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【高校編】分岐・相良仁
雪と迷子【side仁】
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「迷子?」
「……だな」
ちらちらと雪が降る、渡月橋の橋の真ん中あたり。
俺と華の目の前には、半泣きな3歳くらいの女の子。明るい髪色にヘーゼルの瞳。外国人観光客の子供だろう。
日本語は分からないのか、(そりゃそうか)きょとんと俺たちを見ている。
華はしゃがみ込んで、女の子と視線を合わせている。女の子は華の着物に気を取られて、ほんの少し、頬を緩めた。
俺もしゃがみこむ。
『父親か母親は?』
『リザが鳥さんを見つけてる間に、どっかに行っちゃったの』
英語で尋ねたら、辿々しいながらも返事があった。なるほどなぁ。
「鳥を見つけて追いかけてはぐれたっぽいな」
「えー」
華はキョロキョロとあたりを見回す。
「探してるだろうねぇ」
「だろうなぁ」
心配気に眉を寄せて、でもすぐに女の子を不安にさせないためだろう、笑顔になって「探そうか」と女の子の手を取った。
女の子は首を傾げて、やっぱり華の着物が気になるのだろう、少し摘んだりしてみていた。華は笑ってされるがままになっている。
「どーやって探すんだよ」
「とりあえず交番に行きすがら?」
「まぁなぁ」
俺は少し考えて、それから女の子を肩車した。わあ、と驚く女の子に俺はいう。ちょっとは目立つ方がいいだろ。
『誰か見えたか?』
『いない』
『ちゃんと探せよ』
『さがしてるわよ!』
少し大人びた言い方に、思わず笑ってしまった。女の子は小さくても女性だとは聞くけれど、なんとなくこのヘーゼルの瞳と気の強さに既視感を覚えてみたりした。
『失礼』
『あ、いた!』
女の子の弾んだ声の先にいた女性、ーーと正確にはその夫というか、俺が肩車してる女の子の父親だろうけれど、もいたけれど、俺はなんだか思わずギョッとしてしまった。
『……うそでしょうジーン、なにウチの娘誘拐してんのよ』
『人聞きが悪いこと言うなよ』
ため息をつきながら、肩車してたリザちゃんとやらをその人に渡す。なんていうか、元カノです。
(いや記憶が戻る前のだからな!?)
何も言ってない、というかきょとんとしてる横の華に頭の中で言い訳する。
「知り合い?」
「たまたまな」
そう答えると、華は彼女に向かって、にこりと微笑んだ。彼女はすこし目を見開く。
『どうもありがとう』
彼女の夫は丁寧に言いながら、俺に微笑む。
『きみのともだち?』
『ええそうね』
ふん、と彼女は鼻息荒く言った。まぁ、なんていうか、俺はあんまりいい恋人じゃなかったし、あまり良い別れ方でもなかった。
(「あなたは一度も私を見なかった」だっけ)
そんなふうに、言われたのだ。
『……ねえそれよりジーン? 今はなにをしているの?』
軍隊に入ったって聞いていたんだけれど? と彼女は俺をじっと見ていた。
俺は彼女を見返す。言い方的に、どうやら「教師をしてます」みたいな答えを求めてる訳じゃなさそうだ。
『デート中』
『ねえ彼女は酷く若く見えるんだけれど? あたしの目が悪いせいかしら』
じとりと俺をにらむ目。……なんていうか、正義感の強い人だったし、今も変わってないんだろう。
クソみたいな別れ方をした元恋人が、どうやら未成年に手を出してるかもしれないことを見過ごせない程度には。
だから、きっと記憶がないまでも、俺は彼女に惹かれたんだろう。華に似ていたから。けれど、華じゃなかったから、愛せなかった。酷く傷つけて離れて、でもどうやら幸せそうだと思って安心してる。
(……こういうの、男のエゴなんだろうなぁ)
各方面から怒られそうだ、と思いつつ答える。嫌な奴って自覚はある。
『こいつ大人だよ。同級生だよ』
中身はね。
『……ウソ? 東洋人は若く見えるっていうけれど』
『マジだよ』
ウソはついてないもーん。うん。
『ねえ、もう時間だよ』
リザが言う。やっぱり大人びた言い方で俺が笑うと、彼女は眉を思い切り顰めながら娘に言う。
『あのねぇ、誰のせいで時間が押してると』
『ふたりが迷子になったからでしょう!?』
ふん、と腰に手を当てて言う娘を呆れたように、愛しそうな目で彼女は見た。
『じゃあまたね。彼女さんに肌のケア方法を聞いておいて』
『分かったよ』
それから彼女は微笑んで、俺と華を見て「ドーモアリガトウ」と日本語で言った。
「お気をつけて~」
華はニコニコと手を振る。俺はなんとなく、華の手を握って手を振った。
3人が橋を渡り切って行くのを眺めながら、華がくすっと笑った。
「なんだよ」
「あのさ」
「うん」
「元カノ?」
俺は思わずまじまじと華を見る。なんでバレたの? 華は少し楽しそうに言った。
「なんとなく」
「あのさ、記憶戻る前のことで」
何にも悪くない(はず)なのに、なぜかシドロモドロな俺の弁解を聞いて、華は「知ってるよ」と笑って俺の手を強く握る。
「知ってるよ」
「なにを?」
「ちゃんと、私が愛されてるって」
ふふ、と密やかに笑う華は本当に「ちゃんと分かってる」って顔してて、俺はこっそり頭に口付ける。
