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復讐のブルー・ペグランタン編
四支部首脳会談
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北支部監督官たる俺、レク・ホーランは任務請負証の通信機能を使い、各支部の監督官に招集をかけていた。場所は擬似精神世界にて行われる、グループ霊子通信である。
各支部に赴いた際、各支部の監督官を連絡先交換していた。連絡先交換すると、精神世界に招待するために対象を一々検索をかける手間が省けるので、有事が起こった場合を念頭に入れ、使うことはないだろうと思いつつもフレンドとして追加していたのである。
「ちわーっす」
「うす」
「久しいな、レク殿」
南、西、東の順に、軽く挨拶しながら精神世界に姿を現す。
俺から向かって右から南支部監督官トト・タート、西支部監督官ジークフリート、東支部監督官仙獄觀音が、精神世界の床から生えてきた椅子に腰掛ける。
「忙しいところ悪い。本部からの指示を待つのもありだが、これも何かの縁だ。今回の件について、忌憚なく意見交換でもしてみようや」
と、気軽な感じで場を濁す。
今回の出来事は武市全域で起こっている。詳しい事情を説明しなくても、各々が各々の解釈で状況を把握しているだろう。
自分にはない視点で解釈した情報を、本部を通さずに得られるのは貴重だ。本部は幹部官と任務長で物事を決めるが、彼らの判断が組織の命運を左右するため、どうしても結論や情報が出るまでに時間がかかる。待っていられないわけじゃないが、以前と違って支部同士に繋がりができた今、その繋がりを活用しないのはただひたすらにもったいないと思ったがゆえだ。
「私から追加の情報を述べよう。武市上空に出現した浮遊物体は、大量の霊力収束光線を照射したようだ。光線の物量は筆舌に尽くしがたく、例えるなら災害級のゲリラ豪雨のようだったと」
「ガチの空襲じゃん。こえー……」
仙獄觀音からの報告に、ジークフリートは寒さでも凌ぐように両袖を手で摩擦する。
霊力収束光線のゲリラ豪雨。それはまさに、空襲と呼ぶに相応しい範囲攻撃であり、当たれば即死は免れない恐ろしい豪雨である。
仙獄觀音によると、霊力集束光線は範囲こそ不明だが少なくとも中威区東部全体に降り注ぎ、あまりの物量に景色が真っ白になるほどの照射密度だったそうで、もしも無策に支部ビルの外に出ていようものなら、一秒足らずで炭も残らず消滅していただろうとのこと。
範囲は少なくとも中威区東部全体のようだが、だとすると東支部にのみ空襲警報が発令されるはず。だが実際は全ての支部に発令されていた、本部が空襲範囲を誤るとは思えない。
となれば、空襲の範囲は冗談抜きで武市全域ということになる。何かの質の悪い冗談だと思いたいぐらいのスケールだが、実際に中威区東部全体をすっぽり空爆できているあたり、武市全域を空襲というのは、あながちありえない話じゃなくなってくる。本部が大規模霊力空襲警報を発令するのも頷ける地獄絵図だが、しかし。
「分かんねぇな……」
「レクパイセンもそう思うっすか」
「素朴な疑問なんだがよ、それだけ大規模な空襲に晒されて、なんで俺たちは無事なんだ?」
レクの言葉に、全員が思考の海に身を投じる。
武市全域で行われた、超大規模な空襲。霊力収束光線のゲリラ豪雨が降り注いだということは、建物の外はもはや死地だったと言ってもいい。だが問題は、武市全域を攻撃しておいて、支部ビルに何の影響もないことだ。
「支部ビルがカッチカチだからじゃ?」
「確かに建材は魔法と希少鉱石で強化された複合装甲だし、いざとなれば霊壁展開もできるが……流石にノーダメは無理だろう」
特に反論が思いつかなかったのか、ジークフリートは眠たそうな顔で頬杖をつく。
支部ビルの建設には幹部官、その中でも``三大魔女``と呼ばれる重鎮中の重鎮が関わっており、その強度は上位暴閥の領土防御機構を上回るとされる。
支部ビルに使われる建材はドラゴナイト鉱石と呼ばれる希少鉱石をベースに、独自の強化魔法で更に強度を引き上げた複合装甲が使われている。その強度は半径五百キロメトを焦土にする戦略級空対地兵器``マナーム弾``の直撃を受けても原型を留められるほどで、各支部にある地下シェルターに避難すれば、全員の生存が可能だ。
しかし武市全域ともなれば、その威力は並の戦略級破壊兵器をも凌ぐことになる。
いくら支部ビルの守りが堅牢とはいえ、武市全域を攻撃範囲とする爆撃に、無傷かつ何の音沙汰もなしに耐える―――というのは、あまりに無理がある話だ。となれば、最初から標的にされていなかったということになるのだが。
「パラライズ・ウィッパーからの報告では、未確認浮遊物体から放たれた霊力収束光線の豪雨による家屋の被害は確認できなかったらしい」
「じゃあなんだ? エーテルレーザーが家屋を避けたってのかよ」
