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抗争東支部編
予習はしっかりと
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修理費の見積もりを終えて費用を完済した後、俺らはいつも通り任務のルーチンワークをこなし、モチベ的にげっそりとした状態で帰宅した。
執務室の自動引き戸修理代で、南支部合同スケルトン討伐任務でもらった報酬のほとんどを持っていかれてしまい、ただでさえ低いモチベが例えようがないくらい下がってしまった。
まあ俺が全面的に悪いゆえに自業自得みたいなものだが、それでもやるせない気分にはなってしまうのは俺が我儘な体質ゆえだろう。
今日も今日とて疲れて帰ってきたわけだが、俺らの仕事はまだ終わらない。明日からの任務は一泊二日の短期任務。総勢十三万の軍を撃退しなくちゃならない。
正直十三万の軍そのものはどうとでもなるとしても、知らない所に泊まりにいくのはなんだかんだいってストレスである。泊まりの準備も今日中にしなきゃならないし、こういう大事なことは二日前くらいから通知してほしいものだ。予定が合わなかったりしたらどうするつもりだったのだろうか。
まあ特待受注任務だから、この任務が優先になるんだろうけれど。
「とにもかくにも、疲れたー。明日の準備とかはおいといて、とりあえず飯にしようぜ飯に」
畳敷きの床へ盛大に寝転がり、近くに置いてあった座布団を枕代わりに頭に敷く。
任務請負機関に就職してからというもの、御玲が夕飯を作り終えるまでの間、畳敷きの床に寝転がって惰眠を貪っているときが、一番の至福の時になっている。日頃の気疲れの半分以上がここで消化されるのだ。
「うあー、もう夕ご飯の時間かぁ……今日は時間経つの早いや」
もう少しで夢の中にダイブできようとしていたそのとき、エレベータの鐘が鳴り、中から超絶聞き覚えのある声がして、目が覚める。
白衣を着こなす眼鏡野郎はクソうるさい欠伸をしながら、どっさりと俺の向かい側に座った。そういえば、今日は久三男が玄関に出迎えてくれなかったことを思い出す。
「おいうるせぇぞ、疲れてんのは俺もなんだ。もちっと静かに座れや」
「ああ、ごめん兄さん……今日ずっと修理しててさ……一睡もできてないんだ」
「……あ? 待てお前、まさかあのときからずっとか!?」
久三男の何気ない台詞に、思わず勢い良く起き上がる。久三男は予想外のリアクションをとってきたせいか、「お、う、うん」と目を丸くさせて頷いた。
「花筏百代の影響で、案の定ラボターミナル他、流川家の霊子ネットワークがイカれちゃっててさ。その修理をずっとやってたんだ。今やっと佳境に入ったところだよ」
大きく背伸びしながらまたデカい欠伸をする久三男。よく見ると今まで見たことないくらい明確な隈が目の下にできていることに気づく。
久三男は割と高い頻度で徹夜するため、目の下に隈が結構な割合で出ていることが多いが、今回はやつれているように見えるくらい濃い隈ができていた。
俺も存外気疲れしているが、自分以上に物理的に疲れている奴を見ると兄貴としてシャキッとしなきゃならない気持ちが勝る。当初は寝る予定だったが、久三男の愚痴交じりの話を聞くことにした。
久三男の見舞いをした後、俺は寝てしまったが、久三男はひと段落した後にラボターミナルへ向かい、とかく設備の修理に忙殺されていた。
一睡もしていないと言ったが流石に一週間ずっと寝ていないわけではなく、仮眠程度は取っていたようで、今日は偶々徹夜しただけだったようだ。
してその内容だが、聞けば聞くほど俺の任務消化ルーチンがただの子供遊びに思えてくる仕事量で、自分が修理しているわけでもないのに目が回りそうになった。
まず被害に遭ったのは久三男が自信満々に自慢していた霊子コンピュータなるものとラボターミナルの諸設備である。つい最近完成したと息巻いていたやつだが、花筏百代に霊子通信回線を逆探知された影響でオペレーティングシステムだかなんだかの一部が書き換えられてしまい、起動不能になってしまったのだ。
久三男が編み込んだセキュリティを粉砕し、無理矢理霊子通信ネットワークに侵入した花筏百代の痕跡は大きく、霊子コンピュータのほか、霊子通信ネットワークそのものも何割か機能停止。流川第二航宙基地もサーバーのデータが一部吹き飛んだり、接続不良を起こしたりなど不具合が続発し、デバッグとやらにずっとかかりきりだったそうな。
そして現在、霊子通信ネットワークと流川第二航宙基地の修復は粗方終え、霊子コンピュータの修復に尽力しているとのことだ。
「せっかく造ったのに、速攻で壊されるなんて……バックアップとってたとはいえ、メンタルに効くよ……」
テーブルに項垂れる久三男。自分が丹精込めて造ったものが壊されたんだ。気持ちは凄いわかる。
実際、霊子コンピュータとやらに関しては結構な張り切り具合だったし、完成したって言っていたときはかなりのはしゃぎようだった。それゆえに久三男の精神的ダメージたるや、俺の倍以上のものだろう。兄貴として、報酬とか任務のモチベ云々でくよくよしてられないなと改めて思い知らされる。
「でも治せるんだろ? 完全破壊されなくて良かったじゃねぇか」
「まあね……幸い、カーネルは無事だったから外部霊媒から接続して初期化してからバックアップで復元すればなんとかなるけど、動作チェックとかまた一からやり直しだし、それなりに損害被ってるよ……」
ははは、どんまいだぜ、と苦笑い気味に返す。
何のことだかさっぱり分からないが、とりあえず治るってことだけは分かった。大変そうだが俺にできることは何もないので、ここは久三男に任せるとしよう。
「修復作業のせいで、昨日中に治る予定だったあのアンドロイドの子の修理が三日程伸びそうだよ……早く歩かせてあげたいのにな……」
「……ああ、そういやあの女アンドロイド、お前が治してるんだったな」
もう三週間前になるか。女アンドロイドと奮闘した記憶を思い出す。
あの女アンドロイドは片腕だけ金髪野郎に渡した後、家に持ち帰って久三男に渡し、その後は一度たりとも見ていない。姿を見なくなってもうかれこれ三週間ぐらいになるが、昨日中にってことは、結構治りかけていたようだ。
「霊子コンピュータの修理をしないとアンドロイドの子の方は治せないから、どうしても後回しにせざる得ないんだよね……でももうすぐ動かせるようになるから」
久三男は残念そうにしながらも、どこか朗らかな表情を浮かべた。
俺としては、カオティック・ヴァズのときと同様、寝首をかいてくる心配がなければ特に問題視していない。実際ヴァズも当初は敵だったが、味方になってからは裏切る要素皆無だったし、女アンドロイド戦のときは身を呈して働いてくれていた。おそらく久三男の手にかかれば、再び俺たちに危害を加えてくることはないだろう。
味方になった女アンドロイド。あんな化け物並みに強かった敵が味方になると考えると、凄まじい戦力増強になる。
俺たちが寄ってたかっても歯が立たなかった奴だ。久三男の手によって完全に元通りになるだろうし、その実力は未知数になる。敵だったら絶望しかないが、味方になるのならこれほど心強い味方はいないだろう。気長に復活を待つとしますか。
「それで、話変わるんだけどさ」
飯前だってのに、呑気にガムを食い始めた久三男。俺も一服したいのでカートンからタバコを一本取り出して口に咥える。
