バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第二章 わたしの名前はミキ

タバコがうまい

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その折りのドレスの隙間がたまらない。乳房の感触がグラスを持つ指によみがえる。それを揺らしながら『俺の目が寂しそう…か。そうかな。しかしそれがなぜピュグマリオン…?』などと思う内にママが小さな板に載せたチーズとチョコレートのオードブルを俺に差し出す。「サービスヨ」とウインクしたあとで「アナタ、ピッタリノオンナノヒト、イナイデショ?サビシイッテ、メガイッテタヨ」確かに前述した通り俺は独身で女もいない。しかしここ何十年来のわが政府によるデフレ政策のお陰だろうが俺のような身の上は今日日めずらしくもなんともなく、すればママが云う〝サビシイ〟やつは巷にゴロゴロいるだろう。なぜ、俺なのか。ウイスキーで喉を湿らせた俺は習慣のようにわかばを一本取り出しては口に咥えた。間髪入れずにママがライターの火をつけて寄越す。マルマンのバロックだった。カウンターの内側の手の届くところに常時置いているのだろうが、一昔以上前の骨とう品に近いライターだ。売ればいい値が付くだろうに。そのライターのせいか不思議なものでママの火によるタバコはとても旨くなる。口と鼻から煙を吐きながら「そうかな、そんなに俺の目飢えていそうだった?ハハハ。しかしだからと云ってあんなにいい思いをさせてくれた分け?ちょっと今でも真昼の白昼夢だったような気がしてならないんだけど」などと聞くのだが、同時にこんな野暮な質問をしてママが機嫌を損ねないか怖くもある。未だその白昼夢の真っ只中にいるからだが、しかしそれを押しのけてでも理由(わけ)を知りたかったのだ。あり得ないストリップショー、手のまさぐりを許してくれたこと、昼にも拘らず俺の為に(?)開店してくれたこと、ママの顔付きが激変したこと、さらにはママの言葉のイントネーション等々…不思議なことばかりだ。
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