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「よし、腹ごしらえも終わったことだし、後はゆっくりしようか」
「えぇっとーー。私はそろそろ部屋に戻った方がいいと思っていて」
一度同じベッドで寝てしまったとはいえ、男性と二人きりの部屋で長居することは憚れる。そろそろ部屋を辞そうかと考えていると、ギルは不思議そうな顔で首をかしげた。
「部屋に戻る? なにを言っている? ディアはこの部屋で寝るに決まっているだろう」
「……えぇ!? で、でも、さっき別の部屋で着替えをさせてもらったのだから、あそこが私の部屋になるんじゃないの?」
「あぁ、その時はマシューズ辺境伯と話があったから別室で着替えてもらっていたんだ。俺がディアと離れたいと思うわけ無いだろう」
そ、そんな得意げに言わなくても!
さすがに同じ部屋で夜をともにするのは問題だわ!
い、一緒のベッドで寝てしまったけど、あれは不可抗力というか……。
「……俺は離れたくない……ディアはいやか?」
おねだりするように甘えた表情で首をかしげてくるけど……絶対わざとだわ。
だって目はギラギラと妖しげに輝いているもの!
だ、だめよ! ま、負けてはいけないわ!
「えっと、でも、さすがに未婚の身で夜をともにするのは問題が……」
「……本当にだめなのか」
私の言葉にかぶせながら、ギルは甘えるようにねだってくる。なぜか尻尾が私の腰に巻き付いてきて、逃がさないとしているような……。
い、いえ、だから、負けては……。
──── トン トン トン
私が困り果てていると、まるでタイミングを見計らったように部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。ギルは扉の方を見るとチッと舌打ちをしながら、入れ、と応え入室を許可する。
「失礼致します。クローディア様をお迎えに上がりました」
「コノア! もう足は大丈夫なの?」
部屋に入ってきたコノアは、しっかり歩きながら私とギルに礼をとる。
「はい、治療のおかげで歩くことができるようになりました。クローディア様のお部屋を用意していただきましたので、一緒に参りましょう」
あ、あれ? コノア、怒ってる?
顔は微笑んでいるのに、背中に赤い炎をまとっているような?
……んっ? 部屋って?
「……おい、待て、部屋とはどういうことだ」
……ひ、ひぇ。こっちも怒ってる!?
ギルの地を這うような不機嫌な声で部屋の空気が凍りつく。だがコノアはまったく気にならないのか、満面の笑みでギルに向かい合い、はっきりとした口調で言い返した。
「どういうこと、とは? なにかの手違いでクローディア様のお部屋が用意されていないと伺いましたので、マシューズ辺境伯に強くお願いしてご用意してもらっただけのことです」
「貴様! 俺とディアを引き離すつもりか!」
ギルの怒鳴り声に怯むことなく、コノアは声を張り上げる。
「恐れながら申し上げますが、馬車と部屋では話が違います! 未婚の身で男性と夜をともにしたなどと知れたら、クローディア様がどんな中傷を受けるか分かっているのですか!」
「俺とディアは番だと言えば問題はないだろう!」
「番だろうが何だろうが、関係ありません! クローディア様が悪く言われる可能性があるのなら、私は断固として抗議させていただきます!」
怒鳴り合いながら、睨み合う二人。
ひ、ひぇーー。
さ、寒い……どんどん空気が冷たく……。
い、いけないわ! そもそもの原因は私が自分の意見をしっかり言わないからよ。
二人の剣幕におされて思わず尻込みしてしまう自分を心の中で叱咤し、私は毅然とした態度で二人の間に割って入る。
「あ、あにょ……」
……噛んじゃった。
コホンと咳払いし、気を取り直す。
「ギル、あのね、私が悪く言われればギルに迷惑がかかると思うの。それにやっぱり、未婚の身で男性と夜をともにすることはできません」
「だが、俺と君が番なのは皆も知ることになる。番と共にいることは不自然ではない」
ギルは納得できないのか、ちょっと拗ねたような顔だ。私はちゃんと自分の気持ちを伝えるために、しっかりとギルの目を見つめた。
「番としては認めてもらえるかもしれません。でも番だからって理由だけに甘えたくないの。私はギルの番としてではなく、クローディアとしてギルと共にいることを認めてもらいたい。今はまだ、その段階ではないと思います」
ギルの番ではなかったら、私にはなにもない。国を追われた者が国王と結婚なんて許されないだろう。番ということに甘えているだけでは、ギルの隣に立つ資格がないと思う。自分を認めてもらえるように努力をしなくては。
私の思いが伝わったのか、ギルは納得したように小さく息をついた。
「……分かった。俺が第一に優先するのはディアの気持ちだからな。」
「ギル……ありがとう」
ギルにお礼とおやすみの挨拶をしてコノアと一緒に部屋をでる。寂しそうな顔をしているギルを抱き締めたくなったが、グッとこらえて扉を閉めた。
ギル、ごめんなさい。いつまでもギルを待たせてはいけない。自分を認めてもらえる為に、なにをすべきなのか考えなくては。
「クローディア様……」
「……え? ああ、ごめんなさい。考え事していて……。コノアのおかげで自分の気持ちをちゃんとギルに言えたわ。ありがとう」
「いえ……私も一緒に考えます。クローディア様は一人で考え込まないでくださいね」
まるで私の考えを分かっているかのように、優しく微笑むコノア。
コノアの優しい気遣いが心にしみる。
「コノア、ありがとう」
「一人で抱え込むのはクローディア様の悪い癖ですからね! 私がしっかりしないと!」
「あら、ウフフ、そうね。頼りにしているわ」
冗談を言い合いながら部屋に戻っていくと、廊下には二人の笑い声が響いていった。
「えぇっとーー。私はそろそろ部屋に戻った方がいいと思っていて」
一度同じベッドで寝てしまったとはいえ、男性と二人きりの部屋で長居することは憚れる。そろそろ部屋を辞そうかと考えていると、ギルは不思議そうな顔で首をかしげた。
「部屋に戻る? なにを言っている? ディアはこの部屋で寝るに決まっているだろう」
「……えぇ!? で、でも、さっき別の部屋で着替えをさせてもらったのだから、あそこが私の部屋になるんじゃないの?」
「あぁ、その時はマシューズ辺境伯と話があったから別室で着替えてもらっていたんだ。俺がディアと離れたいと思うわけ無いだろう」
そ、そんな得意げに言わなくても!
