元OLは世界を滅ぼす愛され系最弱魔王になる予定を覆したい

橘高 悠

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【第1章】魔王城脱出編

4.OL、今日を終える

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アルベールによってゆでダコにされた後、周りで騒いでいた魔族たちが私に寄って集って来た。
リゼット様、私の魔法もぜひご覧ください!
リゼット様、100年かけて編み出した俺のオリジナル魔法です!
リゼット様、まだまだ修行中の身ですのでこの程度の魔法しか発動することができませんが……
リゼット様、俺も!
リゼット様、私めも!
リゼット様!
リゼット様!!
とあれよあれよとあらゆる魔法をみんなに見せてもらった。

火の魔法、水の魔法、風の魔法、雷の魔法、土の魔法、闇の魔法と様々だ。

出来のいい手品やサーカスでも見ているかのようで、それはもう目を輝かせた。
私のそんな様子に、魔法を披露してくれた魔族たちも嬉しそうにこれもあれもとどんどん魔法を発動させた。

「リゼット様、次はこの魔法です!」

そう言って魔力を練り始めた名も知らぬ魔族に、私は相変わらず期待の眼差しを向けた。
しかし、

闇暗炎ダークネスフレイム——っ、」

目の前の魔族が魔法を発動した瞬間、黒く燃え盛るような炎が見えたと思った瞬間、それが弾け散るように消えた。
それと同時に、魔法を発動させた魔族がその場に崩れるように膝をついた。

「はぁっ…………はぁ……」
「大丈夫!?」

地に膝をついたまま、苦しそうに荒い呼吸を繰り返す彼に思わず駆け寄ると、その肩に手を置き彼の顔を覗き込んだ。

「リ、ゼット様……お見苦しい姿を、お見せし……申し訳……」

その額には汗が伝い、息を切らせながら絞り出すように言う。

「そんなことはどうでもいいよ!どうしたの!?具合悪いの!?」

明らかに体調の悪そうな彼に焦る私。

「魔力切れでしょう。」

そんな私の背後から、冷静な声が聞こえた。
思わず振り向くと、まるで感情がないかのような表情をしたアルベールが立っていた。

「魔力切れ?」

聞きなれない言葉に、私が疑問を投げかける。

「はい。魔力が完全に切れてしまうと命を落とします。」
「えぇ!?」

とんでもない事実を耳にした私は、慌てて魔力切れを起こしたであろう魔族に向き直る。

「大変!死んじゃう!待って!どうしよう!?」

ただ魔法が見たかっただけなのに、まさか死人が出ようとは思いもしなかった。

「こんな事で死んじゃだめ!早くお医者さん!お医者さん!?」

この世界にお医者さんっているの!?
そもそもこれって医者にどうこうできるものなの!?

あまりの混乱に、そんなどうでもいい事を考えてしまった。

目の前で膝をついている魔族は、今も苦しそうだ。

「大丈夫です。その様子なら命に関わることはございません。十分な睡眠をとれば回復するでしょう。」

またしても背後から冷静な声が聞こえた。
アルベールの言葉に胸を撫で下ろした。

「リゼット様に……、」
「ん?」

苦しそうにしていた魔族が私を呼んだ。

「触って、いただけた……」
「んん?」

触っていただけた?
ふと自分の腕の先を見る。
苦しそうにしている彼の肩の上だ。

「これだけで、俺は、本、望……。」
「え、ちょっと!」

言い切ると、こと切れたように彼が崩れ落ちた。
思わずその体を支えようとした私だが、ひ弱な私に立派な成人魔族を支え切る事もできず、倒れかかってきた彼の重みでその場に尻餅を……

「アル!」

つきそうになっていたところで、アルベールが意識を手放した魔族の首根っこを掴んでいた。

「リゼット様に倒れかかるなど、身の程知らずもいいところだ。」

アルベールがイラついたように言った。

「こいつを片付けておけ。」

そう言ったアルベールは、近くにいた他の者に投げるようにその魔族を渡した。

「リゼット様、」

アルベールの手が私に差し出される。
ついその手を掴んだ私は彼を見上げた。

「そろそろご夕食のお時間です。」

もうそんな時間だったのか。
空は厚い雲に覆われているため気づかなかった。
魔王城上空はいつもこの厚い雲に覆われている。
黒いような紫のような、とにかく禍々しい雲だ。
綺麗な夕日が見たいです。

