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【高校編】分岐・山ノ内瑛
学園祭の、そのあと
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つまるところ、人間はパニックになりすぎると突き詰まって冷静になる。
私の場合は、日常に戻ろうとした。
今日の場合は、生徒会役員としてきちんと働くこと。
いつも通りなのだと、思いこみたかったのかもしれない。
「どうともなれ、どんな大嵐の日でも時間はたつのだ!」
大講堂の舞台で、マクベス役の演劇部員が叫ぶ。
私は生徒会役員として講堂内の1番後ろを見て歩く。警備に関しては警備員さんがいるし、生徒会でやってる見回りは単なるお飾りなんだけれどーーと、押さえつけていたさっきの出来事が、ざばりと私の思考の海から脳裏に上がってきた。
(警備員さん)
そう、この学校はセキュリティが高いはずなのだ。少なくとも、外部からは。
(今日は確かに緩かったと思う)
それでも、学園関係者以外は立ち入り禁止だ。大人でここーー青百合学園の内部に入ることができるのは、生徒から受け取った招待状を持っている人間だけ。
(ということは)
単純に考えて「あいつ」は招待状を持っていた、ということになりはしないか?
(どこで手に入れたの?)
考え過ぎ? 単に隙を見て侵入した?
(なんで、私がこの学校にいると分かったの?)
……誰かが、あいつに招待状を渡した。あいつに私がこの学園に通っていることを話した。誰かが、あいつを手引きした。
(なんのために?)
暗い講堂の1番後ろ、舞台からの明かりしかないそこで、私は思考を巡らせる。
(この中に)
足が震える。呼吸がうまくできなくなってくる。
(この中に、私に何かしようとしてる誰かがいる)
そしてその犯人は、私があの事件の被害者の娘だと知っている。
(そもそも、あいつは何で私の目の前に現れたの?)
こんなこと考えたくもないけれどーーお母さんを殺したことで、あいつの目的は達成されてるはずなんじゃないの?
何で今更、私に関わろうとするの……!?
本格的に呼吸が怪しくなってきたところで、ぐいっと手を引かれた。
「!?」
思わず出そうになった悲鳴は、すんでのところで飲み込む。
「華」
その優しい小さな声は、確かに自分が大好きな人の声だったから。
「アキラくん?」
「こっち」
手を引かれるがままに、講堂をぬけだす。皆舞台を観に行っているからか、講堂のロビーはがらんとしていた。
アキラくんに連れてこられたのは、大講堂の控え室。3畳ほどの空間に、ソファとローテーブルがぽつんと置かれていた。
「やっぱ様子変やんか」
「え、や、ごめん」
ぽんぽん、と抱きしめられて背中を撫でられながらそう言われた。
さっき、保健室で目が覚めた時。
絶対に大丈夫だからと、私は生徒会の仕事へ向かった。いつも通りにしていたかった。いつも通りに、しなくちゃいけないような気持ちになっていた。
「落ち着くまでここおり。落ち着いたら迎え来てもらって、家帰り」
優しいアキラくんの声。私はぎゅうっと抱きついた。
「……なんであいつ、ここに来たんだろ」
「……さあ」
少し低くなった声に、アキラくんも私と同じことを考えてたんだろうと察する。
「絶対守るから」
私の肩に、頭を押し付けるように私を強く抱きしめて、アキラくんは言った。
「絶対」
「アキラくん」
「華を傷つけさせたりなんかさせへん」
私は小さく頷いた。
学園祭の翌日は学校もお休みで、私は家でぼうっとしていた。
「華」
気遣うように、敦子さんが声をかけてくれる。
「体調は?」
「え、全然元気」
あえて笑って見せると、敦子さんは色んな感情を飲み込んだような顔で頷く。
(……いちばん辛いのは敦子さんなのかも)
そんな風に感じた。
昨日の夜、ざっと聞いた話だと、あいつに下された判決は、少なくとも私たちからすれば不十分なものだったと思う。
(人を殺しても、元の生活に戻れるのか)
そう思うと、怒りとも諦めともつかない、砂みたいな、ざらざらした感情に包まれた。
「お茶でもいれようか」
ぱたり、と自室からスケッチブック片手に出てきた圭くんがそう言って微笑む。
「え、私が」
「茶葉がかわいそうだから、華はすわってて」
……え、私がお茶いれると茶葉が可哀想なレベルなの?
思わず変な笑い方をすると、圭くんにおでこを小突かれた。
「む」
「山ノ内が気にしてた」
「アキラくん?」
圭くんはアキラくんと中学の時同じクラスで、今でもなんとなく仲が良いっぽいのだ。
「ほんとは家の前で見張りたい気持ちなんだってさ」
「え」
「迷惑だからヤメロって言っといた」
「あは」
「華は」
圭くんは笑う。
「愛されてるね」
そのストレートな言葉に、思わず「愛っ!?」と返す。
「うん」
圭くんは淡々と頷く。
「そうかな」
「そうだと思うけどね。まぁシュリなんかは絶対反対で時々ぎゃーぎゃー言ってるよ」
「え、圭くんにも?」
私の骨折入院中にアキラくんに会ったシュリちゃんは、あの金髪絶対チャラい絶対ダメだと時々私に苦言を呈してくる。
「チャラくないんだけどなぁ」
「でもあの見た目は自業自得でしょ」
「あは、まぁねぇ」
圭くんは立ち上がり「茶葉なにがいい?」と私をみて笑う。
「えーとね」
私は昨日覚えたばかりの「ウヴァ」と答えそうになって、なんだかあいつを思い出すのが嫌で、別のお茶の名前を答えた。
私の場合は、日常に戻ろうとした。
今日の場合は、生徒会役員としてきちんと働くこと。
いつも通りなのだと、思いこみたかったのかもしれない。
「どうともなれ、どんな大嵐の日でも時間はたつのだ!」
大講堂の舞台で、マクベス役の演劇部員が叫ぶ。
私は生徒会役員として講堂内の1番後ろを見て歩く。警備に関しては警備員さんがいるし、生徒会でやってる見回りは単なるお飾りなんだけれどーーと、押さえつけていたさっきの出来事が、ざばりと私の思考の海から脳裏に上がってきた。
(警備員さん)
そう、この学校はセキュリティが高いはずなのだ。少なくとも、外部からは。
(今日は確かに緩かったと思う)
それでも、学園関係者以外は立ち入り禁止だ。大人でここーー青百合学園の内部に入ることができるのは、生徒から受け取った招待状を持っている人間だけ。
(ということは)
単純に考えて「あいつ」は招待状を持っていた、ということになりはしないか?
