バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第三章 君は何者?

バーは貸し切りだった

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その横に手にぶら下げたショルダーバッグを置くと、男はミキにではなく俺に「いらっしゃい。お楽しみのところすいませんね。私はつり銭を持って来ただけですぐ消えますから。ご心配なく」と言葉をかけた。俺は「い、いや、そんな…。ど、どうぞ、好きなだけ居てください。俺は、いや、私は…ただの一見(いちげん)で、まだ馴染みでも何でもないもんで。ハハハ」とかわしながら藍色の眼鏡の奥を探ったが当然判らず、無表情な面からも何も探れなかった。ただその声音からは余りいいものは伝わって来ず、何か官吏のような、他人とはいつも距離を置いているようなトーンが感じられた。ついでに云えば最前のミキとの濃厚接触を既に知っているぞ、とでもするような冷笑すら感じられて些か不気味でもある。この店のオーナーなのだろうか。男はショルダーバッグから手提げ金庫の中にそれほどの額でもないと思われる種銭を入れると、ミキに「これで出納をやっておいてくれ」と云って無造作に渡し、続いて「あれを」とひとこと要求する。するとミキは右手の人差し指にはめた指輪を外すとそれを男に手渡すのだった。その際俺の表情をさぐるように一瞬ミキが俺を見たが何のことだか俺にはわからない。チェック柄の中綿入れと思しき、藍色のジャケットのポケットにそれを入れると男は「では失礼しました。私はこれで。ごゆっくり」と俺に告げる。その際藍色の眼鏡の奥で片目をウインクしたように思われたがこちらも何の意味だか俺にはわからない。男への何か複雑で憎々し気でもあるミキの視線を背に受けながら男は悠然とドアを開けて出て行った。その際ドアを閉めたあとで表から鍵を閉める音がしたのだがなるほど内側のサムターンが見てる前で横になった。しかしということは入る時も男は鍵を開けて入って来たのだろうし、さらにということは俺を招き入れた直後にミキ自身が鍵を閉めていたのだ。端から今に至るまですっかり夢見心地になっていた俺が気づかなかっただけのことである。つまりバーは俺への貸し切りだったのだ。

【こんな感じの男?他に合う写真がなかったのでこれを借用。anass hammoudaさんの作品】
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