「次の仕事って中小暴閥とギャングスターの連合軍撃退なんだよね。最近多いね、軍勢もの」
「それなんだよなぁ……」
口に咥えたタバコを指パッチンで点け、テーブルに向かって煙を吐いた。煙が机の上で淀みを生みつつ、ゆっくりと霧散する。
就職してからというもの、大きな任務に二回携わったが、そのどれもが軍隊ものだった。一度目は総勢三万のアンドロイド兵団、二度目は総勢五百の骸骨集団、そして今回は総勢十三万の荒くれ者である。
各々全く繋がりのない任務とはいえ流石に三度目だと辟易してくるのだが、今回は本部からのご指名だ。俺たちはまだ有名でもなんでもないはずだが、これだけ軍勢物ばかりだと金髪野郎のネームバリューに巻き込まれ事故に遭っているとしか思えない。迷惑この上ない話である。
「そういや久三男。敵勢力の詳しい情報、分かるか?」
金髪野郎との任務説明を思い出す。
そういえば、総勢十三万の連合軍だって話は聞いていたが、各勢力の詳細は聞いていない。分かっているのは、暴閥勢力とギャングスターとかいう勢力の連合ということのみである。
前の南支部合同任務のときのように知らなかったら毎度毎度居た堪れない気分になるし、なんなら金髪野郎からもう逐一説明はしないぞと言われたし、クソ面倒だが予習とやらをしようと思ったのだ。
久三男は言われるがまま、俺の求めている情報を話してくれる。
久三男も久三男で設備の修理に没頭していたから、きちんと情報の整理ができていないらしいが、修理する傍ら、動作できる人工霊子衛星で監視は続けてくれていたようだ。分家派も把握していたので、情報は確からしい。
総勢十三万のうち、十一万はギャングスター、二万は暴閥勢力。そのうち凪上家を筆頭とする中小暴閥序列五位以内の連中が総指揮を取り、手駒をかき集めているという。
「前から思ってたんだがよ、その……ギャングスターってなんなんだ? 暴閥とどう違うんだ?」
金髪野郎たちの前で聞けない知識。ギャングスターと暴閥の違い、そしてギャングスターとは何ぞやという話である。
どうせ本人たちに聞いたらまた呆れられるだろうし、ポンチョ女と険悪になるのも正直ダルい。俺には久三男、弥平という知恵袋があるんだし、使わない手はないのだ。
「ギャングスターっていうのは、いわゆる暴力団……腕っ節の強さに自信のある連中が集まった、無法者の集まりのことだよ」
「暴閥と似たようなもんか」
「暴閥はいわゆる戦闘民族……武力統一大戦時代から脈々とその血を紡いできた血族の集まり。要は血の繋がりがあるかないかの違いかなぁ」
「だったら暴閥の方が強ぇ感じか」
「流石だね兄さん、社会的地位は暴閥の方が強いんだ。ギャングスターは一組織当たりの頭数は圧倒的に多いけど、暴閥は一人一人の戦闘能力の水準が高いからね」
ガムをくちゃくちゃ食いながら、テレビゲーム機を起動する。
ギャングスターは基本、腕っ節の強い無法者が集まっているだけあって戦いを好み、中小暴閥に雇われて日銭を稼いでいる場合が多いらしい。
ギャングスターの種類は暴閥に比べ数え切れないほど存在するのだが、今回俺らが相手をするギャングスターは、中威区三大ギャングと言われ名高い``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の二勢力である。
「相変わらず三大だの四大だのと仰々しいのがついてるが、それよりもなんだこのクッソ読みにくい名前は……」
「ギャングスターってなんでか知らないけど大体がこういう名前つけたがるんだよね。多分そういう名付け文化なんじゃないかな」
「カッコいいとか思ってるなら、飛んだ間抜け集団だな……」
久三男がテレビゲームしながら紙に書いてくれたお陰で読めたが、正直ふりがながなかったら読める自信がない。
おそらくだが読めない文字を組み合わせることで自分らのアイデンティティ的なものを表現しているのだろうが、俺からしたらただただ読みにくくてダサいという感想しか出てこない。
武市の二つ名文化もそうだが、武市にいる連中はどこか変な文化を持っている集団が多い気がする。
「そんで、その中威区三大ギャング? ってのはなんなんだ。ソイツらは強ぇのか?」
話を本題に戻そう。俺らは総勢十三万の人間どもを撃退とかいうクソ生ぬるいやり方で相手しなきゃならないわけだが、ギャングスターの勢力図など当然のことながら俺が知るわけがない。というか中小暴閥の勢力図も全く知らないぐらいである。
知らなくても今まで問題にならなかったからだが、予習すると決めた以上、聞けることは身内に聞いておいた方が当日面倒な目に遭わなくて済む。いわゆる、傾向と対策ってやつだ。
「中威区にあるギャングスターの中でも、最大勢力を誇る三つのギャングスターの総称だね。さっき言った二つの他に、もう一つは``疎宇嚠麗餓痢昂``って呼ばれてる」
ガムを頬張る久三男はテレビゲームを嗜みながら解説するというクソ器用な真似を平然とやってのける。
ギャングスターは中威区と上威区に存在しており、その中でも中威区のギャングスターは勢力がピンキリなものが多い。
弱小勢力は銃を持った不良の集まりやただの銃火器をふりかざす暴走族が何も考えず街中を暴れている程度の存在だが、中威区三大ギャングほどの大勢力になると社会的に上位である中小暴閥と雇用関係となり、中小暴閥の代わりに戦争代理や闇取引など汚い仕事をやることがメインになるらしい。
それでもやはり殺し合いが主な仕事となるそうだが、要するに中威区三大ギャングは中威区のギャングの中では最強に位置する存在ってわけだ。
「中威区暴閥の方が強いってことを加味すると……中威区の世界じゃそこそこ強い程度の連中か……大したことなさそうだな」
「まあ僕たちからしたらねぇ……いくら数揃えたところで雑兵だけど」
「他にもなんか教えてくれや」
「今日の兄さん、なんか精力的で気持ち悪いね」
「は? どういう意味だお前」
「い、いや! なんでもないよははは!」
なんだかバカにされた気がするが気のせいだろう。そういうことにして、久三男の説明に耳を傾ける。
ギャングスターの組織構造は、暴閥とは全く異なる。
そもそも血の繋がりがないのだから違うのは当たり前なのだが、ギャングスターはとにかく戦闘能力至上主義であることが特徴として挙げられる。簡単な話、強い奴ほど、その組織の中でより上位の立ち位置にいるということだ。
もう一つの特徴としてギャングスターは大規模な組織であるほど多数の派閥を持ち、その派閥内でのトップを``ボス``、そして全ての派閥を合算したギャングスター全体のトップを``ヘッド``と呼んで区別している。
つまり、その派閥内で最強の奴がボス、そのギャングスター全体で最強の奴がヘッドと言った具合に序列化が成されているわけだ。
暴閥は基本的に数ある当主候補の中から先代の当主が独断と偏見で一人決定して新しい当主が決められ、先代は総帥という立ち位置になって当主をサポートするといった感じだが、ギャングスターの方が本当に個人の強さ重視って感じである。殺伐としてそうなのは想像に難くなかった。
「つーことは、クソみたいな奴らで溢れてそうだなぁ……」
「民度は低いと思うよ。中小暴閥もそれなりに民度低いけど、中威区ギャングともなればチンピラの巣窟なんじゃないかな……」
「うぇー……クソの溜まり場じゃねぇか……よくもまあなんの役にも立ちもしねぇクソ風情のカスが、のうのうと生きられたもんだよな」
