異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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22.教会長(クローディア父)視点②

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──── 教会が燃える。家族と過ごした教会が。

 教会で産まれ育った私には、教会の教えは私の全てだった。

 聖女はこの国を救う者、教会は聖女を守る存在。
 そう、信じていた。
 アイシャ、君を守る存在であることを誇りに思っていたんだ……。

 私が幼い頃に産まれ、教会の皆に祝福を受ける君。
 私の後ろにくっついて歩いてくる、幼い君。
 花のように笑う、可憐な少女の君。
 私が贈った花かんむりを宝物にすると言ったときの、頬を染めた君。

 次第に惹かれていった。
 聖女ではなく、アイシャとして。

 私が想いを伝えたとき、目を潤ませながら応えてくれたときは、この上ない喜びに包まれた。

 本当に幸せだった。
 幸せだったんだ……教会長に任命されるまでは。

 任命式の日に先代の教会長より教えられた。
 教会長にだけ伝えられる真実。初代聖女の真実を。

 そして私は王家と教会の罪を知ったのだ。

 初代聖女は旅人としてこの国に来たのではない。無理矢理この国に連れ込まれたのだ。

 すべてはこの地に住む先住民から土地を強奪し国を建国したことから始まる。先住民の呪いなのか、建国後間もなく水は汚染され、苦慮する王家はある噂を聞きつけた。

 東の集落に水を浄化する力を持つ、角を生やした異形の人間がいると。

 王は命じた。
 浄化の力を持つ異形の人間を生け捕りにしろと。
 
 王は秘密裏に東の集落へ精鋭の騎士達を差し向け、騎士達は異形の少女を生け捕りにすることに成功した。

 だが、異形の人間達は非常に勇敢であり、囚われの少女を救おうと徹底して抗戦してくる。異形の人間達の剣幕に圧倒された王国の騎士達は、少女を盾にし、異形の人間達の反撃を抑え込もうとする。

 異形の人間達からの反撃を恐れた王は、東の集落に火を放てと命じ、異形の人間達は燃えさかる炎に焼かれ殺された。

 捕虜となった少女は自決を防ぐため猿轡を噛まされ、両手足を縛り付けられ、毒沼と化した源泉に身を浸される。

 たちまち源泉は浄化されたが、数ヶ月経つとまた水は濁り始めた為、少女は何度も源泉に身を浸されることになる。手足は拘束され、食事の時以外に猿轡が外されることもなく。

 まともに食事を取らない少女はどんどん痩せ衰えていった。

 王は考えた。代替品が必要だと。

 そして王は命令した。少女を犯し孕ませろと。
 
 王の命令を受けた者が少女を孕ませ、産まれた赤子も異形の姿をし、浄化の力を宿していた。少女は子を産んだことでさらに衰弱し数年後に亡くなってしまう。

 王は少女を孕ませた男に命令した。
 異形の子をこの国から逃すなと。

 少女を孕ませた男は教会を創立し自らを教会長とした。何も知らない異形の子や国民に、嘘で塗り固められた初代聖女の話を伝え、教会に人を募り、異形の子聖女を守るよう教えを説く。

 これが初代聖女の真実。この国の本当の姿。

 私が真実を知った時、今まで信じていたものが、足下から崩れ落ちるように感じた。すべては虚構だった、まやかしだったのだ。

 そして、恐怖におそわれた。
 初代聖女の真実をアイシャが知ってしまったら?
 彼女はこの国から離れてしまうのではないか?
 アイシャに嫌われたくない。
 君の傍にいたい。
 私の全てである教会を捨てることが出来ない。

 そして私がとった行動は黙秘だった。

 ……アイシャ。今でも目を閉じれば君の笑顔が浮かび上がる。そして君の笑顔を見るたびに自分の罪を突きつけられた。私は君の手を取ってこの国から逃げるべきだった。そうすれば、君があんな目にあうこともなかったのに……。

 そして私はまた間違えた。

 自分のせいでアイシャが死んだことを認められずに、クローディアを犠牲にしようとしたのだ。

 クローディアを犠牲にして、聖女の扱いを正常に戻そうとした。そうすればアイシャや歴代の聖女が報われると思い込んで。そのせいでクローディアに辛い思いをさせてしまったのに。

 全てはこの王国から離れる決断をできなかった私の罪。
 この教会と一緒に私も罰を受けるべきだ。
 歴代の聖女の鎮魂の為にこの身を業火に捧げる。

 ただ、最後に願うことは、、、、


「どうか……お前は自由に……」

 
 自由に、そして幸せに生きてくれ、クローディア。


──── 薄れゆく意識の中で在りし日の記憶が浮かぶ。

 幼いクローディアを抱きしめ、花のように笑うアイシャの姿が。
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