無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

文字の大きさ
49 / 121
抗争東支部編

メイドの談話

しおりを挟む
 澄男すみおがあてがわれた自室へと飛び込み、後を追うようにレク・ホーランも自室へと入った後。フリージアたちに誘導され、一泊する予定の部屋に入った。

 レク・ホーランが澄男すみおの奇行に対して懸命に弁明していたが、突然霊圧を放ち威圧してくる新人請負人の印象改善には足りない。エルシアとフリージアは依然として非難の目を向けていたが、レク・ホーランの弁明でなんとか引き下がってくれた。

 まったく、人騒がせな主人である。彼の抱えている事情が事情なだけに、気持ちは分からなくもないのがせめてもの救いだが、それでも場を弁えてもらわないと対処しきれない場合も考えられるし、あまり無茶はしないでほしい。

 自室で拗ねているか、不貞寝しているであろう澄男すみおを想像しつつも、部屋を一望してみる。

 あてがわれた自室はホテルの宿泊室ぐらいの広さがあり、二人の分のベッドと最低限の家具が置いてあるのみ。贅沢なところを言えば風呂と洗面所が分かたれたセパレート、窓には女性が泊まることを考慮してか絹製のカーテンが使われていることくらいか。

 メイドとして務め始めてもう四ヶ月。部屋を軽く見渡すだけで、部屋の使い込みが直感的に分かるくらいには観察眼が成長していることを自覚する。

 家具の少なさや掃除が無駄に行き届いていること、宿泊室にしては装飾がほとんどないこと、そしてカーテン等の布地の新品さ。それらを加味して考えるに、この部屋は本来ただの空き部屋なのだと思われた。

 ちなみに部屋は自分だけが使うわけではない。二人分のベッドが置いてあることから分かる通り、もう一人は現在イラと迷宮作成に従事しているブルー・ペグランタンである。

「何か入用があれば気軽に訪ねてくれ。では」

 案内を終えたエルシアは、用は済んだと言わんばかりに扉を閉めようとする。

 案内人としては当然の反応だ。自分と彼女らは親しいわけではない。この合同任務が終われば今後関わるかどうかも分からない相手だし、そもそもこの合同任務は南支部のときとは違ってビジネス寄りの任務だ。各々やるべきことをなす。ただそれだけの関係である。

 自分もその関係を超える気はない。ただ強いて言うならば、贅沢なのかもしれないが―――余裕があるうちに動けるなら動いておくべきなのだと、そう考えたがゆえの行動だったのかもしれない。

「あの……私から一つ、お願いがあるのですが」

 閉ざされようとした扉は、完全に向こう側の世界と分け隔たれる前にその動きを止めた。自分の声に反応し、扉を開けてエルシアが視線を投げてくる。

「まだ時間もありますし、この中威区なかのいく東部のことや、東支部のこと……教えていただけませんか?」

「……貴女は確か、北支部の新人だったな? それに先程の新人請負人と主従の関係にあるようだが……失礼ながら問いたい。それは主の命か?」

「いえ。私自身の意志ですが」

 質問の意図が分からず、首を傾げつつも正直に答える。

 確かに今の澄男すみおは使い物にならないので、メイドとして代わりに情報収集しようという意図もないわけではないのだが、自分としてはそれが主目的ではない。単純に時間に空きがあるので、蓄えられる知識は蓄えておこうという己の知識欲を満たしたいがための言動だ。

「そうか。いや、失礼なことを聞いた。確かに、夕食までまだ時間がある。私が答えられる範囲でなら答えよう」

「では、ちょうどあちらにテーブルと椅子が二脚あります。そこでお話でもいかがですか」

 そうだな、という一言とともにエルシアはフリージアに先に行けと顎でしゃくって指示し、フリージアは軽く会釈で応対してその場を去る。

 エルシアが席に着くまでの間、カーテンを開け、戸棚からなにやら物がたくさんしまってある戸棚を開ける。

 だが映り込んできたその物たちによって、その手はすぐに止まってしまった。

 珈琲の粉が入った瓶やコーヒーメーカーが使ってくださいと言わんばかりに置いてあるのもさながら、驚くべきは紅茶の茶葉の種類で、目に入った茶葉だけでもアッサム、ダージリン、アールグレイ、セイロン、ディンブラ、ウバ―――と、一口含んだことのあるものから初めて見る銘柄まで、異常に豊富だった。

