異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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─── 自分の目に映るものが信じられない。

  異形の者。人間とは違う異形の姿。

  長身の逞しい体躯を覆い隠すような大きな両翼。
  獅子のような金色の尻尾。
  翼と同じ鳶色の髪が映える端正な顔立ち。
  猛禽類を思わせるような鋭い金の目。

─── 私以外にも異形の人間は存在したのね。



「ようやく逢えた……俺のツガイ

 ツガイ…?

 初めて聞く言葉なのに不思議と心にしっくりくる。
 心が彼に……いや、番に会えたことを喜んでいる。

「あ、あの貴方は? 貴方も異形の人間なの?」

「あぁ番は声まで美しいのだな。その煌びやかな白銀の髪、慈愛に満ちた菫色の目、そして額に生える壮麗な角。全てが完成された美しさだ」

「あ、あの……」

 気付けば彼に抱き寄せられた。

 まるで「逃がさない」と伝えるように彼の腕は力強く、そして両翼が私を覆い隠す。

 私は不思議と嫌な気分にならず、むしろ彼の胸から聞こえる心臓の音がとても心地良い。

「その美しい声で君の名前を教えてくれないか。そして、どうか俺の名前を呼んで欲しい」

「えっと、私の名前はクローディアと……」

「クローディア! ようやく君の名前が知れた。ずっと君と話したいと思っていた。逢えて本当に嬉しいよ。俺の名前は……ギルと呼んでくれ」

「ギル……」

 知れた。彼の名前を。

 彼の名前を口にした途端、感情が高ぶり言葉が続かない。失った半身を取り戻したかのような感激に胸が熱くなる。

「クローディア……」

 ギルは焦がれるような眼差しで顔を近づけてくる。

 私は彼に全てを委ねるように瞳をとじ ────


──── いや、待って!


 こんなことしている場合じゃないわ!!!

「ちょっと待って!!」

 私は思わずギルの顔を両手で押し退けた。

「ク、クローディア!?」

 ギルが焦ったようにこちらを見つめるが、そんなこと気にしている場合じゃない。

「みんなが! みんなが襲われているの。助けに行かないと!」

 みんなが危険な目にあっているのに、こんなことしている場合じゃない。私はギルの腕から抜け出そうとするが、なかなか抜け出せない。

「あ、あの……離して」

「待て、俺も一緒に行く! 仲間はどこにいる?」

 えっと、、方角は、、

 私はマークとドミニクがいる場所を指差すと、ギルは頷きギュッと私を力強く抱きしめる。

「俺に掴まっていろ!」

「えっ!? な、なにをするの?」

 咄嗟にしがみつくと、ギルは翼を広げ空高く飛び立った。

「と、飛んでるーーー!?」

「クローディア、口を閉じてないと舌を噛むぞ」

 し、舌を?? 噛むの?

 私はしがみつきながら必死に頷き返すと、ギルはニヤリと笑いながら私の額に唇を落とした。

 な、なぜこの状況で!? 

 顔を赤くすればいいのか、青くなればいいのか分からない。

 そんなことをしていると、剣を打ち付け合う音が聞こえ見下ろすとマークとドミニクが三人の追っ手と戦っている姿が確認できた。

 見つけた! 二人とも無事だわ!

「マーク! ドミニク!」

 私が必死に叫ぶと同時にギルは急降下し、二人と追っ手の間に降りたった。
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