異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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 太陽が昇り明るい光が辺りを照らしだした頃、私達は王都に向けて出立することになり、マシューズ領のみんなが見送りのために城門の前に集まっていた。

「マシューズ辺境伯、お世話になりました」

「もったいないお言葉でございます。陛下、クローディア様、どうか道中お気をつけ下さいませ」

 マシューズ辺境伯にお礼を伝えると、その隣に並ぶドミニクに目を向ける。

「クローディア様、俺からも・・・気をつけて行ってきてください」
 
 ドミニクがすっと手を差し出し、私はその手を握りしめる。

「ドミニク、ありがとう。貴方も気をつけて」

 ドミニクはここに残ることになった。フォンテーヌ王国の内情をマシューズ辺境伯に伝えるために。 

 ギルが言うには、相手国の内情を知り、兵力、財力、国政、あらゆる面の現状を予測し判断することが、国の防衛に必要不可欠というのだ。フォンテーヌ王国が動き出せば、この辺境領が対峙することになる。すぐに動き出す可能性があるため、ドミニクはここで情報を共有することになった。

「言ったろう。知識は自分を守る盾になる。情報はできるだけ多く集め、精査することが必要だ」

 そう話すギルの顔は……王の顔だった。

 この人の隣に立つには、自分はまだまだ足りなすぎる。
もっと覚悟が必要だわ。まずは自分にできることから始めて、いつかはギルに頼りにされるようになりたい。

 そう固く決意し、ギルの手をとり馬車に乗りこむと、馬車はガルブレイス王国の王都へ向かって走っていく。



◇ ◇ ◇ ◇



 王都に到着するまでは、いくつかの領地をまたぐことになる。道中の宿泊は各領主の屋敷ですることになった。

 馬車の窓から見える活気ある街並み。
 綺麗に整備された石畳の道。
 堅牢なつくりの家屋。 
 美しく壮麗な領主の屋敷。

 すべてに目を奪われ、故郷との国力の違いに圧倒される。

 どの領地でも手厚く迎えてもらい、ギルは凜とした佇まいで応対する。所作の一つひとつに気品と威厳があふれていた。

 私は本日お世話になる屋敷の客室で、はぁーーと深くため息をつく。

 身分の違いは分かっていた。そのことについては悩んだってしょうがない。これから認めてもらえる為に努力していこうと決めたのだし。

 ただ、ひとつ悩ましいのが……。

「……お疲れ様でしたね」

 コノアの哀れむような眼差しに気恥ずかしくなる。

「え、えぇ……慣れないといけないのよね……」

 慣れないといけない。 
 慣れることができるのだろうか。
 
 ギルの過剰なスキンシップに。

 周りに見せつけるかのように、腰に手をまわしたり、頬ずりしたり、唇で触れてきたり。まるで動物がじゃれるように、つねに離れずくっついている。

 ギルが言うには、私が伴侶だと周りにアピールするためにも必要なことらしい。必要なことなら致し方ないとは思うけど、じゃっかん過剰な気がする。
 
 こんなスキンシップは今まで異性としたことなんてない。同性だってないと思う。私には免疫がないのだ。だからギルがじゃれている間どうすればいいのか分からず、体はギシッと固まってしまっている。  

 体が凝り固まって、すごく疲れちゃった。はぁー。

 なんとか部屋を別にすることは了承してもらっているけど、いつもしぶしぶといった感じだし。

 ……く、くじけそう。はぁー。

 私は何度目かの深いため息をつくと、コノアがそっと紅茶を差し出してくれた。

「もしよろしければ、馬車の中では控えるように申し上げましょうか?」

 そう、馬車の中でもスキンシップされているのだ。
 馬車は密室よね? アピールする人もいないわよね?
 そうギルに言うと、マーキングしている、と返される。
 マ、マーキングとは……?

「あれは私に対する当てつけも含まれているでしょうね」

 ボソっとコノアが呆れたように呟く。
 
 当てつけ。……そうなのかもしれない。
 馬車には私とギルだけではなく、コノアも同席しているのだ。密室で二人きりにならない様に、コノアが配慮してくれたのだけど、ギルはコノアの目をまったく気にしない。むしろ見せつけるように触れてくる。

「意外に子供っぽいところがあるのね……」

 そう呟くと、コノアは肩をすくめ、意外ですかね?、と言いながらお茶菓子を差し出してくれた。

 はぁーー。王都に辿りつくまで身が持つかしら。
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