自らを越えて 第一巻

多谷昇太

文字の大きさ
62 / 118
丹沢行(1)

上等じゃねえかよ

しおりを挟む
思わぬ展開に俺は生唾をグッと飲み込んでカナとミカを見やる。どう声を掛けようか。俺はどもりながら「じゃっ…じゃ、カナさんとミカさん。あ、あっち行って、ま、ま、待ってましょう。あ、あの、シダの葉の生い茂っているところ」と彼処を指差してみせる。『何?あっち行こうだ?…あたしたちに指図するとは上等じゃねえかよ』とでも云いたげにカナが眼付けする。ミカは半笑い顔を浮かべて面白げに俺を見るだけ。指差した手を挙げたままフリーズするしかない俺に「いいよ。行こうじゃん」とカナがようやく云ってくれて、ほら行けよとばかり首をふってくれる。俺はぎこちない足取りで二人に先導して沢のとっかかり場所まで行き馬鹿のようにボーっと突っ立ってるだけ。「沢の入口ってどこよ?」とカナ。その場所はシダの葉が生い茂り下を流れる渓流さえ見えない薄暗いところだ。大きな鬼蜘蛛があっちこっちに巣を張っている。「はい。だから、ここ…」と俺は申しわけなさそうにそこを指差す。「えーっ?ここ?ここを入って行くの?蜘蛛だらけじゃん。あたし、嫌だーっ!」とミカが絶叫気味に云う。確かにここを、鬼蜘蛛の巣を掻き分けて、シダの葉の下を潜るように入って行くのは、慣れない人であれば二の足、三の足を踏むだろう。しかしこの先の開けた沢の景色を、あたかも自然の宮殿のごとき渓谷のパノラマを知っている我が身であったれば躊躇することはないのだが、しかしそれをミカに云い聞かすことなど俺には出来ない。カナはと云うとあの「上等じゃねえか」と云わんばかりの不敵な笑顔を浮かべてとっかかりを見ている。根性がありそうで怖がる様子など全然見せない。いったいどういう子なのだろう?半グレのようにも見えるし、だったら俺には一番苦手の部類に入る。この先の道中が思いやられるがしかし何よりかにより、あのマドンナとの同行である。カナなど何程のことやあらんと払拭する俺だった。そのマドンナ大伴さんが水を汲み終わってこちらへとやって来た。「誰?〝嫌だーっ〟とか絶叫してたの」「あたし。だって大伴さん、これ、これ」と云って気味悪げにミカが鬼蜘蛛を指差す。「だいじょうぶよ。手で掃えば逃げて行くから。それにこの先はこんなに狭くはないわよ。爽快な渓谷の景色が開けているのよ。さ、その辺の岩に腰掛けて持って来た地下足袋と草鞋に履き替えて」と膠(にべ)もない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...