【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

雪【side仁】

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 季節というのは一瞬で過ぎ去っていくもので、それは前世でも現世でも変わらない。
 そんなことを、俺は自宅の窓越しに銀鼠色の分厚い雲を眺めながら思う。そこからゆっくりと降下してきてんのは雪で、ついでに今日はクリスマスだってんだから出来過ぎだ。
 母国の父親からはなぜかマフラーが届いた。やっぱり子供扱いされてる気がする。

「援助交際、とはもう言わないよなぁ」

 いまはパパ活とかいうらしい。やってふことは同じだと思うんだけどなぁ、と俺は机の上の資料を眺めながら思う。
 桜澤青花が、それをしているって証拠。写真に、防犯カメラの映像。都内のホテルに入っていく様子。
 相手は普通のサラリーマンから医者から警官から(さすがに嘆かわしいなコレは)選り取り見取りだ。

(でもこれは本丸じゃない)

 あいつは、もっと「色々」してる。パパ活くらいで逮捕なんかされない。相手はされるけど。
 退学で終わって、それで更に逆恨みされちゃ困る。

(……泳がせるか)

 本音としては、もうさっさと華から引き離したい。けれど、脳裏によぎるのは薬物のこと。どこでどうやって仕入れて、どうやって捌いてんのか。

(直接本人が動いてねーから)

 ふう、とため息をつく。なかなか証拠が掴めないようだ、ウチでも、捜査機関でも。
 前科マエでもありゃ違うんだろうけどなぁ。いきなり女子高生を疑うなんかしないよなぁ。俺はしてるけど。
 さて、と俺は動き出す。クリスマスだろうが桜澤がエンコー……じゃないや、パパ活してようが、俺はとりあえず華を迎えに行かなきゃならない。
 敬虔なミッション系の青百合学園、クリスマスはお休み、だ。つまり今日一日、華も俺もフリーってわけで。

「寒いね」

 車に乗り込んで来た華に、俺はプレゼントの包みをぽすりと渡す。

「わ! なにこれ?」
「正直、父親との血のつながりを感じたわ」
「? なんの話?」

 訝しそうな華はプレゼントをさっさと開けて、嬉しそうに「ありがとう」と笑ってくれた。
 赤信号で停止したときに、プレゼント……マフラーを華の首にぐるぐると巻きつける。うん、可愛い。

「似合う?」
「うん」
「えへへ」

 嬉しそうに、華は笑った。

「で、どこいくの」
「秘密」
「ふーん?」

 不思議そうにしながら、窓の外を眺める華。その視線の先では、相変わらず雪がちらりちらりと降っていた。

「……新幹線止まるとかねーよな?」
「なんで?」
「乗るから」
「なんで!?」

 びっくりしてる華に俺は笑う。

「クリスマスだから?」
「や、意味わかんないです」
「いいからいいから。つか、何て言って家出てきたの?」
「なんで?」

 華の質問に、俺は肩をすくめた。だって、なぁ。クリスマスだぞ。流石に常盤のお嬢さん……つか、シュリは何かしら思うだろう。

「なんとなくー?」

 俺が言うと、華は首を傾げながら答えてくれた。

「ふうん? ふつうに出かけるって」
「……そ」

 ばーさんはこのところ出張続き、らしいし。……常盤のおじょーさんは読めないんだよなぁ。何か考えてそうな雰囲気は、ある。

「……とりあえずは様子見、か」
「なにが?」
「いやぁ?」

 言いながら、俺は華は喜ぶだろうか、と考える。割と俺は約束は実行するタイプの男なんだ。
 と、いうわけで「???」顔の華を新幹線に詰め込んで、新幹線のクソ固いアイス食わせてたどり着いたのは。

「京都?」
「だってお前着物着て観光したいって言ってたじゃん」
「え!?」

 俺はにやりと笑う。その顔が見たかった。
 夏に日光で約束してた。

「……あれかぁ。忘れてた」
「忘れてたのかよ」
「えへへ」

 京都も雪が降ってて、まぁ京都は雪でも雰囲気でるからいーだろ、と勝手に俺は思う。
 華をレンタカーで連れて、予約してた店に連れてって、華に着物を選ばせる。
 華が選んだのは割とモダンな柄の赤っぽい着物で、うん、似合う。
 店を出て、さっきのマフラーを巻いてやる。悪くない、と思った。華は少しくすぐったそうに俺を見上げて、俺は目を細める。
 穏やかだな、と思う。駐車場まで歩きながら、ちらちらと雪が降っているのを見上げた。灰色の空と、白い雪と、赤い着物の華と。

「寒くないか?」

 華は頷きながら、俺をみる。

「仁は?」
「寒くないけど」
「じゃなくて、着物」
「着ない」
「えー」

 華は頬を膨らますけど、だって動きにくいもん。慣れてないから。

「そのうちな~」
「ちぇー」

 みたかったな、なんて言ってくれるから可愛い。俺の着物なんか見てどーすんだ。

「どうする? 渡月橋とか行ってみるか」

 車に乗り込みながら聞いてみる。京都来るのは決めてたけど、ほか、なんも決めてなかったや。

「それよりねぇ」

 えへへ、と華は笑った。

「先にご飯かな~」
「だと思った」

 思わず笑うと、華は俺のスマホで勝手にお店を探し始める。俺は路肩に車を停めて、華が一生懸命食べたいもの探すのを見てあったかい気持ちになる。
 こんな時間がずっと続けばいいのに、ってそんなふうに強く思った。
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