【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

掲示板

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 クリスマスまで、あと数日。

(プレゼント、なんにしようかな)

 気がついたら黒田くんと暮らしてたーーって、迷惑じゃないかな迷惑だよねごめんなさいと思いつつ、……どうしようもなかった。

(怖くて)

 特に、夜になると、怖くて、怖くて……黒田くんにしがみついてると、何とか眠れる。

(せめてものお礼)

 黒田くんだけにじゃなくて、おとうさんとおかあさんにも。なにやら食費はいただいてるから気にしないで、とは言ってもらえるものの。
 そんなことを考えながら学校へ行くと、明らかにみんなの目がそわそわしてる。

「?」

 目が合うと、逸らされる。

「んん?」

 靴箱に靴をいれて、廊下を歩いてーーちらちら、と皆私を見ていた。

「あれー?」
「華ちゃん」

 千晶ちゃんの声に振り向く。

「あ、千晶ちゃん。おはよ」
「おはよ、って……大丈夫?」
「大丈夫? なにが?」

 私の答えに、千晶ちゃんは少し驚いた顔をして、それから私の手を引く。

「なるほど、知らなかったのね」
「なにが? なんかあったの?」
「あのね、……これ」

 校内の、掲示板。
 そこに貼られていたのは……私と黒田くんの写真だ。

(近所のスーパー?)

 黒田くんの近くの。
 一緒に買い物してるところが撮られてる。それが何枚か、と。帰り道、手を繋いでいる写真、と。

「……わー」

 その下には「設楽華はビッチ」「婚約者がいるにも関わらず」とか、そんな文字が印刷されたA4サイズの紙。

「わー、じゃないよ華ちゃん。大丈夫?」
「ん?」

 千晶ちゃんを見て首を傾げた。
 ど、どうなんだろう……。
 周りはざわつきながら私を見ている。

(別に、悪いことはしてないんだけどなぁ)

 浮気もなにもしてませんしですし、ビッチもなにも、黒田くん以外とそのようなことはしたいとも思わないし。

(……そろそろ身体委ねてくれてもいいと思うんですけどねうへへへ)

 ……しまった脳内で何か暴れてた。うん、とりあえず落ち着いて。
 でも、対外的にどうなんだろう。
 これって、樹くんに迷惑になったりするのかなぁ。

(……どうしてこう、私は)

 周りに迷惑かけまくっちゃうんだろう。
 ふ、と横に大きな影が立つ。

「? あ、樹くん」

 樹くんは苦笑いしていた。

「黒田が撮られてることに気がつかんとは」
「?」
「手練れの可能性があるな」
「て、手練れ……?」
「あるいはプロか」
「プロ?」
「どちらにせよ、ということだ」
「はぁ……」

 私は写真を見つめる。

(……てっきり、青花かと)

 私に嫌がらせする人間が、ほかに思い浮かばない。
 知らないところで恨まれてたら別だけれど、特に何かした記憶、ないんだけどなぁ……何かしちゃったかなぁ。

「どちらにせよ解散だ」

 樹くんは掲示板から写真と紙をさっさと毟り取った。

「解散」

 くるり、と振り返ってそう告げる。
 興味津々に私たちを見つめていた生徒たちは、クモの子を散らすように去って行く。

「さすが生徒会長」

 千晶ちゃんが感心したように言った。

「褒めてもなにも出んぞ」

 苦笑して、樹くんは歩き出す。
 歩きながら、眉根をきゅっと寄せて、その写真を眺めている。何かを探しているような、そんな視線で。

 委員会の会議(視線が痛かった)をして帰宅(黒田くんの家)すると、今日はだれもいなかった。
 お父さんはいつも不規則だし、お母さんは今日は日勤だとは思うけれど……残業とかも結構あるみたいだ。

(大変だなぁ)

 産婦人科で助産師さんをしてるらしい。
 いまこの瞬間も、赤ちゃん産まれてるのかな。なんだか、すごいなぁ。
 さて。

「ご飯作ろうっと」

 なんだか慣れてきたそんな作業。エプロン(私用に、ってお母さんが買ってくれた)をつけてキッチンに立つ。
 冷蔵庫を開ける。昨日買ったひき肉がありますねぇ。

「麻婆茄子か麻婆豆腐か」

 ううん、と悩む。ナスもお豆腐もあるのですよ。
 結局なやんで、麻婆茄子にしてお豆腐はお味噌汁、ってしてると黒田くんが帰宅した。

「おかえり~」
「設楽」

 少し、怖い顔。
 どうしたの? って首を傾げると、ぎゅうぎゅう抱きしめられた。ひんやりしてる詰襟学生服。

(コートとか着ないんだから元気だよねぇ)

 ……って、そんなのは置いておいて。

「ど、どうしたの?」

 力強い腕からぷは、と顔を上げて黒田くんを見つめる。

「悪い。気がつかなかった」
「えーと、なにが?」
「俺も浮かれてた」
「???」
はなにしてたんだ」
「あの人?」

 混乱してる私に、黒田くんは申し訳なさそうに言う。

「写真、撮られてたんだろ」
「……あ、あー。樹くんに聞いたの?」

 黒田くんは頷いたあと、私を抱きしめ直して吐き出すように言う。

「学校行かせたくねー」
「お、大げさじゃない?」
「んなことねーよ……」

 はあ、とため息。

「マジで済まん」
「黒田くんのせいじゃないような気が……」

 ていうか、ちがうよね?
 私はそう思いながらも、ぎゅうぎゅうされるのが心地良くて、しばらく抱きしめてもらっていたのでした。
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