【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

カフェオレ

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「あのー、そのー」

 明らかに挙動不審な私を見て、アキラくんは笑った。

「ええねんで言わんでも」
「え」
「けどな」
「うん」
「俺、……華に頼ってもらえとる?」

 切なそうに、アキラくんの眉が寄った。

「年下やから」
「え、関係ない、よ」
「ほんま? けど」

 さらり、と髪を撫でられる。

「なんか秘密があるんなら、それはそれでいい。けど、頼られへんのは」

 一瞬、アキラくんは考えるような表情になって、それから笑った。

「頼ってもらえへんのは、悔しい。自分が情けなくて」
「アキラくん」
「ごめんな華」

 私は思わずアキラくんの手を握る。

「頼ってる」
「華」
「すっごい頼ってる。支えにしてる。でも、私、言えてないことがある」

 前世の記憶があること、ここが「ゲーム」の世界を下敷きにしてる世界なんじゃないかってこと。

「うん」
「いつか、言うから」
「ん」

 おでこに唇が寄せられる。

「ごめんな、華、入院中やのにな。俺、こーゆーとこがオコサマなんやろな」
「全然なのに」
「他にも色々あんねん」
「?」

 アキラくんは不思議そうな私のオデコを軽くデコピンすると、楽しげに笑った。

「ちょっと飲みモン買ーてくるわ。華、なんかいる?」
「大丈夫いっぱいあるから」
「おけ」

 病室からアキラくんが出て行って程なくして、看護師さんが病室に入ってきた。

「足の湿布、替えますね」
「はーい」

 全然大したことはないんだけれど、足をしたたかに打ち付けて何箇所か打ち身のようになっていた。

(まー、階段から落ちたんだもんな)

 それも、別の人の体重までかかって。軽症で済んだほう、なのかも。
 湿布を替え終わって、それから看護師さんはニヤリと笑った。

「ねえねえ華ちゃん」

 この若い看護師さんは、年齢が近いこともあってか、結構フランクに話してくれる。割とこちらとしても気安い。

「はい?」
「あのさあ、どっちが本命?」
「どっちって?」
「背の高いほうと金髪とー」
「背の高いほう?」

 金髪はわかるけれど、背の高いほう、っていうのは、……樹くん、だろうけれど。

「金髪くんは彼氏ですけど」
「あ、そーなの? 背が高い彼もよく来てくれるじゃない?」

 私は思わず笑ってしまった。まだ入院して3日なのに、よく見てるよなぁ。

「あの人は幼馴染、です」

 多分、そんな感じなんだろう。

「ただの?」
「ただの」
「えー?」

 看護師さんは首をかしげる。

「でも、絶対、華ちゃんのこと好きよねえ?」
「ないですよ」
「あるある。だって搬送されてきた時、もう顔面蒼白で駆けつけて」
「優しいひとだから」
「それだけかなぁ?」
「あんま色々言うたらんといてください、看護師サン」

 唐突にアキラくんの声がして、看護師さんは「ひゃあ」と妙な声を上げた。

「あ、こ、こんにちはー」
「うっす」

 アキラくんはニッコリと笑った。笑ってるけど、少し怒ってる感じ。ちゅー、と紙パックの緑茶を飲んでいた。

「?」
「いらん言われてたけど、はい」

 紙パックのカフェオレ。好きなやつだ。

「わ、ありがと!」
「ん。なぁ華」

 アキラくんは笑った。

「なあに」
「鹿王院サンが華のこと好きなん、俺、知ってた言うたらどうする?」

 私はぽかんとアキラくんを見つめた。

「え」
「おほほほじゃあ華ちゃん、また」

 看護師さんはするりと部屋を出て行く。え、そんな、かき回しといてー!

「好き、って」
「……例えばの話」

 例えば、で私は肩の力をぬいた。もう、びっくりするじゃん!

「あは、びっくりしたー」
「でも、例えば、やで?」

 アキラくんはちゅうちゅうとストローから緑茶を飲む。

「好きやったら、どないする?」
「どないもこないも」

 私はそこだけ、関西弁で話す。

「私はアキラくん以外、好きにならんけど」

 だいたい、例え話、だし。
 そうだよね?

「……ごめんな華、俺、ずっこいねん」
「ん?」
「そういう答えに、すごい、安心してまうねん」

 アキラくんはそっと私の首を支えて「痛ない?」と聞いてくる。おずおずと頷く私に、軽くくちづけて、すぐに離れた。

「せやけど、華」

 話のトーンを変えるように、アキラくんは笑う。

「記憶戻ったのに、基本こっちの言葉なんやな?」
「んー」

 私は首を傾げた。

「そうなんだけどさ、混じっちゃうと、記憶なくして以降の私もそれなりに出て。単純に、こっちに馴染んでるんだと思うんだけど」
「そーかー」

 アキラくんは優しく笑った。そのあと少し悪戯っぽく口の端を上げる。

「関西の魂捨ておって」
「す、捨ててないよ」
「ほんまにぃ?」

 アキラくんの懐疑的な声に、つい笑ってしまって、やっぱり首はまだ痛くて「イタタタ」と折れてない右手で首をさする。

「わ、大丈夫か」
「うん大丈夫。ほんとに何でこんなことになったんだか」

 眉を下げると、相対的にアキラくんの眉のあたりには怒りが滲んでいた。

「アキラくん?」
「……なんなんあの女、マジで腹立つねんけど」
「あの女、って」
「華が庇った女子や。あいつ、全然反省してないねんけど」

 それどころか、と言いかけて、アキラくんはふと口をつぐんだ。

「あ、すまん、ついムカついて」
「いいんだけど」

 敦子さんも何か言いかけてやめてた。

「いいんだけど……その子、なんて言ってるの?」

 私の質問に、アキラくんは酷く眉をしかめて少しだけ黙った。
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