前世記憶有少女中華(風)後宮奮闘記〜悪逆女帝にはなりたくない!〜

にしのムラサキ

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記憶

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 かぽーん、なんて擬音をつけたくなっちゃいそうな、そんな大きなお風呂。
 後宮ここのお風呂はそんな感じで、そんな大きなお風呂で私は顎までお湯に浸かって、ぼうっと考えていた。

(あの鳥、どこへ行ったんだろ)

 それに、どんなふうにしゅの主を見つけるのか……。

娘子じょうし、上がりましょう」
「また湯当たりされますわよ」

 くすくすと笑うゆあみ係の宮女さんたち。
 何日か前、あんまりにもお湯が気持ち良くて湯当たりしてしまったことが………。

「はーい」

 気をつけます、と言いながらお湯から上がる。
 肌触りの良い木綿や綿布タオルであっという間に拭き上げられて、前室脱衣所で、またもやなんやかんやと身体に塗りたくられる。
 仕上げは司馬様の家の軟膏。小さな兎の模様がついた白い陶器。

「あ!」
「? どうかされましたか?」

 長椅子の上でうつ伏せになって、背中にそれを塗られながら私が声を上げると、宮女さんが首を傾げた。

「あ、ううん」

 なんでも、と言いながら少し気持ち良くて目を閉じる。
 そうだ、司馬様にお礼言わなきゃなのに……バタバタして、すっかり忘れてたよ。

「お怪我の方はもうほとんど」
「あとは痕が消えてくれれば」

 いたわしそうに言ってくれるけれど、背中は自分じゃ見えないからなぁ。
 怪我……むちで打たれた痕もそうだけれど、火傷も自分で見えるわけじゃないから。……顔の傷痕は、気になるといえば気になる、けれど。

「……なんで、アナタに、阿兎あとと同じ火傷の痕が、ある、の?」

 至近距離での声に、思わず肩を揺らす。

「わ、あ、林杏りんしん様」
「ど、どうなさったのです」

 私のお客さん、という形で後宮ここに泊まることになった林杏さんが、宮女さんたちと並んで……というよりは、まじまじとその金色の瞳で、私の背中を観察しているようだった。
 長いぬばたまの前髪は、両手で押さえるようにして……ちなみに、全裸。

(……わー)

 12歳でこれ? ってくらいに、綺麗な身体。司馬様に似てキツめの顔立ちだけれど、これ、どんな美女に育つのやら……。

「えーと、林杏様? なぜこちらに?」

 宮女さんの言葉に、林杏様は眉ひとつ動かさず「おふろ」と答えた。
 まぁ、そりゃそうだ。

「あの、ではお風呂、ごゆっくり」

 どうぞ、と私はそう言いながら林杏様を見上げてーー固まった。

「な、なんで泣いてるんですか!?」

 思わず起き上がる。
 林杏さんはいやいやをするように、首を振った。

「阿兎だった、嫦娥が阿兎だった」
「あと……?」
「その背中の、翼のような火傷の痕」

 ぎゅう、と林杏様は私に抱きついてくる。優しげに触れる素肌の感覚。

アタシは覚えてる、小さかったけれど、でも。あの弱い愚兄のように忘れたがったりなんか、しない」
「えーと……?」

 首をかしげる私に、林杏さんは顔を上げて……ほほえんだ。

(うっわ)

 ただでさえ整ってるから、可愛さ百倍って感じで……。破壊力、破壊力がすごい!

「あ、そうだった」
「な、なんです?」

 なにがなんだか分からないけれど、とりあえずそう答えると、林杏さんは何度か頷いた。

「阿兎にも~、忘れてもらってたんだった」
「な、なにが!?」

 私、この子になにかされてたの!?

「この際だから~、愚兄にも思い出してもらおう」

 林杏さんは金の瞳を潤ませて、そう嬉しげに言った。
 まるで、小鳥が歌うように。
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