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1巻
1-2
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私は不思議な心地よさに目を細める。ぼやけた視界いっぱいに、鮫川くんの端整なかんばせがある。それにしたって、一体なぜ急にキスなんて……と、ぼうっとしている間に、ちゅ、となんだかいかがわしいリップ音がして――それから、ぬるり、と鮫川くんの舌が口内に入り込んできた。
「……っ!」
びっくりして、咄嗟に鮫川くんのTシャツの肩口を掴んだ。それが、結果的に彼を引き寄せる形になってしまう。鮫川くんの大きくて硬い手のひらが、私の後頭部を支えるようにガッチリ固定した。
もう私の口の中は、彼にされるがままになる。
「んっ、ふぁっ、さめかわ、くん」
なんとか名前を呼んだその舌を、鮫川くんに甘噛みされて、私は息を呑む。背中に電気が走ったみたいで、思わず腰を揺らした。はあ、と鮫川くんが低く掠れた息を吐いて、もう一度舌先を絡めてくる。
「んん……っ」
鮫川くんのTシャツを、さらにぎゅうっと握る。
知らない感覚に頭がふわふわして――でも、おそらく自分が……欲情しているのだと気が付いた。こんな簡単に? と自分でも驚く。思っていたより、私は快楽に弱い人間だったのだろうか?
ゆっくりと、彼が唇を離す。私はおずおずと目の前の鮫川くんを見つめた。ぎらぎらした目をしている鮫川くんに、お腹の奥がきゅんと切なくなる。
いつも冷静な彼が、明確に情欲を抱いた「雄」の目をしている。身体の切なさが増して、思わず息を吐いた。
鮫川くんは大騒ぎしているテレビを消し、無言で私を抱き上げた。そうしてほんの少しだけ頬を緩める。
「軽いですね」
「……そうかなぁ」
お姫様みたいに抱き上げられたけれど、残念ながら私はお姫様ではない。名前に姫は入ってるけれど……ああ、本当に似合わない。
鮫川くんは、私をこの家で唯一の洋間である寝室に運び込む。何をするかくらい、経験のない私にだって分かる……というか、このために結婚してもらったのだから。鮫川くんはどうやらさっそく契約内容を履行してくれるらしい。真面目な人だなあ。
「いいですか」と掠れた、囁くような声で聞かれて、私は迷わずこくりと頷く。
ばちんと電気をつけて、ダブルベッドにぽすんと横たえられた。
このベッドは、別に「新婚さん」だから買ったわけじゃない。最初から鮫川くんはこのベッドを使っていたらしい。単純に考えれば、身体が大きいから。でも、もしかしたら――ここで誰かと、暮らしていたから?
不意に胸のどこかが小さく痛んで、でもなぜか理由が分からなくて私は首を傾げた。
「どうしました?」
いつの間にかTシャツを脱ぎ捨てた鮫川くんが、ベッドに上がっていた。変わらずぎらぎらした視線に、私は少したじろいだ。この人、本当に私相手に欲情できるんだ。
私なんか、地味メガネザルなのに。
「なんでもない」
答えながら、鮫川くんの上半身をまじまじと見つめた。
「腹直筋もだけれど、外腹斜筋がよく発達してるね」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「そうだよ」
ありがとうございます、と鮫川くんは少し読めない表情でそう答えた。まぁ全体的にガッチリしているのだけれど、大胸筋と上腕二頭筋もなかなか。……と、彼の身体を観察していると、あることに気が付いてぎょっとした。
「鮫川くん!」
「なんですか」
「大きくなってるよ!」
「なりますよ、それは」
どこか呆れたように返される。
鮫川くんのアレが怒張して、部屋着のズボンを押し上げている。動物のなら単語を言うのも恥ずかしくないのに、鮫川くん相手だと照れてしまうのはなぜだろう。
「なるの? 私だよ?」
「……アサヒさんだからですよ」
鮫川くんは寝転がっている私の上にのしかかる。……少しだけ、危機を感じた。
「ねえ鮫川くん、一応申告しておくと……私、処女なんです。できればお手柔らかにお願いしたいんだけど」
「奇遇ですね、俺は童貞です」
「えっ」
思わず鮫川くんを見つめた。童貞? 童貞!?
「なんで!?」
「なんでとは」
「女の子なんか選り取り見取りでしょうに!」
「……そんなことはないですが」
鮫川くんはふうっとため息をついて続ける。
「ずっと好きな人がいたんです」
好きな人? それなのに、私と結婚なんかしてよかったの?
――なんて聞く前に、眼鏡を外されてしまう。
微かにぼやけた視界に戸惑う間に、唇を塞がれた。
「……んぁっ」
変な声が漏れちゃったのは、仕方ないと思う。突然、鮫川くんが私の乳房に触れたから。
再び口の中を蹂躪されながら、同時にやわやわと胸を揉まれる。
混乱しながらもなんとか息をするけれど、ただされるがままだった。ほ、本当に鮫川くんも初めてなの? 慣れというか、雄としての自信に溢れているというか……
「ん、んっ」
舌を優しく噛まれ、口蓋を舐め上げられ、反射的に声が上ずった。さすがに恥ずかしくなる。なんなの、この媚びるような高い声は――!