(どこで手に入れたの?)
考え過ぎ? 単に隙を見て侵入した?
(なんで、私がこの学校にいると分かったの?)
……誰かが、あいつに招待状を渡した。あいつに私がこの学園に通っていることを話した。誰かが、あいつを手引きした。
(なんのために?)
暗い講堂の1番後ろ、舞台からの明かりしかないそこで、私は思考を巡らせる。
(この中に)
足が震える。呼吸がうまくできなくなってくる。
(この中に、私に何かしようとしてる誰かがいる)
そしてその犯人は、私があの事件の被害者の娘だと知っている。
(そもそも、あいつは何で私の目の前に現れたの?)
こんなこと考えたくもないけれどーーお母さんを殺したことで、あいつの目的は達成されてるはずなんじゃないの?
何で今更、私に関わろうとするの……!?
本格的に呼吸が怪しくなってきたところで、ぐいっと手を引かれた。
「!?」
思わず出そうになった悲鳴は、すんでのところで飲み込む。
「華」
その優しい小さな声は、確かに自分が大好きな人の声だったから。
「アキラくん?」
「こっち」
手を引かれるがままに、講堂をぬけだす。皆舞台を観に行っているからか、講堂のロビーはがらんとしていた。
アキラくんに連れてこられたのは、大講堂の控え室。3畳ほどの空間に、ソファとローテーブルがぽつんと置かれていた。
「やっぱ様子変やんか」
「え、や、ごめん」
ぽんぽん、と抱きしめられて背中を撫でられながらそう言われた。
さっき、保健室で目が覚めた時。
絶対に大丈夫だからと、私は生徒会の仕事へ向かった。いつも通りにしていたかった。いつも通りに、しなくちゃいけないような気持ちになっていた。
「落ち着くまでここおり。落ち着いたら迎え来てもらって、家帰り」
優しいアキラくんの声。私はぎゅうっと抱きついた。
「……なんであいつ、ここに来たんだろ」
「……さあ」
少し低くなった声に、アキラくんも私と同じことを考えてたんだろうと察する。
「絶対守るから」
私の肩に、頭を押し付けるように私を強く抱きしめて、アキラくんは言った。
「絶対」
「アキラくん」
「華を傷つけさせたりなんかさせへん」
私は小さく頷いた。
学園祭の翌日は学校もお休みで、私は家でぼうっとしていた。
「華」
気遣うように、敦子さんが声をかけてくれる。
「体調は?」
「え、全然元気」
あえて笑って見せると、敦子さんは色んな感情を飲み込んだような顔で頷く。
(……いちばん辛いのは敦子さんなのかも)
そんな風に感じた。
昨日の夜、ざっと聞いた話だと、あいつに下された判決は、少なくとも私たちからすれば不十分なものだったと思う。
(人を殺しても、元の生活に戻れるのか)
そう思うと、怒りとも諦めともつかない、砂みたいな、ざらざらした感情に包まれた。
「お茶でもいれようか」
ぱたり、と自室からスケッチブック片手に出てきた圭くんがそう言って微笑む。
「え、私が」
「茶葉がかわいそうだから、華はすわってて」
……え、私がお茶いれると茶葉が可哀想なレベルなの?
思わず変な笑い方をすると、圭くんにおでこを小突かれた。
「む」
「山ノ内が気にしてた」
「アキラくん?」
圭くんはアキラくんと中学の時同じクラスで、今でもなんとなく仲が良いっぽいのだ。
「ほんとは家の前で見張りたい気持ちなんだってさ」
「え」
「迷惑だからヤメロって言っといた」
「あは」
「華は」
圭くんは笑う。
「愛されてるね」
そのストレートな言葉に、思わず「愛っ!?」と返す。
「うん」
圭くんは淡々と頷く。
「そうかな」
「そうだと思うけどね。まぁシュリなんかは絶対反対で時々ぎゃーぎゃー言ってるよ」
「え、圭くんにも?」
私の骨折入院中にアキラくんに会ったシュリちゃんは、あの金髪絶対チャラい絶対ダメだと時々私に苦言を呈してくる。
「チャラくないんだけどなぁ」
「でもあの見た目は自業自得でしょ」
「あは、まぁねぇ」
圭くんは立ち上がり「茶葉なにがいい?」と私をみて笑う。
「えーとね」
私は昨日覚えたばかりの「ウヴァ」と答えそうになって、なんだかあいつを思い出すのが嫌で、別のお茶の名前を答えた。
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