「ま、まあ彼らも生きるのに必死だから……」
久三男の若干引き攣った声音に、自分が半ばキレていたことを自覚する。
昔から、それこそ高校に通わされていた頃からチンピラは大嫌いだった。弱い癖に口先だけはデカく、彼我戦力すら読み取る能もない。
弱い癖に声高に喧嘩ふっかけてくるから駄犬か小蝿としか思えてならなかったが、そんなのが集団となって組織として動いていると想像するとなんだかGか何かのように思えてきた。
やっぱり撃退とかクソ生ぬるいやり方なんぞせず、後顧の憂いを絶つ意味で一人残らず皆殺しにしちまった方が良いんじゃなかろうか。
敵だし、無関係の住民をも巻き込んで無差別殺人するわけじゃない。敵を粛清するだけである。俺の信念にも抵触しないし、正直生かしているだけ等しく無意味で無価値な連中に慈悲をかけることそのものが無駄なように思えてならなかった。
「澄男さま。一応言っておきますが、あなたがいうクソ風情のカスたちをどうするかは東支部の人々が決めることですからね? 勝手な真似はなさらないように」
料理を作り終えたのか、夕飯を配膳しに台所から出てきた御玲が心を読んできたかのように釘を刺してくる。
「わーってるよ。仲間を傷つけるような真似さえしなけりゃ東の連中に従うさ」
タバコを吸いながら、壁にもたれて気持ち声音を低めに返す。
今回の任務の総指揮、総責任は東支部にある。俺たちに主導権はない以上、俺だって余計な真似をするつもりはないが、仲間が傷ついた場合は別である。
ギャングスターだか中小暴閥だか知らないが、最初から敵だと分かっている奴らが俺の仲間に傷一つつけようものなら、誰がなんと言おうが跡形もなく消えてもらう。その邪魔をするってんなら、ソイツも問答無用で同類だ。
俺にとって今いる仲間こそ全て。もう木萩澪華のような犠牲を出すわけにはいかない。
「飯の匂いに釣られて参上! オレの名は、カエルそーたいちょー!」
二階からドタドタと階段を降りてくるけたたましい足音が鼓膜を揺らす。
二足歩行の蛙―――カエル総隊長と裸エプロンを常に着ている変態―――シャルと暇あればうんこうんこ言っている子熊―――ナージ、そしてパンツ教信者のミキティウスが、リビングの出入り口でごちゃごちゃし始める。
まだ飯ができたばかりだというのに犬並みの鼻の良さである。コイツらのぬいぐるみ姿を見たせいか、心の中に湧いたざわめきが鳴りを潜めていく。
「久三男さんありがとー! 部屋を用意してくれたおかげで、心おきなくミキティウスをパコれるよ!」
「やっぱ私室があるのとないのとじゃあちげぇよな。まずウンコの出がちげぇぜ」
なんかわけのわからん感想を言い合うシャルとナージ。良かったと言いたいんだろうが素直にそれが伝わらないせいで、久三男の顔は若干引き攣っていた。コイツらの部屋が今どんな惨状と化しているのか、想像するだけで食欲が失せそうだ。
「出入り口でごちゃごちゃ言ってないで、とっとと席についてくださいな」
いつまでもリビングの出入り口でウダウダしているので、御玲が痺れを切らして席に座れと手招きする。元々腹を空かせていた澄連どもは、まるで飯を食う以外頭にないガキのようにさっさと所定の席へついていく。
「ミキティウス、食事ですので頭にかぶってるものを床に置きなさい」
「これはパンツではありません!! マイ箸です!!」
「テメェはパンツで飯食うのか、キモいからマジやめろ」
いつまでも覆面マスクの如くパンツ被っているミキティウスのクレームがリビングに響き渡るが、とりあえず何を言っているのか意味がわからないので俺が頭からパンツを掻っ攫ってリビングの隅に投げ捨てておく。
「ああ!! 俺のパンツが!!」などと言っていたが、さっきパンツじゃないとか言っていたのはなんだったんだろうか。考えるだけ頭痛になりそうなので無視しよう。
「遅れてすまぬな皆の衆。我欲の神パオングが参上仕った」
「いやはや、私どもがどうやら遅かったようですね。待たせて申し訳ない」
地下につながるエレベータの鐘が鳴り、そこから一人の紳士と一匹の象のぬいぐるみが姿を現す。
澄連の中でもダークホースと名高い、パオングとあくのだいまおうも遅れて自分の席につく。
今日、弥平はいない。いつもの如く巫市偵察任務に出ており、帰って来られないのだ。
本当は全員で飯を食いたいが、外回りが仕事である以上、無理やり呼び戻すわけにもいかない。ここは我慢する。
いただきますの号令とともに、主に澄連トリオ辺りがドカドカと食べ始める。そんな中、途中で話が止まっていたギャングスターの話を再開する。
「``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の詳細? んー……はっきり言って大したことないけど……」
などと言い淀みながらも、そこは馬鹿真面目な久三男である。飯をつつきつつ、きちんと教えてくれる。
中威区三大ギャングを成す``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の構成員数は、全派閥合算でそれぞれ総勢三十万人以上。一人一人の質はともかく、数だけなら中小暴閥を遥かに凌駕する莫大な規模を誇る。
そしてもう一つ挙げられるのは、``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``はお互い敵対関係にあることだ。どれくらい敵対しているかというと、お互い街角で遭遇すると即殺し合うくらいには仲が悪いらしい。
どちらも中小暴閥の飼い犬である以上、中小暴閥に見放されると中威区での地位を失いかねないため、組織を維持するためにお互いの存在が邪魔なのだ。中小暴閥の寵愛が欲しくて醜く潰し合っているというのが現状というわけである。
「聞けば聞くほど腹立つ連中だなぁ……」
「でも不思議ですね。そんなに仲が悪いのに、連合を組めてるなんて」
上品に飯を食べつつも、なんか異様に量が多い気がして目を丸くする俺をよそに、澄まし顔で久三男に視線を投げる。
まあ確かに、お互い存在を認識した時点で即殺し合いになるくらい険悪なのに、連合を組めたのはおかしな話である。そんな猿みたいな連中、連合組むどころか周り関係なく殺し合い始めそうなものなのに。
「それこそ中小暴閥からの圧力だよ。なんたって、連合軍の指揮を取ってるのは、中威区の中でも五本指に入る暴閥たちだからね」
大好物のイタリアンドレッシングをサラダにドバドバとかけてむしゃくしゃと草食動物のように食べる久三男は、テーブル上にホログラムモニタを表示させる。
今更な話だが、リビングの家具という家具は、既に久三男の手によって改造されており、見た目に反してどの家具も結構ハイテクだったりする。特に俺たちが今、夕食の食卓として利用している巨大なテーブルも霊力駆動のホログラムモニタ機能やらなにやら、俺が知らない機能が色々と搭載されている始末である。
俺たちからしたら今更なので、テーブルの上から突然ホログラムのなにかしらが飛び出してきてもなんとも思わないが。
「今回、連合軍の指揮を取っているのは凪上家を筆頭とする五つの暴閥。どれも中威区じゃ最大規模を誇る暴閥たちだね」
サラダをむしゃ食いしながらも、久三男の解説は続く。
凪上家を筆頭とする五つの暴閥は上威区暴閥直参の、いわば中威区を牛耳る上位五位以内の暴閥で、武市全体からすると中の上程度の連中である。
