前世記憶有少女中華(風)後宮奮闘記〜悪逆女帝にはなりたくない!〜

にしのムラサキ

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葡萄酒

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 結果から言おう。
 憂炎様、ザルだった。

「なんで酔っ払わないのですかぁ」
「……嫦娥、そろそろやめようか」
「なんでですかぁ」

 ふわんふわんする頭で、私は考えた。なんでこの人は私からお酒を取り上げようとするのかなぁ。

(ていうか、前世ではお酒、イケる口だったのになぁ)

 まぁ、この世界では15で成人で、飲酒も許されてる(というかそもそも明確な基準はない)けれど、前世の日本基準ではまだ子供。
 お酒に身体がついていかないのかなぁ。
 多分、そうなんだろう。

「お酒は二十歳から……」
「もうさっきから何をブツブツ言ってるの嫦娥」
「脳と肝臓に悪い」
「大丈夫?」

 なんでこんなことになっているかというと、ゆあみのあと、居室へやで玉藻さんとぼうっとしていると(なぜ人間は風呂に毎日入るのか? と問い詰められていた)憂炎様が昼間の葡萄酒を持ってやってきたのだった。

「すこし飲んでみる?」

 そう言って。
 玉藻さんも「変なものはないぞ」と教えてくれたから、遠慮なくひとくち飲んでみたーーのが、失敗だった。

(美味しかったんだもの)

 気がつけば、すっかり出来上がってしまっていた。
 居室の長椅子に、憂炎様と並んでふたり。……あれ。

「玉藻さんは?」
「でて行ったよ」
「どこに」
「さあ……」

 なんだか不思議な顔をしてる憂炎様は、瑠璃のグラスで葡萄酒をまたひとくち。ザルだなぁ。いいなぁ。

「たくさん飲めて羨ましいです」
「俺は酔っ払ってみたいけどね」
「まったく酔わないのですか?」
「少しくらいは、高揚感はあるけれど」

 そう言って、憂炎様は目を細める。さらりと私の髪に触れた。
 髪、ねぇ。
 なんでそんな触り方するのかな……って、あ、そっか。
 このひと、私のこと好きらしい、とぽやぽやした頭で思い出す。
 そうだったそうだった。

「憂炎様は」
「うん」
「なぜ私のことがお好きなのですか」

 げふ! と憂炎様は葡萄酒を吹き出す。

「けほ、なにを急に」
「気になるじゃないですか」

 ぐい、と顔を寄せる。

「私みたいな、平凡の塊みたいなの。皇后にしてどうするんです?」
「好きだからだよ」

 困った顔で憂炎様は言う。

「色々、あるけれど」
「教えてください」
「今は言わない」

 私は首を傾げた。

「なぜ」
「酔ってるから」
「酔ってなくないですか?」
「きーみーが! 君が酔っぱらってるからだよ」

 むにむにと頬をつねられた。

「なにそれ何可愛い顔してるのバカじゃないの」
「可愛い?」

 頬をつねられたまま、私は答える。なんだか目がとろんとしてる気がするなぁ。

「憂炎様、あなたは皇帝なんですよ」
「知ってるよ」
「この国じゅうの、可愛いも美人も綺麗も、傾国と言われるような美女も、ご自分のものにできるのですよ」
「まぁね」
「いいですか憂炎様。冷静に私を見てください」
「?」
「ほら、この大して大きくない乳を」

 私は胸を張る。可哀想なくらいに成長不足の……悲しいなぁ。

「げふっ」

 憂炎様は変な咳き込み方をした。

「皇帝ですから、たわわなお身体をお持ちの美女達と、あんなことやこんなこともできるのですよ?」
「そんなこと言わない」

 鼻をつままれた。なぜに。

「なのに」

 憂炎様の手は、私の頬にうつる。ゆるゆると親指で、頬を撫でる。

「なぜ、私なんです」
「だって君がいいから」

 美人も美女も大きな胸もいらないよ、と憂炎様は目を細める。

「俺が欲しいのは君だけだから」
「ではさっさとご自分のものにしてしまえば?」
「できないよ」

 切なそうに、憂炎様は言う。

「好きだから」
「……真面目なのですねぇ」
「唯一の取り柄かな」

 そう言って少し笑う憂炎様の胸に、私は飛び込む。飛び込むっていうかしなだれかかる。いやワザとではないんですけれども。

「じ、嫦娥!?」
「うー、すみません、酔いが」

 いい感じにフワフワしてる……。

(こんなとこ、浩然に見られたら怒られるだろうなぁ)

 ふわふわと、そう思う。
 はしたない、と。あの人は、半ば私のお兄様だから。お兄様?

(お兄様なのかなぁ)

 分からない。何も分からない。
 いっそ、そうだ。もう、いっそのこと。

「憂炎様」
「な、なぁに」
「抱いてください」
「はぁ!?」

 さっさとこの人のものになってしまって、子供でも産んでしまえば、随分スッキリするのじゃないだろうか。
 私は身体を憂炎様に甘えるように擦り付ける。

「じょ、嫦娥、やめ」
「やめません」

 憂炎様のふくを持って、甘えるような上目遣いで。

「私のこと、お嫌いですか?」
「だから、好きなんだって!」
「じゃあ」

 言いながら、頭がさらにふわふわしてきて……あれー?

「じ、嫦娥? 嫦娥」

 慌てたような憂炎様の声。えーと。
 ふんわりした脳裏に浮かんでるのは、怒ってる浩然の顔。

『嫦娥、だから見境なく行動するのはやめろといつも』

 はぁい、ごめんなさい浩然。
 でもね、そうしたら。そうしたらなんだか、その方がいいような気がしたんだよ。

「ごめんね、浩然」

 お嬢様らしくないお嬢様で、ほんとにいつも迷惑かけるよねぇ……。
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