 沸騰した熱湯を数分で沸かせられる簡易ポットや、数百束のシュガーと角砂糖の袋まで親切に置いてある始末だ。

 流石に酒類は置いていなかったが、家具は最低限のものしか置いていないのに、明らかに必要ない嗜好品が置いてあるのはなぜだろうか。あまり親しくない北支部の者たちが来訪するから、奮発したのだろうか。それにしても、準備が良すぎるような気がするのだが。

「むむ……セレスめ。あれほど贅沢品は買い揃えるなと忠告したのだが……」

 戸棚で何の茶葉を使うべきか迷っている背で、エルシアは椅子に座って腕を組み、眉尻を上げながら嘆息する。

 どうやら犯人は、あのあくのだいまおうに似た、例の怪しげな雰囲気を醸し出す紳士の仕業だったらしい。これだけの茶葉をそろえているあたり、かなりの紅茶好きのようだ。

「えっと……何にします?」

「……ではダージリンをいただこう」

「お砂糖は?」

「テーブルに置いておいてくれ、自分で入れる」

 ダージリンの茶葉と簡易ポットを取り出し、水道からポットに水を灌ぐ。

 簡易ポッドとはいえ、常温の水道水が沸騰するまではやはり数分かかる。その間にティーカップを二人分用意し、数十本のシュガーと角砂糖数十個を別容器に入れてテーブルの上に置いた。

 自分はとりあえずストレートだ。

「して……聞きたいこととは?」

 自分も席に着くと、エルシアは肘をテーブルに置き、その真っすぐな視線をこちらに向けてきた。

 聞きたいことは大まかに二つ。中威区なかのいく東部の時世や、東支部の実情である。どちらも久三男くみお弥平みつひらに聞けば分かることではあるが、あまり彼らに頼ってばかりにはいられない。

 なにより現地人とコミュニケーションを取らないのでは、人間関係の輪はいつまで経っても広がらない。無理に広げる必要はないにせよ、ギクシャクしない程度の関係や常識は備えておきたいところだ。

 なおかつ自分の知識欲も満たせる。勉強は時間と精神の余裕のあるときにやっておくと後々楽になるのだ。

「そうですね……では中威区なかのいく東部の時世について」

 脳内で優先順位を付けた結果を口に出す。

 ただ知識欲を満たすだけではもったいない。時間は有限ゆえに、今後も利用するであろう情報を先に仕入れておくのが現時点における最適な選択だ。

 東支部の内情は今後彼女たちと関わるか分からないし、あまり深入りすると彼女たちの地雷を踏みかねない。ならば、まず聞くべきは今自分がいるこの地域―――中威区なかのいく東部中小暴閥ぼうばつ自治区の時世であろう。

 エルシアは顎に手を当て、少しばかり思案に身を委ねた後、またこちらに視線を戻してきた。

「先程の会議でも言った通り、この中威区なかのいく東部は凪上なぎうえ家含む中位暴閥ぼうばつが覇権を握らんとしている暴閥ぼうばつ自治区だ。我ら東支部は中位暴閥ぼうばつとそれらにくみするギャングスターに支配権を握らせないようにするため、この地区の治安を守っている」

「その言葉尻からして……無礼を承知でお聞き致しますが、治安はあまりよろしくないのですか?」

「まあ……良いとは言えないな。東支部請負人は都市の警邏けいらが主な仕事だが、それでもギャングスターの小規模紛争や弱者の不合理な搾取は絶えない」

 エルシアの表情が露骨に暗くなる。それを察し、情勢は概ね予想通りであることを心中に留めておく。

 武市もののふしは、全体的に治安が良い国ではない。むしろ悪いとすら言っていい国だ。

 武市もののふし流川るせん家の影響によって実力・成果主義の世界のため、まず国家共通のルール―――法律というものが存在しない。民草はその領土を支配する暴閥ぼうばつの当主に支配されているため、ルールもまたその当主の存在そのものがルールということになる。