「それは分からない。ただ分かることは、東支部周辺にある家屋や、東支部ビルには一発も当たらなかったそうだ」
ありえない。淡々と追加情報を報告する仙獄觀音を含め、ほとんどが固唾を飲んだ。ただ一人、顎に手を当てたまま思考の海を遠泳するトト・タートを除いて。
「……意見があれば言ってくれ」
「……ん、ああ、いや……あるにはあるんすけど……いやー……どう言ったもんかなーって」
「まとまってなくてもいい。とりあえず話してくれねぇか」
霊力収束光線とかは、完全にむーさんの領分だ。知識がないわけじゃないが、知識量じゃ専門家には遠く及ばない。むーさんはブルーとともに出かけてしまってこの場におらず、いない者に思いを馳せても仕方がないので、この場で最も霊力関連に詳しそうな人物の意見を聞きたいところだ。
「家屋やビルには当たってないってんなら、答えは一つ。特定の地上目標のみを正確無比に狙撃したってことになるっすよね。結論から言えば」
「いやまあ、そうなるけどよ。実際のところ無理があるだろそれは……この目で見たわけじゃねぇけど、豪雨って例えられるぐらいの物量だったんだろ? それが一発も家屋に当たらんなんてことあるのか?」
トト以外の全員が同意してくる。
武市の真上に天幕があるわけでもなし、豪雨に匹敵するほどの物量が一撃も家屋に当たらないなんて、天文学的確率じゃなかろうか。流石に天文学的確率を考慮して議論するほど暇じゃないし、もっと現実的な視野で話をしたいところだ。
「いや、同時目標数を犠牲にすれば高高度からの超遠距離狙撃自体、経験上可能っす」
全員が否定色を濃厚に漂わせる中、トトは雰囲気に流されることなくきっぱりと言い張る。
トト曰く。トトには姉が何人もいるらしく、彼女はその中でも末妹に近い存在らしいのだが、その姉たちならば北ヘルリオン山脈から南支部ビルがある中威区南部過疎地帯までを射程範囲とし、超遠距離狙撃が可能な演算能力を有しているという。
「……いやいやいやいや」
説明してくれたのはありがたいし、それなのに否定から入るのは失礼極まりない態度なのは分かっている。だが流石に、あんまりにも、言っていることの現実離れがすぎている。
北ヘルリオン山脈から中威区南部過疎地帯が射程範囲って、流石におかしい。空路でも飛行速度にもよるが、一日以上かかる距離。肉眼で相手が見えるわけもなし、そもそもどうやって狙いを定めるというのか。距離を鑑みて物理的に狙撃不可能だと思うのだが。
「あらかじめ目標とする霊力の波長さえ分かっていれば、逆探知は可能っす」
しかし、更にトト以外の全員の頭をより深く悩ませる。
トト曰く。生きとし生けるもの全てには、それぞれ固有の霊力波長を持ち、その波長を探知することができるなら、理論上は距離に関係なく個人の特定が可能なのだという。
一般に知られている探知系魔法``探査``や``逆探``も範囲内の全てか、あらかじめ指定したかの違いはあるものの、生命体が持つ二つとない固有の霊力波長を感知することで、その効能を発揮しているのだそうだ。
「で、お前の姉たちは探知系魔法もなしに探知系魔法と同じ芸当ができるやべぇ奴らだと」
「そう……なるっすかね。やべぇってところならまあ、間違っちゃいねーっすわ」
ようやく自分が余程トチ狂っている話をしていると自覚し始めたのか、こめかみあたりを掻きながら額に汗を滲ませ、目を逸らす。
要するに理論上可能な芸当を実際にやり通せる怪物じみた姉たちがいるからこそ、理論上が経験上になっていて、実際に人の手でも可能なのだと、そう言いたいのだろう。
ただ、無視すべきでない箇所が一つある。
「お前はさっき、``目標数を犠牲にすれば``と前置きしていたな? 今回の攻撃は攻撃数からして軽く三桁の目標を標的にしていたように思えるが、そのあたりはどう考えているのだ?」
仙獄觀音は相変わらずトトに対して威圧的だ。殺意に似た黒いオーラを滲ませ、まるで刺し殺すような鋭利な視線をトトに向ける。
「そこなんすよねー……」
絶賛不仲の仙獄觀音に威圧されていながら、珍しくトトは対抗意識を見せない。むしろばつが悪そうな顔をして、彼女と顔を合わせようとしなかった。
トトが自分の意見を言い淀んだ理由。それがまさしく、射程範囲に対して同時に狙い撃てる目標数である。
トトの姉たちは探知系魔法もなしに探知系魔法を使った場合と同じ芸当ができ、なおかつ得た情報を基に北ヘルリオン山脈から中威区南部過疎地帯までの範囲を射程範囲とした超遠距離狙撃が可能というバケモノ地味た狙撃能力を持つが、人外とも例えられる姉たちをもってしても、ヒューマノリア大陸の半分以上を射程範囲とした狙撃となると、単騎では複数同時に地上目標を狙い撃つのは流石に不可能なのだそうで、複数個の地上目標を狙撃する場合、地上目標と同じ人数の姉たちが対応しなければならないのだという。
