【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【side仁】星空

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 翌朝の新幹線でソッコー横浜まで帰るけど「病院の前に家帰る」って華は一点張りで、しゃあなしで鎌倉に戻る。

「お帰り華」

 シュリが出迎えてくれた。俺のことは完全に無視して。

「ただいまシュリちゃん」
「? なに、またどっか行くの」
「うん、病院」
「病院ん?」

 シュリはものすごく眉間にシワを寄せて俺を睨んだ。

「なにしたの」

 ジト目で尋ねられる。

「してない」

 端的に言い返した。まぁ、色々したけど一線は超えてないですし、なんならそれ吐いた後だしさ。

「モーニングアフターピル?」
「してない!」

 なんですぐに皆俺を疑うんだ! そんなに手ェ出しそうに見える!?
 ……いやまぁ、出してないか? と言われると返答に困るけど、うん、してないし。してない。

「すぐ手を出しそうに見えるわよ、なんかその軽薄そうな顔つきが」
「け、軽薄」

 というか思考を読まないで欲しい。

「あのね、昨日吐いちゃって」

 慌てたように、華が言う。

「吐いた?」

 シュリは華をじっと見る。それから「なにを拾い食いしたの、華?」と首をかしげた。

「ひ、拾い食いなんかしてないよ!」
「じゃあ何食べたのよ」
「焼肉くらいしかっ」
「食べ過ぎ?」
「ううん、そんな感じじゃ」
「他は?」
「えー?」

 華は首をひねった。

「あとは、サラダくらいしか」
「サラダ?」

 シュリは唇に手を当てた。

「何サラダ」
「え、玉ねぎ」
「ナマの?」
「? うん」
「じゃあそれね」

 シュリは目を細める。

「あんたさ、気がついてないかもだけど。あたしと体質似てんのよ」
「へ?」

 ぽかん、とする華に、シュリは続けた。

「一応血縁があるからかしら? あたしもそうなんだけど、生タマネギ食べるとお腹壊すのよね」

 アレルギーなんだと思うけれど、とシュリは言った。

「ええっ? そ、そうだっけ」
「だからこの家で生タマネギなんか出ないでしょ? メニューがカツオのタタキだろうが、生ハムサラダだろうが。多分、敦子伯母さんもそうだから」
「……あ」

 華は口に手を当てた。

「そーいえば、そーかも」
「ま、心配なら内科にでも行ってきたら? 一応、アレルギー科と一緒のとこがいいかもね」

 くるり、と背を向けてシュリは廊下を歩いていく。

「そうそう」

 思い返したように振り向いて、シュリは笑った。

「あたしと華、体質似てるからさ、多分、ビタミン剤とかも身体に合わないよ」
「へ、そうなの?」
「うん」

 シュリは頷く。

「あたし、それでも吐き気出るから」

 言われた通り、というかなんというか、内科での検査の結果は「多分体質ですね」だったらしい。

「アレルギーってわけでも無さそうだったから、血液検査は無しにした~」

 病院の駐車場、車の中で待ってた俺に華は説明する。

「なんだっけ、何とか言う成分が胃に負担を……? 上手く消化できない体質?」
「非アレルギー性食物過敏症?」
「なんでそんなの知ってるの」

 華は呆れたように笑った。

「調べてみないと分からないですけど、って」
「そか」
「とりあえず、しばらく玉ねぎ抜いて様子見~」
「吐き気のことは話したのか?」
「え? ああ、うん。胃薬くれた」

 華は薬の袋を見せてくる。俺は頷いた。まぁ、とりあえずは大丈夫ってことなんだろう。

「だからさ、」

 ふふ、と華はひそやかに笑う。

「心配しすぎ、なんだって」
「そう言われてもなぁ」

 俺はぐしゃぐしゃと華の頭を撫でる。

「心配なんだよ。いつも」
「……ごめんね?」
「謝られることじゃねーけどさ」

 額にキスをして、軽く抱きしめた。

「大したことなくて、良かった」
「……ん」

 腕の中で、華は小さく頷いた。

 それからの日々は、割と静かなものだった。華は鎌倉のあの家で年越しをして(もう親戚で集まっての謎の新年会はない、あのジーサンが逮捕されてしまってるから)どこぞのホテル謹製の豪華おせちを食べまくり「太った」「ダイエットする」とやたらと連絡をよこした。

『夜迎えに来て』

 1月4日の夜に、そんな連絡が来て迎えに行くと、華は嬉しげに玄関先までやってきた。

「みんなお出かけなの」
「へぇ?」
「敦子さんはお仕事の新年祝賀パーティーで、圭くんは部活の先輩のお家で新年会。シュリちゃんも学校のお友達と」
「お前、友達いないの?」
「いるよ! ばか!」

 ぷう、と華は唇を尖らせて俺を睨む。

「知ってる知ってる」
「私は、」

 華は俺を見上げた。

「ただ、仁と初詣、行きたいなって」
「……素直だな?」

 華は今度こそ俺を睨んで黙るから、ぎゅっと抱きしめて持ち上げる。

「へ!? なにしてるの?」
「初詣行くんだろーが」
「あ、う、うん!」

 嬉しそうに華は頷いた。……素直だな今日。可愛いなオイ。
 車の助手席まで運んで、シートベルト付けたの確認して出発。

「人が多いところは無理だろ」

 一応、生徒と先生ですからね。人目は避けなくては。

「うん」

 俺は少しだけ考えて、少し山手にある小さな神社を思い出す。
 近くに止めて、歩いて行くとやっぱり人気はなかった。

「わー」

 俺と手を繋いだ華ははしゃいだ声で、空を見上げた。一面の星空。
 新月だからか、星が眩しい。
 社務所も何もない、その小さな神社で俺たちは無言でお参りする。

「ねえなにお願いしたの」
「秘密」

 定番の答えを返すと、華は破顔して「教えてよ」と甘えてくる。うん、やっぱり変だ、今日。

「今日なんでそんななの?」
「? そんなって?」
「甘えん坊さん」

 揶揄うように言うと、華は少し黙ったあと、俺にぎゅうと抱きつく。

「だってさぁ」
「うん」
「こんなに離れてたの、久々じゃない?」

 俯いてる華の表情は見えない。

「夏休みとかはさぁ、なんやかんや夏期課外で学校行ってたけど」

 年末年始は学校もないからさ、と小さく華は言う。

(まぁ、たしかに)

 クリスマス以来、だったりする。直接会うのは……。護衛任務で近くにはいたけれど、なんやかんやと華は忙しくて、常に誰かといたりしたから。それこそ友達とかと。俺が出て行くわけにもいかないし。

「だからさー」

 少し甘えた声で華は言った。

「だから、さぁ」

 俺は胸がぎゅうと痛くて、嬉しくて切なくて、華を抱きしめ返す。
 要は、久々に二人きりでテンションが上がってた、ってことらしくて。

「華?」
「なぁに」

 答えの代わりに、唇にキスをひとつ。
 俺を見上げて、華は嬉しそうに笑った。
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