87 / 121
乱世下威区編 上
大蛆の蛮行
しおりを挟む
気がつけば、掃き溜めにいた。
血生臭さが鼻腔を撫でる折、泥なのかカビなのか分からないヘドロのようなものが地面を覆い尽くすその場所で、体にまとわりついた汚物を手で振り払いながら立ち上がる。
目が暗闇に慣れてくるとようやく空間の全貌が分かるようになってきた。どうやらコンクリに覆われた地下倉庫にブチこまれたらしい。
地下倉庫の隅にはもう男だったのか女だったのかすら分からない腐乱死体が山のように積まれている。なんともいえない血生臭さは腐乱臭だったようだが、こと下威区だとままあることで、さして珍しいことでもない。
死体は物だ。時間が経つにつれて屍肉となり、蛆の巣窟に成り果てる。死臭がおどろおどろしい狂騒曲を演奏し、肉だけでなく周囲の空気さえも腐らせる。
嗚呼、クソだ。世界はクソだ、現実はクソだ。
部屋の隅に山積みにされ、蛆に貪り食われているそれは、まさに世界の縮図である。この世界は蛆に食われている。自分らは所詮蛆の養分にすぎないのだと、自分らを痛罵してくれる。嗚呼、クソだ。クソッタレだ。
「よぅ、起きたかガキィ」
地下倉庫の扉が開かれ、自分より体格が二倍近くあるオッサンが入ってきた。
毛根は死に絶え、片目が朽ちて穴が空き、頬は痩けていて肌は赤黒い。唇も赤黒く染まり、歯はほとんど抜け落ちていた。声も嗄れていてギリギリ聞き取れるかどうかの瀬戸際。
本能で理解する。蛆だ。
「あー、腹減った」
山積みになっている死体を手に取ると、蛆が湧いていることなど一切気にせず貪り食い始める。
ばりばり、ぼりぼり。ほとんど歯が抜け落ちているくせにどうやって咀嚼しているのか分からないが、蛆ごと骨すらも貪り食う様は、まさしく巨大な蛆。
蛆が蛆を食っている。弱肉強食の絵面が、そこにあった。
「おい。アイツらは……アイツらはどこにやった」
少しずつ思い出してきた。何故自分がここにいるのか。
ツムジとともに生活していた自分と他に数人の子供たち。生活は決して楽じゃなかったし、辛いことばかりだったが、それでも皆で笑い合える生活を手に入れるため、ツムジとともに腐らず今を生きてきたのだ。
今日、その子供達が攫われたと聞いてツムジの制止を振り切り、壊れかけの廃屋まで足取りを追えたところで、記憶が途絶えていた。
「……食った」
「……え……?」
「だから食った。美味かったぞォ……久しぶりに生きた肉が食えた、やっぱり腐肉とはぜぇんぜんちげーんだもんなァ……」
今、コイツなんて言った。だめだ、理解が追いつかない。いや、したくない。食べた。何を。誰を。蛆だ。きっと。きっとそうだ。
「……嘘をつくな」
「ウソじゃねーよ、生きたまま捌いたんだ、ギャーギャー喚いてうるせーからよ、腹掻っ捌いて口にぶち込んでやったわ」
けらけらけら。笑い声が遠く感じる。さっきまで気にならなかったのに部屋に満ちた死臭がやけに臭く感じ、胃袋が流転する。
「お。ガキのくせにイイもん食ってんじゃねーか」
男が吐瀉物を撒き散らしたヘドロまみれの床に這いつくばる様に、思わず目を丸くする。まるで麺類でも啜るような感覚で吐瀉物を飲み始めたのだ。
不快感が込み上げる。目の前の生物が、人間に見えなくなる。吐瀉物を啜るなんてよくある光景だというのに、なんで今は視界に入れるだけで、内臓が掻き回される感覚に苛まれるのか。
「お前、もっと出せよ」
腹を鷲掴まれ、宙吊りにされる。
今日に限って腹一杯にツムジの飯を食っちまったのが悔やまれて仕方ない。珍しく美味しかったんだ、なけなしの食材で作ってくれたカレーライス。肥溜めみてぇな下威区での生活で、ツムジと食う飯が唯一の幸福だった。まさかその幸福が、巨大な蛆に貪り食われることになるなんて。
「チッ……吐かねーか……」
まるでチューブの中身を絞り出すように、腹を押される。感じたことのない圧迫感に内臓が悲鳴をあげる。猛烈な吐き気を催しているのに、中身を吐き出せないもどかしさが、更に不快感を助長させた。
