無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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防衛西支部編

魔女からの宣告

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 正門前に屯していた敵軍が化けたツムジを倒し、百代ももよたちと合流するつもりだった俺と澄連すみれん、ポンチョ女と百足野郎、西支部監督官と巨人女は、地下シェルターに向かう道中、金髪野郎からのお達しを受け取った。

 それは敵首魁の思われる人物を、取り逃したって話だった。

 ソイツが統率していたであろう軍は主にポンチョ女が尻拭いをする形でブチ殺したので、後は百代ももよが追ったソイツのみだったのだが、どうやら実力差で取り逃したわけじゃあなかったらしい。

「わっちとしたことが、慢心ゆえに不覚をとってしもうた。すまぬ、返す言葉もない……」

 いつもの強気で余裕綽々の態度は鳴りを潜め、申し訳なさを前面に押し出す。

 聞いた話によると、軍を統率していたソイツは御玲みれいからスッたと思われる技能球スキルボールを使い、逃げてしまった。百代ももよも負けじと索敵したらしいが、流石の百代ももよでも一瞬で索敵範囲外へ逃げられてしまったら追うことはできないそうで、現状どこへ逃げたかは分からないらしい。

 そしてもう一つ知らされたことだが、ソイツが転移魔法を二回も使えたのは御玲みれいが持っている技能球スキルボールのみならず、俺の技能球スキルボールまでも盗んでいたからだとか。

 すぐに懐をまさぐると、確かに転移の技能球スキルボールは綺麗さっぱりなくなっていた。いつスられた、と考えたが、今思えばソイツは俺の間合いに一瞬で入り込んできたと思いきや、その瞬間に姿をくらましていた。スられたとしたら、ソイツに目と鼻の先にまで距離を詰められたときだろう。

「まあしゃーねぇだろ。転移魔法を不意打ちで使われたら対応できる奴なんざそうはおらんし」

「珍しいな。新人がポカやらかした相手を責めねぇとは」

「いやいや、そんなの誰彼構わず攻撃するしか能のないただのアホだろ。俺がそんな暗愚だとでも?」

 その問いに百代ももよ澄連すみれん、巨人女以外の誰もが目を逸らし、沈黙で答えた。全員に聞こえるように、盛大な舌打ちをブチかます。

「ゲフンゲフン、とにかく!! 転移魔法で逃げられたんじゃ俺を含め誰も対処できないのは考えるまでもねぇことだ。仕方ないし、問題は今後どうするべきなのかとソイツがどんな奴だったのかの情報共有、なんじゃないんすかね」

 まさかの反応をされたのでカチキレるタイミングすら逸してしまったが、なんだか凄く居た堪れないしさっさと忘れることにして、話の軸を無理矢理にでも元に戻す。

 少なくとも地下シェルターに繋がる階段前で戦っていた俺たちは、百代ももよたちが戦っていた相手の詳細を知らないし、個人的にはどんな相手だったか、どれくらいの強さだったのかを是非とも知りたいところだ。

「正直、百代ももよが来てくれなかったら詰んでた。それぐれぇ強い相手だったな……」

 金髪野郎は自分の考察内容も交え、戦いの全貌を話してくれた。

 俺や百代ももよの不意を打ち、金髪野郎たちを窮地に追い込んだフード付きコート野郎は、数多の技能球を自在に使って実質無詠唱で魔法を使うスタイルを基軸に、様々な武器に換装して近接戦闘を行う技量特化型の強敵だった。

 俺や百代ももよの不意を打ち、技能球を盗む手際から技量も相当なもんだと思っていたが、技能球を使いこなして実質無詠唱で魔法を使うのは流石に予想外だ。それに使っていた武器の種類は四種類、それら全てを完璧に使いこなせるとかいうぶっ壊れ具合である。

 そりゃ勝てないと匙を投げるわけだ。技量モンスターすぎる。俺でも四種類の武器を使いこなすなんて真似、できる気がしない。

「技能球を複数使いこなせているとみて間違いねぇし、近接戦闘だけじゃなく魔法にも相応に精通しているだろうな」

 金髪野郎がクソ冷静にぶっ飛んだことを言ってのける。

 近接戦闘もできて魔法にも精通しているとか、オールラウンダーにも程があるだろう。どれだけ精通しているかによっては弥平みつひらが脳裏に浮かんでくる恐怖すら感じる。

 流石に弥平みつひらの現身―――なんてことはないと思うが、とにかくヤバい強敵だったってことは深く考えなくても理解できた。

「そんで、お前の方はどうだったんだよ?」

「えーと……それはだな……」

 歯切れの悪そうに俺が頭を掻くと、説明が面倒くさいので西支部監督官に視線をぶん投げる。それに反応して西支部監督官は肩を竦めると、俺の代わりに一連の出来事をかいつまんで話してくれた。

