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慶
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「それで、鳳果に来てもらったのだが」
憂炎様の言葉に、ふ、と鳳果様は頭を下げる。
「心当たりは、ないだろうか……素人に妖術を、おそらくは短期間で教え込むことができるほどの腕がある人物を」
短期間? と不思議に思って憂炎様を見ると、小さく頷かれた。
「嫦娥が後宮へ来て、まだ三月ほど。慶麗の言葉から推察すれば、多く見積もって二月と言ったところか」
そっか、と頷く。
私が娘子と呼ばれ出してから、と考えれば、そんなものになる。
「……畏れながら、皇上、貴妃」
にこりと、鳳果さんは笑う。
「二月かける必要はございません」
「へえ?」
「1日で可能です」
私は驚いて鳳果様を見る。そんなふうに呪や妖を使えるようになるまで、わずか1日!?
「魂に呪をかけます」
淡々と鳳果様は言う。
「さすれば、その程度、簡単な話……身体でないので、跡も残りません」
「できるのか」
「理論上は」
「心当たりは?」
「青龍山においてできるとすれば、私か、私の師、李不空だけでしょう」
「不空、か。聞いたことはあるが、確か」
ゆっくりと鳳果さんは頷く。
「はい。もう亡くなっております」
「つまり、正式な僧侶や方士ではないと?」
「私が犯人でなければ、そうですね」
ゆったりと鳳果様は言う。
「というとこは、正規の道筋では探れない、か……そんな者の噂は?」
鳳果様は首を振る。
「そんな者がいれば、必ず耳に入るでしょう……お役に立てず、非常に申し訳ありません」
頭を下げる鳳果様と、さらりと流れる銀の髪。
「いや。足労願って済まなかった」
「いいえ。後宮など、自宮せねば入れぬところ。まさか男の身で生きて入れるとは」
軽く肩をすくめる。
「後宮は秘密の話をする上で、とても便利なところなんだ」
憂炎様は苦笑い。
「外宮だと、どうしても人の耳が、ね」
「ねえねえ自宮ってなぁに」
きょとん、とした林杏に、鳳果様は目を細める。
「いいですか林杏、自宮というのはですね、男が自分の」
「ああっいいお天気! お茶でもいかがです!? ほらお庭の牡丹も見頃ですしっねぇ憂炎様っ」
私は立ち上がって叫ぶ。まだ12の女の子に、なにを教えてるのこの銀髪おじさん……って、おじさんにしては若いか。二十代後半といったところ?
「? 嫦娥どうしたの?」
林杏は首を傾げた。
「いいから」
ま、そのうち知るんだろうけれど……ねえ。時期というものがっ!
中庭の槐の木の下に円卓を出してもらって、宮女さんにお茶を淹れてもらう。
一緒に出してもらったのは女乃酪。ほんのり甘くてとっても美味しい。
「美味しいなの、こんなに美味しい甜品食べられるなの、山を降りてほんとに良かったのなの」
「……そんな理由で修行やめちゃったの?」
でもまぁ、うん。分かる。まだ幼いんだし、青龍山なんて大人でもキツイんだろうから。
「ちがうよ~、嫦娥に会えるようにだよ~」
「どうかなぁ」
甜品優先してない?
「もう戻る気はないのですか、林杏」
「ないですよ」
「残念です」
鳳果様はため息をつく。
「あなたならば、あと一年もあれば魂に呪をかけることだってできるはず」
「うーん、でももういいかなぁ」
林杏は首を傾げた。
「ちょっと冷却期間、なの」
「戻る気になったらいつでも歓迎ですよ、林杏」
「はぁい」
私はまじまじと林杏を見る。ほんとにすごい子なんだよなぁ、この子……。
「失礼いたします」
す、と女官長……美杏さんが憂炎様のそばに。私は一瞬、ぴくりと反応してしまうけれど、林杏は澄まし顔だし、美杏さんは林杏の方を気に留めもしていない。
(うーん?)
美杏さんが公私を分ける方、なんだろうれど。
「興平より慶明様、ご到着にございます」
「分かった」
憂炎様はそう言って立ち上がる。私はそれを呆然と見つめてーーえ?
(いま、慶明って言った?)
あの「前世漫画」の登場人物、劉慶明ーー!
悪逆女帝となった(漫画の、だけれど)私を処刑した張本人が、ここに!?
呆然とする私を、なんだか楽しげに見つめる玉藻さんと目があった。
「ふむ? なにか楽しいことが起きそうな顔をしておるな?」
むう、と睨む。玉藻さんには、ざっと私の前世については話しているけれどーーこの子、完全に楽しんでる!
