サマネイ

多谷昇太

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第二章 竜馬

これぞ日本人の俊田

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いたって小柄ながら(後の)俺に云わせればこれぞ日本人と称すべき、相手と状況しだいで硬軟を使い分け得るせちがらさと狡猾さを持っていた。今の俺で云えば家族からの送金を待っているどこか不安げな気配でも読み取ったのだろう、変に取りつかせまいとする様子が有り有りだった。しかしいまだその日本人の特質に疎かった俺はあせりまくってなおも話かける。前に一度会ったきりだったが彼の人と形を捉えていた俺にあっては少なからず傷つきながら、である。「何言ってんのよ。ほら、カブールでいっしょだったじゃない。ハシシの話なんかしてさ…」いまいましげにふりむいた彼の顔が急激にほころんでいく、俺を思い出したのだ。俺の手を両手で握りしめながら「ようようよう、セニョール!元気?えーと…」俺の名が思い出せないのだった。云ってやる。「そうそうそう、村田氏!一瞬思い出せなかったよ。いやあ、失敬失敬」と云いながら連れの男に俺を紹介してみせた。その男というのが俺には運命的な人物なのだがその紹介はあとにして彼俊田のことを先に記そう。彼とはアフガニスタンのカブールで会った。年は30前後だったが、一言で彼の印象を述べるとすればかの坂本竜馬だ。俺と違って確か(忘れてしまった)観光旅行中だった彼は旅を楽しんでいた。(おそらく)ハシシにナニにである。こちら方面の旅には何度も来るというから日本での彼の仕事はおさおさ怠りないのだろう。とにかくその面貌には実務的な雰囲気としたたかさがあった。
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