「だから超遠距離かつ超広範囲をカバーしつつ、三桁数の地上目標を同時に狙撃する芸当がどう足掻いても生物的に再現不可能なんすよ。純粋な意味で人間技じゃないんすよね、スケール的に」
トト曰く。今回の芸当を人の力で行うには、トトの姉たちと同等の魔法陣演算能力を持つ大魔導師を数千人単位で用意しなければ実現不可能で、少なくとも確実に言えるのは、どれだけ優れた大魔導師だろうと種族が人間であるのなら、演算装置である脳味噌を限界以上に酷使したとしても、推測される演算量と演算速度の関係から、生物的に絶対不可能とのことだ。
「じゃああの巨大UFOが実は空島で、その空島にいる奴らが儀式的にやったとか?」
聞き手に徹していたジークフリートが気怠そうに頭をかきながら、口を開く。
空島。確かに見方を変えれば空に浮かぶ巨大な島とも言えなくもない。機械のランプの如く点々と虹色に光っている部分があるのが気になるが、その島に数千人規模で誰かがいて、霊力収束光線を同時に撃ったと考えるのが、より自然ではある。
「いや、それはないだろう」
違和感が拭えない中、仙獄觀音は容赦なく両断する。
「霊力収束光線の豪雨は、それぞれが同時に放たれた。もしも複数人の魔導師が同時に撃ったとするなら、一撃一撃にほんのわずかな間隔が生じるはずだ」
トトがこれまた珍しく、仙獄觀音の意見に首肯する。
仙獄觀音曰く。人は機械ではない。たとえ同時に同じ作業を同じ速度で行うとしても、人の身であるならば寸分違わず同時かつ同精度、同速度で行うのは、極めて難しい。たとえ認識できる範囲では同じでも、人の感覚ではわからないほんの僅かなズレが生じるものだ。特に霊力収束光線ともなると、そのズレが顕著に現れる。
「魔法陣でいくら示し合わせても、魔導師ごとに演算能力や演算速度、演算形式には差があるし、霊力出力にもどう足掻こうがほんの僅かな差が出るっす。その差は、発射から着弾までの距離が長いほど、より鮮明に観測できるようになるっす」
霊力に関する専門家が二人もいると、もはや新人研修でも受けている気分になってくる。
霊力収束光線、俗にエーテルレーザー、マナリオンレーザーと呼ばれるそれは、霊力収束体―――霊力を収束させる源、ここで言う魔導師に該当するものから発射された瞬間が最大の収束率を誇り、収束率は着弾までの距離に反比例する性質を持つ。
これは霊力に指向性があるものの、それ以前に周囲の物質体と平衡状態になろうとする作用によって霊的エネルギーが時間に比例して発散するために起こるらしい。
もしも同一条件下で複数の地上目標を狙撃した場合、発射される全ての霊力収束光線の威力減衰速度と弾速は、全て同一になるはずだという。
「じ、じゃあ何か? 一人の人間が武市全域に霊力収束光線の雨を降らせたってのかよ……」
二人は静かに頷いた。自分の推論に自信を持つ反面、頬には汗を滲ませていた。
「でも人間じゃ生物的に無理なんだろ? 実際のところどうやってやり仰たんだ?」
ジークフリートが頬杖をつきながら、今投げようとしていた疑問を槍玉に挙げてくれた。
複数人が儀式的に行使したわけではない、ならば何者かが一人で全て行ったことになるが、人間には不可能な芸当。人間じゃないというのなら、一体誰がやり通したというのだろう。
「誰がやったかは……正直分かんないっす。でも分かることは、今回の空襲をやり通した奴は、純粋な意味で人智を超えた、想像絶する高い演算能力を持っているってことっす」
人智を超えた、想像絶する高い演算能力。どれだけ優れた大魔導師だろうと、人間という種族の壁を超えない限り絶対に成し得ない身技、それをさも当然のようにやり通した空島は、一体。
「パラライズ・ウィッパーから追加情報だ」
議論が煮詰まり、八方塞がりな雰囲気を滲ませ始めた矢先。仙獄觀音が分厚い壁を食い破り、活路を見出す。
「武市全域を覆い尽くす巨大浮遊物体だが、つい先ほど姿が掻き消えたそうだ。まるで青空と同化するように透けて視認不能になったと報告が上がった」
全員顔を見合わせる。無言だが、皆が浮かんでいる言葉はきっと同じだろう。
青空と同化するように姿が掻き消える。霊力収束光線の雨もそうだが、何から何までこの場にいる全員の理解力を超越している。
「わけわかんねーな……」
頭を掻きむしるジークフリート。その言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
「レク殿。これ以上の議論は難しい。どうやら、私たちの想像力を遥かに超えている何かのようだ。これまで通り、各々本部からの続報を待つべきではないか?」
沈黙が支配し始めた精神世界に、救いの一手。仙獄觀音の助け舟に、トト、ジークフリートは無言で賛同の意を示した。
確かにこのまま議論を続けても、答えは出ない。すでにこの場にいる者たちの知識や理解力を超えている以上、本部からの続報を待つのが、監督官として妥当な対応だと思う。だが。
「俺たちの想像を、遥かに超えた……か」