私は手を引いた彼に素直についていく。

「お大事に!ゆっくり休ませてあげてね!」
「は、はい!リゼット様の仰せの通りに!」

魔力切れを起こした彼を託された魔族が、私の言葉に背筋を伸ばして答えた。

「あと、みんなもいっぱい魔法見せてくれてありがとう!またよろしくね!」

笑顔で手を振りながらそう言った私に、
「もちろんです!」
「喜んで!」
「次はもっと上級魔法をお見せできるよう精進いたします!」
「リゼット様が笑顔を向けてくださるとは……!」
「リゼット様が手を振ってくださった!」
「リゼット様にお礼を言っていただけるなんて……!」
「こちらこそありがたき幸せです!」
「もはや思い残すことはございません!」
と口々に返事が返ってきた。

そんな彼らに、私は多少苦笑しながら修練場を後にしたのだった。





*   *   *   *   *





「リゼット、いつも城内はお前の話で持ちきりだが、今日はいつも以上に皆が興奮してお前の話をしていたようだ。」

夕食。
大きな長テーブルに、真っ白なテーブルクロスが引かれている。
テーブルの上には、装飾用の花やローソク台がいくつか置かれており、私の目の前には高級フレンチ料理のような美しい料理が置かれている。
そんなテーブルを囲うのは私たち家族だ。

一番奥のいわゆる誕生日席には父マティス、マティスから見て右側面側に、ヴァーノンの母であるエリザ、その隣にヴァーノン、その向かい側に私だ。
アルベールは私の背後に控えている。
今世の私の実の母は、もうこの世にはいない。

そんな面々が揃う中、口を開いたのはマティスだ。
マティスの言葉に、一同の視線が一気に私に集まる。

「え?」

もしかして、修練場で危うく死者を出しかけたからだろうか。
少し不安に思った私は、先に謝罪しようと言葉を続けた。

「あぁ……今日はちょっとみんなに迷惑を……」
「それでしたら父上、私の耳にも入っております。」

私の言葉を遮って、ヴァーノンが口を開いた。
ちょっと!怒られる前に謝ろうとしたのに邪魔しないでほしいんですけど!

「なんでも、リゼットに手を振ってもらって歓喜している者や、笑顔を向けられ狂喜している者、お礼を言われて驚喜している者、魔法を披露して嬉しさのあまり卒倒した者がいたとか……」
「えぇ?!」

確かにみんな喜んでいたけど、最後のは間違いなく誤解だ。

「いや、魔法に関しては魔力切……」
「——なんと羨ましい!!」
「えぇ?!」

私の否定を遮って声をあげたのはマティスだ。

「私ですらそんなこと……リゼット、私の魔法は見てくれぬのか?」
「んん??」

魔王の魔法?
見たいような、絶対に見たくないような……

「ふふ、リゼットを喜ばそうと張り切ったあなたが安易に魔法を発動させては、この城がなくなってしまいますわ。」

私が返事をするよりも早く言葉を発したのは、ヴァーノンの母であるエリザだ。
黒というには少しグレーよりの色を持っている、美しい魔族の女性。
私の実の母ではないが、可愛がってくれている。