鮫川くんがごくっと唾を呑んだのが分かった。そうしてやっと唇が離れたかと思ったら、少し乱暴な手つきでTシャツを脱がされる。
「ひゃあ」
私は思わず胸を押さえた。
「……っ、すみません」
鮫川くんの少し狼狽した声。眼鏡がないから、表情はぼやけて見えるけれど――なるほど、多分……本当に慣れていないんだろうな。
私が大丈夫と頷くと、彼が安心したように額にキスをしてきたので、目を瞬く。
だってその仕草が、あまりに甘かったから。
まるで、大切にされている「女の子」みたいだったから――
「……大切に、しますから」
どこか許しを乞うような響きで、鮫川くんはそう言うと、丁寧な手つきでナイトブラを外し、私の肌に直接触れた。
「っ、あ!」
与えられた刺激に、身体が勝手に強張る。触られたところに神経が集まったみたいだ。
鮫川くんは小さく息を呑んで、それから乳房の先端に優しく触れる。
本当に優しくしてくれたのに――刺激があまりに強すぎて、私の喉から勝手に声が溢れた。
「ぁあっ」
羞恥で泣きそうになる。
私、そんな――こんな予定じゃなかったのに。さくっと経験して、なんらかの知見を得られれば、それで……!
「可愛い」
鮫川くんが呟いて、それから指で転がしていた先端を口に含む。
「ゃあっ、あっ、あ……!」
あったかくて柔らかな、鮫川くんの口の中。舌で転がされ、突かれ、押されて、甘噛みされて、恥ずかしいのに勝手に腰が動く。分泌液が溢れているのが分かって頬が熱くなる。
鮫川くんの硬くなったそれが、ぐいっと腰に押しつけられ、息を呑んだ。
そんな私を見下ろし、鮫川くんが掠れた声で言う。
「アサヒさんが俺で感じてくれているの、めちゃくちゃ嬉しいです」
ぽろりと零れた言葉に、さらに頬に熱が集まった。
鮫川くんの指が、輪郭を縁取るように私の身体を滑っていく。太ももにたどり着いたその手が、ゆるゆると内股を撫で上げる。ぞわぞわと、くすぐったさによく似た快感が腰でもったりと熱を持った。
「っ、あの、ねっ、鮫川くんっ」
鮫川くんは、私の太ももを撫でながら言葉を待ってくれているようだ。私はこくっと唾を呑み込み、続ける。
「ひ、ヒトがオーガズムを感じるのはっ、元々人類の祖先が、オーガズムを、っ、感じることによって排卵していたって、あんっ、考えられて、いて……っ」
「そうなんですか?」
「そ、うなのっ。現代では、っ、違うけどっ、だから、だからっ」
するり、とショートパンツごと下着も脱がされる。股間が冷たくて、もうすっかり濡れていたんだと否が応でも自覚させられた。
「私がこうなっているのはっ、生理的なことによってであって……っ、決して私がふしだらなわけ、では……!」
「なるほど、よく分かりました」
鮫川くんの無骨な指が、くちゅりと音を立てて濡れた入り口を撫でる。
「ひゃぁんっ!」
「アサヒさんがこうなっているのは――仕方のないことだと」
「そ、そう」
そうなのです。と返事をしようとしたとき、鮫川くんの指がそのまま少し上に移動し、陰核に触れた。
「っ、ぁああっ!?」
びりびりする、今まで感じたことのない快感に、私の腰が勝手に浮いた。
「ん、んっ、やぁっ、だめっ、鮫川くんっ、だめっ、そこっ、だめなの……っ」
ぐにぐにと皮を被ったままの陰核を弄られる。これだって、進化の過程で備わったもので、私がこうなっているのは決して、決して私がイヤらしいわけではなくて――!
「っ、ぁあっ、やぁっ、あっ、あ……!」
私はこれ以上話すことができなくて、ぶんぶんと首を振る。髪の毛がシーツに擦れて音が立った。
「ダメ、ですか。でも、アサヒさんの腰、勝手に動いてますよ」
「んぁっ、い、言わないでぇ……」
鮫川くんは楽しそうだった。はっきり見えなくても分かるくらいに、楽しそう!
「鮫川くんはっ、女性を苛めて、楽しむ癖が、ぁあっ、あるのっ!?」
「分かりません。アサヒさんが初めての女性ですから」
「うそっ、絶対、嘘……っ!」
私は限界を感じて、シーツを思い切り握りしめる。爪先がきゅっと丸まる。
「ぁあ………っ!」
腰から電気が走るみたいだった。直後、身体から力が抜ける。
「気持ちよかったですか?」
鮫川くんの言葉に何も答えられず、ただ浅い息を繰り返した。
「アサヒ、さん」
「……なあ、に?」
「指を、挿れても……いいでしょうか」
鮫川くんの言葉に、私はゆるゆると頷く。なんで急にそこだけ許可を求めるのだろう。キスだって急だったし、触るのも急だったくせに。なんだか少しおかしくなって、思わず口角を緩めた。でも、つぷ、と入ってくる鮫川くんの指と小さな違和感に、その笑顔は引っ込んでしまう。
「……んっ」
「っ、痛い、ですか?」
本気で心配している声だった。私は大丈夫だと言うように、小さく首を横に振る。
「思ってたよりは、いたく、ない」
「よかった」
鮫川くんが、安心したような声音で言った。
大切にしますから――鮫川くんの言葉が、なぜだか頭の中に響いてきて、ストンと胸に落ちる。は、と胸をつく感覚……これ、なんだろう。でも、その疑問はすぐに蒸気みたいに霧散した。鮫川くんが指で充血した粘膜を優しく押し上げ、そしてくちゅくちゅと円を描くように動かしたからだ。声を上げて反応してしまった自分が、すごく恥ずかしい……!