武市上空に突如現れた、空島とも例えられるほどに巨大な浮遊物体。そしてその浮遊物体から放たれる霊力収束光線の雨。そのどれもが、理解力を超越した何かによって行われた所業なら、自分らの想像を超えた何かとは、何だろう。想像を超えた、想像できない、知らない、何か。
「…………まさか、流川か?」
全員が、一斉に、寸分違わないタイミングで振り向いた。
この場にいる連中が想像つかない何かと言われれば、パッと思い浮かぶものは人によるだろうが、共通している勢力はおそらく一つしかない。
流川家。花筏と並び、武力統一大戦時代を制した暴閥界の王。武市の建国王でもあり、全ての暴閥やギャングスターにとって、まさしく王族のような存在。
武力統一大戦時代が終わって三十年が経った今、当主が代替わりしたって話だけが流れたが、今まで流川が流川として動いたことは一度もなかった。だからこそ人々は自然と流川の存在を度外視して日々を過ごすようになったが、よくよく考えてみれば、武市全域を覆い尽くす巨大浮遊物体を創れて、霊力収束光線の雨を降らし、想像もできない破格の演算能力で特定の地上目標だけを破壊し、それ以外の被害をゼロに抑えるなんて馬鹿げた芸当ができるのは、この場にいるやつら全員が頭をこねくり回しあっても、その技術力、軍事力、勢力。その全ての片鱗すら覗けない圧倒的強者のみ。
流川家だけが、今の状況を一言で説明できる相応しい存在なんじゃないだろうか。
「仮に流川だとしたら、俺らじゃどうしようもなくねーか? 何がしたかったんかは知らねーが、俺らには被害なかったわけだろ?」
ジークフリートの意見も一理ある。もし仮に、万が一に流川だとしたら、支部監督官如きがどうにかできる問題ではない。そもそも本部が出張ったとしても、どうこうできる問題ではないだろう。
流川をどうにかできるのは、同格の存在たる花筏だけ。花筏以外の如何なる勢力も、流川の圧倒的軍事力の前には敵わない。たとえ、武市のほとんどの勢力を恐れさせる``三大魔女``であったとしても。
「しっかし、どんな真似したらあんなド派手なことができるんだろーな……」
「考えたって無駄だ。流川のやることなんざ、誰にも分かんねぇ。``流川``だからな」
疑問を口にしたジークフリート以外の全員が、首肯する。
流川のやることは、流川自身でしか知り得ない。今回の一件のように、人々の想像を遥かに超える力をさも当然と言わんばかりに使う存在に、支部監督官如きが脳味噌を四つこねくり合わせたところで理解できるはずもない。どうにもできないのは癪だが、何事も適材適所だ。
「仙獄の言う通り、議論はここいらで締めるとしよう。本部からの続報を待ち、各々本部の指示に従うってことで」
異議なし、自分以外の全員がそう返事して立ち上がる。全員が精神世界を去ったところを確認すると、精神世界を閉じるコマンドを選択し、意識が現実世界へ帰還する。
視界に映るは無駄な家具が一切ない、必要最低限のものだけが置いてある殺風景な執務室。辺りを見渡すが、ブルーの姿はない。まだ帰ってきていないようだ。
机に置いてある時計を見ると、すでに三十分近く経過している。ブルーは偵察だと言っていたが、彼女はむーさんを連れている。むーさんは魔生物でありながら何故だが魔法も使うことができるわけのわからない存在だ。魔生物なのに何故、という疑問はあるが、それはむーさんだからと最近流している。
だからこそ、偵察などもう終わっていてもおかしくないはずなのだが。
「……雑魚寝かましてやがるのか?」
この緊急時に。他の連中ならまずありえないが、ブルーならありえるから困る。
「レク、おいレク!!」
執務室の自動扉を叩く音とともに、男の怒号がくぐもって部屋の中に響き渡る。
「どうした。自動ドアだぞ」
執務机にある操作盤、いくつかボタンがあるそれに、開と書かれたボタンを押す。自動扉が開かれ、連続ノックをしてきたであろう請負人が部屋に飛び込んできた。
「レク、外を見ろ!! 早く!!」
「何があった? 巨大浮遊物体なら……」
「それじゃねぇ!! むーさんだ、むーさんが暴れてる!!」
あまりに予想外の報告に、監督官とあろうものが呆気に取られてしまった。
むーさんが暴れている。むーさんは基本的に温厚だ、カチキレたら手に負えないが、カチキレる条件は一つに絞られる。
「このままじゃあ北支部周辺が更地になるぞ、なんとかしてくれ!!」
頭をかきながら、大きくため息。焦りに焦り散らかす請負人の肩を優しく叩き、ソファに座らせる。
「ちょっくら行ってくる」
怒り暴れているむーさんを止められるのは自分か、``母``くらいなもんだ。いや暴れ具合によっては、自分は力不足かもしれない。
だが行かないわけにはいかなかった。北支部監督官レク・ホーランとして、馬鹿な奴を止めなければ。
