サマネイ

多谷昇太

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第四章 得度式と鏡僧侶

突然に英語を使う山本師

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もとよりその方面では山本師よりはるかに自分が凌駕しているという自負からか「いや、そんなに心配しなくても元より私は大乗仏教の僧侶ですから、一般人の仏道修業にそれほど厳格なものは求めません。(俺へ)安心していていいよ」と云って山本師と俺に保証をしてくれる。しかしどういうわけか山本師はため息をついて、もはやこれまでとばかり鑑師の前でいささか失敬な挙におよんだ。いきなり英語で〃彼(鑑師)はどうも真面目すぎて仏教の面でしか人を見れないようだ。また至ってクールだ。君が意に副わなければ投げ出してしまい、平然としているかも知れない。またおそらく私の所に来た時のような気儘さは許されないだろう。君の経済的な窮状を伝えてやりたかったが、しかしそれではかえって君が蔑まされそうだし…どうだね、もう一度ここでぼくの所で修業したいと彼に頼んでみては。君の弱さを(醜さをも?)カバーしてやろうとぼくは思ったのだし、彼にも頼もうと思ったのだが、どうも…〟と俺に訊いて来る。いきなりの英会話に呆気にとられ一瞬言葉を失ってしまう。それにだいいち俺の英会話能力はいたって拙く、右の言葉にしてもおおむねこのようなことを云ったのだろうとあとから見当をつけた程度である。肝心要の「また戻って来ては?」はその時は聞き逃してしまった。元商社員のエリートの英語能力からすれば俺のそれは比較にならず、会話など成立しそうになかったのだ。赤面しながら英語で〃はい、同意します〟とだけ辛うじて応じてみせ(戻ることに同意したのではなく、鏡師に対するあなたの評に‘一応’同意すると伝えたかったのだが通じなかったろう。
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