 下手をすればルールを決めていない暴閥ぼうばつも多く、ほとんどの地域が無法地帯に近いというのが現状だ。

 それでも武市もののふしが発展できているのは、流川るせんを含めた一部の強者による影響力が絶大なためで、強者の逆鱗に触れるような真似をしていれば、その領民は領土もろとも跡形もなく消滅させられてしまう。ルールで民を縛る必要など、そもそもないのだ。

 武市もののふしにおける強者は、自然災害すら操れるレベルの者も存在する。そんな存在に数多の犠牲を払い、徒党を組んで抗うよりも、強者の発展に協力する方が長生きできる。弱き者たちの多くは、そう考えて日々を生きているのだ。

 とはいえ全員が全員というわけでは決してない。当然のことながらルールというものが存在しない分、無法者はどこにでもいるものだ。そんな存在を懲罰することができないこの武市もののふしでは、治安が悪いのは当然の帰結と言える。

「とはいえ、西支部周辺よりはマシだという自負はある。彼らには失礼かもしれないが……」

 頬に汗を一筋垂らしながら、申し訳なさげに視線を外す。簡易ポッドの湯が沸いたので、茶こしで茶葉をこしながら、ティーカップにダージリンティーを注いだ。

 任務請負機関西支部とは東西南北ある支部のうちの一つ、``竜殺のジークフリート``が代表を務めている支部のことだ。

 西支部は東支部から遥か西方の地、中威区なかのいく西部都市の中心にある。

 確かかの都市は中威区なかのいく上威区かみのいくの国境付近に位置し、毎日上威区かみのいくの覇権を奪取せんとする中威区なかのいくギャングと、それを阻止する上威区かみのいくギャングの間で激しい紛争が起こっている激戦区で、日夜情勢が目まぐるしく変化する中威区なかのいく最悪の闇都市と聞いている。

 まだ行ったことのない地域だが、北支部のロビーにあるテレビから放送されるニュースでは、毎日その過激な情勢が話題になっている。己の主人はニュース番組に無関心のため、まだ知らない事柄であるが。

「承服しかねる事実ではあるが……中威区なかのいく東部一帯の治安が悪くないのは、この一帯が中小暴閥ぼうばつ自治区なのもあるだろうな……周辺のならず者どもにとって、暴閥ぼうばつは畏怖の象徴ゆえに」

 その言葉の内容とは裏腹に、恨めし気な表情を浮かべるエルシア。

 確かに暴閥ぼうばつは無名の民たちにとって、恐怖の存在だ。たとえ中位以下の暴閥ぼうばつといえど、その本質は戦闘民族。三十年前に終幕した``武力統一大戦時代``の中、脈々とその血を受け継いできた者たちである。

 銃火器や簡素な魔術を振りかざし暴れる程度のごろつきなど問題にならない。彼らが邪魔だと判断すれば、武装したごろつきの集団など容易く皆殺しにできてしまう。そうなると表立って事を荒立てず、ひっそりと私欲を満たすための悪虐を尽くす日々を送ることになるだろう。

 自分より弱い者をターゲットにして奪い、殺す。弱肉強食の摂理とは、まさにこの事である。

「ほかに聞きたいことはないか?」

 ダージリンティーを一口含み、瞳を覗き込むような真っすぐな視線を向けてくる。その視線から言い知れない凄みを感じ、ティーカップに伸ばそうとした手が止まる。

 聞くことは最後に一つ、東支部の内情だが、中威区なかのいく東部一帯の実情を聞く限り、聞いていいものなのか少し迷いどころではある。

 任務請負機関に就職する以前、今後の方針を決めるため流川るせん分家邸にて話し合った際、弥平みつひらが言っていた東支部の馴れ初め。粗方の背景は把握しているものの、やはり実情は現地人の口からでなければ正確な状況を把握することはできない。

 弥平みつひら巫市かんなぎし密偵任務に就いているし、知っておくならば今しかないが、彼女たちの神経を逆撫でするような言動をしてしまって明日以降の作戦行動に支障が出るようでは本末転倒だ。