さすがに同じ部屋で夜をともにするのは問題だわ!
い、一緒のベッドで寝てしまったけど、あれは不可抗力というか……。
「……俺は離れたくない……ディアはいやか?」
おねだりするように甘えた表情で首をかしげてくるけど……絶対わざとだわ。
だって目はギラギラと妖しげに輝いているもの!
だ、だめよ! ま、負けてはいけないわ!
「えっと、でも、さすがに未婚の身で夜をともにするのは問題が……」
「……本当にだめなのか」
私の言葉にかぶせながら、ギルは甘えるようにねだってくる。なぜか尻尾が私の腰に巻き付いてきて、逃がさないとしているような……。
い、いえ、だから、負けては……。
──── トン トン トン
私が困り果てていると、まるでタイミングを見計らったように部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。ギルは扉の方を見るとチッと舌打ちをしながら、入れ、と応え入室を許可する。
「失礼致します。クローディア様をお迎えに上がりました」
「コノア! もう足は大丈夫なの?」
部屋に入ってきたコノアは、しっかり歩きながら私とギルに礼をとる。
「はい、治療のおかげで歩くことができるようになりました。クローディア様のお部屋を用意していただきましたので、一緒に参りましょう」
あ、あれ? コノア、怒ってる?
顔は微笑んでいるのに、背中に赤い炎をまとっているような?
……んっ? 部屋って?
「……おい、待て、部屋とはどういうことだ」
……ひ、ひぇ。こっちも怒ってる!?
ギルの地を這うような不機嫌な声で部屋の空気が凍りつく。だがコノアはまったく気にならないのか、満面の笑みでギルに向かい合い、はっきりとした口調で言い返した。
「どういうこと、とは? なにかの手違いでクローディア様のお部屋が用意されていないと伺いましたので、マシューズ辺境伯に強くお願いしてご用意してもらっただけのことです」
「貴様! 俺とディアを引き離すつもりか!」
ギルの怒鳴り声に怯むことなく、コノアは声を張り上げる。
「恐れながら申し上げますが、馬車と部屋では話が違います! 未婚の身で男性と夜をともにしたなどと知れたら、クローディア様がどんな中傷を受けるか分かっているのですか!」
「俺とディアは番だと言えば問題はないだろう!」
「番だろうが何だろうが、関係ありません! クローディア様が悪く言われる可能性があるのなら、私は断固として抗議させていただきます!」
怒鳴り合いながら、睨み合う二人。
ひ、ひぇーー。
さ、寒い……どんどん空気が冷たく……。
い、いけないわ! そもそもの原因は私が自分の意見をしっかり言わないからよ。
二人の剣幕におされて思わず尻込みしてしまう自分を心の中で叱咤し、私は毅然とした態度で二人の間に割って入る。
「あ、あにょ……」
……噛んじゃった。
コホンと咳払いし、気を取り直す。
「ギル、あのね、私が悪く言われればギルに迷惑がかかると思うの。それにやっぱり、未婚の身で男性と夜をともにすることはできません」
「だが、俺と君が番なのは皆も知ることになる。番と共にいることは不自然ではない」
ギルは納得できないのか、ちょっと拗ねたような顔だ。私はちゃんと自分の気持ちを伝えるために、しっかりとギルの目を見つめた。
「番としては認めてもらえるかもしれません。でも番だからって理由だけに甘えたくないの。私はギルの番としてではなく、クローディアとしてギルと共にいることを認めてもらいたい。今はまだ、その段階ではないと思います」
ギルの番ではなかったら、私にはなにもない。国を追われた者が国王と結婚なんて許されないだろう。番ということに甘えているだけでは、ギルの隣に立つ資格がないと思う。自分を認めてもらえるように努力をしなくては。
私の思いが伝わったのか、ギルは納得したように小さく息をついた。
「……分かった。俺が第一に優先するのはディアの気持ちだからな。」
「ギル……ありがとう」
ギルにお礼とおやすみの挨拶をしてコノアと一緒に部屋をでる。寂しそうな顔をしているギルを抱き締めたくなったが、グッとこらえて扉を閉めた。
ギル、ごめんなさい。いつまでもギルを待たせてはいけない。自分を認めてもらえる為に、なにをすべきなのか考えなくては。
「クローディア様……」
「……え? ああ、ごめんなさい。考え事していて……。コノアのおかげで自分の気持ちをちゃんとギルに言えたわ。ありがとう」
「いえ……私も一緒に考えます。クローディア様は一人で考え込まないでくださいね」
まるで私の考えを分かっているかのように、優しく微笑むコノア。
コノアの優しい気遣いが心にしみる。
「コノア、ありがとう」
「一人で抱え込むのはクローディア様の悪い癖ですからね! 私がしっかりしないと!」
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