「しゃーねぇ、味は薄くなるが……」
男はどこからかジョーロを取り出した。ジョーロはボロボロで、泥だらけ。もう既にその息を絶えようとしているほどに脆くなっているそれに、大量の水を入れ出した。
水といっても、当然蛆が大量に入ったヘドロ塗れの泥水だ。ツムジの聞いた話じゃあ中威区とかには上水道なるものが各家庭に張られていて、蛇口を捻るだけで新鮮な水が無限に湧いて出てくる夢のような機構があるらしい。
まあ下威区に、そんな贅沢品なんざありはしないのだが。
水は濾過して飲む物。そうじゃなきゃ腹を壊すか体そのものを壊して死ぬか、その二択だ。
「う。や、めろ……!!」
蛆混じりのヘドロ入り泥水、そんな物を飲めばどうなるか。考える必要もない。
必死で抵抗する。爪を肉に食い込ませ、小さい足で男の足を蹴飛ばし、体をこれでもかと捩る。
「うぶっ」
だが、男の方が膂力において何倍も、何十倍も優っていた。ジョーロの先を口に押し込まれ、この世の怨念が全て詰まったかのような汚水が、容赦なく身体の中を侵していく。
泥水なんて物心ついた頃に飲んでいたことがあったが、腹は壊すし飲んだそばからブチ撒けてしまうしで腹の足しになった覚えがなく、嫌いだった。悪食な自覚こそあるが、腹の足しにならないものは身体に入れても仕方ない。ただ辛いだけだ。
腹部が膨れていく感覚が徐々に吐き気へと変わる。身体の中にある肉袋が目一杯膨らみ、他の臓器を圧迫しているせいだろう。臓腑が狂ったように乱舞する。体の中に、大きな石がのしかかっているようですこぶる気持ち悪い。
「ごぶ」
ジョーロの水流に抗うように口から漏れ出す。男はジョーロを投げ捨てると急いで口を手で覆ってきた。
「吐くんじゃねーよ、今から飲むんだからよ」
逃げ場を失った泥水が腹の中で暴れ回る。狭いところに封じ込められたそれは、脱出したいと叫ぶたび、腹が今にも張り裂けそうになる。
よく見ると腹がありえないぐらい膨らんでいた。犯されて孕んでしまったものの、路地裏で打ち捨てられそのまま死んだだろう女の死体を見かけたとき、腹の中にそれなりにデカい石ころを腹に詰めているような姿をしていたが、今の俺の腹は、そのときの女と同じような膨らみ方をしていた。
「さて、と!!」
「う……!? ぶぉ!!」
男に後頭部を掴まれ、口と口が接触する。何をされたのかと考える暇もなく、水袋と化した腹に拳が入れられた。我慢なんざできるはずもない。臓腑の悲鳴とともに行き場を失った泥水が、口から噴き出す。
なくなりかけの歯磨き粉チューブみたいな扱いをされたのは、さすがに生まれて初めてだ。これでもかと腹を絞られ、脈動に似た痙攣すらも起こし始めた折、ついに出すものがなくなった俺は、男に放り投げられた。
「チィ……!! クソが!!」
何故キレられているのか。キレたいのはこっちだ。余力があればその汚ぇ腕に噛み跡を残すぐれぇのことはしたいぐらいなのに、どうして虐げられなきゃならない。ふざけるなクソが。クソがクソがクソがクソが。
「うぐ……うー……うぉ……」
何度腹を蹴られただろうか。もう数えるのも億劫になり、後半あたりからは無抵抗を貫いた。
抵抗しないからといって理不尽な暴力が止むことなんてないのに、黙っていれば楽になるんじゃないかと考えてしまう自分がいる。
無抵抗なんて、ただの甘えだっていうのに。
「あー満たされねー、満たされねーよクソが。やっぱ泥水で胃袋ン中かき混ぜてもマズイだけだ畜生」
そんなの考えなくても分かるだろ、鳥頭かよ。じゃあ俺は何のためにこんな目に遭わされたんだ。お前の私欲を満たすためだろ。クソが。畜生はお前だ。畜生以下だ。
「ンだぁその目はァ!! ガキの癖に生意気な目ェしやがってェ!!」
「げぁ!?」
横腹に野郎の足が食い込む。腹が凹み中で臓腑が四方へ移動する感覚が走った瞬間、グチュ、という聞いたことのない音が腹の中から聞こえた。痛すぎて声が出ない。流石に堪えきれず、体を踞らせて咽び泣く。