 西支部でフード付きコート野郎が転移魔法を使ったところから、金髪野郎が言っていた軍が黒色のスライムに変わって、ソイツをポンチョ女がブチ殺したところまで。

 ちなみにあの黒色のスライムは西支部監督官のことを逆恨みした元請負人のクソ野郎が、``捧贄蘇生サクリファイス``とかいう闇属性魔法を使った影響であることが、西支部監督官の口から語られた。

 そのクソ野郎も魔法の犠牲になったらしいので跡形もないのだが、自分が発動した魔法に飲み込まれるとか面倒を通り越して迷惑な話である。ソイツの下に俺がいたら、迷いなく焼き尽くしてやったものを。

「おいおい嘘だろ……そんな面倒なことになってたのかよ」

 肩の荷が下りて半ばスッキリしている西支部監督官とは裏腹に、金髪野郎は眉間にしわを寄せ、額に汗を滲ませる。

 まあ気持ちは分かる。聞いた話じゃ、金髪野郎たちも俺らが片付けてくれるのを待って持久戦に洒落こもうとしていたらしいし、俺らもツムジとかいう黒色のスライムモドキを始末するために時間稼ぎに徹するつもりでいた。

 今回、一番厄介な敵だった双剣使いとやらをブチのめしたのは百代ももよだ。ツムジに関してはポンチョ女が尻拭いをしたのでどうにかなっただろうが、百代ももよが今回の任務に参加していなければ、少なくとも金髪野郎たちは皆殺しにされていた。そうなっていたら、たとえポンチョ女が尻拭いできたとしても戦略的敗北、任務は未達成の上に俺は御玲みれいを失って全てを破壊していただろう。

 全てが終わったからこそ能天気に過去を振り返られているが、俺らが思っていた以上に今回はみんなギリギリの戦いだったようだ。そのギリギリのラインを繋げてくれていたのは、他ならぬ百代だった。彼女がいたからこそ今回の戦いは乗り越えられたのだと、あらためて感謝しておこう。

 俺は百代に親指を上にあげてグーサインを送る。百代は目に星マークを浮かべながら可愛く舌を出し、ノリ良く同じ仕草で返してくれた。

「さて、これからどうするよ」

 お互いの情報共有は終えた。本当ならここで帰りたいぐらいだが、まだやることは残っている。今から何をするのか、だ。

「俺としちゃあ西支部防衛は果たされたし、お前が倒した奴らを討伐証明部位ハンティングトロフィーとして本部に提出したら終いだったんだが……」

「おいおい、一番厄介な奴が野放しだろ。そんなんで防衛が果たされたとか寝言ほざくなよ」

 聞き捨てならなかったので速攻で上書きする。台詞は言いかけだったが、そんなことは関係ない。

 任務熱心な金髪野郎にしては、らしくない投げやりな意見だ。敵軍の指揮官は普通に生きているし、軍を再編されたらまた今回の二の舞にしかならないってのに、何を根拠に防衛が果たされたとか言っているのだろうか。頭が金髪なせいでバカにでもなってしまったのか。

「確かに対処するべき敵が野放しではあるな。だがそれは、もはや北支部が関与する問題じゃあない」

 ほんの少し軽蔑が含んだ俺の視線など意に介さず、むしろ断固といった態度を崩さない。

 俺たちが今回受けた任務は西支部防衛支援。あくまで防衛を支援する立場でしかなく、今回の異変を積極的に解決する立場にはない。そもそもの話、今俺たちがいる場所は中威区なかのいく西部都市。西支部の領分であって、西部の問題は西支部が解決するべきなのだと、金髪野郎は言う。

「うーん……そう言われるとそうだが……」

「じゃあお前、仮に今回の事件に入れ込むとして、北支部周辺地域の任務はどうするつもりだ? 少なくとも俺は監督官の立場にあるし、長期間西支部の領域にはいられねぇぞ。監督官としての仕事があるからな」