慣れてきたところで、ナカの指が増やされる。優しい気配に、私はそっと息を吐く。きっと嫌だと言えば、彼はいつでもやめてくれる。そう思っているから、私は彼に身体を任せられるのだろう。
――私って鮫川くんのこと、かなり信用してるんだな。
そう思うと、痛みが少し減った気がした。鮫川くんは私の反応を見ながら指を動かす。そのたびに淫らな音が生まれた。
そうやってゆっくりゆっくり馴染ませてくれたのに、彼の太い指三本を呑み込んだときはさすがに小さく呻いた。
「……大丈夫ですか」
「ご、ごめんね?」
「俺は、全く。ただ……あなたが辛いのは嫌だ」
そう言って鮫川くんは眦に唇を落とす。肋骨の奥がほかほかした。なんだろう、切なさにも似た温かな感情だ。さっきから不思議でたまらない。
慈しむような優しいキスを顔中に落とされる。額にも、頬にも。そうされるとお腹の切なさが増して、ナカの肉厚な粘膜がきゅうっと収縮した。
さっきから私の内で暴れる感情の意味が理解できない。
「アサヒさん。もし、大丈夫そうなら……挿れてもいい、ですか」
そう言われ、やや霞がかり始めた意識を彼に向ける。強く寄った眉と、激しい熱情を孕む野性的な視線に胸がざわめいた。私は、彼にこんなふうに性的な視線を向けられることが嬉しいみたいだ。いいよ、と言いかけたとたん、頭の中で理性がぴかっと閃いた。
「わ、ちょっと待って」
眼鏡なしだとよく見えないため、起き上がってシーツに手をついた。とろり、と粘性のある水分が自分の入り口から零れたのが恥ずかしい。恥ずかしいけれど、それよりも確認したいことが。
「途中でごめんね。でも、ヒトのこれ、見るの初めてで、ちょっと気になって」
「……ヒトの」
「うん。動物のはあるけど。イヌとかウマとか」
「ウマ……と比べられるのはちょっと」
複雑な表情を浮かべる鮫川くんに、私は首を傾げる。クジラのも見たことがあるけれど、黙っていた方がよさそうだ。
「これはヒト属の雄としては大きい? ……よね」
聞いておいて、自分で結論を出してしまった。だって明らかに大きいんだもの。
屹立した昂りは、肉ばった赤黒い先端から液体が溢れ出していた。幹には血管と裏筋が浮き出て、とても硬そう。触ってみたいな。だめかな、とちらっと彼を見上げると、軽くぼやけた視界の中でも彼が困った顔をしているのが分かった。
「……そこそこに、……大きいほうではないか、と」
やっぱりね。彼のことだから、妙な見栄なんかは張らないだろう。さすがにサイズを測るのはやりすぎだろうと諦めた私は、ふうん、と頷いた。
「霊長類ではヒトのものが一番大きいのよね。つまり鮫川くんのは、霊長類としてもかなり……待って、これ、入る?」
私、これをナカに挿れるの? いける? まあナカは伸縮するからいいとして、問題は入り口だ。出産時の会陰切開みたいにならない?
さらにまじまじと鮫川くんのそれを観察した。まあ、ヒト出生時の平均頭囲よりは遥かに小さいし、きっと大丈夫だからみんなこんな行為をしているのだ。微かに鼻息が当たってしまったためか、ぴくっと屹立が反応した。やっぱり気になる。
「あの、嫌でなければなんだけど……触っていい?」
「……お好きに」
「ありがとう!」
私はさっそくそれに触れる。ちょっとしっとりしていた。指先で先端をつつくと、想像していたよりも柔らかい。でも幹は思っていたより硬い。海綿体に血液が流入しているのだ。裏筋を撫でると、大げさなくらい鮫川くんが反応した。気持ちいいのかな。
そう考えると、妙にどきどきした。さらに反応を確かめたくて、指先で優しくそこを撫でる。ちょっとざらついた感触だ。見上げた先で鮫川くんの喉仏が上下したのが、視力の悪い私にでも分かった。そうして彼は、やや凶悪な視線を私に向ける。
「アサヒさんは――男を煽るのが上手ですね」
上手? ぽかんとしている間に、ベッドに押し倒されてしまう。鮫川くんは、ベッドサイドの棚からコンドームの箱を取り出した。経験はないとのことなので、万が一に備えて用意していたか、私のために購入してくれたのだろうけれど……
「それ、つけなくていいよ。ピル飲んでるから」
鮫川くんがぴたっと止まって私を見る。あ、誤解させたかな? 男性は〝ピル〟イコール〝避妊〟と思っている節があるし。
「あのね、私、生理が重くて。ピルって生理痛がずいぶん楽になるんだ。泊まりがけのフィールドワークの予定も立てやすいし」
「そうでしたか。ただ、アサヒさん」
「なぁに?」
「もっと自分を大切にしてください」
「鮫川くん?」
真剣な声にたじろぐ。私は何か言葉を、選択肢を間違えたらしい。鮫川くんは初めてで、病気を持っているような人ではなさそうだし、私も同じだから避妊はピルだけで十分だと判断したのだけれど……とにかく、鮫川くんは怒っていた。
「自分を大事にすると約束してください。それから、あなたはもう俺の妻なので、俺以外とはセックスできません。死ぬまで。一生」
「うん、それはもちろん……そのつもりだけれど」
コンドームの話から、どうしてそこに話が飛ぶのだろう?
