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【高校編】分岐・山ノ内瑛

変装クリスマス

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 お外デートがしたいです。
 言い出したのは、私の方だった。

「んー、でももし見られたら色々噂立つで?」
「うん」

 それは分かってるんだけどね。

(私が色々言われるのは慣れてるけど)

 うーん、と考える。
 アキラくん巻き込むのは、何かなぁ。
 そう思ってたら、デコピンされた。

「わ」
「俺は全く気にせえへんし、むしろ噂になるとか嬉しすぎるねんけど?」
「あは」

 そうは言っても、なんだかね。
 そんなわけで、学校がお休みのクリスマス当日。
 プチ変装して、デートすることになりました。

「変?」
「いや、可愛い」

 真剣な顔でそう言ってくれるのは、待ち合わせの都内の駅で合流した、アキラくんで。

(横浜だと学校の人に遭遇する確率上がりそうで、東京まで出てきてみたんだけど)

 首をかしげる。
 すっごい人出だなぁ、もう。

「クリスマスだからかなぁ」
「さー。東京やからなぁ」

 いちおう、暦の上では平日なんだけれどな。
 アキラくんは眼鏡に帽子。
 私は茶髪のウイッグでロングヘアーになってみました。ゆるゆるパーマ。
 正面から顔を見られたらバレるけれど、さっと通り過ぎたくらいじゃ気付かれないと思う。
 ……ていうか!

「アキラくん」
「なん?」
「めがね、似合うねっ」

 私はお子様スマホでぱしゃばしゃとアキラくんを撮影する。うー、好きすぎて。

「ほんま? 賢こそーに見える?」
「見える見える」
「ふっふ」

 アキラくんは笑って、私のこともスマホで撮り始める。

「華も可愛い。なんつうか、アレや。おねーさんって感じや」
「そかな?」

 首を傾げた私の手を、アキラくんはするりと繋いだ。
 ペアリングをつけてる左手で、私の右手をきゅうと握ってくれる。もちろん私も、左手にはペアリング。

(わー)

 少し感動してしまう。
 なんていうか、ほんとにデートっぽい!
 ……や、デートなんですけど。ね。

「ほな、いこかー。何したいんやっけ?」
「あのねあのね」

 私は笑う。

「水族館!」

 私とアキラくんが向かったのは、なんていうかデートの定番なんだと思う、都内の水族館です。ビルの上にある、珍しい(と思う)水族館。

「初めて来たわ」
「ここ面白いんだよー」

 この水族館は、「前世の記憶」と同じだった。細部は違うのかもしれないけれど、まぁどちらにせよあまり覚えていないし。

「ペンギンが飛んでるみたいで」
「ふうん?」

 少しだけ、手に力が入る。

「?」
「あんなー、めちゃくちゃかっこ悪いこと言うで俺」
「? うん」
「……誰と、来たん?」

 ビルのエレベーターを降りて、水族館へ向かう廊下。
 少し薄暗いそこで、アキラくんは少しだけ、不安そうだった。

「えっ、あ、あのね、普通にお母さんだよ」

 前世の、だけど。

「あー」

 アキラくんは困り顔。

「ほんまごめん。最近、なんか、アレなんや、なんつうかな」

 繋いだ手で、指を動かして、私の手のひらを指で撫でる。

「やきもちとか凄いんや」
「あのさ」

 私は首を傾げた。

「もしかして、何かすっごい不安にさせてる? だとしたら」
「や、ちゃうねん。ごめん」

 気を取り直したように、アキラくんは手を繋ぎ直す。

「いこ」
「でも」
「デートやん」

 アキラくんは、にかっと笑った。

「楽しまなあかんで?」

 そこからは、いつも通りのアキラくんと、めちゃくちゃ楽しいデートだった。

「水族館、神戸のぶりだよね」
「な。あそこ、改装するらしいわ」

 新しくなったらまた行こうな、とアキラくんは笑ってくれる。私も頷いた。
 屋上にある、屋外の水槽でペリカンが泳ぐ。

(飛んでいかないものかなぁ)

 逃げられそうな気もする……。
 って話をアキラくんにしたらなんだか笑われてしまった。

「どっちのほうが幸せなんやろな、とか思わへん?」

 水族館を出て、人混みを歩きながらアキラくんは言う。

「? どっち?」
「んー。人に飼われて、三食困らんで。病気になっても医者に診てもらえて、でも水槽から出られへん一生か、自由に野生で生きていくんか」
「水族館」

 私は即答した。

「野生とか、無理。ご飯食べらんないとか考えられない」

 私の答えに、アキラくんは思い切り吹き出す。

「な、なんで笑うの」
「華らしいわ」

 ケタケタと肩を揺らしているアキラくんが、ふ、と真剣な顔になった。
 真剣な、っていうか、怖い顔。

「え、アキラくん?」
「こっち」

 アキラくんは近くのカフェに、私を引きずりこむ。

「どうしたの?」

 カウンターで注文しながら、私は首を傾げた。

「……桜澤おる」

 はめ殺しの大きなガラス越しに、アキラくんは眉をひそめて通りを見つめていた。

「げ!?」

 思わず変な声出た……。げ、だよー。

(なんでいるの……)

 よりにもよって、わざわざ遠出したとこで、それもクリスマスに遭遇しなくたって、さー。

「ま、しばらくここでやり過ごしてしまお。ほんで駅も移動しよか」
「そだね」

 もうすこしこの辺でしたいことあったけど、仕方ない。

「どこ行こう?」
「せやなぁ」

 注文したドリンク2つを手に、アキラくんと空いてる席に座る。窓が見える席で、アキラくんはちらりと通りに目をやっていた。

「ほんま、なんでおるんやろ……つか移動せえへんな」

 腹立つわー、とあったかなブラックコーヒーを飲みながら言うアキラくんの視線の先を、ちらちらと私も探す。

(あ、いた)

 暖かそうなダッフルコートに身を包んだ青花は、なんていうか、清純そうですごく可愛い。

「なにしてるんやろ」
「さぁ」

 人を待ってるふうだけれど、と私は首を傾げた。
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