異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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 どれぐらいの時間が経っただろう。気持ちを推し量るように沈黙した空気の中で、私の浅く途切れながら吐く息の音が響く。ギルの胸に顔を埋めながら、気持ちを落ち着けようとするが、上手くいかない。心がささくれ立つように荒んでいる。手足から体温が奪われるように冷たく痺れ、自分の心臓の鼓動が耳に突き刺すように響く。

  ……私の一族を殺した……すべて嘘だった……。

 脳裏に思い出すのは、自分を罵倒する殿下やフォンテーヌ王国の人々。石を投げられても、侮蔑の目で蔑まれても、聖女の責務を放棄することはなかった。国民の命が危ぶまれる、そう思ったから。でも、私が守ってきたのは、私の一族を殺した子孫。私のしてきたことは何だったんだろうか。自分の愚かさに、引きつるような嘲笑の笑みが顔に浮かぶ。

「クローディア様……」

 コノアは泣いているのだろうか。泣き声を押し殺したような沈痛な声。声をかけてあげたい、でも、どうしても顔をあげることはできない。今の私の顔を見せたくない。

 だって今の私の顔は、きっと醜く歪んでいる。……化け物のように。

 殿下は正しかったのかもしれない。自分にこんなにも重く暗い悪意の感情があるとは思わなかった。この感情に身を任せれば楽になれるような、そんな気さえしてくる。

 暗い感情に囚われそうになりながら、頭を優しく撫でるギルの手に身をゆだねる。

「あの国は長くは持たない。ディアの力以外で蛇の毒を浄化することは不可能だからな。奴らは必ず報いを受ける。……俺が必ず報いを受けさせる」

 ギルの声にピクリと反応し、服の裾を掴む。それに応えるように、激しい怒りを灯したような冷酷な声が続く。

「ディアを傷つけた奴らを俺が許すわけ無いだろう。あんな弱小国を滅ぼすことなど簡単なことだ。ディアを傷つけた報いを存分に味わってもらおうか」

 ……報い。私の一族が受けた仕打ち。 

 泣き叫ぶ子供、傷だらけの獣人、壊された家屋。夢で見た燃えさかる炎に包まれる獣人達。

 ……報いを、フォンテーヌ王国の人々に。

 私が望めば、きっとギルはフォンテーヌ王国を滅ぼしてくれるだろう。

 夢で見た獣人達と同じように、あの国のすべてを壊してくれる。

 ゆっくりと体を起こし、顔をあげる。私の顔を見たギルは少し驚いたように目を見開いた。ギルの力強く輝く金の瞳をみつめるが、その瞳に映る自分の顔を見ることができない。


 今、貴方の目に映る私はどんな顔をしている?
 復讐に燃える化け物の顔?  
 何も知らず国に尽くした道化の顔? 
 それとも…………


 声が震えないように、深く息を吐き、手を強く握りしめる。


 「ギル、お願いがあるの」



 私が望むこと、私の成したいことは……




「私は、フォンテーヌ王国の人々を助けたい。お願い、力を貸してほしいの」

 


 ──── それが、私の出した答え。
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