「あーめんどくせー。なんかまた腹減ったわ。テキトーにガキでも攫って食うか……」
これだけ痛ぶっておいて飽きたらポイかよ。逃げられるからそれでいいが、釈然としない。納得いかない。これが、これが弱者への仕打ちだってのか。
「んぁ、忘れてたぜ。テメーにこれ、やるよ」
痛みで未だ声も出せない状態にある俺に、何かが投げられる。音からしてそれなりの重さがある物だと感覚で悟るが、小さい虫みたいなものが視界を飛び交い、さらに涙で滲んでいるせいでよく見えない。だが投げられたそれが何なのか、すぐに理解できた。
「な……んで……なんで」
涙が更にこぼれ落ちる。今この瞬間、ここに来た意味、コイツに虐げられた意味、その全てが無意味で無価値だったのだと、理解してしまった。
感情の濁流が苦痛を押し流す。今日起こったことなんざそれなりに不幸な巡り合わせではあった。流石に水袋にされたのは初めてではあったが、虐げられることくらい、ツムジに出会うまでならいくらでも、嫌だと泣き叫ぼうが怒りに燃え滾らせようがクソほど経験させられてきた。
だからこそ、目の前に投げ捨てられたそれを見るのが、一番辛い。
「あー?」
どうせ分からない。理解なんてできやしない。理解のりの字も感じられない顔色と声音に、もはや失望なんて言葉は生ぬるい。
ぐっ、と思わず呻いてしまう。髪の毛を鷲掴まれ、そのまま持ち上げられて、頭皮が引きちぎれそうだ。あまりに痛すぎて、足掻くことすらできず身体を萎めてしまう。
「いいか、クソガキ。よく覚えておけ。この世界はな―――」
痛すぎて言葉がよく聞き取れない。痛い。クソが、物扱いしやがって。
俺が物ならテメーは蛆だ。世界を貪り食らい、生きるべき人たちの笑いを奪う、巨大な蛆だ。
もしも世界を作った奴がいて、ソイツが蛆の存在を肯定しているってんなら、こんな世界は―――。
「``強い奴``がルールなんだよ!」
次の瞬間、腹に拳がぶち込まれ、腑が口から飛び出そうになる感覚に襲われながら、意識は闇へと溶けていった。
血生臭さが鼻腔を撫でる折、泥なのかカビなのか分からないヘドロのようなものが地面を覆い尽くすその場所で、体にまとわりついた汚物を手で振り払いながら立ち上がる。
目が暗闇に慣れてくるとようやく空間の全貌が分かるようになってきた。どうやらコンクリに覆われた地下倉庫にブチこまれたらしい。
地下倉庫の隅にはもう男だったのか女だったのかすら分からない腐乱死体が山のように積まれている。なんともいえない血生臭さは腐乱臭だったようだが、こと下威区だとままあることで、さして珍しいことでもない。
死体は物だ。時間が経つにつれて屍肉となり、蛆の巣窟に成り果てる。死臭がおどろおどろしい狂騒曲を演奏し、肉だけでなく周囲の空気さえも腐らせる。
嗚呼、クソだ。世界はクソだ、現実はクソだ。
部屋の隅に山積みにされ、蛆に貪り食われているそれは、まさに世界の縮図である。この世界は蛆に食われている。自分らは所詮蛆の養分にすぎないのだと、自分らを痛罵してくれる。嗚呼、クソだ。クソッタレだ。
「よぅ、起きたかガキィ」
地下倉庫の扉が開かれ、自分より体格が二倍近くあるオッサンが入ってきた。
毛根は死に絶え、片目が朽ちて穴が空き、頬は痩けていて肌は赤黒い。唇も赤黒く染まり、歯はほとんど抜け落ちていた。声も嗄れていてギリギリ聞き取れるかどうかの瀬戸際。
本能で理解する。蛆だ。
「あー、腹減った」
山積みになっている死体を手に取ると、蛆が湧いていることなど一切気にせず貪り食い始める。
ばりばり、ぼりぼり。ほとんど歯が抜け落ちているくせにどうやって咀嚼しているのか分からないが、蛆ごと骨すらも貪り食う様は、まさしく巨大な蛆。
蛆が蛆を食っている。弱肉強食の絵面が、そこにあった。
「おい。アイツらは……アイツらはどこにやった」
少しずつ思い出してきた。何故自分がここにいるのか。
ツムジとともに生活していた自分と他に数人の子供たち。生活は決して楽じゃなかったし、辛いことばかりだったが、それでも皆で笑い合える生活を手に入れるため、ツムジとともに腐らず今を生きてきたのだ。
