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【高校編】分岐・山ノ内瑛
呼び出し
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「はぁ」
「ですから」
私の目の前で、遠い親戚だとかいう学園長は、そう言って笑った。
「あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」
私は半ば呆然として学園長を見つめる。
「どうですか?」
「どうって……」
私は口ごもりながら目線をうろつかせた。
ことの起こりは、昼休みに桜澤青花からの攻撃(口撃?)から大村さんと二人して逃げようとしていたときのことだった。
「設楽さーん」
先生モードの仁が、さりげなく入ってきて私を呼ぶ。
「学園長が呼んでるよ」
「……学園長?」
遠い親戚だ、とかいう学園長。私はほとんど会ったことがないのだけれど……と思っていると、満面の笑みで笑う青花と、勝ち誇ったような取り巻きくんたちの声が聞こえた。
「ほら、青花さんをいじめてる件のことだ」
「ついに呼び出しを!」
楽しげな彼らから、仁は私と大村さんを引き離すように連れて行ってくれる。
(あ、もしかして庇ってくれた?)
護衛さんとはいえ、あんまり積極的に関わる感じではない仁だけど(先生として不自然になっちゃうからね)いくらなんでも見るに耐えなかったのかな?
そんな風に思っていると、仁は笑って口を開く。
「大村さんは先に教室帰っててね」
設楽さんは僕と学園長室、と言う仁に、私は首を傾げた。あれ、口実じゃなかったのか。
「先生」
大村さんは仁にくってかかる。
「もし、設楽さんが本当にあの子とのトラブルで呼び出されたんなら、わたし、あの子の一方的な言いがかりだって証言したいんですけど」
仁は頷く。
「そんな話じゃないから、大丈夫だよ」
「何かあったら言うから、帰ってて」
私も明るく笑って見せる。大村さんは心配気にしつつ、教室へ向かって行った。
「…….え、何の用なの? 学園長御自ら?」
周りに人がいないことを確認しつつ、口を開く。
「いやぁ俺の口からは」
仁は飄々と言う。
「いや、てっきり庇ってくれたのかと」
「桜澤?」
「うん」
私の言葉に、仁は思いっきり顔をしかめた。
「そりゃアイツムカつくよ。排除したい程度にはムカついてるよ? けどさあ」
仁はふい、と顔を逸らす。
「華は別に応えてねーだろ、どうも」
「うん、まぁ別に」
特に最近はね。
「だから我慢してる。これ以上お前を傷つけるようなら考えはある」
「……物騒なことはよしてよねー、っと」
話に夢中になって、学園長室を通り過ぎるところだった。
仁がノックして、私も後に続いて部屋に入る。
「こんにちは設楽さん」
「失礼します」
挨拶をしつつ、勧められるままに応接セットに座った。
「ごめんなさいね、お昼休みに」
学園長は、還暦を過ぎたばかりだという、上品な中年の女性。
「いえ」
かぶりをふった私に、単刀直入に、って感じで学園長は口を開いた。
「ねえ設楽さん、来年から大学生になる気はない?」
「……は?」
私はぽかんと学園長を見つめた。
何だそりゃ。
「単刀直入すぎたかしら。要は、飛び級しないか、ってことなんだけれど」
「飛び級?」
日本って、そんなの認められてたっけ?
ぽかんとした私に、学園長は続ける。
「平成10年に国立大学での飛び級入学を認めて以来、現在のところ国内8校が飛び級入学を実施しているの」
「はぁ……」
私は曖昧に頷く。
「実は、我が校……といっても、附属の大学ね。そこで試験的に飛び級入学を実施してみよう、という案がでているの」
「試験的に?」
そう、と学園長は頷いた。
「そこで、白羽の矢が当たったのが貴女」
「わ、私、ですかっ?」
私は思わず自分を指差す。
「もっと他にも、優秀なひとがっ」
「学年一位がそれを言う?」
「う」
それは確かに、そうなんだけれど……。
「それに、これは本当に試験的に、なの。リスクがあるし、できれば身内で済ませたいところ」
「……はぁ」
私は苦笑いして頷く。要は失敗しても、私は学園長の親戚だし、まぁ何かとフォローしやすいってことかな。
「ですから、あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」
「……あの、私。生徒会してるんです」
最初に思い浮かんだのは、そのことだった。
「飛び級引き受けたら、四月から大学生ですよね? 7月まで、委員会の任期があるんです」
「それに関しては問題ないわ。委員の時だけ、特例でこちらにきていただければ」
「……アリなんですか?」
「ありよ」
う、と私は呟く。それは確かに、魅力的なお誘いで。
「……考えさせてください」
「ちなみにお祖母様、敦子さんは面白そうだからやれと仰っていたわよ」
「敦子さん……!」
そんな、気楽な……。
放課後になってすぐ、私は図書館の地下へ向かう。今日はアキラくんはミーティングだけのはずだから、密会(?)の日なのです。
(色々話そうと思ってたけど)
うーん、と私は椅子に座りながら首をひねる。
(相談することができてしまった……)
どうすべきなんだろう?
