サマネイ

多谷昇太

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第二章 竜馬

ランボーはもう抜けたよ

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‘来ないものか、来ないものか、恍惚のその時は…’‘(幸福への憧憬)その魅惑は、心も身も捉えてすべての労苦を追いちらした…いくら喋ったって、なにをわからせることができよう?…(ランボー「最高の塔の歌」「幸福」より抜粋)’この云ってもわからぬものを、いや云いようもないものをどうして彼に語れようか。イデア(幸福)と云うも何と云うも、心の深奥に疼くいまだ?み得ぬものへのそれは憧れであり、思慕である。それに魅了されたものの、しかし彼ランボーのごとく、今は「もう抜けた…」ということである。
「うーん、感覚だね。うまく云えないよ。人間のつくった神は否定するが、しかし心のうずきは否定できない…それに敏感な年頃だったということじゃないか、ははは。もうたくさんさ、ランボー大明神は。そう云うおたくこそ、まさか中毒じゃあるまいが、何でハシシに?まさかランボーと同じようなものじゃあるまいね」俊田は苦笑いしながら(この時始めて彼の笑い顔を見た。それは感じのいいものだった)「いやあ、それはまあ(ハシシを)やってみてくれよ。しかし何だね、こう云っちゃあ何だが、確かにおたくのしたことは馬鹿げてると思う。しかしいかに馬鹿げてたとは云え、それが必然だったような気もするよ、おたくがそこまで現実にしたということは。そういう気がする、そう見える。ただ…こんどは青春から大人へ、なのと違うかね。いや、仕事云々じゃなくってさ、さっき云ってたランボー何某のことを、おたくの言葉でさ、おたくの生き方で。違うかね…」この時ランボーが戻って来た。眉間にしわを寄せてしかし口元はほころばせて…いやもちろん冗談だ。
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