異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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23.

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──── とと様! かか様! みんな! 逃げてーー!
 
 ……なに? これは……?
 
 目の前には、緑深き森に囲まれた見覚えのない集落が広がる。何かに襲われたのか、家屋は壊され、集落のいたるところから火があがり、辺りを煙が立ちこめる。

 ……ッッ! あれは……角が……。

 額の中央に螺旋状の長く尖った黄金の輝きを放つ角。
 
 黄金の角を生やした獣人達が、集落の広場に集められ、その周りを威嚇するように騎士達が剣を向け立ち並ぶ。

 獣人達は満身創痍で体のいたるところから血が流れ出て、手足を拘束されていた。大人、子供、老人、みんな一様に。突き刺すような子供の泣き声が胸を締め付ける。

──── いやよ!! 離してーーーー!!

 これは私の声? ……いえ、違う、私じゃない。
 では、いったい誰の?

 私の口から発する聞き覚えのない声。
 
 私は誰かを通してこの光景を見ているの?

 体を動かそうとしても、私の意思に反して動かすことができない。目の前の光景から視線を外すこともできずにいると、獣人を囲っていた騎士の中から一人が前に進み出た。手には燃えさかる松明を持って。

 も、もしかして……そんな、や、やめてぇえーー!

──── やめて……お願い……いやよ……

 私の叫びは声にならず、誰かの恐怖に震えた弱々しい声が口から漏れ出る。前に進み出た騎士は、獣人を囲うように積み上げられた木の枝に、燃えさかる松明を放り投げた。

 火は瞬く間に燃え広がり、まるで生きているように荒々しい真っ赤な火柱が立ちあがると、燃えさかる炎の中から壮絶な悲鳴が響き渡る。

 も、燃える……みんな、、そんな……い、

──── みんな、、そんな……い、


   『いやぁぁぁぁぁぁぁ!』


「ディア!! 大丈夫か!」

「……ッ!……ギ、ギル?」
 
 名前を呼ぶ声に引きずられるように目を覚ますと、ギルが心配そうな顔で私を抱き起こしている。

 私なにを……さっきまでギルの寝顔を見ていて……。
 徐々に意識が覚醒してくると、心臓が激しく脈打ち、体がガタガタと震えだす。

 私の体の震えに気づいたギルが優しく体をさすってくれた。

「うなされていると思ったら、急に叫びだしたんだ。何か怖い夢でも見たのか?」

「……ゆ、夢?」

 夢を見ていた? あれは夢だったの?
 妙に現実的で……まるで、私がその場にいたような感覚だった。

「ディア、大丈夫か?」

 不安気に見つめるギルを安心させるように「大丈夫」と伝え、そっと自分の両手で体をさする。まだ……震えが止まらない。

「だ、大丈夫。変な夢を見てしまったの。えっと……今は何時頃かしら?」

 ギルには夢の内容を話さないほうがいいかもしれない。獣人が炎に焼かれているなんて、夢だとしても残酷すぎる。それに、なぜか夢の獣人に既視感を感じた、私の角とは、色も形も違うのに……。

「……もうすぐ夕暮れ時だが。本当に大丈夫なのか?」
 
 ずいぶん寝てしまったみたい……。
 ギルを安心させるためにも、できるだけ明るい声を出してニッコリと微笑む。

「大丈夫! 心配かけてごめんなさい。疲れがでてしまったみたいで……」
 
「……そうか。さきほど夕食を部屋に運んでもらったところだ。お腹が空いているだろう?こっちで一緒に食べよう」

「ありが・・・ギ、ギル! 一人で歩けるから!」

 も、もう、またなの!?

 私を抱き上げるギルに訴えると、、

「疲れているのだろう? なら、俺がお世話をしないとな」

 からかうような口調で、先ほどの居室にスタスタと歩いていく。

 ど、どうしよう。このまま抱き上げられることが当たり前になってしまいそう。いえ、嫌ではないのよ。嬉しくはあるけど、恥ずかしいから。

 寝室から居室に戻ると、テーブルの上には豪華な夕食が用意されていた。ギルは私を抱きながら椅子に座り、テーブルにあるスープをスプーンですくうと、ニッコリと微笑み「アーン」と言いながら私の方にスプーンを向けてくる。

 ……お、お世話ってそういうことなの?
 そ、そんな、アーンなんて子供のすることじゃない?

 チラッとギルを見ると、すっっごく期待している目で見てくる。

「……ア、アーーン……」

 ギ、ギルの眼差しに負けたわけではないわ!
そうよ、何度も助けてもらったのだから、お返しをと思って。

 よ、よし、私だって!

 よく分からない負けん気がでて、私もスプーンですくってギルに差し出す。

「はい、ギル。アーーン。」

 照れて断るだろうと思っていたら、ギルは艶っぽい目で私を見つめながら、スープを口に運ぶと指で唇を拭う。

 お、男の人の唇を拭う姿にときめいてしまった!
 し、仕草が!? い、色香が凄くてめまいが……。

 なにか色々負けてしまっているような敗北感を味わいながら、結局すべての料理をギルから食べさせてもらうことになってしまった。

 せっかく料理を用意してもらったのに、、あ、味が分からない。
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