アキラくんは、何て言うだろうか……。
(もしアキラくんがアメリカ行っちゃったら、遠距離になっちゃう)
もう樹くんとの許婚が解消してて、敦子さんもアキラくんに対して少し感情を緩めてくれてるいま、無理に駆け落ちなんてすることはないんだろうけれど……。
飛び級なんて特別扱いで進学しといて、辞めまーすなんて言えないし。
(遠距離かぁ)
すこし、キツすぎる。別れるとかじゃなくて、寂しくて死んじゃうんじゃないかなぁ。
「ですから」
私の目の前で、遠い親戚だとかいう学園長は、そう言って笑った。
「あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」
私は半ば呆然として学園長を見つめる。
「どうですか?」
「どうって……」
私は口ごもりながら目線をうろつかせた。
ことの起こりは、昼休みに桜澤青花からの攻撃(口撃?)から大村さんと二人して逃げようとしていたときのことだった。
「設楽さーん」
先生モードの仁が、さりげなく入ってきて私を呼ぶ。
「学園長が呼んでるよ」
「……学園長?」
遠い親戚だ、とかいう学園長。私はほとんど会ったことがないのだけれど……と思っていると、満面の笑みで笑う青花と、勝ち誇ったような取り巻きくんたちの声が聞こえた。
「ほら、青花さんをいじめてる件のことだ」
「ついに呼び出しを!」
楽しげな彼らから、仁は私と大村さんを引き離すように連れて行ってくれる。
(あ、もしかして庇ってくれた?)
護衛さんとはいえ、あんまり積極的に関わる感じではない仁だけど(先生として不自然になっちゃうからね)いくらなんでも見るに耐えなかったのかな?
そんな風に思っていると、仁は笑って口を開く。
「大村さんは先に教室帰っててね」
設楽さんは僕と学園長室、と言う仁に、私は首を傾げた。あれ、口実じゃなかったのか。
「先生」
大村さんは仁にくってかかる。
「もし、設楽さんが本当にあの子とのトラブルで呼び出されたんなら、わたし、あの子の一方的な言いがかりだって証言したいんですけど」
仁は頷く。
「そんな話じゃないから、大丈夫だよ」
「何かあったら言うから、帰ってて」
私も明るく笑って見せる。大村さんは心配気にしつつ、教室へ向かって行った。
「…….え、何の用なの? 学園長御自ら?」
周りに人がいないことを確認しつつ、口を開く。
「いやぁ俺の口からは」
仁は飄々と言う。
「いや、てっきり庇ってくれたのかと」
「桜澤?」
「うん」
私の言葉に、仁は思いっきり顔をしかめた。
「そりゃアイツムカつくよ。排除したい程度にはムカついてるよ? けどさあ」
仁はふい、と顔を逸らす。
「華は別に応えてねーだろ、どうも」
「うん、まぁ別に」
特に最近はね。
「だから我慢してる。これ以上お前を傷つけるようなら考えはある」
「……物騒なことはよしてよねー、っと」
話に夢中になって、学園長室を通り過ぎるところだった。
仁がノックして、私も後に続いて部屋に入る。
「こんにちは設楽さん」
「失礼します」
挨拶をしつつ、勧められるままに応接セットに座った。
「ごめんなさいね、お昼休みに」
学園長は、還暦を過ぎたばかりだという、上品な中年の女性。
「いえ」
かぶりをふった私に、単刀直入に、って感じで学園長は口を開いた。
「ねえ設楽さん、来年から大学生になる気はない?」
「……は?」
私はぽかんと学園長を見つめた。
何だそりゃ。
「単刀直入すぎたかしら。要は、飛び級しないか、ってことなんだけれど」
「飛び級?」
日本って、そんなの認められてたっけ?
ぽかんとした私に、学園長は続ける。
「平成10年に国立大学での飛び級入学を認めて以来、現在のところ国内8校が飛び級入学を実施しているの」
「はぁ……」
私は曖昧に頷く。
「実は、我が校……といっても、附属の大学ね。そこで試験的に飛び級入学を実施してみよう、という案がでているの」
「試験的に?」
そう、と学園長は頷いた。
「そこで、白羽の矢が当たったのが貴女」
「わ、私、ですかっ?」
私は思わず自分を指差す。
「もっと他にも、優秀なひとがっ」
「学年一位がそれを言う?」
「う」
それは確かに、そうなんだけれど……。
「それに、これは本当に試験的に、なの。リスクがあるし、できれば身内で済ませたいところ」
「……はぁ」
私は苦笑いして頷く。要は失敗しても、私は学園長の親戚だし、まぁ何かとフォローしやすいってことかな。
「ですから、あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」
「……あの、私。生徒会してるんです」
最初に思い浮かんだのは、そのことだった。
「飛び級引き受けたら、四月から大学生ですよね? 7月まで、委員会の任期があるんです」
「それに関しては問題ないわ。委員の時だけ、特例でこちらにきていただければ」
「……アリなんですか?」
「ありよ」
う、と私は呟く。それは確かに、魅力的なお誘いで。
「……考えさせてください」
「ちなみにお祖母様、敦子さんは面白そうだからやれと仰っていたわよ」
「敦子さん……!」
そんな、気楽な……。
放課後になってすぐ、私は図書館の地下へ向かう。今日はアキラくんはミーティングだけのはずだから、密会(?)の日なのです。
(色々話そうと思ってたけど)
うーん、と私は椅子に座りながら首をひねる。
(相談することができてしまった……)
どうすべきなんだろう?
アキラくんは、何て言うだろうか……。
(もしアキラくんがアメリカ行っちゃったら、遠距離になっちゃう)
もう樹くんとの許婚が解消してて、敦子さんもアキラくんに対して少し感情を緩めてくれてるいま、無理に駆け落ちなんてすることはないんだろうけれど……。
飛び級なんて特別扱いで進学しといて、辞めまーすなんて言えないし。
(遠距離かぁ)
すこし、キツすぎる。別れるとかじゃなくて、寂しくて死んじゃうんじゃないかなぁ。
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