だが俺は甘く見ていた。ブルー・ペグランタンという少女の本質を。請負人同士で過去の探り合いはしないというのは、暗黙の了解。だからこそ、請負人になる前の彼女が如何なる存在だったのかを、この時点の俺はまだ知らなかった。
彼女の半生を少しでも知っていれば、回避できたかもしれないのに。
各支部に赴いた際、各支部の監督官を連絡先交換していた。連絡先交換すると、精神世界に招待するために対象を一々検索をかける手間が省けるので、有事が起こった場合を念頭に入れ、使うことはないだろうと思いつつもフレンドとして追加していたのである。
「ちわーっす」
「うす」
「久しいな、レク殿」
南、西、東の順に、軽く挨拶しながら精神世界に姿を現す。
俺から向かって右から南支部監督官トト・タート、西支部監督官ジークフリート、東支部監督官仙獄觀音が、精神世界の床から生えてきた椅子に腰掛ける。
「忙しいところ悪い。本部からの指示を待つのもありだが、これも何かの縁だ。今回の件について、忌憚なく意見交換でもしてみようや」
と、気軽な感じで場を濁す。
今回の出来事は武市全域で起こっている。詳しい事情を説明しなくても、各々が各々の解釈で状況を把握しているだろう。
自分にはない視点で解釈した情報を、本部を通さずに得られるのは貴重だ。本部は幹部官と任務長で物事を決めるが、彼らの判断が組織の命運を左右するため、どうしても結論や情報が出るまでに時間がかかる。待っていられないわけじゃないが、以前と違って支部同士に繋がりができた今、その繋がりを活用しないのはただひたすらにもったいないと思ったがゆえだ。
「私から追加の情報を述べよう。武市上空に出現した浮遊物体は、大量の霊力収束光線を照射したようだ。光線の物量は筆舌に尽くしがたく、例えるなら災害級のゲリラ豪雨のようだったと」
「ガチの空襲じゃん。こえー……」
仙獄觀音からの報告に、ジークフリートは寒さでも凌ぐように両袖を手で摩擦する。
霊力収束光線のゲリラ豪雨。それはまさに、空襲と呼ぶに相応しい範囲攻撃であり、当たれば即死は免れない恐ろしい豪雨である。
仙獄觀音によると、霊力集束光線は範囲こそ不明だが少なくとも中威区東部全体に降り注ぎ、あまりの物量に景色が真っ白になるほどの照射密度だったそうで、もしも無策に支部ビルの外に出ていようものなら、一秒足らずで炭も残らず消滅していただろうとのこと。
範囲は少なくとも中威区東部全体のようだが、だとすると東支部にのみ空襲警報が発令されるはず。だが実際は全ての支部に発令されていた、本部が空襲範囲を誤るとは思えない。
となれば、空襲の範囲は冗談抜きで武市全域ということになる。何かの質の悪い冗談だと思いたいぐらいのスケールだが、実際に中威区東部全体をすっぽり空爆できているあたり、武市全域を空襲というのは、あながちありえない話じゃなくなってくる。本部が大規模霊力空襲警報を発令するのも頷ける地獄絵図だが、しかし。
「分かんねぇな……」
「レクパイセンもそう思うっすか」
「素朴な疑問なんだがよ、それだけ大規模な空襲に晒されて、なんで俺たちは無事なんだ?」
レクの言葉に、全員が思考の海に身を投じる。
武市全域で行われた、超大規模な空襲。霊力収束光線のゲリラ豪雨が降り注いだということは、建物の外はもはや死地だったと言ってもいい。だが問題は、武市全域を攻撃しておいて、支部ビルに何の影響もないことだ。
「支部ビルがカッチカチだからじゃ?」
「確かに建材は魔法と希少鉱石で強化された複合装甲だし、いざとなれば霊壁展開もできるが……流石にノーダメは無理だろう」
特に反論が思いつかなかったのか、ジークフリートは眠たそうな顔で頬杖をつく。
支部ビルの建設には幹部官、その中でも``三大魔女``と呼ばれる重鎮中の重鎮が関わっており、その強度は上位暴閥の領土防御機構を上回るとされる。
支部ビルに使われる建材はドラゴナイト鉱石と呼ばれる希少鉱石をベースに、独自の強化魔法で更に強度を引き上げた複合装甲が使われている。その強度は半径五百キロメトを焦土にする戦略級空対地兵器``マナーム弾``の直撃を受けても原型を留められるほどで、各支部にある地下シェルターに避難すれば、全員の生存が可能だ。
しかし武市全域ともなれば、その威力は並の戦略級破壊兵器をも凌ぐことになる。
いくら支部ビルの守りが堅牢とはいえ、武市全域を攻撃範囲とする爆撃に、無傷かつ何の音沙汰もなしに耐える―――というのは、あまりに無理がある話だ。となれば、最初から標的にされていなかったということになるのだが。
「パラライズ・ウィッパーからの報告では、未確認浮遊物体から放たれた霊力収束光線の豪雨による家屋の被害は確認できなかったらしい」
「じゃあなんだ? エーテルレーザーが家屋を避けたってのかよ」
「それは分からない。ただ分かることは、東支部周辺にある家屋や、東支部ビルには一発も当たらなかったそうだ」
ありえない。淡々と追加情報を報告する仙獄觀音を含め、ほとんどが固唾を飲んだ。ただ一人、顎に手を当てたまま思考の海を遠泳するトト・タートを除いて。