俺ら流川からしたら雑魚の集まりでしかないが、中威区に暮らしている連中からしたら頭が上がらない存在であり、さっき言った中威区三大ギャングでさえ彼らの寵愛を欲するほど、中威区内での影響は絶大なものだという。
「だから本来殺し合う連中の頭を押さえられてるってわけか」
「まあ東支部を侵略するっていう目的なら、一応暴閥とギャングたちの利害は一致するからね。彼らからすれば自分たちを排斥した東支部は目の上のたんこぶだろうし」
「そうなのか」
「弥平が言ってたじゃん。その昔、東支部は中小暴閥勢力とギャングスター勢力に掌握されてたって」
「あー……そういやそうだった……ような?」
朧げながらも、弥平が話していたことを思い出す。薄らとだが、就職する支部をどこにするかを決めるときに、東支部をなにかしらの理由で避けたことを想起できた。
久三男や弥平が言っていた通り、東支部はかつて暴閥勢力とギャングスター勢力にやりたい放題好き放題されており、治安が各支部の中で最悪だった頃があった。
それをどうにかしたのが今の東支部代表たる``剛堅のセンゴク``なのだが、ソイツによって排除された暴閥、ギャングスターからすれば、それはそれは気に食わないことだろう。
戦いに負けた以上、自分たちの頭を押さえつけられているわけだ。好き勝手したいと考えている輩からしたら、東支部をぶっ潰してかつての栄光を取り戻したいと思うのは考えるまでもない。ますます腹が立ってくる話である。
「総勢十三万の手駒を集めたんだ、少なからずガチで東支部を潰したがってるのは確実だな」
「東支部が陥落すれば、中威区東部一帯は上威区直系の中小暴閥の天下だからね。そうなれば飼い犬のギャングスターも羽振りが良くなって地位向上に尽力できるってわけ」
どこまでも暗い話に、胸糞悪さで頭がクラクラしてきた。
要はかつての栄光を取り戻すため、平和を謳歌している東支部の連中をどん底に叩き落とし、自分たちは利益と権利を根こそぎいただくという腹か。
親父への復讐のため、一億と十万の人間をぶっ殺した俺が今更善人ぶる気もないし、ぶったところでただの偽善者でしかないけど、ようやく手にした平和を害そうとしているのは不愉快極まりないし、なんならその平和を乱していた連中が逆恨みしているのもまた気に食わない。
正直俺としては、慈悲を与えることなく皆殺しにしてしまった方が絶対後腐れがないと確信しているが、そこは東支部の連中に判断を委ねるしかないのがなんとも歯痒い。
「しかし……東支部、ですか。だとしたら彼とも顔合わせになりますかね」
さっきまで黙々と食事していたあくのだいまおうが、懐から出した真っ白なハンカチでクッソ上品に口を拭く。
テーブル周りをべちゃべちゃにしながらドカ食いしている澄連トリオと違ってあくのだいまおうの所作はどこまでも紳士的だ。食べ方がもはや貴族のそれである。食べ物は至って和風のあっさりとした煮物なのに、まるでどこかの高級レストランが背景で見えてきそうな勢いである。
「……誰のことだ」
箸を置き、訝しげにあくのだいまおうを見やる。御玲は黙々と食べているが、その目はあくのだいまおうに向いており、久三男も心なしか怪しげにあくのだいまおうを見つめている。その影響か、リビングの空気がほんの少し引き締まる。
あくのだいまおうの言葉は俺たちにとって凄まじい影響力を持つ。彼にとっては何気ない発言だとしても、俺らからすれば今後を左右しかねない大事だったりするからだ。
というか、今まで大ごとじゃなかったことなど一度もない。あくのだいまおうの言葉は必ず現実になる。たとえ何気ない一言だったとしても、その詳細を知りたがるのは、もはや俺たちにとって本能のようなものとなっていた。
「いえいえ、大した話ではありませんよ。ただ、あそこには隠居している方がいらっしゃったはずですので」
「パァオング。懐かしき哉、彼奴のことか」
「かつてゾンビアタックの先駆者と謳われた方です。あの方の死に様たるや、毎年笑い話の種になっておりましたからねぇ」
「パァオング、本人は不本意であろうがな。そなたのような者がおるから、隠居したとも言えようぞ」
「ははは、かもしれませんねぇ。あの方も私のことは苦手でしょうし、なにより彼女に傷痕を残されては流石に笑ってはいられないでしょうから」
「パァオング!! 違いない」
お互い酒を注ぎ合いながら、俺らには皆目分からない話を和気藹々と話し出す二人。突然二人だけの世界に入られて、気を引き締めていた俺と御玲と久三男は拍子抜けだ。
「旦那。その話、マジすか?」
そろそろ解説をと思って割って入ろうとした瞬間、ずっとドカ食いしていたはずのカエルが立ち上がり、いつになく真剣な眼差しであくのだいまおうを見つめた。
その顔はいつものふざけたノリとかではなく、稀に見るシリアスなものだ。
「いや……愚問っすね。そうか、隠居したとは聞いていたが、あそこにいやがるのか」
「あー……そういやアイツ、もう隠居して何百年になるんだ? もう三百年は経ったか?」
「分からんな。俺直属の部下じゃないし」
「誰もオメェに聞いてねぇんだよ、黙ってパンツでも食ってろカス」
「ゾンビアタックってアイツだよね? ボクと同じ地位にいたアイツ。分かるねボクには。絶対ボクよりち◯こちっさい」
突然思い思いの台詞を吐き散らかす澄連トリオとミキティウス。相変わらずシャルは意味不明だが、なにやら澄連の旧友らしい。
知りたいような、知りたくないような。でもあくのだいまおうが話題に出すってことは、知っている方が得とも言える。説明しろと言えば対価を要求してきそうで怖いが、一聞の価値はありそうだ。
「お前らが話題にしてるソイツ、何モンなんだ?」
コップ一杯のお茶を飲み干し、さりげなく問いかけてみる。あくのだいまおうの常闇に彩られた瞳が、俺を射抜いた。
「昔の顔見知りですよ。私から直接的な関わりはないのですがね、人間界に隠居している方なんですよ。確か、東支部辺りに居を構えていたな……と、ふと思い出しまして」
「ソイツ、強ぇのか?」
「ふふふ。会えばわかりますよ。きっと彼なら、貴方方のことを悪くは思わないでしょうから」
やはりというべきか、怪しげに微笑むばかりであまり詳しいことは教えてくれない。これ以上引き出そうとすると対価がどうのこうの言い出しそうだし、ここいらでやめておくことにする。
あくのだいまおうに対価を払うときってのは、やっぱり女アンドロイド戦のときみたいな、絶望的な状況ぐらいにしたい。下手に払いまくって大損は避けたいものだ。どっちみち東支部に行けば分かるし、焦る必要もないだろう。
「澄男さま、夕食後は任務の準備をしますので、寝に行かないでくださいね」
「あ。ああ……」
色々話したり考えを巡らせていたら忘れていた。明日からは一泊二日の短期任務。二日以内に手駒十三万の兵隊を撃退できるのかと薄々感じつつも、宿泊の準備とかクソ面倒だなぁ、別に転移の技能球があるし、わざわざ東支部に泊まる必要ないんだけどなぁ、などと思いつつ、俺はまだほんのり温かい煮物を食したのだった。
執務室の自動引き戸修理代で、南支部合同スケルトン討伐任務でもらった報酬のほとんどを持っていかれてしまい、ただでさえ低いモチベが例えようがないくらい下がってしまった。
まあ俺が全面的に悪いゆえに自業自得みたいなものだが、それでもやるせない気分にはなってしまうのは俺が我儘な体質ゆえだろう。
