バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第三章 君は何者?

入って来た初老の男

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「ええ、そう。彫像をこさえたピュグマリオン王じゃなくって、造られた側の彫像の気持ち…って云うか、王に応えようとする…ううん、じゃなくって、応えなくっちゃあとする気持ちね。創造主に対する被創造物の関係かな。神様と人間になるのかな。どう?」こんなインテリジェンスな質問をぶつけてくるとは予期してなかった。さてもどう答えるか。第一こんな質問をぶつけてくる彼女の意図は…?等々をさぐりながら俺は「うーん、そうねえ。彫像が造り手の意図に応えるように仕組まれているものならば、つまりプログラマーに対するシステムのようなものならば、そりゃ造り手に応えるだろうな。無機的にね。だけど…違うんでしょ?ピュグマリオンの像は。無機が有機化する、粘土で造られた像が生命を持って人間の女となってしまう…のだったら、今度はその出来した生命の出所如何なんじゃないかなあ。未知の暗黒宇宙から突然来たものなのか、ハハハ、それともやっぱりピュグマリオン王の内部から来たものなのか…」。
 この時いきなり店のドアが開いた。うつむき加減でものも云わずに、初老と思しき男性が一人入店して来たのだった。正直俺は舌を打つ思いである。これから話が佳境に入ろうとする時に、ちっ、まったく入って来てくれるなよなあ、こんな真っ昼間から、どこの田吾作だか知らないが。などと自分勝手で虫のいいモノローグを心中でつぶやく。うなじあたりまで垂らした髪には白髪が結構まじっていて藍色の度付き眼鏡をかけている。52の俺より15,6才ほど年上だろうか。まあ、とにかく、これでミキの独占はお終いだと悟るしかなかった。それにしてもいまさらのようにこれがもし先ほどの、ミキとの濃厚接触中のことだったらいったいどうなったのだろうか、などと思わず思念が行く。ミキも俺も密会中に夫と云うか、第三者にいきなり入り込まれたような塩梅となったのだろうか。ミキは知らず少なくとも俺に関してはそんな具合いになったのに違いない。で、そのミキなのだが、こちらは「いらっしゃいませ」の一言をかけるでもなく男に黙って頷いて、カンター内から手提げ金庫を出しカンターの上に置くのだった。

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