バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第四章 娼婦殺人事件

田村さん、逃げて

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それはさきほど2回目の電話がかかってくる前に見せた「わたしは寂しいのよ!怖いのよ!」と激白するミキを目撃して以来そうなのだが、しかしそれにしてもこの電話番号の暗記というのはいかにも変だ。単にメモを受け取ればいいのになぜ?と質そうとも思うが止めておく。電話をよこしたアイツがこのまま捨て置くとは到底思えないからだ。恐らく事は切迫しているのだろう。すべからく、且つ早急に、ミキやこのバーの諸々の疑問点を糺したいところだ。しかしそこを敢て悠然と装い「おいおい、ミキ。俺の携帯番号を知ってそんなに嬉しいかい?ハハハ。まさか俺を阿部寛か草なぎ剛とは見れないだろうにさ」などとミキの気持ちを落ち着かせようとする。と云うのも今のミキは泣き笑いと云うか、半べそをかいたような状態なのだ。それに切羽詰まったような焦りがあって、入店当初の妖艶なママなどではもはや悉皆ない。
「えー?あ、あべひろし?くさなぎ何とかって…わたし知らない。そ、それより田村さん…あなた、逃げて」
「え?何だって…?逃げる?ハハハ。なぜ俺が逃げねばならないんだ?」などと強がって見せたがその実前述した次第でヤバイとはもとより俺も感じてはいるのだ。それは俺とミキの両方にとってだがしかしその度合いはミキの方が強いように思える。冷静に考えるならボッタでは?という経緯からしてヤバイのは俺なのだ。それにも拘らずそのボッタ側であるべきミキに危険を感じるのはここが、このバー・アンバーが、ボッタなどではなく、何か、何某かの秘密を帯びた、敢て云えば〝異次元〟スポットのように思えるから。そして云わずもがなその異次元の主こそ眼前のミキであって、またそれであるなら次元の差異から云って危険なのはミキということになる。そう云う分けがお分かりだろうか?詳述している暇がないのでこうとだけ云っておこう。諸氏は現実の恐怖と夢中の恐怖とではいったいどちらにより恐怖を感じるだろうか?夢とは三次元の鈍感を越えた世界であり、すべての感覚が精鋭で超常的となる。そして夢とはまさしく異次元(四次元以降)の世界なのだ。

       【助けてよ、田村さん…必死なミキのイメージ】
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