今日、その子供達が攫われたと聞いてツムジの制止を振り切り、壊れかけの廃屋まで足取りを追えたところで、記憶が途絶えていた。
「……食った」
「……え……?」
「だから食った。美味かったぞォ……久しぶりに生きた肉が食えた、やっぱり腐肉とはぜぇんぜんちげーんだもんなァ……」
今、コイツなんて言った。だめだ、理解が追いつかない。いや、したくない。食べた。何を。誰を。蛆だ。きっと。きっとそうだ。
「……嘘をつくな」
「ウソじゃねーよ、生きたまま捌いたんだ、ギャーギャー喚いてうるせーからよ、腹掻っ捌いて口にぶち込んでやったわ」
けらけらけら。笑い声が遠く感じる。さっきまで気にならなかったのに部屋に満ちた死臭がやけに臭く感じ、胃袋が流転する。
「お。ガキのくせにイイもん食ってんじゃねーか」
男が吐瀉物を撒き散らしたヘドロまみれの床に這いつくばる様に、思わず目を丸くする。まるで麺類でも啜るような感覚で吐瀉物を飲み始めたのだ。
不快感が込み上げる。目の前の生物が、人間に見えなくなる。吐瀉物を啜るなんてよくある光景だというのに、なんで今は視界に入れるだけで、内臓が掻き回される感覚に苛まれるのか。
「お前、もっと出せよ」
腹を鷲掴まれ、宙吊りにされる。
今日に限って腹一杯にツムジの飯を食っちまったのが悔やまれて仕方ない。珍しく美味しかったんだ、なけなしの食材で作ってくれたカレーライス。肥溜めみてぇな下威区での生活で、ツムジと食う飯が唯一の幸福だった。まさかその幸福が、巨大な蛆に貪り食われることになるなんて。
「チッ……吐かねーか……」
まるでチューブの中身を絞り出すように、腹を押される。感じたことのない圧迫感に内臓が悲鳴をあげる。猛烈な吐き気を催しているのに、中身を吐き出せないもどかしさが、更に不快感を助長させた。
「しゃーねぇ、味は薄くなるが……」
男はどこからかジョーロを取り出した。ジョーロはボロボロで、泥だらけ。もう既にその息を絶えようとしているほどに脆くなっているそれに、大量の水を入れ出した。
水といっても、当然蛆が大量に入ったヘドロ塗れの泥水だ。ツムジの聞いた話じゃあ中威区とかには上水道なるものが各家庭に張られていて、蛇口を捻るだけで新鮮な水が無限に湧いて出てくる夢のような機構があるらしい。
まあ下威区に、そんな贅沢品なんざありはしないのだが。
水は濾過して飲む物。そうじゃなきゃ腹を壊すか体そのものを壊して死ぬか、その二択だ。
「う。や、めろ……!!」
蛆混じりのヘドロ入り泥水、そんな物を飲めばどうなるか。考える必要もない。
必死で抵抗する。爪を肉に食い込ませ、小さい足で男の足を蹴飛ばし、体をこれでもかと捩る。
「うぶっ」
だが、男の方が膂力において何倍も、何十倍も優っていた。ジョーロの先を口に押し込まれ、この世の怨念が全て詰まったかのような汚水が、容赦なく身体の中を侵していく。
泥水なんて物心ついた頃に飲んでいたことがあったが、腹は壊すし飲んだそばからブチ撒けてしまうしで腹の足しになった覚えがなく、嫌いだった。悪食な自覚こそあるが、腹の足しにならないものは身体に入れても仕方ない。ただ辛いだけだ。
腹部が膨れていく感覚が徐々に吐き気へと変わる。身体の中にある肉袋が目一杯膨らみ、他の臓器を圧迫しているせいだろう。臓腑が狂ったように乱舞する。体の中に、大きな石がのしかかっているようですこぶる気持ち悪い。
「ごぶ」
ジョーロの水流に抗うように口から漏れ出す。男はジョーロを投げ捨てると急いで口を手で覆ってきた。
「吐くんじゃねーよ、今から飲むんだからよ」
逃げ場を失った泥水が腹の中で暴れ回る。狭いところに封じ込められたそれは、脱出したいと叫ぶたび、腹が今にも張り裂けそうになる。
よく見ると腹がありえないぐらい膨らんでいた。犯されて孕んでしまったものの、路地裏で打ち捨てられそのまま死んだだろう女の死体を見かけたとき、腹の中にそれなりにデカい石ころを腹に詰めているような姿をしていたが、今の俺の腹は、そのときの女と同じような膨らみ方をしていた。