鮫川くんはふう、と息を吐いて、首を傾げた私の頭にキスを落とす。優しい、泣きたくなるようなキスだ。きゅ、と肋骨の奥にある心臓が切なくなる。眉を下げ彼を見上げると、ふっと彼は眉間を緩めた。
「怒っているわけではないですよ」
そう言って裏表を確認して、コンドームをつける。
「……私とは、直接的な粘膜の接触したくないの?」
鮫川くんは自分のそれにラテックスをくるくると巻き下ろしながら、呟くように言う。
「どうしてそうなるんです。俺だってとてもしたいです、したいですが」
えっ、「とてもしたい」の?
「けれど、俺は――言いましたよね。あなたを大切にしたいんです」
鮫川くんは私の膝裏を押し上げて、大きく足を開かせた。わああ! と叫びたくなるのをぐっと堪える。知識としては知っていたけれど、この格好は……っ。
「……ちょっと、その、恥ずかしい、ね?」
分かってる。こういうポーズがヒトのセックスでは通常の体位なんだって……でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。両手で顔を覆うと、鮫川くんがぴたっと動きを止めた。まじまじと私を見つめているのが分かる。手の隙間からそっと鮫川くんを見ると、なんとなくしか表情が分からない視界で、鮫川くんはどこまでもぎらついた雄の顔をしていた。
きゅうう、とナカが蠢く。彼が欲しいと涎を垂らしている。
私も結局は、ただの生き物なのだなとぼんやり思った。繁殖したい、孕みたい、生物としてごくごく自然な本能。そのために存在する性欲という欲求。
「アサヒさん。痛かったら言ってください」
微かに掠れた声とともに宛がわれた昂りが、みちみちとナカに入り込んできて、思わず息を詰めた。大きくて硬い質量が、私の奥を目指して進んできている。
「大丈夫ですか」
真剣な声が落ちてきた。私は顔から手を離し、ぼやけた先で心配そうに寄った眉を見て、思わず頬を緩めた。優しくて理性的な人だな、本当に……。多くの種の雄は雌の痛みになんか配慮しないのに。噛み付き、腰を振り、自分の遺伝子を残すことに執心するだけだ。
「ごめん、ね」
謝る声が思ったよりも細くてびっくりした。ナカに半分ほど進んだ屹立がほんのわずか、ぴくっと動く。ああ本当は彼だって奥まで挿れて思い切り快楽を貪りたいのだ。
「その、ヒトって、ほら、処女膜、あるから……ちょっと痛いみたい」
申し訳なくなって、少し早口で言い訳を口にした私を、鮫川くんは目を細めて見つめる。頬をそっと撫でてきた手に、肋骨の奥がほわりと温まる。彼の慈しみに触れるたびに、どうしてだろう、左胸がきゅんと痛い。
「痛いなら、やめましょう」
「っ、ううん! しよ。こういうのは思い切りが大事だし」
「ですが――」
「お願い……っあっ、いっ、た……」
私は腰を上げ、自分から奥に進めようとしてズンとくる痛みにきゅっとシーツを握った。入り口も痛い。かなり解してくれたけれど、指とは全く違う。
「アサヒさんっ」
慌てたように彼は私を呼び、それからぐっと腰を掴む。
「一気に奥まで挿れていいですか? そのほうが楽かもしれません」
彼の提案に頷きながら、内心でほんのちょっと笑ってしまった。だって私たち、お互いいい年なのに初めて同士で、こんな手探りでセックスしてるなんて。
「アサヒさん?」
「ふふ、なんでも……いいよ、来て」
私が鮫川くんに向かって手を伸ばすと、ぐっと彼が強く息を呑んだ。そうして荒く息を吐き出しながら、硬くて太い熱で一気に最奥まで貫いてきた。圧迫してくる質量で、一番奥が押し上げられる。痛みだけじゃない、確かな甘さが身体の奥を悦ばせる。
「はぁ、……っ」
鮫川くんにしがみつきながら、痛みとも喘ぎともつかない声を出してしまう。すると、鮫川くんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。汗ばんだ額から前髪をかき上げ、そこに唇を落としてくれる。
「頑張ってくれてありがとうございます。全部入りました」
「よかったぁ……」
「すみません。俺ばかり気持ちよくて」
すまなそうに言う鮫川くんに、私は目を瞬き、それから微笑んだ。
「私もね、さっき同じこと考えてたよ」
「同じこと?」
「指でしてくれてるとき、私ばっかり気持ちいいなって……だから、鮫川くんが気持ちよくなってくれて嬉しい」
「アサヒさん……」
「だから今度は、鮫川くんの、気持ちいいように、して……」
言い終わるや否や、鮫川くんはゆっくりと腰を動かす。するっ、と屹立が蕩けた粘膜を擦って動く。
「ん、ふ、ぁっ、ぁ」
我慢できなくて声が漏れてしまう。自分のナカに誰かがいて、意思を持って動いているという状況。私を見下ろす鮫川くんが「はあ」と荒く息を吐き出し、私の頭の横に肘をついた。そうして頬ずりをされて、私は自分の中でぽかぽかと膨らむ不思議な感情に動かされるように彼に頬ずりし返す。鮫川くんが息を呑んだあと、マジか、と掠れた声で呟いた。
「えっ、変なことした……?」
「まさか。逆ですよ」
「っ、鮫川、くん、っ、おっきくしないで……っ」
「無理です。気持ちよすぎて」
鮫川くんがさらに息を大きく吐き出す。身体が密着しているから、呼吸とかお腹の筋肉の動きとか、そういったものまでまざまざと伝わってくる。お互いのしっとりした汗が肌の上で混ざり合う。
鮫川くんが何度か腰を動かすたびに、ぱちゅぱちゅとぬるついた水音が響いた。やがて彼の息が荒々しさを増していく。そうして、触れるだけのキスを繰り返しながら呟いた。
「アサヒさん、すみません。俺……もう、イき、ます」
切羽詰まった声に、私はこくこくと頷く。
「……っ!」
びっくりして、咄嗟に鮫川くんのTシャツの肩口を掴んだ。それが、結果的に彼を引き寄せる形になってしまう。鮫川くんの大きくて硬い手のひらが、私の後頭部を支えるようにガッチリ固定した。
もう私の口の中は、彼にされるがままになる。
「んっ、ふぁっ、さめかわ、くん」
なんとか名前を呼んだその舌を、鮫川くんに甘噛みされて、私は息を呑む。背中に電気が走ったみたいで、思わず腰を揺らした。はあ、と鮫川くんが低く掠れた息を吐いて、もう一度舌先を絡めてくる。
「んん……っ」
鮫川くんのTシャツを、さらにぎゅうっと握る。
知らない感覚に頭がふわふわして――でも、おそらく自分が……欲情しているのだと気が付いた。こんな簡単に? と自分でも驚く。思っていたより、私は快楽に弱い人間だったのだろうか?