 なにせ澄男すみおが既に好感度を落としている。メイドとして、藪蛇な行動は避けるべきだが、このままお開きにしてしまうのも勿体ない。さて、どうしたものか―――。

「では、私から一つ良いだろうか」

 どういう切り口で話を広げていこうか。己のコミュニケーション能力を駆使してできる限りのシミュレーションをしていた矢先、意外にもエルシアから声をかけてきた。

 予想だにしていなかったので、思わず間の抜けた返事をしてしまう。

「貴女はあの少年の専属メイドなのだろう? 何か強制されたりはしていないか?」

 一瞬、質問の意図が図りかねて静止してしまったが、さっき澄男すみおが起こした騒ぎを思い返し、なんとなく彼女の意図を察する。

 彼女の瞳は真っすぐだった。憐憫でも哀れみでもない、他人でありながらも、ただ任務で同じ敵に相対するだけの仲だと知っていながらも、相手を純粋に心配している目だった。

 揺らめく瞳に、自分の顔が覗けるほどに。

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」

 エルシアは目を見開いて押し黙った。自分の返答が意外だったのか、それとも自分の表情を見て本当に強制されていないのだと悟ったのか。とかく彼女にとっては、予想とは違ったリアクションだったのだろう。

 弥平みつひらから説明を受けた東支部の過去を思えば、エルシアの心配は何もおかしいことではない。

 かつて東支部は暴閥ぼうばつ勢力とギャングスター勢力によって占拠され、真面目に任務をこなそうとしていた請負人たちは奴隷の如く虐げられていた。

 その絵面は想像に難くない。屈強な男たちが、か弱き女を支配する。彼女たちは、元々奴隷の身分にあった者たちなのだ。

 東支部代表``剛堅ごうけんのセンゴク``によって解放されても尚、ようやく人としての身分を獲得できた彼女たちにとって、虐げられていた頃の心の傷がそう簡単に癒えるわけではない。

 さっき怒り暴れた澄男すみおが、まさしく自分たちを暴力で虐げてきた暴閥ぼうばつやギャングスターそのものに映っても、なんらおかしくはない話であった。

 まあ実際、暴閥ぼうばつの現当主で、それも大陸八暴閥ぼうばつの一角、流川るせん本家派当主なのだから、素性を知られたらあながち否定したくてもできないという苦しい現実があるのだが。

「本当か……? 失礼ながら、貴女の主人はお世辞にも話し合いが通ずる相手と思えないのだが……?」

 尚も心配してくるエルシア。あながち間違いではないから本当に否定しづらい。

 澄男すみおの問題解決方法は、喧嘩で相手をこっ酷く打ち負かすことで、自分の主張の正当性を押し付けるという極めて強引なもの。話し合いなどという平和的解決からは程遠い手段を日頃から使っているのは事実だ。

 この場で言うことはできないが、彼とて流川るせん家という暴閥ぼうばつの当主。流れる血は百戦錬磨の戦闘民族のそれだ。問題は戦って決着―――という考えが身に染みているのだろう。

 かくいう自分も水守すもり家の当主。話し合いよりも敵は殺して解決するという方法には異論ない立場なのだが、澄男すみおの場合は木萩きはぎ澪華れいかのこともあり、些か過激になっている面は確かにある。

「私のような事情をろくに知らぬ他人が焼くようなお節介ではないのは重々承知しているのだが……もしも虐げられていると思うと居ても立ってもいられなくてな……まあ杞憂ならいいんだ。それに越したことはないからな」

 苦笑しながら、己の悪癖を誤魔化すように窓に映る風景へ視線を逸らし、紅茶を啜る。その仕草を見て、ほんの少し笑みがこぼれる。そして、気がつけば言葉を発していた。

「……私は彼に救われたのです」

 本来ならば話すつもりのなかったことだが、己の主人の株が下がったままなのは些か納得いかない自分がいる。原因を作ったのはほかならぬ彼なのだが、そんな傍若無人を絵に描いたような彼についていくことに迷いがないのだから、落ちた株を上げるくらいのことをしてもなんら不満は湧いてこない。

