【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【side青花、side仁】

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【side青花】

 あたしはイラついていた。だって設楽華が死なないから。

「そんなことってありますう?」

 あたしに薬を横流しした医者は首を傾げた。

「まぁ、もしかしたら摂取量がごく微量なのかも」
「というと?」
「こっそり飲ませてるんでしょう? きっちり飲むわけじゃないからねぇ」

 身体に蓄積するようなものでもないからねぇ、と医者は言う。

「じゃあどーしたら殺せますか」
「殺す殺すって物騒だねぇ」

 この医者は、医者のくせに全然あたしを止めようともしない。ロリコン野郎。

(邪魔なのよねぇ)

 シナリオ通りに動かないなら、退場してほしい。そう思って、色々としかけているのにーーぴんぴんしている。ムカつく。

(いちど、直接殺そうとしたけれど)

 なんでか失敗したのよねぇ、とあたしはため息をつく。設楽華の修学旅行、あたしは「取引先」のツテを頼って襲撃してもらったことがある。一度だけ。詳細は知らないけれど、とにかく失敗したのは確かだ。

(日本国内で、直接的に殺しにいくわけにもーー)

 リスクが大きすぎる。それで、前世で知った知識で、設楽華の親戚を巻き込んで薬を飲ませているはず、なのだけれどーーうまくいってない。全く効いてないってことは無さそうなんだけれど……。話を聞いてると、体調悪そうだし。

(じゃあ、どうしたらいいのかしら)

 あれもダメ、これもダメーーと考えたところで、ふ、と思い浮かぶ。

「あ」
「どうしたの青花ちゃん?!

 医者は不思議そうに首を傾げる。あたしはクスクスと肩を揺らした。なあんだ、簡単なことだった!

「自殺させちゃえばいいんだ」
「自殺う?」

 あたしは頷く。なんでこんな簡単なこと、思いつかなかったんだろう!?

(もちろん、薬は続けさせるけれどーー)

 もうすこしで、前世でのあたしの男曰くの「心臓がばあん」が起きるかもしれないのだ。それが手っ取り早い。
 すっかり上機嫌になったあたしを、医者は首を傾げて見つめたあと、少しだけ声のトーンを変えて言った。

「と、ところで青花ちゃん」
「なぁに?」
「その、そろそろ」

 汚らしい顔を期待に満ちた表情でいっぱいにして、トランクス一枚で椅子に縛り付けられた医者は鼻息荒く、言う。

「……しょうがないですねぇ」

 あたしは微笑み、赤い蝋燭を手に、医者にゆっくりと近づいていく。ぽたたた、と垂れた蝋に、医者は呻きのような喘ぎ声で軽く背中を逸らせていた。


※※※

【side仁】

 新幹線が関ヶ原ー米原の降雪で完全にストップしてて、どーしたもんかと京都駅で電光掲示板を見てると、横で華がものすごく不安そうな顔をする。

「どした?」

 別に、どうしても帰りたいなら車飛ばしてもいい。華は寝てりゃいいし、俺の体力的にはなんの問題もない、って話をすると華は首を振る。

「や、無理してくれなくていいんだけど」
「全く無理してねーんだけど」
「や、その、ただ」

 シュリちゃんが、と華は小さく言った。

「クリスマスに遅くなったりとか、……泊まり、とかになったら。さすがに」

 仁とのこと知ってるし、と俺の手をきゅっと握る。

「離れたくないよ……」
「いざとなりゃ攫って逃げるから心配すんな」

 中東あたりに、と言うと華は「ふにゃり」って感じわらって、それから嫌そうに「暑そうだからヤダ」とつぶやいた。あ、そう?

「だからさぁ、敦子さんには言い訳きくんだけど、シュリちゃんに何て言えばいいんだろうって、うわぁ!」

 華はびくりと手元のスマホに目をやる。そしてきゅっと眉を寄せた。

「……シュリちゃん」
「噂をすれば、ってやつだな」

 液晶のディスプレイに浮かぶのは「常盤朱里」の文字で、華はしばらく迷ってから通話に出た。

「も、もしもし……えっと、うん……」

 華は少し口籠って、それから「京都です」と答えていた。スマホの向こう側から「はぁ!?」という大きな声も聞こえる。

「そ、そうです。でね、新幹線が……うん、そうなの。でもね、あのね、シュリちゃん、あのっ。え? あ、うん、はい」

 華は不思議そうな顔をしながら、俺にスマホを渡してくる。俺は受け取って「もしもし?」とはなしかける。

『ねえロリコン』
「……ではないのですが」
『ぜえええええったいに華に手を出さないでねロリコン』
「……はい」
『おばさまには上手いこと言っといてあげる。感謝しなさい』
「なんで」

 ふと、そう聞いてしまった。

「なんで協力を?」

 あんたは、俺なんか排除したいんじゃないのか。電話の向こうで、シュリはしばらく黙る。それからポツリとつぶやいた。

『華に嫌われたくないからよ』
「……納得しました」

 ふと前世のことを思い出した。ひたすら「彼女」からコイバナを聞き続けた日々。

「別に無理しなくていい」
『は?』
「いや、」

 なんでんなこと言っちゃったかなぁ。けど割と本気。
 電話の向こうのシュリは「雪でこけろ! 怪我しない程度に!」と相変わらずなツンデレを炸裂させて電話を切った。

「シュリちゃん、なんて?」
「とりあえず大丈夫そーだよ」
「そ?」

 ほ、とした顔で俺を見上げる華。それから俺は考える。さて、どうするべきか?
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