サマネイ

多谷昇太

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第四章 得度式と鏡僧侶

俺をカバーしてくれる山本師

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いかにも清潔そうな雰囲気からすれば(僧侶はみな同じオレンジ色の僧衣2枚だけなのだが彼鑑師にはなぜかそのような雰囲気が強く醸されていた)およそ『なんとまあ、みっともない形をした若者だ。ちょっと呆れてものが云えない』くらいのことは思っていたかも知れない。俊田がしてくれたように山本師が俺のプロフィールを伝えてくれたあとで「彼(つまり俺)には正直云って仏道修行をしようとかいう気持ちはないようです。タイでの僧侶生活を体験してみようぐらいの感覚でして、戒律とか修業するとかはひとつ大目に見てやっていただきたい。2年間に及ぶ長い海外旅行の途次にちょっと立ち寄っただけの男…ぐらいの感覚で」と云っては鷹揚に笑うのだが鑑師はうなずきはするものの容易には同意しないようだ。「いや、まあそれは…私らほどへの戒律は決して求めないが一応は僧形をするのだから」とやんわりと山本師の申し出を断ってみせる。それならとばかり手を変えて「いや、いろいろ聞いてみるとナイーブな若者でして、24…才だっけ?(と俺に確かめてから)その24才にしては世間知らずの御仁で、ハハハ、人はなんのために生きるか、人生とはな何かなどのことをいまだ大真面目に模索しているのです。しかし元商社員だった私の眼からすれば、それは反面いまだまったく世間というものを知らない、いや具体的に関わってみて知ろうとさえもしない、その実態の裏返しと云うもので、至って哲学的な、実体のないものでしかないようです。人と接する迫力もまったく感じられないし…正直云ってこの若者は弱い、人間関係に於いて…いや、こんなことを云ったら彼に叱られるかな?」と云っては俺を見るがもちろん俺には一言もない。
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