人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

ヘア・ビショッフ

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ありがたき初雇ひ主はHerr Bischoff(ヘア ビッショフ)なりき我らこぞりて笑み以て礼す
※ヘア(Herr)とは「~さん(or氏)」の意味。

スイス北東部にあるサンガーレン州の州都であるサンガーレン市は標高700メートルほど、勤め先のピーター&(ウンド)ポール自然公園内にあるレストランは同駅前からバスに乗ってさらに標高を上がった所にある。スイス山荘風の三階建てのレストランの前でしばし佇んだ松山氏と私は、緊張しながらもおもむろに中へと入って行った。入った中は3坪ほどの玄関ホールで左側に同坪程度の男性用トイレがあるばかり、我々の足は自然とレストランフロアと思しき二階へと続く階段を上がって行った。案の定二階は30坪ほどもあるレストランフロアが右奥に広がっていて、その手前階段を上がった目の間にあるキュッフェ(キッチン・調理場)と思しきドアを松下氏がノックする。いくばくもなくドアが開いてコック姿のスイス人としては小柄な女性が我々を出迎えた。金髪の、どこかジャネット・リンに似た感じのするおかっぱ頭の女性。年は我々より年下に見える。20前後だろうか。松下氏の口上に愛想よさげに笑みを浮かべながら「ヤー、ヤー。モメント(ちょっと待ってて)」と云い残して奥の調理場へと取次ぎに行った。その奥から40代と思しき張りのある男性の声がし、ややあってその声の主が我々の前に現れた。調理中だったと思われる両手をタオルで拭いながら現れた男性こそがこのレストランのオーナーにしてチーフコックたる、ヘア・ビショッフその人だった。茶髪の髪の襟を綺麗に刈り揃え、碧眼の端正なその顔立ちは、調理服を着ていなければちょっとコックとは思えないような、重役然とした仲々の好男子である。背丈は松山氏と同じくらい1メートル70数センチほど(因みに私は1メートル67センチだ)。口元に笑みを浮かべながら「ああ、そう。聞いているよ。それで、君達の名前は?」とスイス語と片言の英語を交えながら訊いてくる。松山氏が自らを「ショーイチ」と私が「カシ」とそれぞれ伝える。実際は正一であり和良なのであり、私は短くカシと現地では名乗っていたのだ。

【こんな感じですかね。調理場の3人、ビショッフ氏とフィリップとドリス。尤も手前のビショッフ氏はもっと小柄でお腹も出ていなかったし、ずっと好男子だった。ドリスもジャネット・リンを思い浮かべてもらった方がいい。他に適当な写真がなかった】
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