今日も今日とて疲れて帰ってきたわけだが、俺らの仕事はまだ終わらない。明日からの任務は一泊二日の短期任務。総勢十三万の軍を撃退しなくちゃならない。
正直十三万の軍そのものはどうとでもなるとしても、知らない所に泊まりにいくのはなんだかんだいってストレスである。泊まりの準備も今日中にしなきゃならないし、こういう大事なことは二日前くらいから通知してほしいものだ。予定が合わなかったりしたらどうするつもりだったのだろうか。
まあ特待受注任務だから、この任務が優先になるんだろうけれど。
「とにもかくにも、疲れたー。明日の準備とかはおいといて、とりあえず飯にしようぜ飯に」
畳敷きの床へ盛大に寝転がり、近くに置いてあった座布団を枕代わりに頭に敷く。
任務請負機関に就職してからというもの、御玲が夕飯を作り終えるまでの間、畳敷きの床に寝転がって惰眠を貪っているときが、一番の至福の時になっている。日頃の気疲れの半分以上がここで消化されるのだ。
「うあー、もう夕ご飯の時間かぁ……今日は時間経つの早いや」
もう少しで夢の中にダイブできようとしていたそのとき、エレベータの鐘が鳴り、中から超絶聞き覚えのある声がして、目が覚める。
白衣を着こなす眼鏡野郎はクソうるさい欠伸をしながら、どっさりと俺の向かい側に座った。そういえば、今日は久三男が玄関に出迎えてくれなかったことを思い出す。
「おいうるせぇぞ、疲れてんのは俺もなんだ。もちっと静かに座れや」
「ああ、ごめん兄さん……今日ずっと修理しててさ……一睡もできてないんだ」
「……あ? 待てお前、まさかあのときからずっとか!?」
久三男の何気ない台詞に、思わず勢い良く起き上がる。久三男は予想外のリアクションをとってきたせいか、「お、う、うん」と目を丸くさせて頷いた。
「花筏百代の影響で、案の定ラボターミナル他、流川家の霊子ネットワークがイカれちゃっててさ。その修理をずっとやってたんだ。今やっと佳境に入ったところだよ」
大きく背伸びしながらまたデカい欠伸をする久三男。よく見ると今まで見たことないくらい明確な隈が目の下にできていることに気づく。
久三男は割と高い頻度で徹夜するため、目の下に隈が結構な割合で出ていることが多いが、今回はやつれているように見えるくらい濃い隈ができていた。
俺も存外気疲れしているが、自分以上に物理的に疲れている奴を見ると兄貴としてシャキッとしなきゃならない気持ちが勝る。当初は寝る予定だったが、久三男の愚痴交じりの話を聞くことにした。
久三男の見舞いをした後、俺は寝てしまったが、久三男はひと段落した後にラボターミナルへ向かい、とかく設備の修理に忙殺されていた。
一睡もしていないと言ったが流石に一週間ずっと寝ていないわけではなく、仮眠程度は取っていたようで、今日は偶々徹夜しただけだったようだ。
してその内容だが、聞けば聞くほど俺の任務消化ルーチンがただの子供遊びに思えてくる仕事量で、自分が修理しているわけでもないのに目が回りそうになった。
まず被害に遭ったのは久三男が自信満々に自慢していた霊子コンピュータなるものとラボターミナルの諸設備である。つい最近完成したと息巻いていたやつだが、花筏百代に霊子通信回線を逆探知された影響でオペレーティングシステムだかなんだかの一部が書き換えられてしまい、起動不能になってしまったのだ。
久三男が編み込んだセキュリティを粉砕し、無理矢理霊子通信ネットワークに侵入した花筏百代の痕跡は大きく、霊子コンピュータのほか、霊子通信ネットワークそのものも何割か機能停止。流川第二航宙基地もサーバーのデータが一部吹き飛んだり、接続不良を起こしたりなど不具合が続発し、デバッグとやらにずっとかかりきりだったそうな。
そして現在、霊子通信ネットワークと流川第二航宙基地の修復は粗方終え、霊子コンピュータの修復に尽力しているとのことだ。
「せっかく造ったのに、速攻で壊されるなんて……バックアップとってたとはいえ、メンタルに効くよ……」
テーブルに項垂れる久三男。自分が丹精込めて造ったものが壊されたんだ。気持ちは凄いわかる。
実際、霊子コンピュータとやらに関しては結構な張り切り具合だったし、完成したって言っていたときはかなりのはしゃぎようだった。それゆえに久三男の精神的ダメージたるや、俺の倍以上のものだろう。兄貴として、報酬とか任務のモチベ云々でくよくよしてられないなと改めて思い知らされる。
「でも治せるんだろ? 完全破壊されなくて良かったじゃねぇか」
「まあね……幸い、カーネルは無事だったから外部霊媒から接続して初期化してからバックアップで復元すればなんとかなるけど、動作チェックとかまた一からやり直しだし、それなりに損害被ってるよ……」
ははは、どんまいだぜ、と苦笑い気味に返す。
何のことだかさっぱり分からないが、とりあえず治るってことだけは分かった。大変そうだが俺にできることは何もないので、ここは久三男に任せるとしよう。
「修復作業のせいで、昨日中に治る予定だったあのアンドロイドの子の修理が三日程伸びそうだよ……早く歩かせてあげたいのにな……」
「……ああ、そういやあの女アンドロイド、お前が治してるんだったな」
もう三週間前になるか。女アンドロイドと奮闘した記憶を思い出す。
あの女アンドロイドは片腕だけ金髪野郎に渡した後、家に持ち帰って久三男に渡し、その後は一度たりとも見ていない。姿を見なくなってもうかれこれ三週間ぐらいになるが、昨日中にってことは、結構治りかけていたようだ。
「霊子コンピュータの修理をしないとアンドロイドの子の方は治せないから、どうしても後回しにせざる得ないんだよね……でももうすぐ動かせるようになるから」
久三男は残念そうにしながらも、どこか朗らかな表情を浮かべた。
俺としては、カオティック・ヴァズのときと同様、寝首をかいてくる心配がなければ特に問題視していない。実際ヴァズも当初は敵だったが、味方になってからは裏切る要素皆無だったし、女アンドロイド戦のときは身を呈して働いてくれていた。おそらく久三男の手にかかれば、再び俺たちに危害を加えてくることはないだろう。
味方になった女アンドロイド。あんな化け物並みに強かった敵が味方になると考えると、凄まじい戦力増強になる。
俺たちが寄ってたかっても歯が立たなかった奴だ。久三男の手によって完全に元通りになるだろうし、その実力は未知数になる。敵だったら絶望しかないが、味方になるのならこれほど心強い味方はいないだろう。気長に復活を待つとしますか。
「それで、話変わるんだけどさ」
飯前だってのに、呑気にガムを食い始めた久三男。俺も一服したいのでカートンからタバコを一本取り出して口に咥える。
「次の仕事って中小暴閥とギャングスターの連合軍撃退なんだよね。最近多いね、軍勢もの」
「それなんだよなぁ……」
口に咥えたタバコを指パッチンで点け、テーブルに向かって煙を吐いた。煙が机の上で淀みを生みつつ、ゆっくりと霧散する。
就職してからというもの、大きな任務に二回携わったが、そのどれもが軍隊ものだった。一度目は総勢三万のアンドロイド兵団、二度目は総勢五百の骸骨集団、そして今回は総勢十三万の荒くれ者である。
各々全く繋がりのない任務とはいえ流石に三度目だと辟易してくるのだが、今回は本部からのご指名だ。俺たちはまだ有名でもなんでもないはずだが、これだけ軍勢物ばかりだと金髪野郎のネームバリューに巻き込まれ事故に遭っているとしか思えない。迷惑この上ない話である。