 粗探ししたくても何一つ隙のない論理展開にぐうの音も出なくなる。

 確かに金髪野郎を含め北支部の主力たる俺たちが今回の件にかかりっきりになれば、北支部で任務をこなせなくなる。そんなのどうでもいい、と一蹴できれば話は早いが、当分の目標が実績を積んで本部昇進試験のための受験資格を得ることだと考えると、言っちゃ悪いが実りのないことに時間と労力を費やしている暇はない。さっさとこの件から手を引いて、魔女だが八大だかのお偉いさんに丸投げしてしまった方が確実だ。

 俺としたことが、舐められたと思い込んで完全にソイツをぶっ潰す方向で動こうとしていた。目標を思い出したら一気に冷静になれたぜ。

「やれやれ……上に報告するにしても主犯格を逃した以上しばらくはヒヤヒヤした日々が続きそうだな。あーダルイ」

 西支部監督官はボッサボサの天然パーマを面倒くさげな表情を浮かべながら掻きむしり、大きくため息をつく。

 北支部はこのまま元の鞘に戻るわけだが、主犯格を逃してしまった西支部の連中はソイツがとっ捕まるか、どっかでぽっくり逝くまで精神を擦り減らさなきゃならんだろう。面倒この上ない話だ。

「ま、なるようになるか。今に始まった話じゃねーしな」

「まったく能天気な奴なのね」

「元一般人の俺をその能天気な奴にしたのは、どこの幼女様でしたかね」

「私だって言いたいのね?」

「お前以外誰がいるんだよ」

「知らないのねー、お前が鈍感なだけなのね」

「いやいや、俺はどちらかってーとフツーだぜフツー。根はフツーなんだよ。ニホンジンの環境適応能力舐めんなよ」

 ふーんなのね、と可愛げのある翼を小さく羽ばたかせて偉そうに腕を組むチビ。

 コイツらの精神状態が少し気になったが、存外大丈夫そうだ。西支部監督官は面倒くさげだし、自称精霊はツンツンしてやがる。

 なんにせよ仲間でもなんでもない奴らの精神状態を気にする方が野暮なので、俺からは何もすることはない。図太くいられるなら、それに越したことはないのだ。

「さて……新人が食ってかかってきたせいで大幅に逸れたが話を戻すぞ。ジークフリートの報告内容を噛み砕くと、要するに討伐証明部位ハンティングトロフィーはないってことだよな? 本部に任務達成の証明ができないぞ」

「そんなもん、ないけど達成したって言えばいいじゃん」

「アホかお前は。そんなんが罷り通るわけねぇだろ。だったら討伐証明部位ハンティングトロフィーの提出義務とは? ってなるわ」

「つってもねぇもんはねぇし、今回は諦めろって言うしかなくないか……」

「そうはいかねぇから話が終われねぇんだろうよ……」

 金髪野郎は呆れ顔で俺を睨むが、俺の考えは変わらない。

 誰が何と言おうが、ないものはない。存在しないものを捻りだせるわけもなし、ないのに出せって本部が言ってくるようなら、それは本部の我儘でしかない。

 そんな我儘に付き合う義理もクソもないので、そんなに証拠が欲しいなら自分で探してこいやって話である。達成した事実は俺らの共通認識だし、それでいいと思うんだけど。

「まあ……未納の場合、いつまでも達成にならないし、俺ら全員本部に実質無料奉仕したって感じになっちまうな」

「ああん!? おいおいジーク、これだけの戦いやっておいてタダ働きとかざけんじゃねーぞ!! 久しぶりのシャバでの任務、報酬にありつけねーとかぜってー認めねー!!」

「うるっせーな、そもそもお前は頭数に入ってねーからどっちにしろ無料奉仕だっつーの。逆になんでもらえると思ってんだ」

 西支部監督官は肩を竦め、巨人女は地団太を踏む。デカい図体でドカドカと足踏みするものだから、埃が舞うのなんの。御玲みれいやポンチョ女は明確に不快な感情を巨人女に向けた。

