異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

文字の大きさ
25 / 34

24.

しおりを挟む
「よし、腹ごしらえも終わったことだし、後はゆっくりしようか」

「えぇっとーー。私はそろそろ部屋に戻った方がいいと思っていて」

 一度同じベッドで寝てしまったとはいえ、男性と二人きりの部屋で長居することは憚れる。そろそろ部屋を辞そうかと考えていると、ギルは不思議そうな顔で首をかしげた。

「部屋に戻る? なにを言っている? ディアはこの部屋で寝るに決まっているだろう」

「……えぇ!? で、でも、さっき別の部屋で着替えをさせてもらったのだから、あそこが私の部屋になるんじゃないの?」

「あぁ、その時はマシューズ辺境伯と話があったから別室で着替えてもらっていたんだ。俺がディアと離れたいと思うわけ無いだろう」

 そ、そんな得意げに言わなくても! 
 さすがに同じ部屋で夜をともにするのは問題だわ! 
 い、一緒のベッドで寝てしまったけど、あれは不可抗力というか……。

「……俺は離れたくない……ディアはいやか?」

 おねだりするように甘えた表情で首をかしげてくるけど……絶対わざとだわ。

 だって目はギラギラと妖しげに輝いているもの!
 だ、だめよ! ま、負けてはいけないわ!

「えっと、でも、さすがに未婚の身で夜をともにするのは問題が……」

「……本当にだめなのか」

 私の言葉にかぶせながら、ギルは甘えるようにねだってくる。なぜか尻尾が私の腰に巻き付いてきて、逃がさないとしているような……。

 い、いえ、だから、負けては……。

──── トン トン トン 

 私が困り果てていると、まるでタイミングを見計らったように部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。ギルは扉の方を見るとチッと舌打ちをしながら、入れ、と応え入室を許可する。

「失礼致します。クローディア様をお迎えに上がりました」

「コノア! もう足は大丈夫なの?」

 部屋に入ってきたコノアは、しっかり歩きながら私とギルに礼をとる。

「はい、治療のおかげで歩くことができるようになりました。クローディア様のお部屋を用意していただきましたので、一緒に参りましょう」

 あ、あれ? コノア、怒ってる?
 顔は微笑んでいるのに、背中に赤い炎をまとっているような?
 
 ……んっ? 部屋って?

「……おい、待て、部屋とはどういうことだ」

 ……ひ、ひぇ。こっちも怒ってる!?

 ギルの地を這うような不機嫌な声で部屋の空気が凍りつく。だがコノアはまったく気にならないのか、満面の笑みでギルに向かい合い、はっきりとした口調で言い返した。

「どういうこと、とは? なにかの手違い・・・・・・・でクローディア様のお部屋が用意されていないと伺いましたので、マシューズ辺境伯に強く・・お願いしてご用意してもらっただけのことです」

「貴様! 俺とディアを引き離すつもりか!」

 ギルの怒鳴り声に怯むことなく、コノアは声を張り上げる。

「恐れながら申し上げますが、馬車と部屋では話が違います! 未婚の身で男性と夜をともにしたなどと知れたら、クローディア様がどんな中傷を受けるか分かっているのですか!」

「俺とディアは番だと言えば問題はないだろう!」

「番だろうが何だろうが、関係ありません! クローディア様が悪く言われる可能性があるのなら、私は断固として抗議させていただきます!」

 怒鳴り合いながら、睨み合う二人。

 ひ、ひぇーー。 
 さ、寒い……どんどん空気が冷たく……。
 い、いけないわ! そもそもの原因は私が自分の意見をしっかり言わないからよ。
 
 二人の剣幕におされて思わず尻込みしてしまう自分を心の中で叱咤し、私は毅然とした態度で二人の間に割って入る。

「あ、あにょ……」

 ……噛んじゃった。

 コホンと咳払いし、気を取り直す。

「ギル、あのね、私が悪く言われればギルに迷惑がかかると思うの。それにやっぱり、未婚の身で男性と夜をともにすることはできません」

「だが、俺と君が番なのは皆も知ることになる。番と共にいることは不自然ではない」

 ギルは納得できないのか、ちょっと拗ねたような顔だ。私はちゃんと自分の気持ちを伝えるために、しっかりとギルの目を見つめた。

「番としては認めてもらえるかもしれません。でも番だからって理由だけに甘えたくないの。私はギルの番としてではなく、クローディアとしてギルと共にいることを認めてもらいたい。今はまだ、その段階ではないと思います」

 ギルの番ではなかったら、私にはなにもない。国を追われた者が国王と結婚なんて許されないだろう。番ということに甘えているだけでは、ギルの隣に立つ資格がないと思う。自分を認めてもらえるように努力をしなくては。

 私の思いが伝わったのか、ギルは納得したように小さく息をついた。

「……分かった。俺が第一に優先するのはディアの気持ちだからな。」

「ギル……ありがとう」
 
 ギルにお礼とおやすみの挨拶をしてコノアと一緒に部屋をでる。寂しそうな顔をしているギルを抱き締めたくなったが、グッとこらえて扉を閉めた。

 ギル、ごめんなさい。いつまでもギルを待たせてはいけない。自分を認めてもらえる為に、なにをすべきなのか考えなくては。

「クローディア様……」

「……え? ああ、ごめんなさい。考え事していて……。コノアのおかげで自分の気持ちをちゃんとギルに言えたわ。ありがとう」

「いえ……私も一緒に考えます。クローディア様は一人で考え込まないでくださいね」

 まるで私の考えを分かっているかのように、優しく微笑むコノア。

 コノアの優しい気遣いが心にしみる。

「コノア、ありがとう」

「一人で抱え込むのはクローディア様の悪い癖ですからね! 私がしっかりしないと!」

「あら、ウフフ、そうね。頼りにしているわ」

 冗談を言い合いながら部屋に戻っていくと、廊下には二人の笑い声が響いていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。 何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。 生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。 「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」 過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。 まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!

Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。 なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。 そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――? *小説家になろうにも投稿しています

処理中です...