「そういや久三男。敵勢力の詳しい情報、分かるか?」
金髪野郎との任務説明を思い出す。
そういえば、総勢十三万の連合軍だって話は聞いていたが、各勢力の詳細は聞いていない。分かっているのは、暴閥勢力とギャングスターとかいう勢力の連合ということのみである。
前の南支部合同任務のときのように知らなかったら毎度毎度居た堪れない気分になるし、なんなら金髪野郎からもう逐一説明はしないぞと言われたし、クソ面倒だが予習とやらをしようと思ったのだ。
久三男は言われるがまま、俺の求めている情報を話してくれる。
久三男も久三男で設備の修理に没頭していたから、きちんと情報の整理ができていないらしいが、修理する傍ら、動作できる人工霊子衛星で監視は続けてくれていたようだ。分家派も把握していたので、情報は確からしい。
総勢十三万のうち、十一万はギャングスター、二万は暴閥勢力。そのうち凪上家を筆頭とする中小暴閥序列五位以内の連中が総指揮を取り、手駒をかき集めているという。
「前から思ってたんだがよ、その……ギャングスターってなんなんだ? 暴閥とどう違うんだ?」
金髪野郎たちの前で聞けない知識。ギャングスターと暴閥の違い、そしてギャングスターとは何ぞやという話である。
どうせ本人たちに聞いたらまた呆れられるだろうし、ポンチョ女と険悪になるのも正直ダルい。俺には久三男、弥平という知恵袋があるんだし、使わない手はないのだ。
「ギャングスターっていうのは、いわゆる暴力団……腕っ節の強さに自信のある連中が集まった、無法者の集まりのことだよ」
「暴閥と似たようなもんか」
「暴閥はいわゆる戦闘民族……武力統一大戦時代から脈々とその血を紡いできた血族の集まり。要は血の繋がりがあるかないかの違いかなぁ」
「だったら暴閥の方が強ぇ感じか」
「流石だね兄さん、社会的地位は暴閥の方が強いんだ。ギャングスターは一組織当たりの頭数は圧倒的に多いけど、暴閥は一人一人の戦闘能力の水準が高いからね」
ガムをくちゃくちゃ食いながら、テレビゲーム機を起動する。
ギャングスターは基本、腕っ節の強い無法者が集まっているだけあって戦いを好み、中小暴閥に雇われて日銭を稼いでいる場合が多いらしい。
ギャングスターの種類は暴閥に比べ数え切れないほど存在するのだが、今回俺らが相手をするギャングスターは、中威区三大ギャングと言われ名高い``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の二勢力である。
「相変わらず三大だの四大だのと仰々しいのがついてるが、それよりもなんだこのクッソ読みにくい名前は……」
「ギャングスターってなんでか知らないけど大体がこういう名前つけたがるんだよね。多分そういう名付け文化なんじゃないかな」
「カッコいいとか思ってるなら、飛んだ間抜け集団だな……」
久三男がテレビゲームしながら紙に書いてくれたお陰で読めたが、正直ふりがながなかったら読める自信がない。
おそらくだが読めない文字を組み合わせることで自分らのアイデンティティ的なものを表現しているのだろうが、俺からしたらただただ読みにくくてダサいという感想しか出てこない。
武市の二つ名文化もそうだが、武市にいる連中はどこか変な文化を持っている集団が多い気がする。
「そんで、その中威区三大ギャング? ってのはなんなんだ。ソイツらは強ぇのか?」
話を本題に戻そう。俺らは総勢十三万の人間どもを撃退とかいうクソ生ぬるいやり方で相手しなきゃならないわけだが、ギャングスターの勢力図など当然のことながら俺が知るわけがない。というか中小暴閥の勢力図も全く知らないぐらいである。
知らなくても今まで問題にならなかったからだが、予習すると決めた以上、聞けることは身内に聞いておいた方が当日面倒な目に遭わなくて済む。いわゆる、傾向と対策ってやつだ。
「中威区にあるギャングスターの中でも、最大勢力を誇る三つのギャングスターの総称だね。さっき言った二つの他に、もう一つは``疎宇嚠麗餓痢昂``って呼ばれてる」
ガムを頬張る久三男はテレビゲームを嗜みながら解説するというクソ器用な真似を平然とやってのける。
ギャングスターは中威区と上威区に存在しており、その中でも中威区のギャングスターは勢力がピンキリなものが多い。
弱小勢力は銃を持った不良の集まりやただの銃火器をふりかざす暴走族が何も考えず街中を暴れている程度の存在だが、中威区三大ギャングほどの大勢力になると社会的に上位である中小暴閥と雇用関係となり、中小暴閥の代わりに戦争代理や闇取引など汚い仕事をやることがメインになるらしい。
それでもやはり殺し合いが主な仕事となるそうだが、要するに中威区三大ギャングは中威区のギャングの中では最強に位置する存在ってわけだ。
「中威区暴閥の方が強いってことを加味すると……中威区の世界じゃそこそこ強い程度の連中か……大したことなさそうだな」
「まあ僕たちからしたらねぇ……いくら数揃えたところで雑兵だけど」
「他にもなんか教えてくれや」
「今日の兄さん、なんか精力的で気持ち悪いね」
「は? どういう意味だお前」
「い、いや! なんでもないよははは!」
なんだかバカにされた気がするが気のせいだろう。そういうことにして、久三男の説明に耳を傾ける。
ギャングスターの組織構造は、暴閥とは全く異なる。
そもそも血の繋がりがないのだから違うのは当たり前なのだが、ギャングスターはとにかく戦闘能力至上主義であることが特徴として挙げられる。簡単な話、強い奴ほど、その組織の中でより上位の立ち位置にいるということだ。
もう一つの特徴としてギャングスターは大規模な組織であるほど多数の派閥を持ち、その派閥内でのトップを``ボス``、そして全ての派閥を合算したギャングスター全体のトップを``ヘッド``と呼んで区別している。
つまり、その派閥内で最強の奴がボス、そのギャングスター全体で最強の奴がヘッドと言った具合に序列化が成されているわけだ。
暴閥は基本的に数ある当主候補の中から先代の当主が独断と偏見で一人決定して新しい当主が決められ、先代は総帥という立ち位置になって当主をサポートするといった感じだが、ギャングスターの方が本当に個人の強さ重視って感じである。殺伐としてそうなのは想像に難くなかった。
「つーことは、クソみたいな奴らで溢れてそうだなぁ……」
「民度は低いと思うよ。中小暴閥もそれなりに民度低いけど、中威区ギャングともなればチンピラの巣窟なんじゃないかな……」
「うぇー……クソの溜まり場じゃねぇか……よくもまあなんの役にも立ちもしねぇクソ風情のカスが、のうのうと生きられたもんだよな」
「ま、まあ彼らも生きるのに必死だから……」
久三男の若干引き攣った声音に、自分が半ばキレていたことを自覚する。
昔から、それこそ高校に通わされていた頃からチンピラは大嫌いだった。弱い癖に口先だけはデカく、彼我戦力すら読み取る能もない。
弱い癖に声高に喧嘩ふっかけてくるから駄犬か小蝿としか思えてならなかったが、そんなのが集団となって組織として動いていると想像するとなんだかGか何かのように思えてきた。
やっぱり撃退とかクソ生ぬるいやり方なんぞせず、後顧の憂いを絶つ意味で一人残らず皆殺しにしちまった方が良いんじゃなかろうか。
