【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

呼び出し

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「はぁ」
「ですから」

 私の目の前で、遠い親戚だとかいう学園長は、そう言って笑った。

「あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」

 私は半ば呆然として学園長を見つめる。

「どうですか?」
「どうって……」

 私は口ごもりながら目線をうろつかせた。
 ことの起こりは、昼休みに桜澤青花からの攻撃(口撃?)から大村さんと二人して逃げようとしていたときのことだった。

「設楽さーん」

 先生モードの仁が、さりげなく入ってきて私を呼ぶ。

「学園長が呼んでるよ」
「……学園長?」

 遠い親戚だ、とかいう学園長。私はほとんど会ったことがないのだけれど……と思っていると、満面の笑みで笑う青花と、勝ち誇ったような取り巻きくんたちの声が聞こえた。

「ほら、青花さんをいじめてる件のことだ」
「ついに呼び出しを!」

 楽しげな彼らから、仁は私と大村さんを引き離すように連れて行ってくれる。

(あ、もしかして庇ってくれた?)

 護衛さんとはいえ、あんまり積極的に関わる感じではない仁だけど(先生として不自然になっちゃうからね)いくらなんでも見るに耐えなかったのかな?
 そんな風に思っていると、仁は笑って口を開く。

「大村さんは先に教室帰っててね」

 設楽さんは僕と学園長室、と言う仁に、私は首を傾げた。あれ、口実じゃなかったのか。

「先生」

 大村さんは仁にくってかかる。

「もし、設楽さんが本当にあの子とのトラブルで呼び出されたんなら、わたし、あの子の一方的な言いがかりだって証言したいんですけど」

 仁は頷く。

「そんな話じゃないから、大丈夫だよ」
「何かあったら言うから、帰ってて」

 私も明るく笑って見せる。大村さんは心配気にしつつ、教室へ向かって行った。

「…….え、何の用なの? 学園長御自ら?」

 周りに人がいないことを確認しつつ、口を開く。

「いやぁ俺の口からは」

 仁は飄々と言う。

「いや、てっきり庇ってくれたのかと」
「桜澤?」
「うん」

 私の言葉に、仁は思いっきり顔をしかめた。

「そりゃアイツムカつくよ。排除したい程度にはムカついてるよ? けどさあ」

 仁はふい、と顔を逸らす。

「華は別に応えてねーだろ、どうも」
「うん、まぁ別に」

 特に最近はね。

「だから我慢してる。これ以上お前を傷つけるようなら考えはある」
「……物騒なことはよしてよねー、っと」

 話に夢中になって、学園長室を通り過ぎるところだった。
 仁がノックして、私も後に続いて部屋に入る。

「こんにちは設楽さん」
「失礼します」

 挨拶をしつつ、勧められるままに応接セットに座った。

「ごめんなさいね、お昼休みに」

 学園長は、還暦を過ぎたばかりだという、上品な中年の女性。

「いえ」

 かぶりをふった私に、単刀直入に、って感じで学園長は口を開いた。

「ねえ設楽さん、来年から大学生になる気はない?」
「……は?」

 私はぽかんと学園長を見つめた。
 何だそりゃ。

「単刀直入すぎたかしら。要は、飛び級しないか、ってことなんだけれど」
「飛び級?」

 日本って、そんなの認められてたっけ?
 ぽかんとした私に、学園長は続ける。

「平成10年に国立大学での飛び級入学を認めて以来、現在のところ国内8校が飛び級入学を実施しているの」
「はぁ……」

 私は曖昧に頷く。

「実は、我が校……といっても、附属の大学ね。そこで試験的に飛び級入学を実施してみよう、という案がでているの」
「試験的に?」

 そう、と学園長は頷いた。

「そこで、白羽の矢が当たったのが貴女」
「わ、私、ですかっ?」

 私は思わず自分を指差す。

「もっと他にも、優秀なひとがっ」
「学年一位がそれを言う?」
「う」

 それは確かに、そうなんだけれど……。

「それに、これは本当に試験的に、なの。リスクがあるし、できれば身内で済ませたいところ」
「……はぁ」

 私は苦笑いして頷く。要は失敗しても、私は学園長の親戚だし、まぁ何かとフォローしやすいってことかな。

「ですから、あなたに引き受けていただきたいのですよ、設楽さん」
「……あの、私。生徒会してるんです」

 最初に思い浮かんだのは、そのことだった。

「飛び級引き受けたら、四月から大学生ですよね? 7月まで、委員会の任期があるんです」
「それに関しては問題ないわ。委員の時だけ、特例でこちらにきていただければ」
「……アリなんですか?」
「ありよ」

 う、と私は呟く。それは確かに、魅力的なお誘いで。

「……考えさせてください」
「ちなみにお祖母様、敦子さんは面白そうだからやれと仰っていたわよ」
「敦子さん……!」

 そんな、気楽な……。
 放課後になってすぐ、私は図書館の地下へ向かう。今日はアキラくんはミーティングだけのはずだから、密会(?)の日なのです。

(色々話そうと思ってたけど)

 うーん、と私は椅子に座りながら首をひねる。

(相談することができてしまった……)

 どうすべきなんだろう?
 アキラくんは、何て言うだろうか……。

(もしアキラくんがアメリカ行っちゃったら、遠距離になっちゃう)

 もう樹くんとの許婚が解消してて、敦子さんもアキラくんに対して少し感情を緩めてくれてるいま、無理に駆け落ちなんてすることはないんだろうけれど……。
 飛び級なんて特別扱いで進学しといて、辞めまーすなんて言えないし。

(遠距離かぁ)

 すこし、キツすぎる。別れるとかじゃなくて、寂しくて死んじゃうんじゃないかなぁ。
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