ストーカー三昧・浪曲、小噺、落語

多谷昇太

文字の大きさ
34 / 82
講談コーナー・1・お力

丸木橋を渡ろか止そか

しおりを挟む
(客席に深々とお辞儀をして)ありがとうございます。それではあの方(客B)を無視して先を続けさせていただきます。さて!(張り扇一擲!)菊の井の酒席を勝手に飛び出して〝行かれる物なら此まゝに唐天竺からてんぢくの果までも行つて仕舞たい、あゝ嫌だ嫌だ嫌だ…つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時まで私は…〟などと、闇に沈む道端の立木に寄りかかって、忘失状態に陥っているお力はもはや人の呈を為しておりませんでした。寄りかかっている木がもししだれ柳ででもあったなら、傍目にはひょっとして幽霊に見えたやも知れません。お堀にかかる橋などを見ればさきほど菊の井の酒席で三味線を弾きながら、客から乞われて詠んだ歌〝我戀は細谷川(ほそたにがは)の丸木橋わたるにや怕し渡らねば憂し〟なる歌が脳裡に浮かびます。思えば父も祖父もこの丸木橋を踏み外して道を失いなされた。私もいっそ…とお力は思います。思えば今日はお盆だ、丸木橋を渡った先があの世なら、お盆で娑婆に帰って来ている霊たちに連れられて行きもしょう。しかし…いや、いやいや違う。誤魔化すな!とお力は自分を諫めます。丸木橋の先はあの世なんかじゃない。そこに居るのは女房・子供と自分の堅い商いさえ捨ててあたしを思い続けてくれるあの男、源七だ。いつ踏み外して転げるやも知れぬこの丸木橋を渡ってあの男に添い遂げて見せようか。さすが菊の井のお力と、世間に浮名を流して見せようか。しかしあたしに貢ぎ過ぎて破産しかけているあんな男なんぞと思いもし、お力は決心がつきません。いつかしっかりした男と一緒になって堅い所帯を持つという夢も今の源七であっては覚束な、でしかないのです。まして源七の女房・お初とその子太吉からはどれほど恨まれるだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

マグカップ

高本 顕杜
大衆娯楽
マグカップが割れた――それは、亡くなった妻からのプレゼントだった 。 龍造は、マグカップを床に落として割ってしまった。そのマグカップは、病気で亡くなった妻の倫子が、いつかのプレゼントでくれた物だった。しかし、伸ばされた手は破片に触れることなく止まった。  ――いや、もういいか……捨てよう。

処理中です...