ゆっくりと、彼が唇を離す。私はおずおずと目の前の鮫川くんを見つめた。ぎらぎらした目をしている鮫川くんに、お腹の奥がきゅんと切なくなる。
いつも冷静な彼が、明確に情欲を抱いた「雄」の目をしている。身体の切なさが増して、思わず息を吐いた。
鮫川くんは大騒ぎしているテレビを消し、無言で私を抱き上げた。そうしてほんの少しだけ頬を緩める。
「軽いですね」
「……そうかなぁ」
お姫様みたいに抱き上げられたけれど、残念ながら私はお姫様ではない。名前に姫は入ってるけれど……ああ、本当に似合わない。
鮫川くんは、私をこの家で唯一の洋間である寝室に運び込む。何をするかくらい、経験のない私にだって分かる……というか、このために結婚してもらったのだから。鮫川くんはどうやらさっそく契約内容を履行してくれるらしい。真面目な人だなあ。
「いいですか」と掠れた、囁くような声で聞かれて、私は迷わずこくりと頷く。
ばちんと電気をつけて、ダブルベッドにぽすんと横たえられた。
このベッドは、別に「新婚さん」だから買ったわけじゃない。最初から鮫川くんはこのベッドを使っていたらしい。単純に考えれば、身体が大きいから。でも、もしかしたら――ここで誰かと、暮らしていたから?
不意に胸のどこかが小さく痛んで、でもなぜか理由が分からなくて私は首を傾げた。
「どうしました?」
いつの間にかTシャツを脱ぎ捨てた鮫川くんが、ベッドに上がっていた。変わらずぎらぎらした視線に、私は少したじろいだ。この人、本当に私相手に欲情できるんだ。
私なんか、地味メガネザルなのに。
「なんでもない」
答えながら、鮫川くんの上半身をまじまじと見つめた。
「腹直筋もだけれど、外腹斜筋がよく発達してるね」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「そうだよ」
ありがとうございます、と鮫川くんは少し読めない表情でそう答えた。まぁ全体的にガッチリしているのだけれど、大胸筋と上腕二頭筋もなかなか。……と、彼の身体を観察していると、あることに気が付いてぎょっとした。
「鮫川くん!」
「なんですか」
「大きくなってるよ!」
「なりますよ、それは」
どこか呆れたように返される。
鮫川くんのアレが怒張して、部屋着のズボンを押し上げている。動物のなら単語を言うのも恥ずかしくないのに、鮫川くん相手だと照れてしまうのはなぜだろう。
「なるの? 私だよ?」
「……アサヒさんだからですよ」
鮫川くんは寝転がっている私の上にのしかかる。……少しだけ、危機を感じた。
「ねえ鮫川くん、一応申告しておくと……私、処女なんです。できればお手柔らかにお願いしたいんだけど」
「奇遇ですね、俺は童貞です」
「えっ」
思わず鮫川くんを見つめた。童貞? 童貞!?
「なんで!?」
「なんでとは」
「女の子なんか選り取り見取りでしょうに!」
「……そんなことはないですが」
鮫川くんはふうっとため息をついて続ける。
「ずっと好きな人がいたんです」
好きな人? それなのに、私と結婚なんかしてよかったの?
――なんて聞く前に、眼鏡を外されてしまう。
微かにぼやけた視界に戸惑う間に、唇を塞がれた。
「……んぁっ」
変な声が漏れちゃったのは、仕方ないと思う。突然、鮫川くんが私の乳房に触れたから。
再び口の中を蹂躪されながら、同時にやわやわと胸を揉まれる。
混乱しながらもなんとか息をするけれど、ただされるがままだった。ほ、本当に鮫川くんも初めてなの? 慣れというか、雄としての自信に溢れているというか……
「ん、んっ」
舌を優しく噛まれ、口蓋を舐め上げられ、反射的に声が上ずった。さすがに恥ずかしくなる。なんなの、この媚びるような高い声は――!
鮫川くんがごくっと唾を呑んだのが分かった。そうしてやっと唇が離れたかと思ったら、少し乱暴な手つきでTシャツを脱がされる。
「ひゃあ」
私は思わず胸を押さえた。
「……っ、すみません」
鮫川くんの少し狼狽した声。眼鏡がないから、表情はぼやけて見えるけれど――なるほど、多分……本当に慣れていないんだろうな。
私が大丈夫と頷くと、彼が安心したように額にキスをしてきたので、目を瞬く。
だってその仕草が、あまりに甘かったから。
まるで、大切にされている「女の子」みたいだったから――
「……大切に、しますから」
どこか許しを乞うような響きで、鮫川くんはそう言うと、丁寧な手つきでナイトブラを外し、私の肌に直接触れた。
「っ、あ!」
与えられた刺激に、身体が勝手に強張る。触られたところに神経が集まったみたいだ。
鮫川くんは小さく息を呑んで、それから乳房の先端に優しく触れる。
本当に優しくしてくれたのに――刺激があまりに強すぎて、私の喉から勝手に声が溢れた。
「ぁあっ」
羞恥で泣きそうになる。
私、そんな――こんな予定じゃなかったのに。さくっと経験して、なんらかの知見を得られれば、それで……!
「可愛い」
鮫川くんが呟いて、それから指で転がしていた先端を口に含む。
「ゃあっ、あっ、あ……!」
あったかくて柔らかな、鮫川くんの口の中。舌で転がされ、突かれ、押されて、甘噛みされて、恥ずかしいのに勝手に腰が動く。分泌液が溢れているのが分かって頬が熱くなる。
鮫川くんの硬くなったそれが、ぐいっと腰に押しつけられ、息を呑んだ。
そんな私を見下ろし、鮫川くんが掠れた声で言う。
「アサヒさんが俺で感じてくれているの、めちゃくちゃ嬉しいです」
ぽろりと零れた言葉に、さらに頬に熱が集まった。
鮫川くんの指が、輪郭を縁取るように私の身体を滑っていく。太ももにたどり着いたその手が、ゆるゆると内股を撫で上げる。ぞわぞわと、くすぐったさによく似た快感が腰でもったりと熱を持った。
「っ、あの、ねっ、鮫川くんっ」
鮫川くんは、私の太ももを撫でながら言葉を待ってくれているようだ。私はこくっと唾を呑み込み、続ける。
「ひ、ヒトがオーガズムを感じるのはっ、元々人類の祖先が、オーガズムを、っ、感じることによって排卵していたって、あんっ、考えられて、いて……っ」
「そうなんですか?」
「そ、うなのっ。現代では、っ、違うけどっ、だから、だからっ」
するり、とショートパンツごと下着も脱がされる。股間が冷たくて、もうすっかり濡れていたんだと否が応でも自覚させられた。
「私がこうなっているのはっ、生理的なことによってであって……っ、決して私がふしだらなわけ、では……!」
「なるほど、よく分かりました」
鮫川くんの無骨な指が、くちゅりと音を立てて濡れた入り口を撫でる。
「ひゃぁんっ!」
「アサヒさんがこうなっているのは――仕方のないことだと」
「そ、そう」
そうなのです。と返事をしようとしたとき、鮫川くんの指がそのまま少し上に移動し、陰核に触れた。
「っ、ぁああっ!?」
びりびりする、今まで感じたことのない快感に、私の腰が勝手に浮いた。
「ん、んっ、やぁっ、だめっ、鮫川くんっ、だめっ、そこっ、だめなの……っ」
ぐにぐにと皮を被ったままの陰核を弄られる。これだって、進化の過程で備わったもので、私がこうなっているのは決して、決して私がイヤらしいわけではなくて――!
「っ、ぁあっ、やぁっ、あっ、あ……!」
私はこれ以上話すことができなくて、ぶんぶんと首を振る。髪の毛がシーツに擦れて音が立った。
「ダメ、ですか。でも、アサヒさんの腰、勝手に動いてますよ」
「んぁっ、い、言わないでぇ……」
鮫川くんは楽しそうだった。はっきり見えなくても分かるくらいに、楽しそう!
「鮫川くんはっ、女性を苛めて、楽しむ癖が、ぁあっ、あるのっ!?」
「分かりません。アサヒさんが初めての女性ですから」
「うそっ、絶対、嘘……っ!」
私は限界を感じて、シーツを思い切り握りしめる。爪先がきゅっと丸まる。
「ぁあ………っ!」
腰から電気が走るみたいだった。直後、身体から力が抜ける。
「気持ちよかったですか?」
鮫川くんの言葉に何も答えられず、ただ浅い息を繰り返した。
「アサヒ、さん」
「……なあ、に?」
「指を、挿れても……いいでしょうか」
鮫川くんの言葉に、私はゆるゆると頷く。なんで急にそこだけ許可を求めるのだろう。キスだって急だったし、触るのも急だったくせに。なんだか少しおかしくなって、思わず口角を緩めた。でも、つぷ、と入ってくる鮫川くんの指と小さな違和感に、その笑顔は引っ込んでしまう。
「……んっ」
「っ、痛い、ですか?」
本気で心配している声だった。私は大丈夫だと言うように、小さく首を横に振る。
「思ってたよりは、いたく、ない」
「よかった」
鮫川くんが、安心したような声音で言った。
大切にしますから――鮫川くんの言葉が、なぜだか頭の中に響いてきて、ストンと胸に落ちる。は、と胸をつく感覚……これ、なんだろう。でも、その疑問はすぐに蒸気みたいに霧散した。鮫川くんが指で充血した粘膜を優しく押し上げ、そしてくちゅくちゅと円を描くように動かしたからだ。声を上げて反応してしまった自分が、すごく恥ずかしい……!
慣れてきたところで、ナカの指が増やされる。優しい気配に、私はそっと息を吐く。きっと嫌だと言えば、彼はいつでもやめてくれる。そう思っているから、私は彼に身体を任せられるのだろう。
――私って鮫川くんのこと、かなり信用してるんだな。
そう思うと、痛みが少し減った気がした。鮫川くんは私の反応を見ながら指を動かす。そのたびに淫らな音が生まれた。
そうやってゆっくりゆっくり馴染ませてくれたのに、彼の太い指三本を呑み込んだときはさすがに小さく呻いた。
「……大丈夫ですか」
「ご、ごめんね?」
「俺は、全く。ただ……あなたが辛いのは嫌だ」
そう言って鮫川くんは眦に唇を落とす。肋骨の奥がほかほかした。なんだろう、切なさにも似た温かな感情だ。さっきから不思議でたまらない。
慈しむような優しいキスを顔中に落とされる。額にも、頬にも。そうされるとお腹の切なさが増して、ナカの肉厚な粘膜がきゅうっと収縮した。
さっきから私の内で暴れる感情の意味が理解できない。
「アサヒさん。もし、大丈夫そうなら……挿れてもいい、ですか」
そう言われ、やや霞がかり始めた意識を彼に向ける。強く寄った眉と、激しい熱情を孕む野性的な視線に胸がざわめいた。私は、彼にこんなふうに性的な視線を向けられることが嬉しいみたいだ。いいよ、と言いかけたとたん、頭の中で理性がぴかっと閃いた。
「わ、ちょっと待って」
眼鏡なしだとよく見えないため、起き上がってシーツに手をついた。とろり、と粘性のある水分が自分の入り口から零れたのが恥ずかしい。恥ずかしいけれど、それよりも確認したいことが。
「途中でごめんね。でも、ヒトのこれ、見るの初めてで、ちょっと気になって」
「……ヒトの」
「うん。動物のはあるけど。イヌとかウマとか」
「ウマ……と比べられるのはちょっと」
複雑な表情を浮かべる鮫川くんに、私は首を傾げる。クジラのも見たことがあるけれど、黙っていた方がよさそうだ。
「これはヒト属の雄としては大きい? ……よね」
聞いておいて、自分で結論を出してしまった。だって明らかに大きいんだもの。
屹立した昂りは、肉ばった赤黒い先端から液体が溢れ出していた。幹には血管と裏筋が浮き出て、とても硬そう。触ってみたいな。だめかな、とちらっと彼を見上げると、軽くぼやけた視界の中でも彼が困った顔をしているのが分かった。
「……そこそこに、……大きいほうではないか、と」
やっぱりね。彼のことだから、妙な見栄なんかは張らないだろう。さすがにサイズを測るのはやりすぎだろうと諦めた私は、ふうん、と頷いた。
「霊長類ではヒトのものが一番大きいのよね。つまり鮫川くんのは、霊長類としてもかなり……待って、これ、入る?」
私、これをナカに挿れるの? いける? まあナカは伸縮するからいいとして、問題は入り口だ。出産時の会陰切開みたいにならない?
さらにまじまじと鮫川くんのそれを観察した。まあ、ヒト出生時の平均頭囲よりは遥かに小さいし、きっと大丈夫だからみんなこんな行為をしているのだ。微かに鼻息が当たってしまったためか、ぴくっと屹立が反応した。やっぱり気になる。
「あの、嫌でなければなんだけど……触っていい?」
「……お好きに」
「ありがとう!」
私はさっそくそれに触れる。ちょっとしっとりしていた。指先で先端をつつくと、想像していたよりも柔らかい。でも幹は思っていたより硬い。海綿体に血液が流入しているのだ。裏筋を撫でると、大げさなくらい鮫川くんが反応した。気持ちいいのかな。
そう考えると、妙にどきどきした。さらに反応を確かめたくて、指先で優しくそこを撫でる。ちょっとざらついた感触だ。見上げた先で鮫川くんの喉仏が上下したのが、視力の悪い私にでも分かった。そうして彼は、やや凶悪な視線を私に向ける。
「アサヒさんは――男を煽るのが上手ですね」
上手? ぽかんとしている間に、ベッドに押し倒されてしまう。鮫川くんは、ベッドサイドの棚からコンドームの箱を取り出した。経験はないとのことなので、万が一に備えて用意していたか、私のために購入してくれたのだろうけれど……
「それ、つけなくていいよ。ピル飲んでるから」
鮫川くんがぴたっと止まって私を見る。あ、誤解させたかな? 男性は〝ピル〟イコール〝避妊〟と思っている節があるし。
「あのね、私、生理が重くて。ピルって生理痛がずいぶん楽になるんだ。泊まりがけのフィールドワークの予定も立てやすいし」
「そうでしたか。ただ、アサヒさん」
「なぁに?」
「もっと自分を大切にしてください」
「鮫川くん?」
真剣な声にたじろぐ。私は何か言葉を、選択肢を間違えたらしい。鮫川くんは初めてで、病気を持っているような人ではなさそうだし、私も同じだから避妊はピルだけで十分だと判断したのだけれど……とにかく、鮫川くんは怒っていた。
「自分を大事にすると約束してください。それから、あなたはもう俺の妻なので、俺以外とはセックスできません。死ぬまで。一生」
「うん、それはもちろん……そのつもりだけれど」
コンドームの話から、どうしてそこに話が飛ぶのだろう?
鮫川くんはふう、と息を吐いて、首を傾げた私の頭にキスを落とす。優しい、泣きたくなるようなキスだ。きゅ、と肋骨の奥にある心臓が切なくなる。眉を下げ彼を見上げると、ふっと彼は眉間を緩めた。
「怒っているわけではないですよ」
そう言って裏表を確認して、コンドームをつける。
「……私とは、直接的な粘膜の接触したくないの?」
鮫川くんは自分のそれにラテックスをくるくると巻き下ろしながら、呟くように言う。
「どうしてそうなるんです。俺だってとてもしたいです、したいですが」
えっ、「とてもしたい」の?
「けれど、俺は――言いましたよね。あなたを大切にしたいんです」
鮫川くんは私の膝裏を押し上げて、大きく足を開かせた。わああ! と叫びたくなるのをぐっと堪える。知識としては知っていたけれど、この格好は……っ。
「……ちょっと、その、恥ずかしい、ね?」
分かってる。こういうポーズがヒトのセックスでは通常の体位なんだって……でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。両手で顔を覆うと、鮫川くんがぴたっと動きを止めた。まじまじと私を見つめているのが分かる。手の隙間からそっと鮫川くんを見ると、なんとなくしか表情が分からない視界で、鮫川くんはどこまでもぎらついた雄の顔をしていた。
きゅうう、とナカが蠢く。彼が欲しいと涎を垂らしている。
私も結局は、ただの生き物なのだなとぼんやり思った。繁殖したい、孕みたい、生物としてごくごく自然な本能。そのために存在する性欲という欲求。
「アサヒさん。痛かったら言ってください」
微かに掠れた声とともに宛がわれた昂りが、みちみちとナカに入り込んできて、思わず息を詰めた。大きくて硬い質量が、私の奥を目指して進んできている。
「大丈夫ですか」
真剣な声が落ちてきた。私は顔から手を離し、ぼやけた先で心配そうに寄った眉を見て、思わず頬を緩めた。優しくて理性的な人だな、本当に……。多くの種の雄は雌の痛みになんか配慮しないのに。噛み付き、腰を振り、自分の遺伝子を残すことに執心するだけだ。
「ごめん、ね」
謝る声が思ったよりも細くてびっくりした。ナカに半分ほど進んだ屹立がほんのわずか、ぴくっと動く。ああ本当は彼だって奥まで挿れて思い切り快楽を貪りたいのだ。
「その、ヒトって、ほら、処女膜、あるから……ちょっと痛いみたい」
申し訳なくなって、少し早口で言い訳を口にした私を、鮫川くんは目を細めて見つめる。頬をそっと撫でてきた手に、肋骨の奥がほわりと温まる。彼の慈しみに触れるたびに、どうしてだろう、左胸がきゅんと痛い。
「痛いなら、やめましょう」
「っ、ううん! しよ。こういうのは思い切りが大事だし」
「ですが――」
「お願い……っあっ、いっ、た……」
私は腰を上げ、自分から奥に進めようとしてズンとくる痛みにきゅっとシーツを握った。入り口も痛い。かなり解してくれたけれど、指とは全く違う。
「アサヒさんっ」
慌てたように彼は私を呼び、それからぐっと腰を掴む。
「一気に奥まで挿れていいですか? そのほうが楽かもしれません」
彼の提案に頷きながら、内心でほんのちょっと笑ってしまった。だって私たち、お互いいい年なのに初めて同士で、こんな手探りでセックスしてるなんて。
「アサヒさん?」
「ふふ、なんでも……いいよ、来て」
私が鮫川くんに向かって手を伸ばすと、ぐっと彼が強く息を呑んだ。そうして荒く息を吐き出しながら、硬くて太い熱で一気に最奥まで貫いてきた。圧迫してくる質量で、一番奥が押し上げられる。痛みだけじゃない、確かな甘さが身体の奥を悦ばせる。
「はぁ、……っ」
鮫川くんにしがみつきながら、痛みとも喘ぎともつかない声を出してしまう。すると、鮫川くんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。汗ばんだ額から前髪をかき上げ、そこに唇を落としてくれる。
「頑張ってくれてありがとうございます。全部入りました」
「よかったぁ……」
「すみません。俺ばかり気持ちよくて」
すまなそうに言う鮫川くんに、私は目を瞬き、それから微笑んだ。
「私もね、さっき同じこと考えてたよ」
「同じこと?」
「指でしてくれてるとき、私ばっかり気持ちいいなって……だから、鮫川くんが気持ちよくなってくれて嬉しい」
「アサヒさん……」
「だから今度は、鮫川くんの、気持ちいいように、して……」
言い終わるや否や、鮫川くんはゆっくりと腰を動かす。するっ、と屹立が蕩けた粘膜を擦って動く。
「ん、ふ、ぁっ、ぁ」
我慢できなくて声が漏れてしまう。自分のナカに誰かがいて、意思を持って動いているという状況。私を見下ろす鮫川くんが「はあ」と荒く息を吐き出し、私の頭の横に肘をついた。そうして頬ずりをされて、私は自分の中でぽかぽかと膨らむ不思議な感情に動かされるように彼に頬ずりし返す。鮫川くんが息を呑んだあと、マジか、と掠れた声で呟いた。
「えっ、変なことした……?」
「まさか。逆ですよ」
「っ、鮫川、くん、っ、おっきくしないで……っ」
「無理です。気持ちよすぎて」
鮫川くんがさらに息を大きく吐き出す。身体が密着しているから、呼吸とかお腹の筋肉の動きとか、そういったものまでまざまざと伝わってくる。お互いのしっとりした汗が肌の上で混ざり合う。
鮫川くんが何度か腰を動かすたびに、ぱちゅぱちゅとぬるついた水音が響いた。やがて彼の息が荒々しさを増していく。そうして、触れるだけのキスを繰り返しながら呟いた。
「アサヒさん、すみません。俺……もう、イき、ます」
切羽詰まった声に、私はこくこくと頷く。
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