 ただ自分が甘いだけなのかもしれない。でも少なからず彼に救われた人間もこの場に一人いる。せめてもの恩返しだ。

 申し訳なさげに頭を掻くエルシアをよそに、ほんの少し目を逸らしながらダージリンティーを口に含む。

「かつての私も、あなたのように他者を信頼しませんでした。``専属メイド``としてその全てを捧げ、生涯を終える。そのためだけに生きることを強要されてきた身なので」

 その言葉に、エルシアは固唾を飲み、黙して言の葉の続きを待つ。

 似たような境遇を言葉の節々から感じ取ったのだろう。本当は少し違うのだが、本質は同じようなものだ。澄男すみおも己の父が憎かったように、自分もまた己の父が憎い。

 水守すもり家の現総帥にして、かつて流川るせん本家の守備隊隊長を務めていた父―――水守すもり璃厳りげん。武力統一大戦時代こそ世界の覇権を握る流川るせんの猛将の一人であったが、終戦後はただの悪虐そのものに成り果てた。

 数多いた兄弟姉妹も父の悪辣な修行によって、最後に残ったのは自分だけだった。そして最後に残った自分にさえも、まるで興味がないかのように切って捨てた。

 父は何をしたかったのか、何を望んでいたのか。今になっても分からない。ただ弱者を弄びたかっただけ。かつての自分はそう考え、疑いもしなかった。

 だが彼と出会い、刃を向け合ったあのとき。自分にも、あの汚らわしい父の血が流れていることを、明瞭に自覚した。たとえ考えは違えども、父子の関係はそう簡単に潰えてはくれなかったのだ。

「でも彼は私を``専属メイド``としてではなく、一人の``人間``として見てくれた……私をただの手駒として使いつぶすこともできたのでしょうに、それでも彼は……私と対等な対話を望んだ」

 自分の漠然とした語りに静かに耳を傾けるエルシア。話にあまり脈絡がないにもかかわらず、そこを深く問い質す意志はなく、ただ黙して視線を交わすのみだ。

「だから……彼の事をあまり悪く思わないでください。先程の暴挙は決して褒められたものではないですが、彼は人一倍仲間想いの……気高い主人です。仲間に対する思いは、あなたがた護海竜愛ごうりゅうに劣りません」

 青色の双眸を覗き込む黒い瞳の奥を、真っ直ぐに射抜いてみせる。

 澄男すみおの人柄は確かに褒められたものではない。粗野で暴力的、自己中心的で傍若無人。かつて東支部を占拠し、彼女らを心身ともに虐げた者たちと紙一重の振る舞いをしてみせている。

 レク・ホーランがいなければ、即刻この支部から立ち退けられていただろう。彼の知るところではないが、彼女たちが表立って澄男すみおを敵視しないのは、彼が新人であるからではなく、レク・ホーランの絶大な実績があってこそなのだ。

 しかし専属メイドとして澄男すみおの人となりが誤解されたままというのは、些か不満が残る。

 彼は一人のメイドを救い、そして各々繋がりのなかった自分たちを繋ぎとめ、``仲間``と称してくれた。ただ憎しみに駆られ、闇に堕ちただけではない。色々あれど、その葛藤の中で前を向いて歩くことを選択した男なのだ。

 それが元来の性格だけで落とされるのは勿体ない。彼の信念はきっとこの東支部の危機も救ってくれる。なんだかんだ、彼は人としての甘さを捨てきれないことを私は知っているのだ―――。

「そうか……」

 黙して聞いていたエルシアは、自分が発した言の葉を咀嚼するように何度も頷く。その表情には、既に澄男すみおに対する疑念はどこにも垣間見れなかった。

「君の言う主人の人柄……此度の戦いで垣間見れたなら、幸いだな」

 ティーカップを静かにテーブルに置き、椅子から立ち上がる。そろそろ時間だ、そう一言だけ告げるとエルシアは部屋を後にする。

 エルシアが部屋を去った後、底に溜まった茶渋をぼうっと眺めながら苦笑い気味に一息つく。

 日頃素行が悪く、気怠そうにしながらも仲間内で話す際は屈託のない笑顔を絶やさない澄男すみおを空に描きながら、明日以降にとりうる彼の素行を予想する。

 それから二時間後。空腹で目が覚めたのか半分寝ぼけた澄男すみおが部屋から出てきたのを察知し、部屋を出る。東支部のロビーでイラとともに作業していたであろうブルーを迎えに行っていたレク・ホーランとも合流し、つつがなく夕食を食べ、その日を終えることとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...