そんなエリザの言葉に、マティスは少しムッとしたようだった。

「いつか!いつか見せてねパパ!」
「!あぁ、もちろんだとも!リゼットのためならどんな最上級魔法でも、禁術でも披露してみせよう。」

いや、やめてくれ。
城どころか世界がなくなってしまう。

「しかし、確かに今日のリゼットはいつにも増してこう……」
「愛らしいな。」
「……はい。」

歯切れ悪く言い淀んだヴァーノンに、マティスが続けた。
ヴァーノンの頬は少し赤みがかっている。
そんな二人を微笑ましそうにエリザが見ている。

「今日はどこか柔らかい雰囲気で、表情も豊かに感じる。」
「うっ……」

ヴァーノンはもともと鋭い目つきをしている。
前世で読んだ小説の知識を持った今、その目で正面から見つめられると嫌でも少し身構えてしまう。

「確かに朝会った時と少し雰囲気が違うように思うわ。リゼット、何かあったの?」

エリザに問いかけられる。
答えを求める視線が三つ。いや、背後にもう一つ。

なんだこの状況。
家族団欒の場のはずが、まるで尋問されているようだ。

「えっと……」

前世を思い出したなんて言えるわけがない。

「ゆ、夢で人に優しくするようにって……その……神様が……」

我ながら下手すぎる嘘に絶望した。
ちらりと三人を伺うと、皆眉間に皺を寄せ、少し怒ったような雰囲気さえ感じた。

流石に無理があったかと、なんとかもっとマシな言い訳を考えていると、マティスが口を開いた。

「その神とやら、もし目の前にいたら八つ裂きにしてやるものを……」
「え?」

地を這うような声で告げられた内容が予想外すぎて、思わず間抜けな声を返してしまった。

「そうよ!まるで今までリゼットが優しくなかったような言い様、許せないわ!」
「えぇ?」
「同意します。リゼットは元より優しい子です。」
「ええぇ?」

ツッコミどころが多すぎる!

まず、こんな拙すぎる嘘を信じるなんて、どんだけ純粋なんですか!?魔王とそのファミリーがこんなに純粋でいいのか!?魔族の頂点が成り立つのか!?
それから、神を八つ裂きにするなんて、なんと罰当たりなことを言うのか!魔王か!?魔王だった!
マティスに続くように怒りの声をあげたエリザとヴァーノンも、どこに怒ってるの!?
ついでに言うと、今までのリゼットとしての私は、全然人に優しくなかったと自覚している。
我が儘を聞いてもらうことを当たり前だと思って、人に感謝することもしなかったし、人に笑顔を向けることもそうそうなかった。あっても人を小馬鹿にしたような嘲笑の類だ。

「リゼット、そんな神の言うことなど気にしなくて良い。」
「え、あ、はい。」
「他人など気にすることはない。お前がやりたいようにやるといい。誰にも文句は言わせん。」

あ、言いましたね魔王さん?
じゃあ私この城出て行くからね?いいんだね?
やりたいようにやれって言ったからね?
これに関しては絶対に否定される自信があるから口には出さないけど、自分で言ったことだからね??

「うん!そうする!」

満面の笑みで返事をした私に、食卓を囲んでいた三人は愛おしそうに私を見つめた。

今世の私の家族は、こんなどうしようもなく私に甘い人たちです。





*   *   *   *   *





「はーぁ、」

ぼふんとふかふかのベッドに身を沈める。

「何やらお疲れのようですね。」

ナイトテーブルに、コツリとカップが置かれた。

あの尋問・・・夕食後、魔王城にある大きな湯殿でゆっくりと身を清めた。
この魔王城にもメイドというポジションが存在する。もちろん魔族の女性だ。
今までお風呂に入る時は、そのメイドたちに着替えを手伝ってもらったり、身体を洗ってもらったりしていたが、今は恥ずかしさしか感じない。
風呂くらい一人でゆっくりしたいという思いもあり全力で断った。
メイドたちは渋っていたが、一人で大丈夫と言うか一人にしてくれと言う私に逆らうはずもなく、私は見事に一人のバスタイムをゲットした。

そんな至福のバスタイムを終えた後、自室に戻り今に至る。
ちなみに私の記憶が戻った際にマティスとヴァーノンによってひび割れていたはずの窓は、ガラスが取り替えられたようで綺麗になっていた。

部屋にはアルベールと私の二人きり。
ナイトテーブルにカップを置いてくれたのはもちろん彼だ。

「ありがとう、アル。」

横になっていた体を起こし、ナイトテーブルに置かれたカップを持ち上げる。
ホットミルクだ。恥ずかしながら私はこれを飲まないと眠れない。なんだかんだ言っても6歳の幼女なのだから。

「……身に余るお言葉です。」
「?」

彼の堅苦しい言葉を一瞬不思議に思ったが、あぁ。ありがとうと言ったからかと、今日度々起こった出来事を思い出す。
アルベールも驚きこそしなくなったが、ただありがとうと言っただけで逆に感謝されては私が戸惑う。しかもその返された感謝が明らかに過剰だ。