「……意見があれば言ってくれ」
「……ん、ああ、いや……あるにはあるんすけど……いやー……どう言ったもんかなーって」
「まとまってなくてもいい。とりあえず話してくれねぇか」
霊力収束光線とかは、完全にむーさんの領分だ。知識がないわけじゃないが、知識量じゃ専門家には遠く及ばない。むーさんはブルーとともに出かけてしまってこの場におらず、いない者に思いを馳せても仕方がないので、この場で最も霊力関連に詳しそうな人物の意見を聞きたいところだ。
「家屋やビルには当たってないってんなら、答えは一つ。特定の地上目標のみを正確無比に狙撃したってことになるっすよね。結論から言えば」
「いやまあ、そうなるけどよ。実際のところ無理があるだろそれは……この目で見たわけじゃねぇけど、豪雨って例えられるぐらいの物量だったんだろ? それが一発も家屋に当たらんなんてことあるのか?」
トト以外の全員が同意してくる。
武市の真上に天幕があるわけでもなし、豪雨に匹敵するほどの物量が一撃も家屋に当たらないなんて、天文学的確率じゃなかろうか。流石に天文学的確率を考慮して議論するほど暇じゃないし、もっと現実的な視野で話をしたいところだ。
「いや、同時目標数を犠牲にすれば高高度からの超遠距離狙撃自体、経験上可能っす」
全員が否定色を濃厚に漂わせる中、トトは雰囲気に流されることなくきっぱりと言い張る。
トト曰く。トトには姉が何人もいるらしく、彼女はその中でも末妹に近い存在らしいのだが、その姉たちならば北ヘルリオン山脈から南支部ビルがある中威区南部過疎地帯までを射程範囲とし、超遠距離狙撃が可能な演算能力を有しているという。
「……いやいやいやいや」
説明してくれたのはありがたいし、それなのに否定から入るのは失礼極まりない態度なのは分かっている。だが流石に、あんまりにも、言っていることの現実離れがすぎている。
北ヘルリオン山脈から中威区南部過疎地帯が射程範囲って、流石におかしい。空路でも飛行速度にもよるが、一日以上かかる距離。肉眼で相手が見えるわけもなし、そもそもどうやって狙いを定めるというのか。距離を鑑みて物理的に狙撃不可能だと思うのだが。
「あらかじめ目標とする霊力の波長さえ分かっていれば、逆探知は可能っす」
しかし、更にトト以外の全員の頭をより深く悩ませる。
トト曰く。生きとし生けるもの全てには、それぞれ固有の霊力波長を持ち、その波長を探知することができるなら、理論上は距離に関係なく個人の特定が可能なのだという。
一般に知られている探知系魔法``探査``や``逆探``も範囲内の全てか、あらかじめ指定したかの違いはあるものの、生命体が持つ二つとない固有の霊力波長を感知することで、その効能を発揮しているのだそうだ。
「で、お前の姉たちは探知系魔法もなしに探知系魔法と同じ芸当ができるやべぇ奴らだと」
「そう……なるっすかね。やべぇってところならまあ、間違っちゃいねーっすわ」
ようやく自分が余程トチ狂っている話をしていると自覚し始めたのか、こめかみあたりを掻きながら額に汗を滲ませ、目を逸らす。
要するに理論上可能な芸当を実際にやり通せる怪物じみた姉たちがいるからこそ、理論上が経験上になっていて、実際に人の手でも可能なのだと、そう言いたいのだろう。
ただ、無視すべきでない箇所が一つある。
「お前はさっき、``目標数を犠牲にすれば``と前置きしていたな? 今回の攻撃は攻撃数からして軽く三桁の目標を標的にしていたように思えるが、そのあたりはどう考えているのだ?」
仙獄觀音は相変わらずトトに対して威圧的だ。殺意に似た黒いオーラを滲ませ、まるで刺し殺すような鋭利な視線をトトに向ける。
「そこなんすよねー……」
絶賛不仲の仙獄觀音に威圧されていながら、珍しくトトは対抗意識を見せない。むしろばつが悪そうな顔をして、彼女と顔を合わせようとしなかった。
トトが自分の意見を言い淀んだ理由。それがまさしく、射程範囲に対して同時に狙い撃てる目標数である。
トトの姉たちは探知系魔法もなしに探知系魔法を使った場合と同じ芸当ができ、なおかつ得た情報を基に北ヘルリオン山脈から中威区南部過疎地帯までの範囲を射程範囲とした超遠距離狙撃が可能というバケモノ地味た狙撃能力を持つが、人外とも例えられる姉たちをもってしても、ヒューマノリア大陸の半分以上を射程範囲とした狙撃となると、単騎では複数同時に地上目標を狙い撃つのは流石に不可能なのだそうで、複数個の地上目標を狙撃する場合、地上目標と同じ人数の姉たちが対応しなければならないのだという。
「だから超遠距離かつ超広範囲をカバーしつつ、三桁数の地上目標を同時に狙撃する芸当がどう足掻いても生物的に再現不可能なんすよ。純粋な意味で人間技じゃないんすよね、スケール的に」