「さて、と!!」
「う……!? ぶぉ!!」
男に後頭部を掴まれ、口と口が接触する。何をされたのかと考える暇もなく、水袋と化した腹に拳が入れられた。我慢なんざできるはずもない。臓腑の悲鳴とともに行き場を失った泥水が、口から噴き出す。
なくなりかけの歯磨き粉チューブみたいな扱いをされたのは、さすがに生まれて初めてだ。これでもかと腹を絞られ、脈動に似た痙攣すらも起こし始めた折、ついに出すものがなくなった俺は、男に放り投げられた。
「チィ……!! クソが!!」
何故キレられているのか。キレたいのはこっちだ。余力があればその汚ぇ腕に噛み跡を残すぐれぇのことはしたいぐらいなのに、どうして虐げられなきゃならない。ふざけるなクソが。クソがクソがクソがクソが。
「うぐ……うー……うぉ……」
何度腹を蹴られただろうか。もう数えるのも億劫になり、後半あたりからは無抵抗を貫いた。
抵抗しないからといって理不尽な暴力が止むことなんてないのに、黙っていれば楽になるんじゃないかと考えてしまう自分がいる。
無抵抗なんて、ただの甘えだっていうのに。
「あー満たされねー、満たされねーよクソが。やっぱ泥水で胃袋ン中かき混ぜてもマズイだけだ畜生」
そんなの考えなくても分かるだろ、鳥頭かよ。じゃあ俺は何のためにこんな目に遭わされたんだ。お前の私欲を満たすためだろ。クソが。畜生はお前だ。畜生以下だ。
「ンだぁその目はァ!! ガキの癖に生意気な目ェしやがってェ!!」
「げぁ!?」
横腹に野郎の足が食い込む。腹が凹み中で臓腑が四方へ移動する感覚が走った瞬間、グチュ、という聞いたことのない音が腹の中から聞こえた。痛すぎて声が出ない。流石に堪えきれず、体を踞らせて咽び泣く。
「あーめんどくせー。なんかまた腹減ったわ。テキトーにガキでも攫って食うか……」
これだけ痛ぶっておいて飽きたらポイかよ。逃げられるからそれでいいが、釈然としない。納得いかない。これが、これが弱者への仕打ちだってのか。
「んぁ、忘れてたぜ。テメーにこれ、やるよ」
痛みで未だ声も出せない状態にある俺に、何かが投げられる。音からしてそれなりの重さがある物だと感覚で悟るが、小さい虫みたいなものが視界を飛び交い、さらに涙で滲んでいるせいでよく見えない。だが投げられたそれが何なのか、すぐに理解できた。
「な……んで……なんで」
涙が更にこぼれ落ちる。今この瞬間、ここに来た意味、コイツに虐げられた意味、その全てが無意味で無価値だったのだと、理解してしまった。
感情の濁流が苦痛を押し流す。今日起こったことなんざそれなりに不幸な巡り合わせではあった。流石に水袋にされたのは初めてではあったが、虐げられることくらい、ツムジに出会うまでならいくらでも、嫌だと泣き叫ぼうが怒りに燃え滾らせようがクソほど経験させられてきた。
だからこそ、目の前に投げ捨てられたそれを見るのが、一番辛い。
「あー?」
どうせ分からない。理解なんてできやしない。理解のりの字も感じられない顔色と声音に、もはや失望なんて言葉は生ぬるい。
ぐっ、と思わず呻いてしまう。髪の毛を鷲掴まれ、そのまま持ち上げられて、頭皮が引きちぎれそうだ。あまりに痛すぎて、足掻くことすらできず身体を萎めてしまう。
「いいか、クソガキ。よく覚えておけ。この世界はな―――」
痛すぎて言葉がよく聞き取れない。痛い。クソが、物扱いしやがって。
俺が物ならテメーは蛆だ。世界を貪り食らい、生きるべき人たちの笑いを奪う、巨大な蛆だ。
もしも世界を作った奴がいて、ソイツが蛆の存在を肯定しているってんなら、こんな世界は―――。
「``強い奴``がルールなんだよ!」
次の瞬間、腹に拳がぶち込まれ、腑が口から飛び出そうになる感覚に襲われながら、意識は闇へと溶けていった。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる