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(憂炎視点)
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「好きな女の子が酔っ払って自分にしなだれかかってて、なんだか色々な理性が何処かに行きそうになってたら、その子から別の男の名前が出たときの俺の気持ちについて少し考えて欲しい」
「ざまぁみろ」
「なんだよその答え」
磊なんか嫌いだ、と俺は口を尖らせた。
嫦娥が酔っ払って寝てしまった日の翌日。俺は磊の家にいた。
「ざまぁみろですよ」
ふ、と俺の背後で目を細めてるのは、その「別の男」張本人の浩然。
(まぁ、本人にはぜぇったいに教えてやんないけどね)
磊の看病を任されている浩然は、大学へ行く以外は磊の世話を甲斐甲斐しくやいているらしい。
「というか、嫦娥に酒を飲ませないでください」
「いや、あんなになるとは」
「二度と飲ませないでください」
じとりと睨みつけるけど、飄々と視線を外された。なんか、なんだかなぁ。
「君たち俺のことなんだと思ってるの? 皇帝だよ」
「俺は主人たる磊様準拠なので」
「俺のせいかよ!」
磊が叫ぶのは寝台の上。
(随分回復はしているようだけれど)
顔色なんかは、前よりいい気もする。
「ところで憂炎。なんか分かったのか」
背後にいたやつのことは。
そう聞かれて、俺は首を振る。
「鳳果の助力を得て、色々探索はしているけれど……あれだけのことができる人物となると、なかなか」
「ま、俺の方でも調べさせてもらうけど」
「無理はしないようにね」
よくよく釘を刺して司馬邸を辞す。
城に帰ると、嫦娥が青い顔をしてぐったりしていた。
「あは、大丈夫?」
「うー……大丈夫、デス……」
膝の上の九尾の狐(獅子狗)はぺろぺろと自分の足を舐めている。
「せっかく妾が気を使ったのにのう、酔っ払って寝てしまうとは」
「それの意味が分かんないんだけれどー」
嫦娥はなんとか、って感じで顔を上げた。
「私、何かしました?」
「してないしてない」
俺はにっこりと笑う。
「お酒飲んで、そのままコテンと寝ちゃったよ」
「うう、本当にご迷惑を」
「全然大丈夫だから大丈夫で大丈夫」
笑顔で手を振る。
九尾が呆れたように俺を見た。……なぁお前、ほんとにどっか行ってたよな? もし本当に嫦娥抱いてても、見てなかったよな……?
「とっても頭が痛いです」
「爆発してしまいそうですか嫦娥様!」
嫦娥の宮女、香桐がぱたぱたと居室に駆け込んできた。
持っているのは腕ーー薬?
深緑色の明らかに苦そうな液体が、腕の中でゆらりと揺れた。
「どうぞ、これ。二日酔いに効くのです」
「わー……」
弱々しく嫦娥はそれを受け取る。
九尾がつい、と首をあげて、それから戻した。変なものは入っていない、ということだろう。
「うっ、苦っ」
腕に入ったそれを口に含み、嫦娥はものすごく渋い顔をする。
そんな顔ですら可愛いと思ってしまうんだから、なんていうか、俺は重症です。
「良薬口に苦しでございます娘子、ぐいっと、ここはぐいっと召し上がられてください」
「うう~……」
嫦娥が目に涙を少し浮かべて、一生懸命に薬をのんで、そして「苦い」と言ってるのを俺はなんていうか、割とヨコシマな目で見ていた。
「やい思春期、少し自重せよ」
「うるさいなぁ」
香桐に聞こえないくらいの声で九尾が言って、俺はついそう返す。
「……!? わ、わたくし何かしてしまいましたでしょうかぁあ」
ビクビクと香桐がひれ伏そうとするのを、慌てて止めた。
「違うって。ひとりごと」
「は、はあ……」
「それより、薬。薬師に作ってもらったの?」
嫦娥はまだ渋い顔をして腕を見つめて呟く。
「最高に美味しくないですけど、少し胃がスッキリしました……」
「ですか? じきにもっと効いてきますよ」
にこにこと香桐は言う。
「わたくしの祖父直伝でございます。祖父はいつも酔っ払っておりまして、ゆえに毎朝これを飲んでおりました」
ということは、この薬は香桐が作ったのか。
少し意外な気持ちで、彼女を見つめる。
「お酒は控えた方がいいと伝えてね……」
嫦娥はまだ青い顔をして、ほんのり笑った。
「適度に、と」
「あー。娘子、お気持ちはありがたいのですが、祖父はもう鬼籍に入っておりまして」
「え、あ、わ、ごめん」
「いえいえ随分前のことでして」
少し懐かしそうに、香桐は言う。
「色々と教えてくれたのです。大好きな祖父でした」
「そっかぁ……」
「そうなので……っ、ああっ」
香桐は顔を青くする。なんなら嫦娥よりも。
「薬を煎じたときの薬研と石臼! そのままにしておりました! 女官長にまた怒られます!」
アワアワと居室を出て行く香桐を見つめて、嫦娥は「わるいことしたなー」と呟いた。
「私のために作ってくれたのに、怒られたら申し訳ないです」
「俺からも言っておくよ」
そう言うと、嫦娥は少し安心したように笑った。
「ありがとうございます。でも私からもお願いしてみようと思います」
怒らないでくださいって。
