サマネイ

多谷昇太

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第三章 山本僧侶

バカヤロを連発、2人の漫才

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招じ入れられた部屋の広さは六畳ほど、床は板の間でカーペットも何もない(大体暑くて必要ない)。奥に窓がひとつだけあってその下に寝台が置かれ寝台の下はなぜかカーテンで隠されていた。家具と云えばそれと小さな卓袱台がひとつきりだ。僅かな私物は一ヶ所にまとめて置かれ普段の簡素な生活ぶりがうかがえる。卓袱台を囲んで3人は胡坐をかいて座りその我々に扇風機が心地よい風を送ってくれる。ムエタイがお盆に冷茶を載せて持って来てくれた。そばで見る彼の身体はなおもの凄くその彼がいそいそとお茶を出してくれるのに俺はひたすら恐縮する。その様子を見ながら上半身裸から片肌だけを出した僧の正装になっていた山本が「こいつ名前はソムスイと云うんですよ。ぜんぜん怖くないから安心して。私が手なずけてあるから。(ソムスイの顔を見ながら)バカヤロ…も私が教えたの。な、ソムスイ?」と云うと自動的にソムスイが「バカヤロ」と返す。俺と俊田は吹き出してしまった。「なーにがバカヤロだよ。せっかく人が紹介してやってんのに」と茶化しながらともかく俺と俊田を彼に紹介する。と云ってもどちらがムンクになるのかという程度のことだ。彼の年は23才とのこと、ついでに云えば山本は30過ぎ位に見える。「こいつね、前兵士だったんだけどその兵役を嫌がって今坊主なんかやってんの。プロの僧侶でも何でもないから気使わなくていいですよ。な、ソムスイ?そうだろ?」「バカヤロ」。日泰の漫才コンビを見るようで面食らいながらもおかしかったが、それにしてもこの厳ついソムスイを手駒にするとはこの山本という人物の器量が慮られた。
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