サマネイ

多谷昇太

文字の大きさ
上 下
40 / 73
第四章 得度式と鏡僧侶

なんと、寺でタバコが吸える!

しおりを挟む
こんなことが何宗であれ日本の在家たちにできるだろうか?いやそもそもするだろうか。彼我の信仰の度合の差というほかはない。全員に喜捨が終わると僧たちは前にひざまづいて合掌する婦人たちになにやらいっせいにお経を唱え始めた。それを受けては善徳の励みとし、彼女たちはこれから水上マーケットへと繰り出すのだろう。どうか良い利が上がりますようにと祈らずにはおられない。
さてそれで、僧たちは堂々と、俺はいそいそと食べ物を持って僧房へと引き上げる。山本師の部屋で食器を借りてさっそくいただいたがいやそのうまいこと。俊田といっしょに食べた屋台のあの煮込み料理とまったく同じ、タイ料理独特のエスニックな味がする。細長い米もサラッとしていてチャーハンのようで俺は大好きだ。たちまちぜんぶたいらげてしまった。超ヘビースモーカーの俺はここで一服点けたいところだがそうも行くまい。そんなことをしたら得度前に破門になるに違いない。しかし癖でポケットから刻みと紙を出してしまいあわてて引っ込めた。ところがそれを見咎めて山本師が「一服するんだったらしなさいよ」と平然と云う。これにはさすがの俺も驚いた。いかに豪傑の山本師とは云っても僧房での喫煙が発覚するなら咎められて窮地に陥るのではないか。心配してそれを云うと口癖なのか前にも聞いた「ぜんぜん平気」と軽く流す。「あれ、前に来たときソムスイが吸ってなかったけ?やつを始めここの連中は少なからずタバコを吸うんですよ。私は吸わないけどね」と云ったあとでいったん部屋の外に出てどこからか灰皿を持って来てくれた。
しおりを挟む

処理中です...