【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

やきもちと進路

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「華」

 待ってた声に嬉しくて振り向くと、その瞬間に唇を塞がれた。

「んむっ?」

 いや、なんていうか、我ながら色気のない声だけれども……!
 色気の有無は関係ないのか、アキラくんの舌はするりと私の口腔へ入ってくる。

「ん」

 思わず上がる変な声に赤面しつつ、アキラくんの制服を強く握る。
 後頭部を支えられて、角度を変えられながら、アキラくんの舌は丁寧に丁寧に、私の口腔なかを侵して行く。
 力が抜けそうになる私を支えながら、ずるずると私たちは床に座り込む。
 それでもアキラくんは私から唇を離さない。
 舌を噛まれて、その甘い痛みに身体が跳ねる。アキラくんが楽しげに笑う。

「気持ちい?」
「……うん」

 とろんとした頭で、なんとかそう答えた。

(どーしちゃったんだろ)

 急に、こんな。
 そんなご気分?
 アキラくんの唇が、首元に寄せられる。それから、耳へ。
 甘噛みされて、漏れ出そうになる声を我慢してると、耳元でささやくように言われる。

「部活のやつらがなー」
「? うん」
「こっそり噂しててん」
「なにを?」
「設楽先輩と鹿王院先輩はお似合いやし、許婚云々なくても、結婚するんちゃう? って」
「え」

 思わず顔を上げて、アキラくんの視線とぶつかる。

「生徒会室で、よう2人でいるとか」
「そ、それは」

 違うよ、って声はキスに塞がれる。

「知ってる。せやけど、やきもち」

 苦笑いしながら、アキラくんは私の頬にそっとキスを落とす。

「ごめんな。意地悪してもた」
「……ううん」

 私の言葉に、アキラくんはにやりと笑った。

「せやんな、気持ちよさそーやったもんな」
「も、もう」

 つん、と頤をそらすと「ごめんごめん」とこめかみにキス。

「可愛いんやもん」

 しゃーないやんけ、とアキラくんは笑った。
 椅子に座り直して、私は今日の出来事を話す。

「飛び級!?」
「そう」
「ほえーん」

 そんなんあるんや、とアキラくんは面白そうに言った。

「さすがやなー、勉強頑張ってたもんな」
「うん……で、どうしようかなって」
「? 受けたらええやん」

 ええ話なんやろ? とアキラくんは首をかしげる。

「でも、遠距離とかなったら、……嫌」

 しんじゃう、と私が言うとアキラくんは笑った。

「心配せえへんでも、そんな遠距離とかならへんよ。俺、いま話もろうてんの都内の大学やわ」
「え、あ、そうなの?」

 アメリカは? と聞くとアキラくんはかたをすくめる。

「実はな、あってん。話」
「うっ、そ」

 私は思わず立ち上がりかけた。それって、それって、すごいんじゃないの!?

「せやけど断った」
「な、なんで!?」

 もしかして私のせい!? と半ばパニックになる私の鼻を、アキラくんは摘む。

「華のせいちゃうで? 俺な、勉強したいことできてん」
「勉強?」

 私は首をかしげるーーそれで、最近勉強頑張ってたのか!

「何の勉強したいの?」

 私の言葉に、アキラくんは苦笑して、それから少し真剣な顔になる。

「ええか、華。俺は別に親父に憧れてとか、親父の背中を見てとか、そんな理由じゃないねんで?」
「……え、法律?」

 アキラくんのお父さんは検事さんだ。

(わー!)

 小さく拍手。バスケ選手って夢と、検事さんって夢と。両立って絶対大変なんだろうけど……!

「どうなるか分からへんで? 優先はバスケやし、俺」
「うん。両方応援する」
「ちなみに」

 アキラくんは首を傾げた。

「華はなんの勉強すんの、大学で」
「えーと。枠があるのが、生物系みたい」

 さらっとしか言われてないけど、バイオの研究、みたいな話だった。

「生物応用学科」
「難しそーやな」
「そうかな」

 楽しそうだよ、と私は答えた。法律のあのややこしい条文(何言ってるか分からない)より、いいと思うんだけれどなぁ。

「食品関係の資格も取れるらしくて」
「へえ」
「わりと、興味あり、かも」

 うん、と私はうなずく。

「この話、受けてみる」
「おう、いけいけ。失敗しても死にはせえへん」
「だね」

 顔を見合わせて笑う。

「あ、少し先やけど」
「うん」
「またクリスマス、うち来ぃひん?」
「行く!」

 勢い良く答えて、アキラくんはそれで笑って。
 クリスマスも、大学も、その先も、楽しいことでいっぱいだと、この時の私はそう信じていた。
 疑いもしていなかった。
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