そう言って、嫦娥は立ち上がる。
(どこがいいのですか、って君は言うけれど)
俺は昨夜の会話を思い出す。
(そういうところが、好きなんだよ)
「ざまぁみろ」
「なんだよその答え」
磊なんか嫌いだ、と俺は口を尖らせた。
嫦娥が酔っ払って寝てしまった日の翌日。俺は磊の家にいた。
「ざまぁみろですよ」
ふ、と俺の背後で目を細めてるのは、その「別の男」張本人の浩然。
(まぁ、本人にはぜぇったいに教えてやんないけどね)
磊の看病を任されている浩然は、大学へ行く以外は磊の世話を甲斐甲斐しくやいているらしい。
「というか、嫦娥に酒を飲ませないでください」
「いや、あんなになるとは」
「二度と飲ませないでください」
じとりと睨みつけるけど、飄々と視線を外された。なんか、なんだかなぁ。
「君たち俺のことなんだと思ってるの? 皇帝だよ」
「俺は主人たる磊様準拠なので」
「俺のせいかよ!」
磊が叫ぶのは寝台の上。
(随分回復はしているようだけれど)
顔色なんかは、前よりいい気もする。
「ところで憂炎。なんか分かったのか」
背後にいたやつのことは。
そう聞かれて、俺は首を振る。
「鳳果の助力を得て、色々探索はしているけれど……あれだけのことができる人物となると、なかなか」
「ま、俺の方でも調べさせてもらうけど」
「無理はしないようにね」
よくよく釘を刺して司馬邸を辞す。
城に帰ると、嫦娥が青い顔をしてぐったりしていた。
「あは、大丈夫?」
「うー……大丈夫、デス……」
膝の上の九尾の狐(獅子狗)はぺろぺろと自分の足を舐めている。
「せっかく妾が気を使ったのにのう、酔っ払って寝てしまうとは」
「それの意味が分かんないんだけれどー」
嫦娥はなんとか、って感じで顔を上げた。
「私、何かしました?」
「してないしてない」
俺はにっこりと笑う。
「お酒飲んで、そのままコテンと寝ちゃったよ」
「うう、本当にご迷惑を」
「全然大丈夫だから大丈夫で大丈夫」
笑顔で手を振る。
九尾が呆れたように俺を見た。……なぁお前、ほんとにどっか行ってたよな? もし本当に嫦娥抱いてても、見てなかったよな……?
「とっても頭が痛いです」
「爆発してしまいそうですか嫦娥様!」
嫦娥の宮女、香桐がぱたぱたと居室に駆け込んできた。
持っているのは腕ーー薬?
深緑色の明らかに苦そうな液体が、腕の中でゆらりと揺れた。
「どうぞ、これ。二日酔いに効くのです」
「わー……」
弱々しく嫦娥はそれを受け取る。
九尾がつい、と首をあげて、それから戻した。変なものは入っていない、ということだろう。
「うっ、苦っ」
腕に入ったそれを口に含み、嫦娥はものすごく渋い顔をする。
そんな顔ですら可愛いと思ってしまうんだから、なんていうか、俺は重症です。
「良薬口に苦しでございます娘子、ぐいっと、ここはぐいっと召し上がられてください」
「うう~……」
嫦娥が目に涙を少し浮かべて、一生懸命に薬をのんで、そして「苦い」と言ってるのを俺はなんていうか、割とヨコシマな目で見ていた。
「やい思春期、少し自重せよ」
「うるさいなぁ」
香桐に聞こえないくらいの声で九尾が言って、俺はついそう返す。
「……!? わ、わたくし何かしてしまいましたでしょうかぁあ」
ビクビクと香桐がひれ伏そうとするのを、慌てて止めた。
「違うって。ひとりごと」
「は、はあ……」
「それより、薬。薬師に作ってもらったの?」
嫦娥はまだ渋い顔をして腕を見つめて呟く。
「最高に美味しくないですけど、少し胃がスッキリしました……」
「ですか? じきにもっと効いてきますよ」
にこにこと香桐は言う。
「わたくしの祖父直伝でございます。祖父はいつも酔っ払っておりまして、ゆえに毎朝これを飲んでおりました」
ということは、この薬は香桐が作ったのか。
少し意外な気持ちで、彼女を見つめる。
「お酒は控えた方がいいと伝えてね……」
嫦娥はまだ青い顔をして、ほんのり笑った。
「適度に、と」
「あー。娘子、お気持ちはありがたいのですが、祖父はもう鬼籍に入っておりまして」
「え、あ、わ、ごめん」
「いえいえ随分前のことでして」
少し懐かしそうに、香桐は言う。
「色々と教えてくれたのです。大好きな祖父でした」
「そっかぁ……」
「そうなので……っ、ああっ」
香桐は顔を青くする。なんなら嫦娥よりも。
「薬を煎じたときの薬研と石臼! そのままにしておりました! 女官長にまた怒られます!」
アワアワと居室を出て行く香桐を見つめて、嫦娥は「わるいことしたなー」と呟いた。
「私のために作ってくれたのに、怒られたら申し訳ないです」
「俺からも言っておくよ」
そう言うと、嫦娥は少し安心したように笑った。
「ありがとうございます。でも私からもお願いしてみようと思います」
怒らないでくださいって。
そう言って、嫦娥は立ち上がる。
(どこがいいのですか、って君は言うけれど)
俺は昨夜の会話を思い出す。
(そういうところが、好きなんだよ)
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