呵呵、と玉藻さんは明るく笑った。
憂炎様の言葉に、ふ、と鳳果様は頭を下げる。
「心当たりは、ないだろうか……素人に妖術を、おそらくは短期間で教え込むことができるほどの腕がある人物を」
短期間? と不思議に思って憂炎様を見ると、小さく頷かれた。
「嫦娥が後宮へ来て、まだ三月ほど。慶麗の言葉から推察すれば、多く見積もって二月と言ったところか」
そっか、と頷く。
私が娘子と呼ばれ出してから、と考えれば、そんなものになる。
「……畏れながら、皇上、貴妃」
にこりと、鳳果さんは笑う。
「二月かける必要はございません」
「へえ?」
「1日で可能です」
私は驚いて鳳果様を見る。そんなふうに呪や妖を使えるようになるまで、わずか1日!?
「魂に呪をかけます」
淡々と鳳果様は言う。
「さすれば、その程度、簡単な話……身体でないので、跡も残りません」
「できるのか」
「理論上は」
「心当たりは?」
「青龍山においてできるとすれば、私か、私の師、李不空だけでしょう」
「不空、か。聞いたことはあるが、確か」
ゆっくりと鳳果さんは頷く。
「はい。もう亡くなっております」
「つまり、正式な僧侶や方士ではないと?」
「私が犯人でなければ、そうですね」
ゆったりと鳳果様は言う。
「というとこは、正規の道筋では探れない、か……そんな者の噂は?」
鳳果様は首を振る。
「そんな者がいれば、必ず耳に入るでしょう……お役に立てず、非常に申し訳ありません」
頭を下げる鳳果様と、さらりと流れる銀の髪。
「いや。足労願って済まなかった」
「いいえ。後宮など、自宮せねば入れぬところ。まさか男の身で生きて入れるとは」
軽く肩をすくめる。
「後宮は秘密の話をする上で、とても便利なところなんだ」
憂炎様は苦笑い。
「外宮だと、どうしても人の耳が、ね」
「ねえねえ自宮ってなぁに」
きょとん、とした林杏に、鳳果様は目を細める。
「いいですか林杏、自宮というのはですね、男が自分の」
「ああっいいお天気! お茶でもいかがです!? ほらお庭の牡丹も見頃ですしっねぇ憂炎様っ」
私は立ち上がって叫ぶ。まだ12の女の子に、なにを教えてるのこの銀髪おじさん……って、おじさんにしては若いか。二十代後半といったところ?
「? 嫦娥どうしたの?」
林杏は首を傾げた。
「いいから」
ま、そのうち知るんだろうけれど……ねえ。時期というものがっ!
中庭の槐の木の下に円卓を出してもらって、宮女さんにお茶を淹れてもらう。
一緒に出してもらったのは女乃酪。ほんのり甘くてとっても美味しい。
「美味しいなの、こんなに美味しい甜品食べられるなの、山を降りてほんとに良かったのなの」
「……そんな理由で修行やめちゃったの?」
でもまぁ、うん。分かる。まだ幼いんだし、青龍山なんて大人でもキツイんだろうから。
「ちがうよ~、嫦娥に会えるようにだよ~」
「どうかなぁ」
甜品優先してない?
「もう戻る気はないのですか、林杏」
「ないですよ」
「残念です」
鳳果様はため息をつく。
「あなたならば、あと一年もあれば魂に呪をかけることだってできるはず」
「うーん、でももういいかなぁ」
林杏は首を傾げた。
「ちょっと冷却期間、なの」
「戻る気になったらいつでも歓迎ですよ、林杏」
「はぁい」
私はまじまじと林杏を見る。ほんとにすごい子なんだよなぁ、この子……。
「失礼いたします」
す、と女官長……美杏さんが憂炎様のそばに。私は一瞬、ぴくりと反応してしまうけれど、林杏は澄まし顔だし、美杏さんは林杏の方を気に留めもしていない。
(うーん?)
美杏さんが公私を分ける方、なんだろうれど。
「興平より慶明様、ご到着にございます」
「分かった」
憂炎様はそう言って立ち上がる。私はそれを呆然と見つめてーーえ?
(いま、慶明って言った?)
あの「前世漫画」の登場人物、劉慶明ーー!
悪逆女帝となった(漫画の、だけれど)私を処刑した張本人が、ここに!?
呆然とする私を、なんだか楽しげに見つめる玉藻さんと目があった。
「ふむ? なにか楽しいことが起きそうな顔をしておるな?」
むう、と睨む。玉藻さんには、ざっと私の前世については話しているけれどーーこの子、完全に楽しんでる!
呵呵、と玉藻さんは明るく笑った。
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