トト曰く。今回の芸当を人の力で行うには、トトの姉たちと同等の魔法陣演算能力を持つ大魔導師を数千人単位で用意しなければ実現不可能で、少なくとも確実に言えるのは、どれだけ優れた大魔導師だろうと種族が人間であるのなら、演算装置である脳味噌を限界以上に酷使したとしても、推測される演算量と演算速度の関係から、生物的に絶対不可能とのことだ。
「じゃああの巨大UFOが実は空島で、その空島にいる奴らが儀式的にやったとか?」
聞き手に徹していたジークフリートが気怠そうに頭をかきながら、口を開く。
空島。確かに見方を変えれば空に浮かぶ巨大な島とも言えなくもない。機械のランプの如く点々と虹色に光っている部分があるのが気になるが、その島に数千人規模で誰かがいて、霊力収束光線を同時に撃ったと考えるのが、より自然ではある。
「いや、それはないだろう」
違和感が拭えない中、仙獄觀音は容赦なく両断する。
「霊力収束光線の豪雨は、それぞれが同時に放たれた。もしも複数人の魔導師が同時に撃ったとするなら、一撃一撃にほんのわずかな間隔が生じるはずだ」
トトがこれまた珍しく、仙獄觀音の意見に首肯する。
仙獄觀音曰く。人は機械ではない。たとえ同時に同じ作業を同じ速度で行うとしても、人の身であるならば寸分違わず同時かつ同精度、同速度で行うのは、極めて難しい。たとえ認識できる範囲では同じでも、人の感覚ではわからないほんの僅かなズレが生じるものだ。特に霊力収束光線ともなると、そのズレが顕著に現れる。
「魔法陣でいくら示し合わせても、魔導師ごとに演算能力や演算速度、演算形式には差があるし、霊力出力にもどう足掻こうがほんの僅かな差が出るっす。その差は、発射から着弾までの距離が長いほど、より鮮明に観測できるようになるっす」
霊力に関する専門家が二人もいると、もはや新人研修でも受けている気分になってくる。
霊力収束光線、俗にエーテルレーザー、マナリオンレーザーと呼ばれるそれは、霊力収束体―――霊力を収束させる源、ここで言う魔導師に該当するものから発射された瞬間が最大の収束率を誇り、収束率は着弾までの距離に反比例する性質を持つ。
これは霊力に指向性があるものの、それ以前に周囲の物質体と平衡状態になろうとする作用によって霊的エネルギーが時間に比例して発散するために起こるらしい。
もしも同一条件下で複数の地上目標を狙撃した場合、発射される全ての霊力収束光線の威力減衰速度と弾速は、全て同一になるはずだという。
「じ、じゃあ何か? 一人の人間が武市全域に霊力収束光線の雨を降らせたってのかよ……」
二人は静かに頷いた。自分の推論に自信を持つ反面、頬には汗を滲ませていた。
「でも人間じゃ生物的に無理なんだろ? 実際のところどうやってやり仰たんだ?」
ジークフリートが頬杖をつきながら、今投げようとしていた疑問を槍玉に挙げてくれた。
複数人が儀式的に行使したわけではない、ならば何者かが一人で全て行ったことになるが、人間には不可能な芸当。人間じゃないというのなら、一体誰がやり通したというのだろう。
「誰がやったかは……正直分かんないっす。でも分かることは、今回の空襲をやり通した奴は、純粋な意味で人智を超えた、想像絶する高い演算能力を持っているってことっす」
人智を超えた、想像絶する高い演算能力。どれだけ優れた大魔導師だろうと、人間という種族の壁を超えない限り絶対に成し得ない身技、それをさも当然のようにやり通した空島は、一体。
「パラライズ・ウィッパーから追加情報だ」
議論が煮詰まり、八方塞がりな雰囲気を滲ませ始めた矢先。仙獄觀音が分厚い壁を食い破り、活路を見出す。
「武市全域を覆い尽くす巨大浮遊物体だが、つい先ほど姿が掻き消えたそうだ。まるで青空と同化するように透けて視認不能になったと報告が上がった」
全員顔を見合わせる。無言だが、皆が浮かんでいる言葉はきっと同じだろう。
青空と同化するように姿が掻き消える。霊力収束光線の雨もそうだが、何から何までこの場にいる全員の理解力を超越している。
「わけわかんねーな……」
頭を掻きむしるジークフリート。その言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
「レク殿。これ以上の議論は難しい。どうやら、私たちの想像力を遥かに超えている何かのようだ。これまで通り、各々本部からの続報を待つべきではないか?」
沈黙が支配し始めた精神世界に、救いの一手。仙獄觀音の助け舟に、トト、ジークフリートは無言で賛同の意を示した。
確かにこのまま議論を続けても、答えは出ない。すでにこの場にいる者たちの知識や理解力を超えている以上、本部からの続報を待つのが、監督官として妥当な対応だと思う。だが。
「俺たちの想像を、遥かに超えた……か」
武市上空に突如現れた、空島とも例えられるほどに巨大な浮遊物体。そしてその浮遊物体から放たれる霊力収束光線の雨。そのどれもが、理解力を超越した何かによって行われた所業なら、自分らの想像を超えた何かとは、何だろう。想像を超えた、想像できない、知らない、何か。
