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【高校編】分岐・相良仁

【side仁】選挙結果

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 華が「でもほんとにビックリした」と少し嬉しそうに言う。
 放課後の社会科準備室、華はアンケート(例の校則改革案のようだ)の草案をノートに書き散らしていて、俺はノートパソコンに向かって授業のプリントを作っている。

「なにがだ?」
「だってさ、私がちゃんと当選したのもだし」

 少し照れたように言う。あれだけ演説会で啖呵を切っていたのに、自信がなかったのか。華らしいけれど、と内心苦笑した。ほんと、そういうところは前世から変わらない。

「樹くんが生徒会長になったのもだよ」
「あー」
「この学校の選挙の仕組みって変だよね」
「でもまあ、辞退はできるんだろ」
「うん、らしいけど」

 この学校ーー青百合学園の選挙制度は少し変わっている。立候補していない人にも票を投じることができるのだ。
 大正だか、昭和の初めに男子校(この学園は女子校と男子校が合併してできた学校だから)のほうで採用されていた選挙制度らしい。

「辞退してねーってことは、鹿王院のお坊ちゃんもやる気があるってことだろ」
「んー、でもねぇ」

 華は首を傾げた。

「責任感の、強いひとだから」

 気遣わしげに言う華。

「ほら、忙しいじゃん、樹くんって。部活もあるし、鹿王院の関係のお仕事もしてるらしいし?」
「だなぁ」

 俺はできるだけ、感情が表に出ないように相槌を打つ。
 鹿王院に対する、華の態度。それは華らしい心配で、でも俺は相変わらず胸の奥がちりっと痛んで嫉妬してて、あーほんと俺ってダメだなぁと思う。

「……そうだな。まぁ、フォローしてやれよ、生徒会役員でさ」

 どろどろした感情をできるだけ仕舞い込んで、俺は少しだけ頬を緩めた。

「そーする」

 すぐさま、華は頷く。心臓がざわりとする。嫉妬する必要はない。

(なかっただろう?)

 落ち着けよ、と自分に向かって投げかける。華は親しい友達が、忙しいのに生徒会長になんかなっちゃったことを、ただ心配してるだけで。

「華」

 でもつい、そう声をかけてしまう。

「ちょっとさ、こっちおいで」
「?」

 持っているボールペンを揺らし、華は「もう少しー」と笑った。

「今日中に草案、仕上げちゃいたいんだぁ」
「草案と俺と、どっちが大事なの」
「もー、何言って」

 最後まで言わせなかった。手を口に当てる。

「……?」

 目を白黒させてる華から手を離し、立ち上がって華の横まで行く。

「どうしたの」
「んー」

 答えずに抱きしめる。いいにおい。

「おつかれモード?」
「ちょっとね」
「おいで」

 優しい声で言われて、素直に甘える。床に座り込んで、華の膝に頭を乗せて。よしよし、と撫でてくる優しい手。

「服、汚れない?」
「大丈夫」

 俺はそっと目を閉じた。何だろう、これ、すっげー幸せ。嫉妬心とか溶けていく。

「……そういや、吐き気とかどうなの」
「んー? まだ時々。でも食欲もあるし、お腹痛いわけでもないよ」
「そ? ストレスかねぇ」
「お肌の調子はいいんだけど」

 密やかに笑う華。ちょっと、くすぐったい。

「樹くんと言えばさ」

 華は会話のトーンを変えた。俺はちょっとムッとする。またあいつの話!

「なんか桜澤青花とよく話してる」

 その話か、と俺は思わず変な笑い方をしてしまう。まー、あいつも苦労性だ。
 俺に宣言した通り「情報を得るため」あいつはわざわざ桜澤と会話をしている、らしい。
 学園内でも噂になっている。桜澤、そのうち鹿王院に殴られるんじゃないかって。桜澤の空気の読めなさは、今や学園内で知らない者はいない、って感じ。すげえよな。

(まぁ鹿王院、オンナ殴るとかしねーだろうけど)

 でもそのうち、本気で怒鳴りつけるくらいはしそうだ。思い返して、俺は苦笑いした。

「すっげーシブい顔で会話してるよな」
「ね。なんでかな」
「絡まれるからしゃーなしで話してんだろ」
「……明らかにイライラしてるんだけど」

 大丈夫かなぁ、とやっぱり華は心配気に言う。

「あいつのがストレスやばそうだよな、胃に穴空きそう」
「や、やめてよ」

 心配になっちゃうじゃん、と華は俺の耳を軽く引っ張る。……なんか気持ちいいな、これ。

「耳つぼ?」
「え?」
「いや、これ、気持ちいい」
「あ、そう?」

 華は少し笑って、耳を揉んでくれた。あー、眠くなる……。

「疲れると耳が凝るとか聞いたことある」
「凝ってる?」
「分かんないよ! 耳の凝り方なんて」

 華は楽し気に言った。

「そーうー?」

 言いながら鹿王院のストレスについて思う。あれでまだ、高校生なんだしなぁ。少しはフォローすべきなんだろうか。……それこそ「しゃーなし」だ。

「……鹿王院さ、俺の方でも様子みとくから」
「ほんと?」

 ほっとしたように、華は頷く。耳たぶをきゅうとつままれる。あ、それ気持ちいい。

「私が絡むと、余計何か悪化しそうで」
「するから絡むなよ」
「んー」

 華は目を細める。やわやわと、耳を撫でる優しい指。
 俺は起き上がって、華を抱き上げて、自分が座ってた椅子まで移動。こっちは廊下から見えない席だから。
 座って、華を後ろから抱きしめて、耳を噛んだ。

「ひゃっ!? な、なに!?」
「んー? 耳マッサージのお返し」
「ぜ、絶対これ違う!」

 華の声は、最初くすぐったそうで、それから少しずつ甘くなっていく。
 一生懸命振り返って俺を見つめる華の唇に、そっとキスをする。
 ごめんね、俺、意地悪で。でも全然反省してないので、今度は唇の隙間に舌をねじ込んだ。
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