【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

【番外編】青花のそのあと(上)

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横浜地方判所第*刑事部判決令和元年*月*日(*)***号
主文

被告人桜澤青花(以下、被告人)を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

理由

犯行にいたる経緯
被告人は,16歳頃にインターネットを通じ共犯者である白井慶一郎と知り合い(略)
「パパ活」と称して売春行為に
(略)
また、同年代の少女を集め、金銭あるいは脅迫によって売春行為を強要し
(略)
また、身勝手な理由から被害者を鎌倉市****神奈川県警**署の旧本館に連れ込み、被害者に対しわいせつな行為を働かせようとしたものである。
(略)
しかしながら被告人は未成年である点、また退学など社会的制裁を受けている点を鑑み、執行猶予を付するものである。


***

 今年高校に入学する桜澤英都はゲンナリしていた。5歳年上の、姉の青花のことだ。
 元々いい姉ではなかった。弟である自分を明らかにバカにしていた。

「こんなド庶民庶民してる家で暮らすのもあと何年かの話よ」

 自分は違うんだ、白馬の王子様が迎えに来るんだ、と。そんな風に言い出したのはいつ頃だっただろうか。

(あいつが小5くらいか?)

 そんな風に思う。それまでは、……悪い姉ではなかったと、あまり記憶にないがそう思う。
 なにが青花を変質させたのか。
 いまとなってはどうでも良いし、それを知ったところでどうすることもできない。
 家族はめちゃくちゃになった。
 それもこれも、あいつが「常盤のお嬢様」に手を出したから。

(つーか、売春かよ)

 やたらと羽振りがいいなとは思っていた。まさか、そんなことをしてるだなんて。
 そんなこんなで逮捕されて、家族総出、いや親戚一同蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
 なぜなら、青花は表面的には「いい子」だったからだ。名門青百合の特進科に合格、両親も鼻が高かっただろう、と思う。

(それが)

 一転、と英都は隣の部屋の気配を探る。しん、として動く気配がない。
 父親は職場に居辛くなって辞めた。よりによって、被害者である常盤のお嬢様の婚約者、である鹿王院グループに勤務していたのだ。噂が広まるのも早かった。
 母親も近所の目に耐えられない、とヒステリックを起こすようになった。
 拍車をかけたのが、ネット上に桜澤家の住所が書き込まれたことだ。
 事件のことは面白おかしく書き連ねられ、青花が中学時代に起こしていたイジメ事件も明るみに出た。
 英都もそれをよんだが、事実であればとんでもないことだと思った。……自殺者まで出てる。
 そうなれば、青花は「悪者」だった。
 自称「正義の味方」「義憤にかられた」人間たちによって、家の壁という壁に落書きされ、窓は石で割られ、母親は倒れた。
 自分を正義だと信じ込む人間ほど、怖いものはない。
 その矢面に立ったのは、何もしていないはずの両親と、自分だったのだから。
 そして事件から半年後には、母親は耐えきれず、実家である栃木に帰った。

(離婚すんのかなー……)

 事件から2年。あれ以来、一度も母親はこの家に来ていない。
 英都はぼんやり思う。
 家のことは、父親と二人でなんとかしている。
 英都自身は、幸い、ひどいイジメなどはなかった。ヒソヒソと噂を立てられはしたものの、仲の良い友人たちが庇ってくれた。
 あれがなければ、いま自分も引きこもりだったかもしれない、と思う。

(それなのに、あいつは)

 いらっとして、英都は壁を蹴り上げた。どん! という音にも、青花は反応を示さない。
 少しは怯えてくれたら、少しは申し訳ないという顔をしてくれたら、許せるかもしれないのに。
 家族なんだから。
 けれど、時折顔を合わせる青花はむしろこちらを責めてきた。

「あたしは無罪なのに」
「あたしはヒロインなんだよ!?」
「あたしは樹くんに、ううん、みんなに選ばれるはずだったのに!」
「あたしはあたしはあたしは」

 病気だと思って、父親が病院へ連れて行った。病気だったら救いがあった。またみんなで頑張ればいいと、そう思った。
 けれど、診断結果は「正常」だった。

(ウソついてるってことかよ)

 自分の罪に向き合おうとせず。
 ただ引きこもり、自室でじっとしている。
 自分の中に、澱のようなものが溜まっていくのを、英都は感じていた。
 ふと、テレビCMが目に入る。
 来週あるサッカーA代表の親善試合のCM。ちらりと鹿王院樹が映った。

(こんな人にも、迷惑かけて……)

 見かけるたびに、申し訳ない気分になる。同時に、青花への「澱」がまたフワリと英都の心の底で舞い上がった。
 それは「殺意」に近しいものであると、英都自身はまだ気がついていない。
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