「俺ら北支部の面々としても、もらえるもんはもらわなきゃなんねぇ。無料奉仕しましたなんて記録は本部に絶対残したくねぇしな……」

 何故か遠い目をする金髪野郎。ポンチョ女も苦虫を噛み潰した表情で舌打ちする。

 確かにそんな不名誉な記録を残したくないのは同意だけど、なんか二人からそれだけじゃない空気が感じられる。もしかしてタダ働きしたって本部に知られると、本部の奴らが味を占めて、それ以降タダ働きもしくは格安報酬で特待任務を受けさせられたりするってことなのだろうか。

 だとしたら冗談じゃない。都合のいい小間使いにされるとか、舐めてんのかって話だ。

 本部の重鎮どもに小間使い扱いされるのを全力阻止するため、脳味噌を粘土の如くこねくり回してみる。

 しかし、結果は終始無言。ないものを捻りだせる画期的な名案など浮かぶはずもなく、時間だけが過ぎていく。

 居た堪れない空気がシェルター内を支配し、四隅に縮こまっているモヒカンどもでさえ、自分たちの命が救われたことに喜びを分かち合うのを我慢する羽目になっていた。

 本部の奴らに背中を見せちまうのは癪だが、ないものはない以上、ずっと膠着状態でいるわけにもいかない。こうなったらやっぱないけど達成しましたって言うしかないんじゃね―――と言おうとしたそのとき。

「うおッ」

 脳内に直接響き渡る大音量とともに、ダイアログが眼前に表示される。俺だけでなく全員もビックリしたようで、虚空を眺めたと思いきや、お互いの顔を見合っていた。

 この突然ダイアログが表示されるやつは東支部合同任務を受けることになったとき以来か。アレにはビックリして椅子から転げ落ち、ちょっとプッツンしちゃって金髪野郎のオフィスのドアを蹴り壊してしまい、なけなしの稼ぎから弁償する羽目になったのが記憶に新しい。

―――――――――――――――――
西支部防衛支援任務達成通知

レク・ホーラン、ブルー・ペグランタン、澄男すみお及びその使い魔、御玲みれい百代ももよ、ヒルテ・ジークフリート、ヴェルナー・ハイゼンベルク、ブリュンヒルト
以上の九名に命じた特待受注任務が達成したことを認める。報酬は後日支給するので、各支部で待機せよ。

(1/2)
―――――――――――――――――

 ダイアログには不遜な物言いで書かれていた。だが俺と御玲みれいは、ダイアログを最後まで読んで、一瞬だけだが呼吸ができなくなる。

 思わず御玲みれいと顔を見合わせた。いつもならポーカーフェイスを貫くはずの御玲みれいも、眉間にしわを寄せ、首を左右に振っていた。

「どういうことだ……? 討伐証明部位ハンティングトロフィーなしに本部が任務達成を認めたってのかよ」

「そんなことありえんの?」

「普通はねぇよ。北支部に勤め始めて長ぇが、こんなの初めてだ。異例すぎる」

 金髪野郎やポンチョ女も度肝を抜いていた。驚きを通り越して狼狽してやがる。

「おいおい、もしかして俺たち、おっかねぇことの片棒担がされてたんじゃ……」

「フン。何のつもりか知らないけど、これで手打ちにできるのならいいじゃないのね。要は報酬受け取ってもう忘れろって意味なのでしょ?」

「そりゃそーだけどよ……レクの言う通り、異例にも程があるぜ。本部が機関則に則った正規の手続きを無視して達成を言い渡すなんざ……」

 西支部監督官も金髪野郎たちと同じような反応だ。自称精霊幼女は能天気だが、やはりそこは人外。澄連すみれんみたく、俺ら人間と価値観が違うからだろう。

 本部は任務請負証で機関に所属する全ての人間を機関則とかいうルールで縛り、厳正に管理している。俺はあんまり重要視してなかったりするが、いわば請負人としての生殺与奪権に関わる重要な約束事なのだ。

 当然、任務達成の判定も機関則によって定められているはず。それを本部が自ら反故にして任務達成を俺たちに言い渡しているのだから、下のモンが混乱するのも無理はない。

「こんな真似ができるのは、特権持ちの``三大魔女``ぐらいしかいねぇ……一体何を考えてやがるんだ、あの御方々は……」

 任務請負機関のトップ``任務長``を凌ぐ地位にある大魔導師、``三大魔女``。任務請負機関に所属する奴らの中で唯一機関則をある程度無視しても許されるのは、その女どもをおいて他にいない。

