サマネイ

多谷昇太

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第二章 竜馬

アフガニスタンにタイムスリップ

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しかしそれであるにもかかわらず彼には人間への尽きせぬ興味というものがあって、単に功利如何のことのみならず、いわゆる人に対して「聞く耳」を持っていた。例えば余人の目からすれば愚かとしか云いようがない、俺のこんな話にも…。
 場所は何週間か前のアフガニスタン、カブールにタイムスリップする。安宿のカフェに陣取った俺と俊田はチャーイを飲みながら表の道行く人たちを眺めていた。道には薄汚れたターバンを巻いた男たちや目だけを出して頭から黒いブルカを被った女たちが忙しげに行き来している。おんぼろのリキシャ(三輪タクシー)やトラックが通り、背に荷物を満載したロバが男に棒でつつかれながら悲鳴をあげて通り過ぎて行く。誰も彼もが毎日の暮しに余念のない様子だった。悲惨なロバを見やりながら俊田が「へえ、ランボーね。それでせっかく入った役所を辞めて来ちゃったの。へえ…」と、おちょくってるんだか真面目に聞いてるんだかわからない様子で、しかしふり向けた目には真摯さを込めて話の先を促した。日本での前職を聞きその後の行動を聞けば人が一様に俺に伝える感慨を俊田も彼流に示したのだが、それへ生真面目に答えてみせたのは彼の‘人物’をどこかで自分が感じ取っていたからだろう。今では自分でも愚論としか思いようがない沙汰の限りを口にした。
「ランボーの詩が美しかった。心底魅了された。俺には麻薬のようだった…それと、青臭いかも知れないが人生一度きりだとしたら、そのあと本当に無に帰すのだとしたら、今のこの人生が奇跡でしかないと思えたんだ。勤め先や身の安定をはかる生き方など、それこそかえって非常識と思えた。
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