敵だし、無関係の住民をも巻き込んで無差別殺人するわけじゃない。敵を粛清するだけである。俺の信念にも抵触しないし、正直生かしているだけ等しく無意味で無価値な連中に慈悲をかけることそのものが無駄なように思えてならなかった。
「澄男さま。一応言っておきますが、あなたがいうクソ風情のカスたちをどうするかは東支部の人々が決めることですからね? 勝手な真似はなさらないように」
料理を作り終えたのか、夕飯を配膳しに台所から出てきた御玲が心を読んできたかのように釘を刺してくる。
「わーってるよ。仲間を傷つけるような真似さえしなけりゃ東の連中に従うさ」
タバコを吸いながら、壁にもたれて気持ち声音を低めに返す。
今回の任務の総指揮、総責任は東支部にある。俺たちに主導権はない以上、俺だって余計な真似をするつもりはないが、仲間が傷ついた場合は別である。
ギャングスターだか中小暴閥だか知らないが、最初から敵だと分かっている奴らが俺の仲間に傷一つつけようものなら、誰がなんと言おうが跡形もなく消えてもらう。その邪魔をするってんなら、ソイツも問答無用で同類だ。
俺にとって今いる仲間こそ全て。もう木萩澪華のような犠牲を出すわけにはいかない。
「飯の匂いに釣られて参上! オレの名は、カエルそーたいちょー!」
二階からドタドタと階段を降りてくるけたたましい足音が鼓膜を揺らす。
二足歩行の蛙―――カエル総隊長と裸エプロンを常に着ている変態―――シャルと暇あればうんこうんこ言っている子熊―――ナージ、そしてパンツ教信者のミキティウスが、リビングの出入り口でごちゃごちゃし始める。
まだ飯ができたばかりだというのに犬並みの鼻の良さである。コイツらのぬいぐるみ姿を見たせいか、心の中に湧いたざわめきが鳴りを潜めていく。
「久三男さんありがとー! 部屋を用意してくれたおかげで、心おきなくミキティウスをパコれるよ!」
「やっぱ私室があるのとないのとじゃあちげぇよな。まずウンコの出がちげぇぜ」
なんかわけのわからん感想を言い合うシャルとナージ。良かったと言いたいんだろうが素直にそれが伝わらないせいで、久三男の顔は若干引き攣っていた。コイツらの部屋が今どんな惨状と化しているのか、想像するだけで食欲が失せそうだ。
「出入り口でごちゃごちゃ言ってないで、とっとと席についてくださいな」
いつまでもリビングの出入り口でウダウダしているので、御玲が痺れを切らして席に座れと手招きする。元々腹を空かせていた澄連どもは、まるで飯を食う以外頭にないガキのようにさっさと所定の席へついていく。
「ミキティウス、食事ですので頭にかぶってるものを床に置きなさい」
「これはパンツではありません!! マイ箸です!!」
「テメェはパンツで飯食うのか、キモいからマジやめろ」
いつまでも覆面マスクの如くパンツ被っているミキティウスのクレームがリビングに響き渡るが、とりあえず何を言っているのか意味がわからないので俺が頭からパンツを掻っ攫ってリビングの隅に投げ捨てておく。
「ああ!! 俺のパンツが!!」などと言っていたが、さっきパンツじゃないとか言っていたのはなんだったんだろうか。考えるだけ頭痛になりそうなので無視しよう。
「遅れてすまぬな皆の衆。我欲の神パオングが参上仕った」
「いやはや、私どもがどうやら遅かったようですね。待たせて申し訳ない」
地下につながるエレベータの鐘が鳴り、そこから一人の紳士と一匹の象のぬいぐるみが姿を現す。
澄連の中でもダークホースと名高い、パオングとあくのだいまおうも遅れて自分の席につく。
今日、弥平はいない。いつもの如く巫市偵察任務に出ており、帰って来られないのだ。
本当は全員で飯を食いたいが、外回りが仕事である以上、無理やり呼び戻すわけにもいかない。ここは我慢する。
いただきますの号令とともに、主に澄連トリオ辺りがドカドカと食べ始める。そんな中、途中で話が止まっていたギャングスターの話を再開する。
「``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の詳細? んー……はっきり言って大したことないけど……」
などと言い淀みながらも、そこは馬鹿真面目な久三男である。飯をつつきつつ、きちんと教えてくれる。
中威区三大ギャングを成す``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``の構成員数は、全派閥合算でそれぞれ総勢三十万人以上。一人一人の質はともかく、数だけなら中小暴閥を遥かに凌駕する莫大な規模を誇る。
そしてもう一つ挙げられるのは、``堕阿愚砲王捨``と``疽雄醒瘻剥瘻``はお互い敵対関係にあることだ。どれくらい敵対しているかというと、お互い街角で遭遇すると即殺し合うくらいには仲が悪いらしい。
どちらも中小暴閥の飼い犬である以上、中小暴閥に見放されると中威区での地位を失いかねないため、組織を維持するためにお互いの存在が邪魔なのだ。中小暴閥の寵愛が欲しくて醜く潰し合っているというのが現状というわけである。
「聞けば聞くほど腹立つ連中だなぁ……」
「でも不思議ですね。そんなに仲が悪いのに、連合を組めてるなんて」
上品に飯を食べつつも、なんか異様に量が多い気がして目を丸くする俺をよそに、澄まし顔で久三男に視線を投げる。
まあ確かに、お互い存在を認識した時点で即殺し合いになるくらい険悪なのに、連合を組めたのはおかしな話である。そんな猿みたいな連中、連合組むどころか周り関係なく殺し合い始めそうなものなのに。
「それこそ中小暴閥からの圧力だよ。なんたって、連合軍の指揮を取ってるのは、中威区の中でも五本指に入る暴閥たちだからね」
大好物のイタリアンドレッシングをサラダにドバドバとかけてむしゃくしゃと草食動物のように食べる久三男は、テーブル上にホログラムモニタを表示させる。
今更な話だが、リビングの家具という家具は、既に久三男の手によって改造されており、見た目に反してどの家具も結構ハイテクだったりする。特に俺たちが今、夕食の食卓として利用している巨大なテーブルも霊力駆動のホログラムモニタ機能やらなにやら、俺が知らない機能が色々と搭載されている始末である。
俺たちからしたら今更なので、テーブルの上から突然ホログラムのなにかしらが飛び出してきてもなんとも思わないが。
「今回、連合軍の指揮を取っているのは凪上家を筆頭とする五つの暴閥。どれも中威区じゃ最大規模を誇る暴閥たちだね」
サラダをむしゃ食いしながらも、久三男の解説は続く。
凪上家を筆頭とする五つの暴閥は上威区暴閥直参の、いわば中威区を牛耳る上位五位以内の暴閥で、武市全体からすると中の上程度の連中である。
俺ら流川からしたら雑魚の集まりでしかないが、中威区に暮らしている連中からしたら頭が上がらない存在であり、さっき言った中威区三大ギャングでさえ彼らの寵愛を欲するほど、中威区内での影響は絶大なものだという。
「だから本来殺し合う連中の頭を押さえられてるってわけか」
「まあ東支部を侵略するっていう目的なら、一応暴閥とギャングたちの利害は一致するからね。彼らからすれば自分たちを排斥した東支部は目の上のたんこぶだろうし」
「そうなのか」
「弥平が言ってたじゃん。その昔、東支部は中小暴閥勢力とギャングスター勢力に掌握されてたって」
「あー……そういやそうだった……ような?」
朧げながらも、弥平が話していたことを思い出す。薄らとだが、就職する支部をどこにするかを決めるときに、東支部をなにかしらの理由で避けたことを想起できた。