「…………まさか、流川か?」
全員が、一斉に、寸分違わないタイミングで振り向いた。
この場にいる連中が想像つかない何かと言われれば、パッと思い浮かぶものは人によるだろうが、共通している勢力はおそらく一つしかない。
流川家。花筏と並び、武力統一大戦時代を制した暴閥界の王。武市の建国王でもあり、全ての暴閥やギャングスターにとって、まさしく王族のような存在。
武力統一大戦時代が終わって三十年が経った今、当主が代替わりしたって話だけが流れたが、今まで流川が流川として動いたことは一度もなかった。だからこそ人々は自然と流川の存在を度外視して日々を過ごすようになったが、よくよく考えてみれば、武市全域を覆い尽くす巨大浮遊物体を創れて、霊力収束光線の雨を降らし、想像もできない破格の演算能力で特定の地上目標だけを破壊し、それ以外の被害をゼロに抑えるなんて馬鹿げた芸当ができるのは、この場にいるやつら全員が頭をこねくり回しあっても、その技術力、軍事力、勢力。その全ての片鱗すら覗けない圧倒的強者のみ。
流川家だけが、今の状況を一言で説明できる相応しい存在なんじゃないだろうか。
「仮に流川だとしたら、俺らじゃどうしようもなくねーか? 何がしたかったんかは知らねーが、俺らには被害なかったわけだろ?」
ジークフリートの意見も一理ある。もし仮に、万が一に流川だとしたら、支部監督官如きがどうにかできる問題ではない。そもそも本部が出張ったとしても、どうこうできる問題ではないだろう。
流川をどうにかできるのは、同格の存在たる花筏だけ。花筏以外の如何なる勢力も、流川の圧倒的軍事力の前には敵わない。たとえ、武市のほとんどの勢力を恐れさせる``三大魔女``であったとしても。
「しっかし、どんな真似したらあんなド派手なことができるんだろーな……」
「考えたって無駄だ。流川のやることなんざ、誰にも分かんねぇ。``流川``だからな」
疑問を口にしたジークフリート以外の全員が、首肯する。
流川のやることは、流川自身でしか知り得ない。今回の一件のように、人々の想像を遥かに超える力をさも当然と言わんばかりに使う存在に、支部監督官如きが脳味噌を四つこねくり合わせたところで理解できるはずもない。どうにもできないのは癪だが、何事も適材適所だ。
「仙獄の言う通り、議論はここいらで締めるとしよう。本部からの続報を待ち、各々本部の指示に従うってことで」
異議なし、自分以外の全員がそう返事して立ち上がる。全員が精神世界を去ったところを確認すると、精神世界を閉じるコマンドを選択し、意識が現実世界へ帰還する。
視界に映るは無駄な家具が一切ない、必要最低限のものだけが置いてある殺風景な執務室。辺りを見渡すが、ブルーの姿はない。まだ帰ってきていないようだ。
机に置いてある時計を見ると、すでに三十分近く経過している。ブルーは偵察だと言っていたが、彼女はむーさんを連れている。むーさんは魔生物でありながら何故だが魔法も使うことができるわけのわからない存在だ。魔生物なのに何故、という疑問はあるが、それはむーさんだからと最近流している。
だからこそ、偵察などもう終わっていてもおかしくないはずなのだが。
「……雑魚寝かましてやがるのか?」
この緊急時に。他の連中ならまずありえないが、ブルーならありえるから困る。
「レク、おいレク!!」
執務室の自動扉を叩く音とともに、男の怒号がくぐもって部屋の中に響き渡る。
「どうした。自動ドアだぞ」
執務机にある操作盤、いくつかボタンがあるそれに、開と書かれたボタンを押す。自動扉が開かれ、連続ノックをしてきたであろう請負人が部屋に飛び込んできた。
「レク、外を見ろ!! 早く!!」
「何があった? 巨大浮遊物体なら……」
「それじゃねぇ!! むーさんだ、むーさんが暴れてる!!」
あまりに予想外の報告に、監督官とあろうものが呆気に取られてしまった。
むーさんが暴れている。むーさんは基本的に温厚だ、カチキレたら手に負えないが、カチキレる条件は一つに絞られる。
「このままじゃあ北支部周辺が更地になるぞ、なんとかしてくれ!!」
頭をかきながら、大きくため息。焦りに焦り散らかす請負人の肩を優しく叩き、ソファに座らせる。
「ちょっくら行ってくる」
怒り暴れているむーさんを止められるのは自分か、``母``くらいなもんだ。いや暴れ具合によっては、自分は力不足かもしれない。
だが行かないわけにはいかなかった。北支部監督官レク・ホーランとして、馬鹿な奴を止めなければ。
だが俺は甘く見ていた。ブルー・ペグランタンという少女の本質を。請負人同士で過去の探り合いはしないというのは、暗黙の了解。だからこそ、請負人になる前の彼女が如何なる存在だったのかを、この時点の俺はまだ知らなかった。
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