華は俺を見上げて緩やかに笑って、繋いだ手はあったかくて、「幸せ」以外の感情が湧いてこない。
「……だな」
ちらちらと雪が降る、渡月橋の橋の真ん中あたり。
俺と華の目の前には、半泣きな3歳くらいの女の子。明るい髪色にヘーゼルの瞳。外国人観光客の子供だろう。
日本語は分からないのか、(そりゃそうか)きょとんと俺たちを見ている。
華はしゃがみ込んで、女の子と視線を合わせている。女の子は華の着物に気を取られて、ほんの少し、頬を緩めた。
俺もしゃがみこむ。
『父親か母親は?』
『リザが鳥さんを見つけてる間に、どっかに行っちゃったの』
英語で尋ねたら、辿々しいながらも返事があった。なるほどなぁ。
「鳥を見つけて追いかけてはぐれたっぽいな」
「えー」
華はキョロキョロとあたりを見回す。
「探してるだろうねぇ」
「だろうなぁ」
心配気に眉を寄せて、でもすぐに女の子を不安にさせないためだろう、笑顔になって「探そうか」と女の子の手を取った。
女の子は首を傾げて、やっぱり華の着物が気になるのだろう、少し摘んだりしてみていた。華は笑ってされるがままになっている。
「どーやって探すんだよ」
「とりあえず交番に行きすがら?」
「まぁなぁ」
俺は少し考えて、それから女の子を肩車した。わあ、と驚く女の子に俺はいう。ちょっとは目立つ方がいいだろ。
『誰か見えたか?』
『いない』
『ちゃんと探せよ』
『さがしてるわよ!』
少し大人びた言い方に、思わず笑ってしまった。女の子は小さくても女性だとは聞くけれど、なんとなくこのヘーゼルの瞳と気の強さに既視感を覚えてみたりした。
『失礼』
『あ、いた!』
女の子の弾んだ声の先にいた女性、ーーと正確にはその夫というか、俺が肩車してる女の子の父親だろうけれど、もいたけれど、俺はなんだか思わずギョッとしてしまった。
『……うそでしょうジーン、なにウチの娘誘拐してんのよ』
『人聞きが悪いこと言うなよ』
ため息をつきながら、肩車してたリザちゃんとやらをその人に渡す。なんていうか、元カノです。
(いや記憶が戻る前のだからな!?)
何も言ってない、というかきょとんとしてる横の華に頭の中で言い訳する。
「知り合い?」
「たまたまな」
そう答えると、華は彼女に向かって、にこりと微笑んだ。彼女はすこし目を見開く。
『どうもありがとう』
彼女の夫は丁寧に言いながら、俺に微笑む。
『きみのともだち?』
『ええそうね』
ふん、と彼女は鼻息荒く言った。まぁ、なんていうか、俺はあんまりいい恋人じゃなかったし、あまり良い別れ方でもなかった。
(「あなたは一度も私を見なかった」だっけ)
そんなふうに、言われたのだ。
『……ねえそれよりジーン? 今はなにをしているの?』
軍隊に入ったって聞いていたんだけれど? と彼女は俺をじっと見ていた。
俺は彼女を見返す。言い方的に、どうやら「教師をしてます」みたいな答えを求めてる訳じゃなさそうだ。
『デート中』
『ねえ彼女は酷く若く見えるんだけれど? あたしの目が悪いせいかしら』
じとりと俺をにらむ目。……なんていうか、正義感の強い人だったし、今も変わってないんだろう。
クソみたいな別れ方をした元恋人が、どうやら未成年に手を出してるかもしれないことを見過ごせない程度には。
だから、きっと記憶がないまでも、俺は彼女に惹かれたんだろう。華に似ていたから。けれど、華じゃなかったから、愛せなかった。酷く傷つけて離れて、でもどうやら幸せそうだと思って安心してる。
(……こういうの、男のエゴなんだろうなぁ)
各方面から怒られそうだ、と思いつつ答える。嫌な奴って自覚はある。
『こいつ大人だよ。同級生だよ』
中身はね。
『……ウソ? 東洋人は若く見えるっていうけれど』
『マジだよ』
ウソはついてないもーん。うん。
『ねえ、もう時間だよ』
リザが言う。やっぱり大人びた言い方で俺が笑うと、彼女は眉を思い切り顰めながら娘に言う。
『あのねぇ、誰のせいで時間が押してると』
『ふたりが迷子になったからでしょう!?』
ふん、と腰に手を当てて言う娘を呆れたように、愛しそうな目で彼女は見た。
『じゃあまたね。彼女さんに肌のケア方法を聞いておいて』
『分かったよ』
それから彼女は微笑んで、俺と華を見て「ドーモアリガトウ」と日本語で言った。
「お気をつけて~」
華はニコニコと手を振る。俺はなんとなく、華の手を握って手を振った。
3人が橋を渡り切って行くのを眺めながら、華がくすっと笑った。
「なんだよ」
「あのさ」
「うん」
「元カノ?」
俺は思わずまじまじと華を見る。なんでバレたの? 華は少し楽しそうに言った。
「なんとなく」
「あのさ、記憶戻る前のことで」
何にも悪くない(はず)なのに、なぜかシドロモドロな俺の弁解を聞いて、華は「知ってるよ」と笑って俺の手を強く握る。
「知ってるよ」
「なにを?」
「ちゃんと、私が愛されてるって」
ふふ、と密やかに笑う華は本当に「ちゃんと分かってる」って顔してて、俺はこっそり頭に口付ける。
華は俺を見上げて緩やかに笑って、繋いだ手はあったかくて、「幸せ」以外の感情が湧いてこない。
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