私の特性のせいもあるし、しばらくはしょうがない。

私は両手で持ったカップを口の前まで持ってくると、フーフーと息をかけミルクを口に含んだ。
甘く、独特の風味が口いっぱいに広がる。
口からカップを放し、ミルクを飲み込むと思わずほっとし、ふにゃりとだらしない笑みが溢れた。

「——本当に、今日のリゼット様は……」

不意に聞こえた声に、立ったままこちらを見ているアルベールを見上げた。
言葉を続けない彼に、私が首をかしげる。

「……いえ、何でもありません。」

そう言うと彼は、私から目を背けた。
私はまた、首を傾げる。

あ、そうだ。

「ねぇ、アル。」

私は思い立ったように口を開いた。
逸らされていた彼の目が、またこちらを向く。

「はい。」
「今度剣を教えて?」
「…………」

私のお願いに、アルベールが黙ったまま眉間に皺を寄せた。

「リゼット様に、剣を……?」
「うん!私も強くなりたいの!」
「…………」

相変わらず彼の眉間には深く皺が寄っている。

「……リゼット様自身が剣を手にせずとも、私が必ずお守りいたします。……それとも、私では頼りないと言うことでしょうか。」
「いやいや!そうじゃないよ!」
「では、なぜ。」
「えーっと……私もアルみたいにかっこよく剣を振れるようになりたくて。」

力づくでこの城を出るためとは口が裂けても言えず、また雑な嘘をつく。
嘘をつくのもなかなか罪悪感があり、体力を使うなあと心の中で苦笑する。
しかしまあ、今回の嘘は嘘だけど嘘ではない。
どうせなら、剣技に関して右に出る者はいないだろうアルベールのように、強くかっこよくなりたいのもまた事実である。

「私のようになど恐悦至極に存じますが……はぁ、わかりました。そのお話、謹んでお受けいたします。」

他者を切りつけた感覚を直で感じる剣を、リゼットに扱って欲しくはないと感じたアルベールだが、ほかでもないリゼットの希望を無下にすることはできなかった。
それに、万が一を起こすつもりは毛ほどもないが、何かの時に役に立つことがあるかもしれないと、アルベールはなんとか前向きに考える。

「ありがとうアル!よろしくね!」

そんなアルベールの考えなど知るはずもない私は、満面の笑みで言葉を返す。

「……そのようにお喜びいただけるのであれば、何だっていたします。リゼット様。」
「えぇ、ちょっと!」

跪いて私を見つめる彼を止めようとして、持っていたミルクが溢れかけた。



その後、私はゆっくりとホットミルクを飲んだ。
その間、アルベールはいつもの入り口近くの定位置に控えていた。
そのはずなのに、飲み終わったちょうどのタイミングで、気づいたらアルベールがベッド傍にいた。

ミルクを飲み終わった瞬間にすぐ隣にいるってどういう能力!?

驚いている私に構わず、彼がこちらに手を伸ばした。
私はついその手に飲み終わったカップを渡してしまう。

そりゃこんな手取り足取りな生活をしていたら我が儘放題に育ってしまうのも頷ける。

私はまたアルベールにありがとうと言う。
彼はまた過剰に感謝の言葉を返す。

そのうち「ありがとう」を軽く受け止めてもらえるようになると信じて言い続けてやる!

そう意気込んだところで、急激に眠気が襲ってきて、つい大きな欠伸をしてしまう。

「リゼット様、どうぞ横になってください。」
「うん。。。おやすみ、アル。」
「はい。おやすみなさいませ、リゼット様。今日は良い夢を見れることを願っております。」

もそもそと横になった私に、アルベールが私の肩まで布団を引き上げる。
”今日は良い夢を”
どうやら彼も、私のついた雑な嘘を信じているようだ。

そのままアルベールは天蓋を下ろし、私の部屋を出ていった。
私が眠っている間は、彼は私の部屋の前で警護に当たっている。

今日は、突然前世の記憶が戻って頭がパンクしそうになるし、自分の未来を知って恐怖したし、前世からの自分としてはむず痒いような扱いばかり受けるし、初めて見た魔法には感動したし、ちょっと疲れた。
私はそのまま、深い眠りの世界に旅立った。
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