異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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21.教会長(クローディア父)視点①

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「教会長様! お逃げ下さい。騎士がこちらに向かっております!」

 部屋の扉が勢いよく開き、街の様子を見に行っていた教会の信徒が、肩で息をしながら口早に報告する。

「ぶ、武装した騎士が教会に向かっているのを見かけました」

 やはり来たか……。
 
 私は一度目蓋を閉じ、大きく息を吐くと覚悟を決め目蓋を開けた。

「…そうか、分かった。急ぎ皆を集めてくれ。すぐに避難するぞ」

「わ、分かりました!」

 慌てるように応接室をでる信徒の背を見ながら、強く胸元を握りしめる。

 ついにきたのだ。
 この国は教会を必要としなくなった。
 ついに……聖女の解放の時がきた。


「教会長様! 皆を集めました」

 私はホールに降り立つと、不安げに佇む十数人の信徒達を順に見つめる。皆、この教会で産まれ、教会の教えを守ってきた。そして、私もまた教会で産まれ、教会長として・・・・・・教会の教えに囚われていた・・・・・・

「よし、皆聞いてくれ。先日伝えた通り聖女はこの国から追放された。この国はもう聖女を必要としなくなり、我ら教会の役目も終わりだ。応接室から安全な所に行ける隠し通路がある。そこから皆は急ぎ避難してほしい」

「お待ち下さい! 聖女様はどちらに行かれたのですか?」

「聖女は安全な場所に逃げた。皆はもう教会の教えに従う必要はない。聖女を守る役目は終わったのだ。今まで聖女を、クローディアを守ってくれて感謝する」

 皆は教会の教えに従い、人々から迫害される聖女を守ってきた。『信徒は聖女を守る』それが教会の教え。教会長としてクローディアの父として、教会の皆には感謝してもしきれない。

 私が感謝の意を表すために頭を下げると、皆は憤るように口々に異議を唱える。

「そんな……違います! 私達は教会の教えに従っていたわけではございません。クローディア様や歴代の聖女様をお守りしたいと自分達で決めたのです! みんな、聖女様を家族のように思っております」

「お、お前達……」

 皆の真摯な想いに胸をつかれ、じんわりと目頭が熱くなっていく。

 家族か……そうだな、皆がクローディアやアイシャを支えてくれたのだ。家族として支え、見守っていてくれた。

「教会長様、私達はクローディア様の幸せを願っております。もし許されるなら、これからも聖女様をお守りさせてください!」

「……そうか、ありがとう。皆の気持ちに感謝する。クローディアは東の遠国に向かっているはずだ。安全な場所に避難してから東の遠国に向かおう」

 クローディア、皆がお前の力になってくれる。お前が苦しんでいたら、きっと支えてくれるだろう。

 だから私は…………。
 
 私は皆を率いて応接室に向かい、本棚の後ろに隠されている扉を開けた。皆を隠し通路に誘導しながら一人ひとりに感謝の言葉を伝える。そして最後の一人を見送り……外側から隠し通路の扉を閉めて鍵をかけた。

「……!?きょ、教会長様!?」

「すまない。私は教会長としてここに残る……どうか、クローディアを頼む。」

「教会長様!お待ち・・・

 隠し通路から聞こえる声は本棚を元に戻すと聞こえなくなった。

 どうかクローディアの笑顔が枯れることの無いように、傍で支えてあげてほしい。

 ……私はクローディアを父親として守ってあげることができなかったから。私がしたことは、クローディアに負担を強いることばかりだった。

 いつかクローディアが、自分を慈しんでくれる存在に出会えることを切に願う。

 クローディアの幸せを願いながら、手に持った松明に火をつける。この教会のいたるところに思い出が溢れている。

 アイシャがクローディアを出産した部屋。
 幼き頃のクローディアが落書きした壁。
 教会の柱に刻まれたクローディアの成長の記録。

 ……アイシャと将来を誓い合った礼拝堂。

 思い出を振り返りながら、一つまた一つと教会のあらゆる場所に火をつけていく。

 思い出を消し去るように火は瞬く間に燃え盛り、炎が教会を包んでいった。
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