?」
「そー。つまりは桜澤が」

 その時、再びこんこん、とノック音。私たちはすっと会話をやめた。

(聞かれたらヤバイ集団だよね~)

 なんて思って、苦笑いする。

「どーぞ?」
「……あー、その」

 アキラくんだった。困ったように仁たちを見る。

「……じゃあお邪魔しました。お大事にね」

 千晶ちゃんが微笑んで、仁の腕をとってたたせた。

「あー、じゃ、また。設楽さん」
「はい」

 2人が出て行って、アキラくんは首を傾げた。

「良かったん?」
「うん」

 多分ね、と言いながら微笑む。

「来てくれたの?」
「午前練やったから」

 アキラくんはベッド横の椅子にぽすんと腰掛ける。

「どない? 骨」
「骨って」

 クスクス笑うと、捻挫してる首が少し痛い。軽く眉をしかめると心配気に顔を覗き込まれる。

「ごめん」
「全然」

 ふ、と手を握られる。

「なぁ華?」
「ん?」
「なんの話してたん?」

 じっ、と見つめられて私は固まった。

(も、もしや聞かれてました……!?)
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