 理由を知りたいならソイツらを問い質すしかないが、金髪野郎たちの辟易した表情を見るに、そう簡単な事でもなく。真実は三大魔女のみぞ知る―――それが現状言える、唯一無二の言葉だろう。

「とかく悩んでてもしゃあねぇ。とりあえず本部が達成だっつーんなら、それに従おう」

「俺も同意見だが、あっさり引き下がるんだな。俺は別に面倒事から手を引けるならなんでもいーが、アンタなら本部にもつっかかりそうなイメージあるぞ」

「いつもならな。でも今回のは、請負機関本部にも手に負えないようなクソデカい案件の、そのお遣いを頼まれていた可能性がある。触らぬ神に祟りなしってやつよ」

「なるほど。して、その心は?」

「ただの勘さ。俺はこれでも北支部最古参、興味本位で藪をつつくほど、もう若くねぇんだよ」

 俺らと大して年も変わらないくせに、年寄り臭いことを言う金髪野郎。肩を竦めてため息を吐く。

 確かに事情説明もなしにそれ以上お前らは知る必要はないと言わんばかりの一方的な通知だし、討伐証明部位ハンティングトロフィーなしで達成扱いになること自体に不満はないとはいえ、気にならないのかって問われると嘘になる。

 だが金髪野郎の言う通り、これは明らかに面倒事だ。それも今までの合同任務が霞むくらいの根深い何かを感じる。そもそも東支部合同任務のときからキナ臭かったし、いよいよもって悪臭を放ち始めたと言っていい。

 俺や御玲みれいとしても達成扱いにもなるし報酬も貰えるのなら、気になりこそすれ文句はない。本部が機関則に定められた手続きを無視していることも、三大魔女がそう判断したのだと思えば、そういうことなんだと割り切りはつく。

 ただ俺らの場合、金髪野郎や西支部監督官が考えていることよりもずっとずっとヤバいことが、ダイアログに書かれていたことに戦慄を禁じ得ない。今だって背筋が寒くて寒くて仕方ないし、全身がずっと泡立つ感覚が拭い去れないし、そのせいで変な汗が全然止まらない。御玲みれいも同じ思いなのか、金髪野郎たちの会話に全然入ろうとしていなかった。

「ん、どうした新人。顔色悪いぞ」

「え!? いや、なんでもないぞははは!! まあ、なんだ。とにかく良かったじゃねぇか、討伐証明部位ハンティングトロフィーなしで任務達成、報酬もきちんと貰えるし、文句なし!!」

「お? おう……? なんかテンションがおかしいが……まあお前らも良い経験になったろ。こんなこと滅多にねぇし、良かったな」

「あ、ああ!! 良かったぜ!! いやー……減俸さえ解けてたらなぁ……正規の金額で貰えたのにな、ははは……」

 やばい。テンパりすぎて全然いつも通りに振る舞えない。見るからに挙動不審だし、絶対怪しまれている気がする。

 金髪野郎は少し訝し気な表情を浮かべたものの、すぐに朗らかな顔に戻して俺の肩を軽く二回叩いてくる。その仕草に御玲みれいもこっそり胸を撫でおろす仕草をする。

 どうやら自分たちが狼狽してしまったから、俺たち新人にその波紋が広がっちまったのだと勘違いしてくれたようだ。いつもなら無駄に察しが良くて、言い訳に考えるのに一々苦労させられる金髪野郎だが、今回ばかりは三大魔女の超法規的采配に救われたと思うべきだろう。

 コイツらのリアクションを見る限り、俺と御玲みれいが読んだ一文はコイツらには見えていない。もしも俺と御玲みれいが目を通した二頁目の内容が、金髪野郎たちにも読めていたなら、おそらく場はもっと戦々恐々とし、全ての注目は俺たちに集まっていただろう。そうなっていたら、今までの言い訳など全てが吹き飛んでしまう。

 何故なら―――。

―――――――――――――――――
追伸

後の処置はお任せいたします、流川るせん本家派当主陛下。
当主陛下が先代の名声に恥じぬ英雄たらんことを。

ヴェナンディグラム八大魔導師筆頭``常闇の魔女``ヴァジリット・バロール
(2/2)
―――――――――――――――――

 俺たちにとって、死刑宣告にも等しい一文だったからだ。
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