久三男や弥平が言っていた通り、東支部はかつて暴閥勢力とギャングスター勢力にやりたい放題好き放題されており、治安が各支部の中で最悪だった頃があった。
それをどうにかしたのが今の東支部代表たる``剛堅のセンゴク``なのだが、ソイツによって排除された暴閥、ギャングスターからすれば、それはそれは気に食わないことだろう。
戦いに負けた以上、自分たちの頭を押さえつけられているわけだ。好き勝手したいと考えている輩からしたら、東支部をぶっ潰してかつての栄光を取り戻したいと思うのは考えるまでもない。ますます腹が立ってくる話である。
「総勢十三万の手駒を集めたんだ、少なからずガチで東支部を潰したがってるのは確実だな」
「東支部が陥落すれば、中威区東部一帯は上威区直系の中小暴閥の天下だからね。そうなれば飼い犬のギャングスターも羽振りが良くなって地位向上に尽力できるってわけ」
どこまでも暗い話に、胸糞悪さで頭がクラクラしてきた。
要はかつての栄光を取り戻すため、平和を謳歌している東支部の連中をどん底に叩き落とし、自分たちは利益と権利を根こそぎいただくという腹か。
親父への復讐のため、一億と十万の人間をぶっ殺した俺が今更善人ぶる気もないし、ぶったところでただの偽善者でしかないけど、ようやく手にした平和を害そうとしているのは不愉快極まりないし、なんならその平和を乱していた連中が逆恨みしているのもまた気に食わない。
正直俺としては、慈悲を与えることなく皆殺しにしてしまった方が絶対後腐れがないと確信しているが、そこは東支部の連中に判断を委ねるしかないのがなんとも歯痒い。
「しかし……東支部、ですか。だとしたら彼とも顔合わせになりますかね」
さっきまで黙々と食事していたあくのだいまおうが、懐から出した真っ白なハンカチでクッソ上品に口を拭く。
テーブル周りをべちゃべちゃにしながらドカ食いしている澄連トリオと違ってあくのだいまおうの所作はどこまでも紳士的だ。食べ方がもはや貴族のそれである。食べ物は至って和風のあっさりとした煮物なのに、まるでどこかの高級レストランが背景で見えてきそうな勢いである。
「……誰のことだ」
箸を置き、訝しげにあくのだいまおうを見やる。御玲は黙々と食べているが、その目はあくのだいまおうに向いており、久三男も心なしか怪しげにあくのだいまおうを見つめている。その影響か、リビングの空気がほんの少し引き締まる。
あくのだいまおうの言葉は俺たちにとって凄まじい影響力を持つ。彼にとっては何気ない発言だとしても、俺らからすれば今後を左右しかねない大事だったりするからだ。
というか、今まで大ごとじゃなかったことなど一度もない。あくのだいまおうの言葉は必ず現実になる。たとえ何気ない一言だったとしても、その詳細を知りたがるのは、もはや俺たちにとって本能のようなものとなっていた。
「いえいえ、大した話ではありませんよ。ただ、あそこには隠居している方がいらっしゃったはずですので」
「パァオング。懐かしき哉、彼奴のことか」
「かつてゾンビアタックの先駆者と謳われた方です。あの方の死に様たるや、毎年笑い話の種になっておりましたからねぇ」
「パァオング、本人は不本意であろうがな。そなたのような者がおるから、隠居したとも言えようぞ」
「ははは、かもしれませんねぇ。あの方も私のことは苦手でしょうし、なにより彼女に傷痕を残されては流石に笑ってはいられないでしょうから」
「パァオング!! 違いない」
お互い酒を注ぎ合いながら、俺らには皆目分からない話を和気藹々と話し出す二人。突然二人だけの世界に入られて、気を引き締めていた俺と御玲と久三男は拍子抜けだ。
「旦那。その話、マジすか?」
そろそろ解説をと思って割って入ろうとした瞬間、ずっとドカ食いしていたはずのカエルが立ち上がり、いつになく真剣な眼差しであくのだいまおうを見つめた。
その顔はいつものふざけたノリとかではなく、稀に見るシリアスなものだ。
「いや……愚問っすね。そうか、隠居したとは聞いていたが、あそこにいやがるのか」
「あー……そういやアイツ、もう隠居して何百年になるんだ? もう三百年は経ったか?」
「分からんな。俺直属の部下じゃないし」
「誰もオメェに聞いてねぇんだよ、黙ってパンツでも食ってろカス」
「ゾンビアタックってアイツだよね? ボクと同じ地位にいたアイツ。分かるねボクには。絶対ボクよりち◯こちっさい」
突然思い思いの台詞を吐き散らかす澄連トリオとミキティウス。相変わらずシャルは意味不明だが、なにやら澄連の旧友らしい。
知りたいような、知りたくないような。でもあくのだいまおうが話題に出すってことは、知っている方が得とも言える。説明しろと言えば対価を要求してきそうで怖いが、一聞の価値はありそうだ。
「お前らが話題にしてるソイツ、何モンなんだ?」
コップ一杯のお茶を飲み干し、さりげなく問いかけてみる。あくのだいまおうの常闇に彩られた瞳が、俺を射抜いた。
「昔の顔見知りですよ。私から直接的な関わりはないのですがね、人間界に隠居している方なんですよ。確か、東支部辺りに居を構えていたな……と、ふと思い出しまして」
「ソイツ、強ぇのか?」
「ふふふ。会えばわかりますよ。きっと彼なら、貴方方のことを悪くは思わないでしょうから」
やはりというべきか、怪しげに微笑むばかりであまり詳しいことは教えてくれない。これ以上引き出そうとすると対価がどうのこうの言い出しそうだし、ここいらでやめておくことにする。
あくのだいまおうに対価を払うときってのは、やっぱり女アンドロイド戦のときみたいな、絶望的な状況ぐらいにしたい。下手に払いまくって大損は避けたいものだ。どっちみち東支部に行けば分かるし、焦る必要もないだろう。
「澄男さま、夕食後は任務の準備をしますので、寝に行かないでくださいね」
「あ。ああ……」
色々話したり考えを巡らせていたら忘れていた。明日からは一泊二日の短期任務。二日以内に手駒十三万の兵隊を撃退できるのかと薄々感じつつも、宿泊の準備とかクソ面倒だなぁ、別に転移の技能球があるし、わざわざ東支部に泊まる必要ないんだけどなぁ、などと思いつつ、俺はまだほんのり温かい煮物を食したのだった。
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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
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生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
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これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
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仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
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